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静かに監視をしたい

ザワザワ・・・・

ザワザワ・・・・


今日は、ホテルの大部屋を貸しきっての大きなパーティだ。

ある会社のプロジェクトが成功したからだ。

美味しそうな料理や、デザートが机に並び、社員たちは楽しそうに歓談している。

卓によっては、大きな笑い声まで起きている。

無理もない。

この2ヵ月は、プロジェクトのラストスパートということで鬼のように働かされていた。

残業まみれの業務から、しばらく解放されるのだから。


その楽しい会場の雰囲気を無視して、大人しく壁にもたれかかっている男がいる。

酒を片手にじっと、楽しそうな社員たちを眺めている。

彼の名前は、伊月翔真。

営業の部署に入って4年ほどたつ。


上司や先輩たちにお酒をつかず何で壁際にいるかって?

そんなの決まってる。

彼は、笑顔を作るのがめんどくさいからだ。


「あー、伊月くんあんなところにいるー!!」

「ほんとだー!」

何人かの先輩達だ。

少し高い声で、遠くから呼ばれた。


その瞬間、にこりと笑顔を作る。

一気に柔らかい雰囲気をに自分からじませる。

「先輩たちどうしたんですか?

何か美味しい料理でも運ばれてきました?」


「どうしたんですか?じゃないわよ。

せっかくならあっちで、皆で料理を食べましょうよ。」

と、女の先輩たちは、指を指した。

指した方では、他の女の同僚が料理を楽しんでいる。


〈めんどくせぇーなー・・・・〉

笑顔を崩さず思わず心の中で、毒づく。


〈この先輩達、仕事のサボりの常習犯なんだよな・・・

もし、このプロジェクト少しでも大変だったなんてセリフ言われた日には、笑顔がたもてねぇんだよ。〉


心の中で、そっとため息をついて

「先輩、最近寝不足が続いてたから、珍しくお酒1杯で酔ったみたいなんです。」

しおらしく伝えてみた。


先輩たちは、顔を見合わせて笑みを浮かべた。

マニキュアで彩られた手を俺の腕に勝手にまわしながら話しかけてくる。

一瞬、笑顔の翔真の右眉がピクッと動く。

「もぉー、これくらいで酔っちゃうなんて本当に伊月君ってかわいいんだから!!」

「んじゃ、気分よくなったら向こうに来てね。

待ってるから。」

「もし、気分悪くなったら私たちを呼ぶんだよ?

伊月くんだったら、日頃からお世話になってるから、介抱がんばっちゃうよっ?!」

キャッキャとテンション高くしゃべった後、手を降りながら向こうに消えていった。


日頃から、敵を作らないよう笑顔と人のフォローを絶やさない翔真。

酒の席で、こっそり休んでても誰も悪口を言われないことを分かっている。


翔真も先輩たちに笑顔で手を振りながら心の中で言葉を返す。

〈そもそも、酔ってもないし先輩達に解放もされたくありませんから。

マニキュアきれいにする前に、配られた仕事を期限以内にしろよな。〉

しっかり視界から先輩たちが、見えなくなったのを確認して、さわられた部分をはたいてスーツを整える。

まるで、バイ菌扱いだ。


静かになった壁際で、ゆっくりと会社のスタッフを眺め続ける。

翔真は、このパーティな間、ただ壁の花をしているのではない。

観察しているのだ。


翔真の目線の先には、背の高い男が楽しそうに談笑している。

あの男は、上司が横領していることを知っていながら何もせず黙っていたやつ。

その隣の机で、飲んでいる女はその上司と不倫していた。

ホテル代、食事代、上司から貢がれたプレゼント代として会社の金を間接的に楽しんでいる。

そう、横領した金と知って上司から貢いでもらっていたのだ。

その女と楽しく会話している小柄の女も癖が強い。

不倫女が飽きたブランド物のプレゼントは、その女がもらっているのだ。

目で様子を見ながら、脳内で報告内容をまとめていく。


翔真は、営業の仕事以外にもう1つ大切な仕事がある。

それは、偵察だ。

このパーティをしている会社は、翔真の父親の会社の子会社なのだ。

翔真は、素性を隠して子会社に出向して内情を探って、父親に報告しないといけない。

遠くない将来、この子会社も含め自分が跡を継いで見ていかないと思うと更に気が滅入る。


「チッ・・・・はぁ・・・」

小さく翔真が舌打ちをしながら、息を吐いた。

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