志水奸 智功
※連載の合間に書く息抜きのようなものなので、更新は不定期です。
やや暴力的な要素もありますので、苦手な方はご注意願います。
連載形式になっていま菅読み切りの詰め合わせ的なものです。
陽国八七六年四月三十日。
子ノ国で最優秀と目された学者の家に1人の子供が生まれた。
名を「志水奸」、字を「智功」と名づけられた。
一般庶民には馴染みの無い字をつける事は、後に子の子供が王族に関わる地位につくという絶対的な現われになる。
王族に関わる職種によっては、その時に家族の縁を切る必要もある。
命に関わる職種において、元の名を消す名を持つ事で、その繋がりを消す意図があると考えられていた。
名である「志水奸」を名乗らなくなった時、この子供は一人の「戦士」として生きるのだ。
2つになる頃に読み書きを殆ど覚え、学業に上がる頃には自分よりずっと上の子が学ぶ問題をすらりと解いた。
国に認められた父の背中を見ながら、志水奸は自分も国の為に働くのだと、幼き頃から感じていたのだろう。
勉学や教訓には厳しい父親だったが、志水奸はそんな父親が好きだった。
物事を正しく行えば大きな手で頭を撫で、褒美をくれた。
また、母親も手伝いをすれば、夕飯に好きなものをだしてくれた。
厳しさだけではなく、優しさも兼ね備えた、いい両親、そして家族だった。
志水奸が十歳になって数月たった頃。
書斎で煙管から煙を吐きながら笑みを浮かべる父、奸史の脇に座って本を読んでいた志水奸は額を軽く指先に顔を上げる。
「志水奸、これが何かわかるかい?」
奸史が差し出したのは口に咥えていた煙管だ。
古ぼけていて淵の金が少しはげていた。
「古い煙管では?」
「これはね、私の曽祖父が、その父に貰いうけたものだよ」
「…高祖父様に?」
奸史の年齢が三十五、祖父はもう亡くなっていて、志水奸は会った事は無い。
奸史は確か祖父が四十を超した時に出来た子供だと聞いていたから、曽祖父の年齢と高祖父の年齢を合わせると百年位前のものという事だろうか。
「随分と長い間を過ごした煙管なのですね」
「この煙管はね、我が家のお守りだ。持つ者が国へ仕える時に受け渡されてきたものだよ」
「じゃあ、私が国に仕える時、父様はそれを下さいますか?」
志水奸の頭を撫で、奸史は微笑んだ。
「ああ。お前が無事で生きられるよう、字と共にこれをお前にやろう」
奸史の目は優しかった。
その手にもたれた煙管からゆらりと舞い上がる煙は、心地良い花の匂いがしていた。
□□□□
物音一つ無い、静かな夜だった。
突如響き渡った、耳を劈くような悲鳴が聞こえるまでは。
辺りの家の明かりが一斉に灯る。
間違いなく母親の声だった。
志水奸は慌てて布団から飛び出し、戸口に手をかけるが、何かが引っかかって開かない。
精一杯力を込めるが、戸はビクともしなかった。
戸を叩き、腹から声を捻り出す。
「母様!母様!」
「出てくるな!志水奸!」
返ってきたのは奸史の声だった。それも、物凄い剣幕の声。
叱られた時だってこんな声を聞いた事は無い。
志水奸は思わず戸から手を離した。
戸に耳をつけると、激しく取っ組み合っているような物音が聞こえる。
何が起こっているのかわからず、混乱する頭の中を必死に整理する。
急に、戸に何かが勢い良くぶつかる音がした。
その衝撃で少し身体が戸から跳ね飛ばされる。
同時に、なにか柔らかいものが潰れる様な音もした。
戸の向こうの音はしばらくバタバタと騒がしく続き、警察官の怒鳴り声に追いかけられるように消えていった。
それから、父の声も、母の声も何も聞こえなくなった。
時間にしてどれ位だったろうか。
家の外は騒がしいのに、家の中は不気味なくらい静かになった。
扉から跳ね飛ばされた格好のまま、志水奸は扉を見つめている。
扉がゆっくり、開かれる。
