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NSSO《国家特別秘密組織》  作者: まっふん
事件の始まり
8/40

チャーリーとイザベラ

予定表を書き終わったイザベラは、部屋で日記を書いたり、本を読んだりして一人の時間を楽しんでいた。すると遠くの方で電話が鳴る音が聞こえた。電話はまだチェストラではそんなに普及していないし、値段も高くつくので、緊急の要請や特別なことではない限り、鳴らない。今朝のことかと思ったイザベラは誰かが電話を取り、報告しに来るのを待った。電話が鳴り終わってから、数分後、誰かが部屋をノックした。


「チャーリーから?」


「え、あ、うん。」


ノックしたのは、NSSOの中で能力は低いが、一番穏やかでメンバーの喧嘩もなだめてくれる不可欠な存在のスーザンだった。ノックした瞬間にドアを開けたイザベラに少し驚いた顔をしていた。


「フォーウェルさんがイザベラに今から会いたいんだって、なんか次の依頼?について話し合いたいらしい」


「え~それ月曜じゃなきゃダメなの?」


「平日は仕事だし、今日は奥さんがいないから早めに終わらせたいだって。午後二時にリトルチェストラカフェで待ってるだって」


「ちっ、こっちのことを考えずに先先決めるんだから…」


「どうせ午後から空いてるでしょって言ってた」


「そこらへん把握してるのほんと抜け目ないな…行ってもいかなくてもどうせカフェにいるだろうし、月曜日にだらだら言われるのも嫌だから、行くよ、ありがとう」


イザベラはそういってスーザンに微笑むと、ドアを閉めた。


今は12時。時間はまだある。どうしようかと悩んだイザベラはリビングルームに降りた。



「あ、イザベラじゃん。これ見て、朝市で買ってきた果物でスムージー作ってみたから、飲んでみてよ」


リビングルームに降りると、イチゴ色の飲み物を持ってソファを囲んでジョークを言い合っていたジュディ、ジョー、ルージュ、リリー、ヴィクトリア、エマ、ジュリーがいた。イザベラにとってこの7人は一番仲が良く、よく一緒に出掛けたり、話したりしている。


「え、イチゴ?すごいおいしそう!」


「採れたてフルーツの味がして、ほんと美味しいよ、入れてくるね」


ジュリーはそういうと立ち上がってイザベラの分を注ぎに行ってくれた。


「朝市、ジュリーが行ったの?」


「ううん、ジュリーと私とジョー」


「そうなんだ、ありがとうジュリー」


「いいよ~今日は何か予定あるの?」


ジュリーからスムージーを受け取り、一口飲んだイザベラは口を開いた。


「2時からチャーリーと会う」


「え、フォーウェルさんと会うの?結構久しぶりじゃない?」


超がつくほどの小顔のエマが聞いた。


「たしかに久しぶりかな、警視庁ではあっても話さないし、一対一は久しぶりかも」


「フォーウェルさんの謎の名言来るの待ってるわ」


NSSOで一番チャラくて色気たっぷりなヴィクトリアが言った。確かヴィクトリアは娼婦館の下っ端で働いていたような後で確かめてみようとイザベラは思った。


「前のなんだっけ、警戒する時は毛穴を全体で音を聞き取ってだっけ?あの時たまたま前にいたブロッサムが笑いこらえてて、横でキーラが真顔で立っていたから、倍にしんどかった!」


リリーが笑いながら言った。


「私ら、笑いのツボが浅いもんね、夜はテンションが高すぎて次の日腹筋痛くなるほど、笑ってるもん」


ジョーが真顔で言った。この中でジョーが一番面白くて、ツボが浅い。


「いや本当にそれ!今日の夜、部屋でパーティーしようよ」


「絶対怒られるやつよ…誰か部屋移動してもらわないとすごいことなる」


「まあ一階ならまだいいんじゃない?」


イザベラはそういうと立ち上がって、シンクにコップを置くと戸棚を確認した。


「材料あるから、マフィンとかクッキー作れるよ」


「えっ、作る!今から作ろ!」


ジュディはそういうと立ち上がって、ダイニングルームに入った。


「えっ、さっき買ったブルーベリーとか使えるじゃん!やばい、テンション上がってきた!」


ジュリーはそういうとノリノリでクッキングの準備をし始めた。


「じゃ、私早めに出て、なにかいいお菓子買ってくるね」


「ナイスアイデア、ベラ、ありがとう!」



イザベラは部屋に戻り、出かける用意をして玄関を出た。そして待ち合わせ場所の近くにあるチョコレート屋に入って、チョコでコーティングしたコーヒー豆のスウィーツを買うと、リトルチェストラカフェに向かった。


