第2話 勇者アーサー
「なんで...」
「あ?何でこんな‘‘解雇‘‘された時に別れを告げさせたかったかって?」
「な、なんで知ってるんだ!」
「え!アル解雇されたの!」
レティシアがびっくりして、わざと使っていた敬語を忘れていた。
そこで慰めの言葉でも出るのかと思ったが予想は見事に裏切られた。
「よかった~、このままついていったら無職の彼氏と苦労してたんだ。」
自分の耳を疑った。
こんなこと言う娘だったっけ?
「ハハ!だろ?まぁ勇者の俺が国王に頼んだからなんだけどな!ハハハハハッ!」
アーサーがさらに畳み掛ける。
「嘘...だろ?」
手塩にかけて育てた‘‘パーティ‘‘からこんな仕打ちを受けるとは思わなかった。
確かに、勇者のアーサーの言うことなら国王は聞くかも知れない。
「嘘じゃねぇぜ!俺があんたと同じ仕事場は無理だから独立するって言ったら引き留めるためにあんたを解雇してくれるってよ!」
国の為になると思って今まで働いていたのに。
独立した方が稼げると知っていても、みんなの為になると思って頑張ったのに。
まさか裏切られるとは思ってもみなかった。
俺はフラフラとした足取りで城をでた。
少し歩いたところで呼び止められた。
「おい!」
レティシアは先に帰ったのか、アーサーが1人で追いかけてきていた。
俺が振り返ると同時に胸倉を捕まれ路地裏に引きずられていった。
勇者に逆らえるはずもなく俺はされるがままになるしかなかった。
「てめぇ!これは今まで調子に乗ってた罰だ!」
そういってアーサーが殴ってきた。
「な!」
俺はびっくりしたが、次の言葉を言わせてはもらえなかった。
「オラッ!」
アーサーにどれだけ殴られたかわからないが、なんとか意識は保っていた。
「はぁはぁはぁ。これぐらいで勘弁してやる!」
そういってアーサーは俺を放り投げ背を向けて歩き始めた。
すると、なにか思い出したのか振り返って愉快そうに言った。
「そういや王都の探索者ギルドに行っても無駄だぜ?」
何かしらの根回しをしているらしい。
俺が痛みと絶望に沈んでいると、アーサーが武器を持って戻ってきた。
「ハハ!やっぱ足りねぇからまだまだ殴らせて貰うぜ!」
武器も構えていてこれ以上は正直ヤバいと思うのだが、身体が言うことを聞かない。
これは終わった。
「おい!何してる!」
「チッ!」
外から声がかかりアーサーは正体がバレてはいけないと思ったのか、反対側に抜けて逃げていった。
「おい!大丈夫か?」
男が走り寄ってきて俺を抱きかかえて壁に持たれさせた。
「アル?アルなのか?おい!しっかりしろ!」
男の心配する声を聴きながら俺は意識を手放した。
気が付くとそこは知らないベッドの上だった。
ドアの向こうから明かりが見え、話し声が聞こえる。
俺は痛む身体を起こし自分の状態をチェックする。
「意外と酷くないな...これは誰か回復スキルかけてくれたかな?」
俺はドアを開け、保護してくれた人に礼を言うために明かりの場所へ向かった。
「あの!」
声をかけると2つの影が振り向いた。
「アル!目覚めたか!」
「あ、ガルフさん!」
「アル君!」
「ヴィオラさん!お2人が助けてくれたんですか?」
「ああ、そうだな。」
「私はガルフに頼まれて来たのよ!」
「お2人とも本当に助かりました。ありがとうございます!」
俺は心の底から感謝した。
2人は前のパーティの仲間で王都1の国家探索者だ。
ガルフさんは最強の勇者と言われ、ヴィオラさんは全ヒーラーの憧れの的でエルフ族である。
「ケガも完全に治ってないんだ、まぁ座れ。」
ガルフさんに勧められ俺は席に着く。
「何があったか話せるか?」
「はい、話せます。」
「そうか、じゃあ話してもらえるか?」
俺は少し間を開けて話し始めた。
「今日国王様に呼ばれて人事を言い渡され、国家探索者を解雇されました。」
「なに!」
「え!」
ガルフさんと、ヴィオラさんが驚いた声を上げた。
「そのあと、廊下でアーサーとレティシアが待っていました。」
「パーティメンバーか。」
ガルフさん達とはパーティが異動になった後も交流があって俺のパーティメンバーの事くらいは話していた。
「はい、そこで恋人のレティシアから別れを告げられたんです!」
ガルフさんとヴィオラさんは少し眉をピクリとした。
「そのあと、勇者のアーサーから言われました。アーサーが国王に直談判して俺を解雇したと。」
「な!国王はお前の価値がわかっていないのか!」
「そんな...」
「アーサーは俺を解雇しないなら独立すると言ったそうです。」
「成長株の勇者とはいえ、アルを切り捨てるとはなんと愚かな!」
ガルフさんが怒ってくれている。
「それでその後は?」
ヴィオラさんが先を促してくれる。
「その後、外に出た俺をアーサーが追いかけてきて、路地裏に引っ張り込まれてこの有様です。」
「アル、お前アーサーに恨まれるようなことやったのか?」
「アーサーは、俺がパーティーの主導権を握っているのが気に食わないと言っていました。」
「勇者より弱いエンチャンターが気に食わなかったというわけか。」
ガルフさんはエンチャンターが弱いと本当に思っているわけではなく、世間一般的な認識の事を言っている。
「しかし、お前の実力ならば逃げきれたのではないか?」
「あの時は最悪な精神状態でしたしね、アーサーに暴力を振るわれるとは考えられませんでした。」
「あの若造許せんな!」
「ええ。」
ガルフさんと、ヴィオラさんが鬼の形相をしていた。
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『エロゲに転生した俺は悪役令嬢に婚約破棄され復讐の鬼になるラスボスでした~最初でラスボスの力を手にいれて最強になってしまったようだ~』
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