二人の警察官が入ってきて顔を覗き込み、肩を叩かれて、志水奸はようやく身体を動かした。
「…母様、父様」
静止する警察官の間をすり抜け、広間に出ようとした瞬間、足元のぬるついた液体に足をとられて派手に転ぶ。
床に叩きつけられて、顔にその液体が飛んできた。
「…血?」
赤黒い液体が辺り一面に広がっている。
全身の血が床に広がった血の様に抜け落ちていく様な感じがした。
柱に掴まって立ち上がり、走るような感覚で、よろよろと人の塊の中をかきわける。
床におかれた毛布は真っ赤だった。
目に飛び込んだ光景が、頭で処理できない。
最後の父の声が、頭の奥の方で響いて、ぷつり。と視界がなくなった。
□□□□
大勢の人が歩く音で目が冷める。
「…志水奸」
顔を横に向けると風啼と礼薫がいた。
奸史と仲が良い風啼と礼薫は顔を合わせる機会も多かった。
陽国の官僚に当たる風啼だったが、あまり厳しい事は言わず、いい「おじさん」と言った印象だった。
礼薫は風啼の1つ下で、国の仕事についている礼薫もまた、顔を合わせる機会が多く、風啼と同じ様な付き合いをしている。
ただ、風啼とは違い、礼薫は仕来りを守る、奸史の様な感じだった。
「…父様と母様は?」
風啼が声を詰まらせ、額を撫でてくる。
「警察が来た時にはもう…。犯人の数人は捕まったが、何人かには逃げられたそうだ」
複数犯で、即死だったのか。
志水奸は頭の隅で陽国に冷静に物事を見ていた。
しかし、その現実が受け入れるには形がはっきりしていない。
「…最後の言葉」
「…ん?」
「父の最後の言葉は、怒号でした。私に部屋を出るなと」
「…なんて事だ…何故、奸史が…」
風啼は志水奸の言葉に、声を震わせて泣き崩れた。
志水奸はそんな風啼をまるで他人事の様に見つめている。
「志水奸」
「礼薫様…」
礼薫は風啼の背中を軽く撫でて宥めると、志水奸の頬に手をあてる。
「お前は随分冷静だな」
「…よく、解らないんです」
そんな言葉に、礼薫は少し眉を潜める。
頭が良いという事は時として、とても残酷だ。
知識が先に纏まってしまって、現実の考えが追いつかない。
「両親の顔を見るか?明日、火葬されるそうだよ」
親戚が葬儀の事などをすでに纏めているらしい。
志水奸は、「もう明日にも火葬とは随分薄情なものだな」と思ったが、自分では何も出来ないのだから、大人のやる事に従うしかない。
「今、何処に?」
「病院の霊安所にいる。辛いのであれば、行かなくても良い」
志水奸は少し間を置いて、ゆっくり布団から起き上がる。
「行きます。ちゃんとお別れをしなくてはなりませんから」
気丈だった。
そんな志水奸の姿に、礼薫は悔しそうに目を閉じた。
霊安所の中には親族が何人かいた。
志水奸はあまりこの親戚の類が好きではない。
元々、父方の親族は父とも母とも仲が悪かった。
涙を流して抱きしめられたりしたが、腹の中では厄介払いが出来て清々したと思っているに違いない。
どこかに引き取られるのであれば、こんな親戚の所には行かず、一人で暮らした方がマシだ。
奥に白いベットが2つ並んでいる。
礼薫が少し先を歩き、志水奸が横に来てから、ゆっくり白い布をめくった。
人間の肌は、ここまで白くなるものなのか。
志水奸は赤みが無い両親の顔にゆっくり手を置いた。
昨日まで、好物を作って笑っていた母親。
煙管の話をしてくれた父親。
「…父様、私に煙管をくれるのではなかったのですか?」
「…志水奸?」
ようやく、涙がこぼれた。
足元が崩れる身体を、慌てて礼薫が支える。
現実だ。
もう、ここに両親は居ない。
「父様、母様。私はどうしたらいいのですか…」
涙が止まらない。
冷たくなった皮膚に、涙が滲む。
言葉が声にならない程叫んで、魂が抜けてしまったみたいだった。
□□□□
葬儀の列の端で、手伝いの女人が志水奸を抱いていた。
