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仕事帰りは、癒やされたい

会社のパーティ帰りの道を翔真は、足早に自宅に向けて帰っていく。

その顔は、疲れで無表情だ。


だか、自宅のマンションの前に着いたら、決まってやることがある。

直ぐに上を見ることだ。

自分の部屋の窓を見ると光がついている。

〈今日は、結が来てる!!〉


結とは、翔真の彼女だ。

大学生の頃から付き合っているため、気を使わなくていい。

少しワクワクした気持ちで玄関をあけて、靴を脱ぎながら声をかける。

「ゆいー、来てるんだろう?ただいまー。」

ひょこっとリビングのドアから、顔を出したのは、やっぱり結だった。 


「おかえり。出張が早く終わったから寄っちゃった。パーティどうだった?」

結は、スーツのスカートをはいているものの、脚は素足だし、上着を脱いで、髪もほどいている。

かなりリラックスモードだ。


結がリラックスしている姿をみると、翔真も自然と安心感が湧いてくる。

自分のフィールドに帰ってきたから、余計だろうか。

「ぜっんぜん、酒に酔えないし楽しくない。疲れた。」

自然と口から、本音も出る。

翔真もスーツの上着を脱ぎながら、服を緩めていく。

「仕事もしない、人の効率も考えないバカな女に笑顔振り撒くと疲れる。

調査対象相手なら、調査報告書突きつけた時どんな感じで慌てふためいてくれるかなーとか、どんな風に許しをこうのかなぁーとか想像して楽しいんだけど・・・・

中途半端に仕事をしないだけの社員に笑顔崩す訳にいかないからさ、ストレスだけ貯まる」


そんな翔真に

「翔真って、営業って言うより密偵が本業に感じるわ。

仕事の手を抜く女性より調査対象の素行を調べる方が、イライラしそうよ。

犯罪だもの・・・・」

あきれ顔で、結が答える。


「だって、聞いてくれよ。

仕事の納期も守らないバカ女、婚活の期日はしっかり守るんだぜ?

婚活パーティが夜に入っているのに、仕事が終わらなかった日どうしたと思う?

断れない後輩に、メールでその仕事分お願いだぜ?

そりゃ彼氏もできないし、できても逃げられるさ。

その後輩にしてみたら、よっぽどその女、大罪だと思わない?

まぁ、証拠保存してやってるから次の面談であの女見物だな。」

勢いよく口から、文句が出てくる。


パーティで見せてた、翔真のにこり笑顔はどこへやら・・・・

翔真の目付きの悪いこと悪いこと。

「あれ?

出向したときは、可愛くてスタイルがいい子がいっぱいの支店だぁって、喜んでたじゃない?

巨乳ほど、目の保養に良いものは、ないってさ。」

結が、翔真の声色の真似をしながらからかってくる。


突然だが、結は、童顔だ。

就職と共に、髪の毛も真っ黒に戻しているため余計幼い。

幼い子にからかわれている気分になる為、つい翔真もやり返してやりたくなる。

「ふっ・・・・

結とそのバカ女のお陰で巨乳がすべてじゃないって改めて思えたさ。」

やれやれと手を使いオーバーリアクションて返答をする翔真。


「・・・・いちよ聞いてあげる。

何で私にまで感謝なのよ・・・・」

結が、少し低めのトーンで聞いてみる。

結の片眉がぐいっと上がっている。

イラッとしてた時の結の癖だ。

翔真は、よく観察しているため、結の気持ちが伝わってきて、余計楽しくなる。

「だってお前の胸は、ちっさいけど、性格は・・・

って、いだだだだだだだ」

力の限り翔真の頬をぐいぐいと結は、つねった。


結のひたいには、青筋がぴきっと浮いているようにも見える。

「まへ、最後までいわへろ。」

つねられたまま翔真は続ける。

「性格は、良いだろ?

仕事は、手を抜かないだろ?

お前の仕事ぶりは、他社の俺のところまで噂が流れてきてるから。

つまり、お前の胸のサイズでも可愛くて満足、満足。」

いつの間にか、ニコニコと語りながら翔真は、結の胸を後ろから揉んでいる・・・

しかも、いつの間にか服の中に手が入っている。

もはや、下着の下・・・

〈何て動きが早い・・・・〉

結は、あきれて、なすがままだ。


知っているのだ。

こんなに素でフレンドリーな翔真は自分にしか見せないことを。

だから、コンプレックスをつつかれたぐらいなら、本気で怒らない。

なんだか楽しそうな翔真を見て、結は、軽くため息をついた。


「はぁー・・・いつまで、揉んでるのよ。」

翔真の手をペシっと叩き、自分の服から手を引き抜く。

叩かれても結が、本気で怒ってないことなど、翔真にはお見通しだ。


「お風呂場を洗って、お湯をためてくるから、もう少しゆっくりしてたら?」

結が、諦めてニコニコと楽しそうな翔真を置いてお風呂場に向かって歩き始めた。


その時フワッと翔真の鼻に甘い匂いが、漂う。

「ん?何かいい匂いがする。」

キョロキョロ見渡したら机の上に花がいけてある。

どこにでも売っているような可愛い花。

〈結が、買ってきたのかな?〉

ふんわりと甘い匂いが、心地いい。

近くのソファに座り目を閉じると、心地よさのあまりうとうとし始めた。


〈結を可愛がると楽しいな。一日の疲れが抜けていく。〉

結が、翔真の心の声を聞いたら、眉を潜めるだろう。

可愛がるの定義を間違えてると。

人をからかって、遊んでるだけだろうと。

だが、性格が屈折している翔真にとって、結で遊ぶのが日々の息抜きなのだ。

結の性格は、裏表が少ない。

いや、翔真にしてみたら、無いに等しいだろう。

〈あの時、結のことを調べてよかった・・・

結には、一生言え・・なぃ・・けど・・〉

意識が朦朧としながら、翔真は呟く。

そう、翔真は、彼女である結の素性さえも付き合う前に調べていたのだ。


翔真にとって、それだけ人間関係とはそれだけ重く苦しいものなのだ。

ぱたぱたぱた・・・

素足で歩いてくる音が響く。

お風呂場から結がリビングに帰ってきた。


ソファをのぞきこむと、翔真の寝顔があった。

座ったまま綺麗な姿勢で寝ている。

結は、翔真を起こさないようそっと右側に座り横顔をじっと眺める。

眠っている表情は、毒気の無い綺麗な子どものようだ。


〈翔真・・・私は、知ってるんだよ。

何であなたが、私にここまで心を許してくれているのか・・・・

調べたんだよね、翔真のお父さんの会社といかに関係がない人間なのか、自分にとっていかに害が無い人間なのかって・・・・〉

心の中で話しかける。


もちろん翔真から返答は返って来ない。

〈あなたは、本当に不器用な人間ね。

器用に事を済まそうとするために、どんどん不器用になっていく。

まるで、怯えているただの子どもみたいだわ・・・〉


すぅすぅと寝息をたてる翔真の右腕のシャツをゆっくりまくる。

20㎝近くになるだろう大きな傷跡が、手首から肘にかけて現れた。

結がそっと傷をなぞる。

〈痛みはなくても、この傷はいつまでも残る。

そして、いつまでも彼を縛っているのね・・・〉


甘い匂いが漂うリビングで、結は翔真の腕の傷をゆっくりとゆっくりとさすってあげていた。

まるで、感じるはずのない痛みから守ってあげるように。

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