大切な約束
真理子とつき合い始めて3ヶ月が過ぎた。
僕が臨床心理士として働いている病院に看護実習生として来た彼女とは、瞬く間に意気投合し、気がついたら2人でデートする仲になっていた。
真理子は患者さんからの人気も高かった。
ショートカットに愛らしい2つの瞳、小さな鼻、ちょっと厚めの唇に、いつも柔らかな秋の日射しのような笑みを絶えず浮かべている天使のような彼女の姿を知る者としては、それも当然だったと思う。
彼女は私と2人きりの時もその笑みを崩さなかった。
「どうしてそういつも笑っていられるの」
と聞いても、天使の微笑みを返すだけだった。
ひねくれ者の私は、まだ私に心を許していないのだなと解釈し、いつか私の元を去ってしまう彼女の姿を想像し、不安に駆られるのだった。
ある日僕の部屋で一緒にお笑い番組を見ていたら、珍しくやや緊張した表情で
「島本さんに会ってほしい人がいるの」
とお願いされた。
真理子はまだ僕のことを名字で呼んでいた。
「誰」
と尋ねた僕に
「私のこと嫌いにならないでね」
と言い残して、彼女は帰ってしまった。
僕はいろいろ嫌な想像をした。
実は元カレのことが忘れられなくて、別れを切り出されるとか、お父さんに交際を反対されるとか。
それぐらい僕は彼女を失うことを恐れていた。
怖かった。
約束の日。
待ち合わせ時間よりかなり早めに着いた僕は緊張してコーヒーばかり飲んでいた。
緊張がピークに達した頃、彼女は僕より少し年上の男性と共に現れた。
不安で自分を見失っていた僕でも、その男性が彼女の元カレでないことは一目で分かった。
僕の直観はある1つの答えを瞬時に導き出していた。
彼女は今まで見たことのない決然とした表情で
「島本さん、私の兄です」
と紹介してくれた。
それから彼女が語ってくれたこと。
お兄さんは心の病を患っていて、なかなか外に出られないこと。
でも、どうしても会わせたい人がいると言ったら、無理して来てくれたこと。
一頻りお兄さんの病状を説明した後
「今まで隠してて、ごめんなさい。私、島本さんに嫌われるのが怖くて…」
僕の前で見せた初めての涙だった。
僕は溢れる感情を抑えながら
「ううん、話してくれて、ありがとう」
と言うのがやっとだった。
真理子。
僕は一生君を大切にするよ。
神様に誓って、約束するよ。