目が濁って、会話らしい会話は出来ない。
そんな志水奸をただ黙ったまま見つめる事しか出来なった。
葬儀を終え、静まり返った家の中、奸史の書斎の椅子に腰掛けている風啼の肩を礼薫が叩く。
友を失った二人の悲しみも浅いものではない。
「奸史はいい男だったよ」
「…そうだな。何でも出来た完璧な男だった。仕事も勉学も人付き合いも…父親も」
「何故、奸史が狙われた…。志水奸はまだ十だぞ…」
風啼は額を押さえてうなだれる。
「…志水奸は、私が引き取ろうかと思っている」
「え?」
「志水奸は親戚があまり好きそうではなさそうだ。お前は本国の事もあるだろう」
「…私は神の名を持つのに、民の為に何もしてやれないのだな…」
「…そんな事は無いさ、風啼」
礼薫は机の上に置かれた小さな箱を手に取る。
「奸史が志水奸に託した煙管だ」
「…煙管?」
箱の蓋を開けると、古ぼけた煙管と共に、一枚の紙が入っている。
志水奸が生まれた時、奸史が名を記した紙だろう。
生まれた年と月日、時間が記されていた。
「国従名、智功…」
「…奸史は、志水奸に国に関わる仕事をさせるつもりだった。その時、この名と煙管を渡すはずだったんだろう。志水奸が「智功」として歩む道をお前が作るんだ」
「…奸史」
この国で神として生まれた時から多くの別れを経験しなければならない事はわかっている。
神である自分は「人間」より長い時間を生きる。
けれど、神だからと言ってその感情が人間と違うわけではない。
友人が上る場所に少しでも近い場所から祈りを捧げる事を、残された形ある彼の存在の欠片を守る事くらいしか出来ない。
それが悔しくて悲しかった。
「風啼、今は泣くが良い。その涙の分、お前は強くなるだろう」
□□□□
両親の四十九日が過ぎる頃には、志水奸の表情は元通りになっている。
ただ、完璧とまでは行かず、志水奸の表情に笑みが浮かぶ事はなかったが。
礼薫の養子縁組を断り、誰も居ない家で一人で住む事を決めたのは、母親の手伝いで炊事などの基本的なことは出来たし、成人する間まで学校へ通い、生活するだけの貯金は十分にあったからだろう。
普通の十の子供なら、そんな事は考えられない事だが、志水奸にとっては父親に自分の事は自分でするという厳しい教えがあったから、「子供だから」という理由は酷く志水奸を傷つける事になるだろう。
礼薫は、風啼と相談し、必要最低限の補助だけをする事にした。
ちょうど、礼薫と仲の良い亥ノ国の黒斗という青年が闘王になるという話が進んでいたから、いざとなれば何かと頼るという手段もあったからだ。
「天照大神に志水奸の話をしたよ」
「なんと?」
「志水奸の頭脳は他の者をぐんと抜く。今は高等学生以上の知識があるというし、奸史が教えていたらしい「医学」に関する知識もある。まだ子供だが、もう少し成長すれば子の国の闘王として相応しい人物になるのではないかと」
「智功としての道が作れたわけだな」
礼薫は少しほっとしたような表情を浮かべた。
「しかし、問題は、志水奸がこれを受け入れるかだろうな」
「…というと?」
「私の養子縁組の話を断ったくらいだ。志水奸は奸史の作った道以外を歩くのには抵抗がある様だからね。
一番良いのは、天照大神が志水奸を認めたときに離すのが良いことだろう。お前の作った道というのではなく、奸史の置いた道だとな。
その時に、あの煙管と智功という名をあげようではないか」
「…そうだな」
風啼は少し寂しそうな表情を見せた。
確かに、志水奸は自分の子供ではない。
遠くから見つめる事しか、出来ない。
□□□□
両親がなくなっても、普通に学校に通い、普通に生活を過ごしていく。
飛び級で上の学校に入って、知識をどんどん蓄える。
国に仕える為に何をすれば良いのか、何を覚えれば良いのか、志水奸は誰にも頼らず、自分だけで学んでいった。