「あ、いた。」


イザベラは人が大勢横切る間から、テラス席に座っているチャーリーを見つけた。細身の体に178㎝にしては長すぎる脚。少し高めのおしゃれなスーツはおしゃれな店に似合っており、知らぬ間に道行く人の視線を集めてしまう。ただし遠くから見るに限る。遠くから。NSSOの間でもチャーリーのスタイルの良さは、誰もが認めている。しかし顔が少し残念なのだ。塩顔と言えば塩顔なのだが、少しゴリラ顔なのだ。しかし警察署内では、彼の顔より紳士的な態度や言動が女性陣から人気を集めている。まだ32歳と若いのにも関わらず、実力があるのも一つの理由かもしれない。イザベラはいい感じに店に映えているチャーリーに苦笑しながら、店内に入った。


「いらっしゃいませ」


店に入るとエプロンを付けたウェイトレスが笑顔で近づいてきた。


「お一人さまですか?」


「いえ、連れがテラス席の方にいます」


「畏まりました、ご案内しますね」


ウェイトレスはそういって微笑むと、先だって歩き始めた。


「あちらの方ですか?」


テラス席の入り口に着いたウェイトレスはそういってチャーリーを指さした。


「ええ、そうです」


イザベラはそう言いながら、やはりそうかと思った。このウェイトレスはチャーリーの注文をとりたいのだと。ウェイトレスは笑顔で頷くと、イザベラをチャーリーの下に連れて行った。


「お客様、お連れ様です」


「あぁ、ありがとう」


書類から視線をあげたチャーリーは目じりを下げて、にっこりと微笑むとウェイトレスが椅子を引く前に、自ら立ち上がって椅子を引き、イザベラは当たり前のように座った。


「大丈夫ですよ、ありがとう」


チャーリーの紳士な対応にウェイトレスは頬を赤らめた。自分が何をすべきか忘れたウェイトレスと二人の間に沈黙の時間が流れた。


「あー、えっと、ホットカフェラテで」


イザベラが沈黙を破ると、ウェイトレスははっとした顔で慌ててメモを取り出し、メモをした。


「じゃ、僕はホットコーヒーで」


「あ、まだ頼んでなかったんですか。」


「デートの相手が来る前にコーヒーを頼んでしまったら、帰る時にはアイスコーヒーになってしまうだろう?」


チャーリーはいたずらっ子のように微笑み、イザベラはウェイトレスのことも分かって今の言葉を言ったチャーリーにため息をついた。


「誤解を招くのでその言い方、やめてください」


イザベラはそういうともう行っていいよという風に、ウェイトレスに合図をした。


「それで…なんで天気が良くて、散歩絶好日和の休日に呼び出したんですか?」


イザベラは皮肉たっぷりに微笑みながら、聞いた。


「月曜日だったら、遅いと思ってね。新たな依頼が舞い込みそうな予感がしてるから、呼び出したんだ」


絶対朝の事件じゃんとイザベラはそう思った。


「ナルシッサから聞いたよ、君に会ったって。だから分かっているだろう。どうやら今回の事件、難航するらしい。明日、遺体の検査をするそうなんだが、また雨の時に同じような事件が起こっても防ぎようがない。まだ目撃情報もないし、十分な証言もないんだ」


「迷宮入りする前に、しっぽをつかめということですね」


「その通り。君たちを過信しているわけではないけど、十分実力はある。君たちならできると信じてるよ」


この男は、サラリと褒めてくる。そしてやる気にさせようと企んでいるのだ。どちらにせよNSSOには断る権限はない。こういう時のための組織であるからだ。


「分かりました。みんなには覚悟しておくように伝えておきます。捜査資料とかは、月曜日ということでいいですか?」


「もちろん、警察も今日は非常勤が多いから、間に合わないだろうしね。何枚か複製するように頼んでおくよ」


「ありがとうございます。」


「本件は以上かな、それで…最近調子はどうだい?」


「まあまあですよ、相変わらず凶悪対策部長は嫌味ったらしいですけど。」


先ほどのウェイトレスが飲み物を運んできて、それぞれの目の前に置いた。チャーリーに目配せを送りながら。


「そっか…久しぶりに僕の家に来ないかい。妻も君に会いたがってる。娘のようなものなんだし。」


ウェイトレスの目配せに気づいていないフリをしながらチャーリーは、妻という言葉を強調した。


「それは嬉しいお誘いですね、忙しくなる前に招待してください。睡眠はちゃんととりたいんで。息子さん、元気ですか?」


「うん、元気だよ、もうすぐで一年半だ…」


そうして2人は、カップを片手にお互いの環境のことを陽が落ちてきているのに気づくまで話し続け、帰路についた。



「ただいま~」


「あっ、おかえり!」


ちょうどクレアが地下から箱を持って上がってきた。


「顔、疲れてる。何かあるのね。」


「えぇ、そのなにかはまた後で皆に言うことになるわ。」


クレアは無言でうんうんと頷くと台所に向かった。イザベラは台所に入らず、そのまま自分の部屋に戻った。



「「「「「ごちそうさまでした」」」」


全員のだんらんが終わり、食事のあいさつをしたところで、イザベラは立ち上がった。


「みんな、片づける前に一つ報告があるの」


真面目な顔をしたイザベラに皆、自然と静かになり、緊張が走った。


「何人かは知ってると思うけど…今日、チャーリーに会ってきたの。もしかしたら来週から捜査が入るかもしれない。今朝、雨上がりの路地裏で遺体が見つかった。大雨のせいで、血や犯人の痕跡が残っていなくて、もしかしたらまた同じような事件が起こるかもしれないと警察は考えている。だから、詳細はまだ出ていないけれど、月曜日には何かしらの任務が課せられるはずよ…危険じゃないといいけど。だから、みんな体調万全の状態で臨めるように、気を付けてね。以上よ。」


