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NSSO《国家特別秘密組織》  作者: まっふん
腹喰い事件2章
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腹喰い事件27

翌日、エマとジェシカ、ナルシッサはアリバイ確認のためにチェストラ国立病院の内科医の元を訪れていた。以前のアヘン事件で病院側からの反感を買ったため、3人の表情は憂鬱そのものだった。


「これでまた何も証拠が出てこなかったら…今後、ますます捜査に協力してくれなくなる上に嫌な噂まで流されそうですね。」


「間違いないな。まあ、今回は医療知識が無い者が起こせる事件ではないから、何かしら出てくると良いんだが…」


「逆に出てこないと迷宮入りですよ…内科医が犯人とするのなら、周りの人間にも聞き込みをしっかりした方が良さそうですね。」


「そうだね、他のスタッフへの聞き込みは二人に任せよう。全員の証言に矛盾点がないか、しっかり深堀してくれ。」


「「分かりました。」」


ナルシッサの言葉に二人は力強く返事をしたと同時に馬車が止まり、三人はチェストラ国立病院へと向かった。



「こんばんは。」


暗闇から声が聞こえ、人影がイザベラの方に一歩踏み出した。月明かりの下に現れたのはネクタイを締めてコートに身を包んだローリーだった。この時間帯のあの場所に行くのにひざ丈のドレスに低めのヒールはいかがなものかと悩んでいたが、イザベラの選択は間違ってはいなかったようだ。


「ちゃんと指示通りの格好で来てくれましたね。下手に安っぽい格好をしていると周りの客に訝しがられるので。」


「以前来た時の地下のスラムにこの格好の人がくるだなんて想像も出来ない。」


「以前は隠された道でしたから。今回はゲスト用のもうちょっと整備された通路を使います。皆、素性を明かさないよう仮面をつけていますが、大半はどこかで繋がりを持っています。僕から離れず、挙動不審な動きをしないように。」


そう言いながらローリーはイザベラに口元まで覆った仮面を渡した。


「ゲストはみんな、見慣れているので悲鳴を上げないように気を付けて。」


「どうやってここにありついたの?」


「それはたまたまというか何というか…秘密です。君も僕に言っていないことがあるでしょう?それと同じことです。」


ローリーの言葉に何も言い返すことのできなかったイザベラは仕方なく唇を嚙み締めた。無言でローリーに連れられて路地裏を歩くこと数分後、ローリーはみすぼらしい格好の老人が座り込んでいる古い木扉の前に立った。


「おい。」


ローリーがぶっきらぼうな口調で声をかけ、老人の手に硬貨を何枚か握らせた。


「あんたら新入りだな。」


二人が仮面を着けているのにも関わらず、老人は歯のない口を開いてそう言った。


「新入りというより、代理の代理だ。」


老人はローリーの言葉に納得したのかしていないような顔をしたが、二人が扉の中に入れるよう壁に寄った。扉の奥は廊下になっており、暫く進むと松明が両脇に灯る下り階段が現れた。イザベラは前に訪れたスラム街の最深部に繋がっていると察した。

階段をしばらく降りた先はコロシアムのような円形の広場となっており、イザベラたちと同じように正装に仮面を着けた人たちが百人以上いた。


「こんなに人がいるだなんて…」


「皆、お金持ちの下僕ですよ。こっちへ。」


ローリーはそういって、イザベラを空いている場所へと手を引いて行った。


「あまりここの関係者に近づかない方が良い。慣れている者と慣れていない者の違いは一目瞭然ですから。」


周りに気付かれないようにしながら、辺りを観察しているイザベラの耳元でローリーは囁いた。


「君の仲間もここにいるのですか?スラム最深部でのオークションに携わっている者に素性がバレた者は生きては帰れない。」


ローリーの言葉に驚いてイザベラがローリーの方を向くと、彼は耳元に顔を寄せながらも目は全く違うところを見ていた。


「君が連れて来た?」


「違う。」


ローリーの冷たい口調にイザベラは噛み付くような返答をすると、自分以外に不自然な存在感を放つ人物に目を付けられないよう影に隠れた。


「…この前の子供は意外と不味かった、やはり個人で稼いでいる娼婦の肉の方が肥えていて旨いな。」


イザベラが数歩後ろに下がったことによって、イザベラとローリーの後ろにいる二人の男性の会話が耳に入って来た。


「ああ、追いかけっこの時に仕留めた獲物ですね。噂では主人が彼女を犯した後に分けたとか。」


「流石にそれは趣味が悪すぎる。それをするのは『あの方』ぐらいだ。『あの方』以上に狂っている奴はなかなかいない。」


「ああ、『あの方』はどうしようもありませんよ。影に潜みし、恐怖の支配者。表舞台から姿を消した20年近く経った今でも恐れられている。」


突然、飛び出してきた『あの方』のことが引っ掛かり、イザベラはよく聞こえるように少し後ろに下がり、耳を研ぎ澄ました。


「チェストラの影の王は彼で間違いないな。国王は政府関係や行政ほど腐ってはないが、頼りにはならない。形だけの存在だ。反逆でも起きてみろ、買収されている一般人の方が『あの方』の言うことを聞くさ。」


