勇者達の住むお城へ(17)勇者ライラとの共闘開始
巨大な泥状のドラゴン(正体はスライムらしい)が生み出した大量の小型ドラゴン。大きさ的にはライオンぐらい。
その小型のドラゴン達が群れで俺達に襲いかかって来た。数はざっと見ても50体はいる。
おいおい⁉ まじかよ⁉ まじなのっ⁉
体が恐怖で震える。どう行動すれば良いか分からない。
立ちすくんでいると、突如ミディアとシャルルが俺の前に出た。そのまま魔物の集団へ向かって行く。
「いっ⁉ おっ、おい‼」
魔物の群れに飛び込んでいく彼女らの行動に思わず引き留めるような声をだしてしまったが、そんな心配は無用だとすぐに悟った。
俺はミディアとシャルルの動きにそれぞれ目を見張る。
ミディアの片手から燃え盛る火球が次々に放たれる。火球が小型のドラゴンに次々にヒットし、炎に包まれた小型ドラゴンはまるで焼き物みたいに固まった。かと思うと、粉々の砂となって崩れさっていく。
シャルルの片手からは、弓道で使うようなサイズの風の矢がいくつも放たれ、小型ドラゴンの体を貫いていく。と同時に赤い液体が血のようにほとばしる。
あの赤い液体はもしかして、小型ドラゴンを動かしている赤い核の中身だろうか。
体を貫かれた小型ドラゴンはその場でひれ伏すと造形が崩れだす。そして泥水のような体色が見る見るうちに透明感のある薄い水色に変わっていく。
おおっ……、なんだかスライムのように思えてきた。でもスライムって言うよりこいつは―。
「巨大アメーバって感じだな……」
「ギギギギギッ……」
地面に這いつくばっているスライムがどこから奇声を発しているのか分からないが、奇怪で苦しそうな音を立てる。ガラスをきつくこすったかのような音。うおっ……、めちゃくちゃ気味が悪いぞ、このアメーバみたいなスライム。
赤い核を失ったスライムは少しもがいた後、ぶわっと一気に白い湯気のようなものをだして消滅してしまった。
おおっ! 良かった! ちゃんと倒せてる。
内心少し安心してしまったがハッとする。まだそんな場合じゃない。敵の数は多い。ミディアとシャルルが戦っている様子を俺は緊張した顔で見つめる。
彼女らに次々に襲いかかる魔物達。不気味な魔物達を前に臆することなく、攻撃を華麗にかわし瞬殺していくその姿を目の当たりにして、俺の体がぞわっと泡立つ。
彼女らの暴力的なまでの強さが、なんだか恐ろしかった。
俺もついさっきまで、ミディアやシャルルに攻撃されていたんだけど、それでも―。
彼女らの実力を離れた位置から改めて認識したとき、俺の中には恐さが生まれていた。 勇者である彼女らに対して。
ふとそんなことを思った時、俺のそばにももう1人、勇者である女の子がいることに気付いた。
俺は息を飲みつつ、ぎこちなく首を動かし、白銀色の髪が特徴的な美少女、ライラの様子をそっと伺った。
えっ?
俺は思わずライラの様子を凝視する。
悲痛な面持ちで、体が少し震えているライラ。
ミディアやシャルルの威勢のよさとは対照的で、まるで魔物を恐れているような感じだ。
俺はライラのその様子に変に頭がこんがらがる。
な、なんか、あれだな。同じ勇者でも反応が違うもんだな。……んっ? でもそりゃそうか。勇者って一括りに言っても……。
俺は白銀の髪がキレイな女の子、ライラを見つめながら思う。
1人1人違うもんな。
「オオオオオオオオオオオオオオオッ‼‼」
「うおっ⁉」「きゃっ⁉」
大きな唸り声に俺とライラは同時に驚く。
いっ、一体何が⁉
俺は思わず前を向く。するとそこには―。
「なっ⁉ ミ、ミディア⁉」
ミディアが親玉である巨大ドラゴンに襲われていた。10メートルはある巨体なのに素早い動きで攻撃を繰り出している。
ミディアは攻撃をかわしながら火球で応戦し、巨大ドラゴンの体の一部を焼きつくす。泥状の体が陶器のように固まる。が、熱が表層にしか伝わっていないのか、焼き固まった皮膚が無数にひび割れると、その割れ目から泥の液体が溢れ覆っていく。あっという間にもとの泥状の体に戻ってしまう。
あまり効いている感じはない。ちょっと親玉ドラゴンにおされている⁉ あのままじゃやばいんじゃ⁉ だってミディアのそばには小型ドラゴンの残党もいるし。戦況が悪くなっている気がする。くそっ! 助けたいが、一体どうすれば‼‼ あっ。