何を言えばいいのか途中から分からなくなり、うろたえたが、レイが返事をしてくれたおかげで無事収拾がついた。



「ねぇイザベラ。フォーウェルさんが遺体が出てきた時点で覚悟をするように言うなんて、珍しくない?」


階段の途中でイザベラと会ったシャワーから出てきたエマが聞いた。


「私もそう思う。いつもならもう少しややこしくなったところでこっちに頼んできたはずなのに…」


「彼、何か予感しているのかもね。久しぶりの事件だし、難解そうだし、みんなきっと不安がってる。」


「十分承知よ。でもこういう時のNSSOなんだし善処しなきゃ。」


「そうよね…また後でね。今日は残念だけど夜更かしできないね。」


「いつもこんな感じよね、じゃあ後程、ヴィクトリアの部屋でね。」


イザベラはそういうと階段を降りた。



「んん~…」


エマは陽の光を感じ、目を開けた。見慣れないベッドが見え、ため息をついた。昨日結局、ヴィクトリアの部屋で夜遅くまで、迷惑にならない程度にしゃべり倒し、全員で雑魚寝したのだ。隣では、ジュリーがすよすよと寝ており、ベッドではジョー、ヴィクトリア、ルージュが横向きに寝ていた。その光景に吹きそうになったエマは笑いをこらえると、ずり落ちていた毛布をリリーにかけ直してやった。エマは起き上がると、イザベラが部屋からいないことに気づいた。時計を見ると8:00.朝から呼び出されたのだろうか。日曜日に起きるには、少し早いようなちょうどいいようなと考えながら、エマは周りを起こさないように立ち上がり、部屋に戻った。



「あれ、ベラじゃん。この時間に起きてるなんて珍しい。」


ベラがボタンをつけながら、下に降りると散歩帰りのケリーがいた。彼女は朝型人間なので休日も人より活動するのが早い。


「そうなの、事件のことで気になったことがあって。まだ正式なメンバーじゃないから、顔を出したら、怒られるし、かといって明日じゃ現場も片づけられるの。でもこの時間ならまだ手掛かりが掴めるんじゃないかって。」


「なるほどね~、本当にいつもいつもお疲れ様、平日は机仕事とトレーニングしてるし、休日も出かけて、ほんとすごいよ。」


彼女の眼は曇りなく、心の底から褒めてくれると分かるので、イザベラはケリーのことは一目信用している。


「ありがとう、じゃ行ってきます」


イザベラはそういうと玄関を出た。秋も深まってきたころなので、少し肌寒い。イザベラは今日もにぎわっている広場を横目に見ながら、事件現場に向かっていった。



「おはようございます。ここからは警察以外立ち入り禁止です。」


警備をしていた警官がイザベラの進行を妨げた。


「おはようございます。分かっています。私はイザベラ・チャン。この事件を解決するように言われているの、あまり人が多いときに来ても何も見えないと思ったから、朝早くに来たのだけど朝寝のお邪魔かしら?」


イザベラは先ほどあくびをして涙目になっている警官を見つめた。


「いえ!とんでもないです!噂は聞いております。朝早くからありがとうございます!」


警官はそういうと敬礼し、脇にそれた。イザベラは微笑むと路地裏に入っていった。



路地裏は行き止まりではなく、他の道とも繋がっているが、普段から人気がなさそうであり、住民のゴミ捨て場と化している。報告書によると少年はゴミ缶の中に入っていたらしい。死因の把握は、今司法解剖医が執り行っている。確かに路地の両脇は斜面になっており、雨が降れば、簡単に流れるような仕組みになっている。路地の両脇は、5階建ての古いアパートであり、窓もない。イザベラは路地のツキまで行き、他の細い道に出た。ここはスラム街の近くでもあるため、かすかに異臭がしており、鴉が餌をあさっている。少年はどちらの道から来たのだろうか。イザベラはゴミ缶が左の死角にあったことから、右の道から来たのだろうと予測し、しばらく歩いて少し大きな道に出た。先ほどよりスラム街に入ったせいか、ホームレスが増え、イザベラに注目している人が増えたように感じたので、彼女は来た道を戻った。変に目立って何かを盗られたら困る。来た道を戻る途中、ふとイザベラは先ほどまで感じなかった異様な視線を感じた。気にせずしばらく歩いたが、その異様な視線が近づくのを感じ、イザベラはこぶしを固め、思い切って振り返った。が、誰もいなかった。


「気持ち悪いですよね、すみません」


「えっ」


イザベラの横に、先ほどまで後ろにいたと思われる黒いコートをまとった背の高い痩せた男が立っていた。






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