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NSSO《国家特別秘密組織》  作者: まっふん
腹喰い事件2章
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腹喰い事件29

「局長、犯人像に近いスラムの人間ですが、数名住所の特定まで完了しました。」


「ご苦労。後は家宅捜索で証拠と思われるものを見つけた奴を逮捕すれば良い。」


「しかし、そのような方法で良いのでしょうか...?確固たる証拠がないのにも関わらず、一般人を逮捕するのは如何かと。」


「誰が逮捕されたかより、犯人が逮捕されたかどうかの方が市民にとって大切だ。スラムの人間は住民登録が無い者ばかりだ。それにいつまでもこの事件にこちらも総動員で挑むわけにはいかないんだよ。それは君も分かっているだろう、アラン部長?」


「そうですが...「凶悪事件対策部の長として、曖昧な考えで指揮が務まるとは到底思えない。君の今回の功績によっては部長交代も遠くはないぞ。それを避けたいのならば...証拠を集めろ。」


レオナルド刑事局長の冷たい眼差しと脅しに弱気になったアランはただ頷くことしか出来なった。



「私は何もやっていない!!話を聞いてくれ!」


「ごちゃごちゃとうるさい!お前の部屋からは証拠と思われる物が見つかっているんだ!それで十分だ、あとは署で話を聞いてやる!」


昼過ぎ。部屋に医療に関する書籍と独身の30代の男が腹喰い事件犯人の容疑で逮捕された。周囲の住民からはスラムの数少ない医療知識を持っている人として頼りにされていたようで、警察を批判する声が聞こえる中、手錠をかけられた男はズルズルと警官たちに引き摺られていった。


「あまりにも無茶苦茶だ!」


「彼は私たちを治療してくれたんだ!犯人のわけがない!」


「無能の警察め!」


「やっぱりそうなるよなぁ...スラム街に住む人をぞんざいに扱うからこうなるんだよ」


「ま、上が言ったにはどうしようもないからな。ここで暮らす人と関わりあっている俺らにはこれが間違いだとはっきり分かるんだけどな。シャンツ部長も反対してたしな。」


出動していたベンジャミンとダニエルは住民を騒いでいるのを離れた場所から見ていた。


「これ以上被害が拡大しないと良いんだが...これで被害者がまた出たら余計に住民を煽ることになる。っておい、ここで煙草を吸おうとするな。」


ベンジャミンはダニエルの手から葉巻を叩き落とすと呆れたようにため息をついた。


「そういえばイザベラに会ったんだって?」


「あぁ、会ってすぐ病院送りになったけどな。この事件でまた上から厄介払いにされてるらしい。」


「あー、隣町かどっかでフォニーチャイズの存在を知ったんだろ?金持ちにしか回らない話をイザベラが知ったから、余計に厄介払いしようとしているんだろ。」


「何だそのフォニーチャイズってのは。」


「最新の医療技術を持ってる国だよ。各国に医療技術を提供しているけど、貿易や国交を結んでいない謎多き国らしい。NSSOが作った報告書をチラ見しただけだから詳しくは知らないけど、レオナルド刑事局長もフォニーチャイズと交友関係にあるらしいぜ。だから、今回の事件にフォニーチャイズの存在を持ち込んだイザベラを嫌がっているんだと。」


「事件の犯人がフォニーチャイズと関わりを持っていたら確かに批判の嵐だな。つまりレオナルド局長はフォニーチャイズが何やら怪しい存在であることを承知しているということだな。」


「そういうこと。」


ダニエルはベンジャミンが咎めるのにも関わらず、煙草をふかし始めた。



「犯人が...」


「...捕まった?」


警察署に出勤していたスーザンとジョーはジュリーからの報告を反芻した。


「そう。捕まったからこれ以上の詮索はしない。被害者が出てもそれは模倣犯だろうし、警察としては事件が解決したから大きな行動は起こさないって。」


「職務放棄にも程があるね」


「私たちが解決したわけでは無いけど、警備や捜索は入ってくれたから、報酬は渡すって言ってた。いつもはケチなのにあっさりしているのが何か不気味ね。」


ジュリーと報告を受けていたエマがそう言った。


「イザベラは納得していると思う?」


「「いいや全く」」


ジョーの言葉にエマとジュリーはハモって答えた。


「あれは冤罪だって言うに決まっているよ。スラムの状況や物事を客観的に見れる人なら一目瞭然でしょ。とりあえず新聞社へは圧力かけているみたいだけどね。」



「いや、間違いなく犯人じゃないですよね」


チャーリーの家でまだ療養中のイザベラは見舞いだと言って一番に報告しに来てくれたナルシッサに返した。


「そうだけどね、驚くようなスピードで捜査は切り上げになったよ。」


「また被害者が出たらどうするんですか?間違いなくスラム街の人は暴動を起こしますよ。」


「もちろんレオナルドはそれを承知している。」


「なんて傲慢な...」


「まあ捜査の打ち切りによってNSSOにも捜査権限が無くなったことにより、イザベラもNSSOの指揮官として戻れるんだけど...早速新しい依頼が入った。」


急な展開にイザベラは背筋を伸ばした。


「スラム街安全対策部からの捜査協力の依頼だ。シャンツ部長から話をしたいそうなのだが、彼もスラムに肩入れしている所があって、レオナルドが目を光らせている。だからシャンツの代わりにNSSOに詳細な話をしてくれる人と会って欲しい。私が聞いても良いけど、アランにチクられては困るからね」