そんな心配はすぐに吹き飛んだ。なぜなら、さっきまでミディアに攻撃を仕掛けていた小型ドラゴンの残党が、俺とライラの方に向かって来たから。
「うおおおおおいいいっ! まじかよ⁉ まじかよ⁉」
いやでも、これで良かったんだけどね‼ ミディアの戦況が軽くなるだろうし‼‼ ほんと良かったんだけどもッ‼‼ でも今度はこっちがどう戦えばいいの⁉ 心の準備ってもんが⁉⁉
【ライラ‼‼ ムラカミさん‼‼】
「「はいっ⁉」」
突如大きな声で、俺とライラが呼ばれた。
この声はユリネさん⁉
勇者が住むこのお城の最高責任者。
ユリネさんは、鬼気迫る声音で話し続ける。
【避難してください‼‼】
「えっ⁉ ええっ⁉ ひ、避難⁉」
ひ、避難⁉ って言われても⁉ あのどこに逃げたら―。
【後方の出口に向かって走って下さい‼‼ 早くッ‼‼】
俺の思考を読むかのごとく、ユリネさんが指示を出す。
俺はバッと後ろを向く。離れたところにある城壁。その一部分が、パン! と一瞬だけ光ると、そこに突如「U」の字を逆にした出口が現れた。
あっ、あれか‼‼ 距離はあるが走れば問題はない。で、でもだな―。
「ユ、ユリネさん‼」
突如声を張るライラ。そして力強く言い放つ。
「ミディアさんとシャルちゃんを残して、い、行けませんッ‼」
【なっ⁉ ラ、ライラ⁉】
「わ、私もッ! い、一緒に、た、戦います‼‼」
【⁉ ダメよッ‼ ライラ‼‼】
ビクッ‼‼
ユリネさんの怒気を含んだ声に、両肩が大きく跳ねるライラ。それども、小さな一歩を踏み出し、俺の前に出る。
「なっ⁉ ラ、ライラちゃん⁉」
俺の慌てる声を、ユリネさんが大きな声で押しつぶす。
【ムラカミさんッ‼‼】
「ひっ⁉ は、はいっ⁉」
なっ、なになに⁉ なんです⁉
【ライラを連れて避難して下さいッ‼‼】
「「えっ⁉」」
俺とライラは同時に声を上げる。自然と視線が重なりあう。
ライラはギュッと身構え、警戒と不安げな瞳で俺を見つめる。
ちょっ⁉、そんな目で見られると困るんだがっ⁉⁉
【ムラカミさん‼‼ 命令ですッ‼‼】
「いいっ⁉ め、命令⁉」
うそっ⁉ まじかよッ⁉
俺は思わずライラを凝視する。
「‼‼ ……わ、私。た、戦います…!」
ライラの視線が俺から外れる。その先には迫りくる小型ドラゴン。数は10体前後。
ライラの小柄な背中が震えている。
ぐッ‼‼ くそっ‼‼ ミディアやシャルルの心配をする余裕はないかッ⁉
がしッ‼‼
「‼‼」
俺はライラの片手を掴んでいた。ライラの驚く顔。そのまま敵に背をむけ走ろうとした時だった。
パチパチン‼
「いでっ⁉⁉」
ライラを掴んだ手に電撃が走る。強い静電気に触れたかのよう。思わず手を離した。
「ご、ごめんなさい……‼」
ライラの泣きだしそうな顔に、俺はハッとする。
「だ、大丈夫‼‼」
俺はニコッと強がるも、電気を帯びている手をそっと擦る。パチ、パチ、と弾ける微弱な電流。うおっ……、ま、まだ電気が。片手が電気をおびてる……。
「わ、私……」
ライラの言葉が途切れる。そして頼りない目で俺を見つめる。
「ラ、ライラちゃん……?」
俺が思わず声を漏らすと、ライラはくるっと身をひるがえし、また敵の方に向く。
彼女の言いたい事は聞かなくても分った。
迫りくる魔物に、背中を震わせながらも立ち向かうライラ。
「………………」
俺はただ黙ってじっと、ライラの、震えている背中を眺めていた。
なんだか不思議だった。
俺の今目の前にいる子は、ライラは―。
魔物に怯えるか弱い女の子にしか見えなかったから。
ほんとは逃げ出したいはず。でも、そうしないのは―。
彼女も勇者の1人だから、か。今ドラゴン型の魔物達と戦っているミディアやシャルルを見れば……、そうだよな。でも……。
ミディアさんとシャルちゃんを残して、い、行けませんッ‼
ライラが力強く言い放った言葉が頭をよぎる。
「ははは……」
思わず乾いた笑いがこぼれる。
ミディアやシャルルの心配をする余裕はない、と思った自分が情けなかった。
俺は……、勇者の教師としてこの異世界にやって来たっていうのに。
「よしっ‼‼」
「えっ⁉ ム、ムラカミさん⁉」
ライラが、横に並んだ俺に慌てて振り向く。
俺はライラと目を合し口を開く。