けれど、両親という後ろ盾を無くした志水奸の持つ「秀才」というに向けられる目は優しいものではなかった。
最初はただの不良程度。
だが、人体の急所を知り尽くす志水奸にとって、あまり力を使う事もなく、その争いは喧嘩と呼べるものとはいいがたい。
不良というものが負けず嫌いだという質の悪い性質が、そのうちに少し分の悪い争いに発展する。
礼薫に依頼を受けた黒斗がたまに顔を見に行くと、志水奸は身体のあちこちに傷を作っている事が多くなった。
玄関先で顔を歪める黒斗に、志水奸はほどけてきた腕の包帯を締めなおす。
「今度は何をやらかした?」
「暴力団だろうな。良い大人が束になって…」
志水奸の言葉遣いがこの数年の間で少しづつだが悪くなっている事に黒斗は眉を潜める。
環境の所為だろうか。
初めて会った頃は年齢のわりによく出来た子供だと思っていたが。
「志水奸、その様な言葉はよくないね」
「…俺の勝手だろ。それに、一々、顔を見にくんなよ。俺はどうもしねえし、来られても何もする事もないだろ」
「そうはいかないよ。礼薫様に言われているからね」
「だったら、礼薫様にいっとけよ。一々鑑賞すんなってさ」
「志水奸っ」
「もうくんなっ!お前の顔なんか見たくねえんだよ!」
力強く閉じられた扉に、黒斗は深くため息をつく。
「あれが子ノ国の闘王になる男か…?いくら礼薫様の親友の息子だとは言え、教養がなさ過ぎる」
そんな話を聞いた風啼と礼薫は困ったようにため息をつく。
「天照大神は能力的にはいつでも闘王にする事が出来ると言っているし、やはり、闘王になるのを少し早めた方がいいだろうか、礼薫。丁度明後日は志水奸の十三の誕生日だ」
「冗談でしょう、風啼様。あんな状態で闘王にしては、北国は纏まる所か崩壊しますよ」
「難しい所だな…。奸史の事を考える気持ちが無くなっては困るし…。かといって北国の統率が無いのも困るし」
「まだ丑の国の闘王も決まっていませんからね。ましてや、志水奸があのままでは、丑の国の闘王だって難儀するでしょう。私だけではあのじゃじゃ馬を纏める自信はありませんよ」
「そういうな、黒斗。風啼、志水奸と話をしてみよう。あいつの考え次第という所だろうしな」
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呼び鈴を鳴らしても、中から返答はなかった。
風啼が戸を押すと、鍵はかかっていない。
「志水奸、いる…」
呼びかけをしようとした直後だった。
何かが顔の横を横切り、戸の脇の柱に勢い良く突き刺さるような鈍い音が響く。
少し間を置いてから、右肩に髪の毛が数本、切れ落ちている事、そして頬が薄く切れている事に気がついた。
「どうした、風啼」
礼薫が戸の脇の柱へ目線を向ける。
「…鎌…だな」
見た事が無い鎌だ。軸は手で握れば見えなくなってしまいそうなほどの長さしかないが、刃の部分が肘から指の先まである。それに細い鎖がずっと繋がっていた。
「風啼様と礼薫様か」
鎖の先を巻き取りながら、二階へ続く階段を下りてくる志水奸。
久しぶりに見る顔は随分変わって見えた。
両耳に下がったピアスに、脱色したのか。後方で纏めた髪は金髪になっている。
筋肉を大分つけたのだろう。体つきもかなりしっかりしていて、年齢に比例しなくなった。
「何をするんだ、志水奸」
「新しい武器の試作。でも試作だから外れてよかった。これが今使ってるのなら間違いなく額わっちゃってたもん」
「…まさかお前…」
眉を潜める礼薫に志水奸は小さく笑みを漏らす。
「その辺の雑魚相手には本気は出しませんよ。相手の額割るまでの距離位瞬時にわかりますからね。「威嚇用」ですよ」
風啼はほっと胸を撫で下ろした。
これで人を殺したともなれば、闘王の話は水の泡だ。