「確かに今回の事件はスラム街が主な事件現場にも関わらず、捜査権力がほぼ無かったのは噂で聞いていました。そういうことだったんですね」


「NSSOの捜査指揮がイザベラに戻ったとはいえ、まだイザベラの行動は見張られている。彼らと話すときは隠密にな....じゃあまた明日からよろしく」


ナルシッサはそういってマックスの頭を撫でて帰って行った。



「...やっぱりあんたたちか...」


翌日、仕事終わりのイザベラを玄関で待ち構えていたのはベンジャミンとダニエルだった。


「よっ、元気だったか?」

「顔色戻ったみたいで良かったな。」


「お陰様でね、」


「よし、腹減ったしさっさと飯食いに行こうぜ。」


パーソナルスペースにぐいぐいと入ってくる二人にため息をつきながら、イザベラは後を追った。


最近の自分の身の上の話をしつつも、二人は周りの様子をどことなく気にしている様子だった。


「何だか話し足りないし、バーに行かないか?近くに安くて良いバーがあるんだ。」


正直帰りたいがシャンツ部長からの依頼を聞いてからではないと思ったイザベラは、ベンジャミンに腕を引っ張られるのに素直に従った。しかし、ダニエルが案内した酒場の名前を見たイザベラは一気に酔いが醒めた。そこはかつて自分が世話になった酒場だった。イザベラのそんな過去も知らないダニエルはさっさとドアを開けて中に入っていた。


「どうもルドヴィックさん、調子は。」


「...どこかの誰かさんのおかげで大きな損失になりかけだよ。いつもので良いかい?」


「いや、今日は緩めで。二階の個室って空いてる?」


「空いているが...男二人とレディとは。」


「大丈夫ですって、そんなやましいことはしませんよ。」


ダニエルは朗らかに言うと二本の瓶ビールを持って、さっさと上に上がって行った。


「...君は?何を呑む?」


まだカウンター前で固まっているイザベラにルドヴィックは声をかけた。


「私も度数低めで」


質問に答えたイザベラの声は、緊張と懐かしさで声が掠れていた。


「カクテルなら吞みやすい。この時期はブラッドオレンジが美味しいんだ。」


そう言ってルドヴィックと同じ髪色の飲みものを差し出されたイザベラは初めて彼と目を合わせた。大人びて疲れが見えていたが、8年前の記憶を蘇らせるには十分だった。


「...君、どこかで」


ルドヴィックが口を開きかけたが、イザベラは無理やり視線を逸らせカクテルを持って二階へと上がった。



「...ここなら気兼ねなく話せるな。」


二階の個室に入るなり、ダニエルは煙草をふかして小声で言った。


「上司からNSSOに依頼があるって聞いたけど。今回の事件と関係あるの?」


「流石、話が早いな。俺たちはイザベラのような潜入捜査は得意ではないが、独自のルートを持っている。これは公になるとかなりまずいことになるから、部長も上には報告していない。」


「かなり危険だけど、スラムの子供たちの安全を守るためだ。スラムではひっそりと人身売買が行われているのは知ってる?」


ダニエルが煙草の煙を吐き出したと同時にベンジャミンが言葉を引き継いだ。


「もちろん。仲間からそういった話は聞いたことがある。」


「まあ、そうだな。それで消えた子供はどこで売られているのか全く分からなかったんだが、この事件が始まる前にようやく尻尾が掴めたんだ...スラム街の下を通っている下水道だ。」


ベンジャミンの言葉にイザベラは肩をびくりと震わせた。オークションに行った日、ローリーが自分たちの仲間を見破ったのは正しかったのだ。


「あまりにも危険すぎてまだまだ詳細はつかめていないんだが、そこを拠点に人身売買が行われているって噂だ。で、シャンツがやりたいのがそこの告発。問題は不定期な開催とそこに通っているのが顔が広い人たちってことだ。告発したところで曖昧なことがおさまってしまったら、圧力で俺たち全員の首が飛んでしまう。」


「事を大きくしてスラム擁護派を増やそうってことね。突入にあたって警察隊にお願いするにもレオナルドの許可がいるから、NSSOに協力を仰ごうということね。」


「「そゆこと」」


「ちなみに前に潜入した時はいつなの?」


「さあ?これ以上の具体的なことは俺たちにもわからないんだ。シャンツ以外に詳しい者が誰なのかもNSSOのように潜入のプロがいない俺たちの部署の誰がどうやって独自のルートを見つけ出して、ここまで突き止めたのかもな。俺たちは必要最低限の情報を持ってNSSOの部長に直談判しに来たってわけさ。」


(現状のチェストラでスラム街に救いの手を差し伸べる富を持つ者は少ない。誰かが声を上げたとしても、同じ場所に住む者全員が賛同するわけでは無いスラムで告発しても大きな影響は与えられるのだろうか?あのオークションが無くなれば余計にスラムの治安が悪くなってしまうかも...)


ダニエルの言葉にイザベラは頭を悩ませた。


「...少し考えてもいいかな。地下の存在は噂で聞いたことがあるというメンバーもいる。あそこには一般市民だけではなく、ギャングやアヘン中毒者の巣窟にもなっているって聞いたことがある。あそこで突入するにはあまりにも危険すぎるし、こちらの行動がバレて更に事がややこしくなる可能性だって大いにある。」


「もちろんだ。こちらも出来ることはなんだって協力するよ。ただあまり時間はない。何年も秘密にしていたシャンツがこの情報を持ち出したということは焦っているんだろう。市民と行政が反発しあっている今が良いタイミングだとな。」


そう言ってベンジャミンは酒を煽った。






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