田舎へ嫁にいくのか…
「俺についてきてくれるかな?」
この言葉を聞いたのは、結婚してしばらくたってからのことだった。
主人の実家は長野にある。
結婚を決める前、挨拶をしに1度だけ行ったが、私が生まれ育った所より、ずっとずっと田舎だった。
山に囲まれ、周りは田んぼや畑が広がり、時々癒されに行くには、とても気持ちのいい場所。
でも、住むとなったら別だ。
買い物をするにも、病院へ行くにも車で30分。
バスも通っていないし、駅に行くまでも車での大移動。
―――家から駅まで歩いて5分。
足りないものは近所のドラッグストアでいつでも購入―――
そんな生活を送ってきた私が、そこでどのような生活をしていくのか、考えれば考えるほど無理だと思った。
何より私は10年以上の超ペーパードライバーだ。
主人の言葉にすぐに返事はできなかった。
でも、彼が聞かなくても、私はこうなることを予想していた。
彼が由緒あるお家の本家の長男であることを結婚前から聞いていたのだ。
分かっていて、目の前の幸せに浸り、現実から逃げていた。
―――あぁ。ついに現実を見つめなくてはならない時がきたのだな。――――
私はうつ向いたたまま「うん。」と返事をした。