「黒斗を追い返しているそうだな。黒斗は時期に亥ノ国の闘王になるんだ。国の仕事に尽きたいのなら、怪訝にするのは良くない事だぞ」
「闘王に関わらない国の仕事だってあるでしょう」
「…残念だが、その闘王に一番関わる仕事を任命しようと思ってきたんだよ、志水奸」
「…え?」
風啼の言葉に少し拍子抜けした様な志水奸の顔に礼薫が思わず笑いを漏らす。
「嬉しくないのか?お前が望んでた国の仕事だぞ?それも奸史の用意した仕事だ」
「父様の?」
一瞬だが、昔の志水奸が戻ったように思えた。
礼薫は懐に入れていた木箱を風啼に渡して、軽く目で合図する。
「志水奸、これは奸史の、父上がお前に置いた最後の道だ。お前に、「智功」として子ノ国の闘王就任を命ずる」
「…じょ。冗談だろ。十三で就任だなんて、今まで…」
「天照大神はお前の事をもう認めているし、闘王になる事に年齢制限はないのだから問題はない。今年七月には黒斗も闘王になる、お前は北国闘王陣の筆頭になるんだ」
突然の事に志水奸は戸惑いを見せた。
風啼は木箱の蓋を開けて、志水奸の前に歩み寄る。
「これを覚えているだろう、志水奸」
「…高祖父様の…煙管」
「あの日、お前が父からもらう事を約束した。お前が国に仕える時にこれを渡すと。
私は奸史ではない。だが、言葉だけであれば、奸史の代わりになる事は出来る。志水奸、お前は「智功」となって、陽国、子ノ国の為に、水神、そして土神の為に命をかけて働くのだ。出来るね?」
「……はい…」
小さく頷いた志水奸に、風啼は少し目元を緩ませた。
そして、ゆっくり志水奸の身体を抱き寄せた。
「志水奸。もう一人で背負い込まないでおくれ。智功の名を持ち、新しいお前を見せておくれ…。私は神としてお前を守るから…。奸史が出来なかった分まで…守るから」
「…風啼様…」
礼薫は音を立てずに家を出る。
玄関の脇に立っていた黒斗が、出てきた礼薫を見て小さく笑いを漏らす。
「やっぱり、神様には叶いませんね」
「…いいんだよ、これで。私は午ノ国の闘王として、国を守る人間なのだから」
「少し寂しそうな顔してますけど」
「…うるさい」
からかい混じりに笑いを漏らす黒斗に、礼薫は顔を背ける。
「丑ノ国の闘王探し、大変そうですよ。「智功」が急に変わるとは思えませんからね」
「…そうだな」
□□□□
就任の為の手続きの為に本国を訪れた志水奸の左腕に彫られた巨大な「子」の刺青に、風啼は思わず顔を歪めた。
「…お前、これから天照大神に会いに行くというのに…」
「格好良くないですか?」
「私は刺青を格好良いと思う考えは持っていない」
深くため息をつく風啼の後ろから、二人の子供がかけてくる。
志水奸と同い年、もしくは1つか2つ下位だろうか。
「風啼様!」
「金樺、それに水杵」
風啼は金樺と水杵の頭を撫でると、志水奸のほうへ目線を向ける。
「次期、金神と水神の候補だよ」
「風啼様、誰ですか?」
「子ノ国の闘王になる、しす…じゃなかった、「智功」だよ。水杵が水神になれば、お前を守る人だ」
水杵は志水奸を見て、少し照れくさそうに頭を下げ、手をさし伸ばした。
「宜しく、智功」
「…宜しく」
水杵と金樺は挨拶を済ませると、また勢い良くかけていった。
「どうだい、お前が守る水神は。お前の2つ下だから、今十一だよ」
「…ちょっと拍子抜け。神様になる子供って、もっとしっかりしてるのかと思った」
そんな志水奸の言葉に、風啼が笑いを漏らす。
「神も人間も、普通の子供はあんなものだよ。お前がおとなっぽ過ぎるだけだ」
「…でも、初めて智功って呼んでくれたのは水杵様だ」
「そうだな、お前はもう智功なのだからな」
風啼はゆっくり智功の肩に手を置いた。
「これが、お前の守る陽国だよ…」
「…広い。そして、綺麗だ」
広大に広がる景色に、智功は目を閉じる。
自分で開く、新しい道がこれから始まる。