イザベラは男の言葉を一言も漏らさずよう全力を注ぎ掛けたが、コロシアムの真ん中に現れた仮面を付けた司会者の言葉によって、二人の会話は遮られた。


「皆さん!今宵もお集まりいただき、ありがとうございます。本日も皆さんの御主人様がご満足していただけるような品物を用意して参りましたので、どうぞごゆっくりお楽しみ下さい。それではまずはこちらの盛り合わせから参りましょう。こちらは亡くなったその日に解体した成人男性の腕と肩、太腿の3種です。それでは1000サンスから!」


司会者がそう宣言したと同時に、数名が手を挙げて競りが始まった。イザベラは目の前の光景に唖然としていた。目の前の肉が本当に人間のものだとすれば、遺体を回収して解体した者がいるということだ。殺しはしていなくとも、同じ人間を切り裂くことが出来る者がいるという事実にイザベラは恐怖を覚えた。その後も、2人分の肉を競りにかけ終わった司会者は辺りを見回すと今までのとは違う雰囲気を醸し出し、客を自身に惹き付けるような口調で話し始めた。


「それでは最後に本日のメインを紹介しましょう!ウリは何といっても柔らかさ!筋肉が委縮しておらず、その歯ごたえは毎回のひと手間を省いてもいいほど!これを再現できたのは愛する男による一瞬の裏切りがあったからこそ。一振りで彼女は死に至りましたが、その最期は幸せの絶頂の中。煙草もアヘンにも手を出さなかったその身体は無垢そのもの。さあ、ご覧あれ!」


司会者の掛け声と同時に幕が取り除かれ、そこからごたごたと盛り付けされた銀食器に乗った被害者の一部であろう肉の塊が現れた。堪らず出たイザベラの叫びはローリーによる封じ込めと、周りの人のどよめきで何とか抑え込まれた。


「落ち着いて、出ましょう。こっちです。」


あまりにもショッキングが光景を見てしまったことで腰が抜けてしまったイザベラを支えながら、ローリーは出口へと向かった。途中で会場を見張る男に疑惑の目を向けられたが、適当に言い訳をし、二人は地上へと戻った。


「…大丈夫ですか。」


ローリーは道の端で嘔吐しとイザベラの背中をさすりながら言った。


「あんなことが…惨すぎる。」


「まさか意図的な殺人が行われているとは思いもよりませんでした。」


「あそこで競売にかけられていたものは既に亡くなった遺体から取り出した肉ではないの?」


「ええ、そうでした。でもあの皆の反応を見る限り、初めてではないようですね。」


「アローさんはさっきのオークションと腹喰い事件は関係あると思います?」


「逆に関係ないと思いますか?」


イザベラはローリーの答えに首を横に振った。


「腹喰い事件の犯人とオークションに繋がりは必ずあります。それに僕が言っていた言葉は正しかったでしょう?完全な悪循環が出来上がっていること。誰かが声を上げたとしても、同じ場所に住む者全員が賛同するわけでは無い。」


「あのっ、他にも気になったことが…」


「ここから早く離れた方が良い。行きましょう。」


ローリーはそういうと暗い路地から、パブが並び、夜でも人で賑わっている道の方へイザベラを引っ張った。


「ここならもう安全です。近くまで送りましょうか?」


「いや、大丈夫です。さっき私たちの後ろにいた二人組の会話から『あの人』と呼ばれる者の名が出たんです。かなり残虐なうえに権力もある程度握っている…心当たりあったりしませんか?」


「ははっ、僕はしがない市民の一人ですよ。ギャングでもないのですから、流石にそんなことは知りません。ただ…気を付けてください。あまりにも正義に囚われ過ぎると自分の命を失うことになりうる。もう夜も遅いですから、帰って。」


ローリーはそういうと、イザベラの背を軽く押し、帰路につくよう促した。イザベラは言われるがままにNSSOの館へと向かったが、様々な情景が脳裏に浮かび、その夜は全く眠ることが出来なかった。





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