「俺も、一緒に戦うよ」
「へっ? ええーっ⁉」
目を丸くし、驚きを隠せないライラ。お、おいおい、そんなビックリされると、なんか傷つくんだけど……。
【ムラカミさんッ‼‼ 何しているんですかッ‼‼】
ユリネさんの怒声が突如響き渡る。俺とライラは同時にビクッと体を震わす。
そりゃ怒るよね⁉ こ、ここは返事をせずスルーしとこ。
「ム、ムラカミさん……」
ライラが心配げな声をだす。俺は弱々しい声でライラに話しかける。
「……なあ、ライラちゃん」
「えっ⁉ あっ、はい!」
「一緒にさ、後でめっちゃ怒られようぜ! ユリネさんにさ。ははっ……!」
俺は乾いた笑いで、無理やり楽し気な笑顔を作った。
「ム、ムラカミさん?」
ライラがくりっとした丸い瞳で、じっと俺を見つめていた。なんとも不思議そうな顔できょとんとしている。まあそりゃそうだよな、なんだよ、一緒に怒られようぜ、って。
「ぷふっ」
俺は自分で言った言葉になぜか笑ってしまった。ライラの目がひと際大きくなる。そして口元がふわっと開く。
「ふふっ。はい、一緒に怒られます」
と、なんだか嬉しそうに呟いてくれた。
俺の口元もなんだか緩む。
ってそんな場合じゃないよな。
俺とライラは互いに前を向いた。
まじかに迫った魔物の群れ。
ライラがぎこちなくも構える。
俺も、とりあえず身構える。
よしッ! とりあえず戦う心構えは出来た‼‼ 戦うぞッ‼‼ ……ん? あれちょっと待てよ、俺そういや―。
どうやって戦うの?
「ムラカミさん!」
「いっ⁉ あっはい‼」
ライラの呼ぶ声に、思わず声が裏返る。ライラは少し早口で俺に聞いてきた。
「わ、私は電撃で‼ えっと、ムラカミさんは⁉」
「へっ⁉」
俺はライラの質問に『?』を浮かべる。
「いや、あの! ム、ムラカミさんの攻撃魔法はなんですかッ!」
「こ、攻撃魔法?」
えっ? ちょっと? 攻撃魔法ってなに?
するとライラがすごく不安げに聞いてきた。
「あっ、あの⁉ もしかして、攻撃魔法、つ、使えないんですか⁉」
「えっ⁉ いや、その―」
「あっ‼ も、もしかして‼ 回復や補助魔法しか使えないとかですかッ⁉」
「か、回復? ほ、補助魔法?」
な、なにそれ?
俺は戸惑いを隠せなかった。するとライラが核心をつく言葉を言い放つ。
「も、もしかして、ま、魔法、使えないんですか?」
「……、ははは。いや~……、魔法か~。そっか~、魔法ね~。いや~……、……はい」
「えええええええーーっ⁉⁉⁉」
ライラの驚愕の声が響き渡る。俺は慌てて弁明をする。
「いやその確かに魔法とか使った事ないけども‼‼ でも、そっ、それは地球‼ 日本にいた頃の話だから‼‼ 今は違うかもしれんッ‼‼」
「なっ⁉ 何分けの分からないこと言ってるんですか⁉ じゃ、じゃあ魔法を使えるんですねッ⁉⁉」
「いやそれはっ⁉」
マリーさんッ‼ マリーさんッ‼‼
俺はライラの問い詰めにたじろぎつつも、頭の中で必死に呼びかける。
『はい』
俺の異世界生活でのチュートリアル担当天使ことマリーさんが、平坦な声音で応えた。俺は慌てマリーさんに心の中で語りかける。
(あのですねッ‼‼ 早急に聞きたい事がッ‼‼ 俺って魔法を―)
『使えませんね』
「使えねえのかよおおおおおッッッッ‼‼」
何となくそんな気はしたけども‼‼
それでも俺は叫ばずにはいられなかった。そんな俺にライラが声を荒げる。
「どっ、どうやって戦うんですか⁉ ハッ⁉ も、もしかして武術的な技とかを、お持ちとか⁉」
「あはははっ‼‼ なるほど‼‼ その手があったか‼‼ よしッ! 素手でやったる‼‼」
「えええーーーッ⁉ 素手⁉ そ、その‼ ムラカミさんって、わ、私達、勇者の教師‼ 何ですよね⁉ なのに魔法とか、技とか使えないって⁉」
「ライラちゃん、勇者の教師には、色んな人がいるんだよ……」
「ええええええーーーッ⁉⁉」
「でもね‼ それでも俺は一緒にたたか……、いえ、そばにいます‼‼」
「ええええっ⁉⁉ それってどうなんですかッ⁉⁉」
「きっ、来たッ⁉ て、敵が来たッ‼‼ は、早く攻撃してッ‼‼ ライラちゃんー‼‼」
「ええええええーっ⁉⁉」
まじかに迫った小型ドラゴンの群れ。その内の一番先頭にいた1匹が、俺とライラの方へ真っ直ぐ飛びかかって来た。




