勇者達の住むお城へ(16)戦闘開始
「オオオオオオオオオオオオオオオオッ‼‼」
盛大な雄叫びをあげ、突如俺の正面に出現したドラゴン。
そのドラゴンは、俺が想像していたものと異質だった。
体の表面が硬い鱗ではなく、泥状の液体で覆われていたからだ。
泥状の土黒い物質を、巨大なドラゴンに形作ったかのよう。すごく不気味さを感じる。
し、しかし、でけぇ……。10メートルはあるよな。
大きな頭がグググッと俺の方に向いた。
あっ、これ、やばいやつ。
ネチャア……。
と、グロテスクな音をたて、巨大な口が開いた。
「オオオオオオオオオ‼‼」
「いッ、いやあああああああああッ‼‼」
雄叫びと共に巨大な口が俺に迫りくる‼‼
走れ風のごとく‼‼ 俺はメロス‼ 今メロスだからあああああ‼‼
ドラゴンに背を向け一心不乱に走る。
前だけ‼ 前だけ見て走って俺‼‼
ふと進行方向の先に、ミディア、シャルル、ライラ、3人の美少女達。『ちょっと何こっち来てんの⁉』感がすごい。いやだって急なことだったから‼‼ どこに向かって走るか考える余裕なんてなかったからぁぁぁー‼‼
ぶわっと大きな影が俺を覆う。思わず見上げると巨大なドラゴンの口。
食べる気満々やん⁉ めっちゃ迫ってくる⁉
「ひええええええっっっ⁉」
ボグワワワワワワワワァァァァァンンン‼‼‼
突如、ドラゴンの頭に大きな炎の塊が命中した。俺はその勢いに押され前に吹っ飛ぶ。
「どわっ⁉ ぐへえぇ⁉」
地面に転げた先は3人の美少女達の近く。ミディアの右手はドラゴンに向いており、どうやら先ほど掲げていた火球を放ったようだった。
「あ、ありがと。助かった……」
「……どういたしまして」
「ウオオオオオオオッ‼」
地鳴りのようなうめき声。思わず目を向けると、ドラゴンの頭部が盛大な白い湯気を吹き出していた。
さっきまで泥状だった頭部は、焼き物みたいに固まっている。するとドラゴンの頭部にピシピシッ‼‼ と盛大に割れ目が走っていく。今にも崩れ落ちそうだ。
おおおおっ‼‼ これってやっつけたんじゃ‼‼
ドバアアアアアアッ‼‼
「なっ⁉」
俺は突然のことにびっくりする。割れ目から、勢いよく泥状の液体が噴出したのだ。瞬く間に泥状の液体がドラゴンの頭部を覆うと、何ごとも無かったかのように元通り。こちらを見据え、突如向かって来た。やばい⁉ 結構早いんだけど⁉ あのドラゴン⁉
「このっ⁉ うおらっ‼‼」
「なっ⁉ いひゃあああぁーっ⁉」
ミディアの右手から無数の大きな火球が連打された。俺の頭上をバンバン通り過ぎていく。
俺が丁度転げて、地面にひれ伏していたから良かったものの⁉ 当たったらどうするの⁉
無数の火球がドラゴンに降り注ぎ、見事着弾する。ドラゴンが立ち止まった。
「オオオオオオオオオオオオオッ!」
腹の底に響くような唸り声。ドラゴンの全身から、まるで温泉地のように盛大な白い湯気が立ち込めている。
おおおおおっ‼ 今度はさすがに効いたか⁉
ドバアアアアアアッ‼‼
「いいっ⁉」
「くっ⁉」
俺とミディアが声を上げる。
全くダメだった。さっきと同じように、火球で焼かれた部分が盛大にひび割れ、その割れ目から泥状の液体が溢れ覆っていく。俺は慌ててミディアに振り向く。
「おっ、おいおい‼‼ 全然効いてないけどッ⁉」
「うっ、うるさいわね‼ 見れば分かる‼‼」
「ひっ⁉ すっ、すいません……。えっと……、つ、次はどうなさいますかね? ミ、ミディアさん?」
「つっ⁉ 今考えてるわよ‼ うっさいわね⁉ 邪魔しないでくれる⁉」
「ひっ⁉ すっ、すいません……」
「ねえ、2人ともうるさい」
「「えっ?」」
冷淡な声の方へ、ミディアと俺が振り向くと、シャルルが、右手に形作っていた、ライムグリーンに輝く巨大なバリスタをドラゴンに身構えていた。
息を飲む。その迫力に。
ミディアと俺、そしてライラが見守るなか、ライムグリーンに輝く大きな光の矢が放たれた。
ヒュイイイイイ‼‼
と身を切るような風きり音と共に、ドラゴンの頭部に命中し、
ドッパアァァァァァァァァンンン‼‼‼
「うおおおおおっ⁉」
ドラゴンの頭部、首も含め粉々に飛び散った。
ドシン‼ ドシン‼‼
と4本の大きな足を後ろへよろよろと後退させるドラゴン。
こっ、これはすげえ威力‼‼ まじ半端ないッ‼ ……そして、これを俺に食らわそうとしていたんですね。まじ半端ない……。
シャルルがミディアに呆れた素振りを見せる。
「あんなのにてこずるなんて。ふんッ、情けない」
「つっ⁉ 私でも倒せてたわよ‼ あんな泥で出来たようなやつ‼‼」
「私には苦戦してるようにしか見えなかったけど」
「なっ⁉ なんですって~⁉」
「ちょ、ちょっとお2人さん⁉ お、落ち着いて! ケンカは良くないよ⁉」
「「はあっ?」」
「あっ、はい、すいません……」
ギロリと2人に目線を向けられた。めっちゃ怒ってる……。恐いよね、うん、とりあえず俺、正座しようかな。
「あっ、あの……」
「「今度はなにっ‼」」
えっ⁉ 俺⁉ 今の声は俺じゃないんだけど⁉
俺は睨みを利かす2人に誤解だと、強く目線で訴える。すると自然に、ミディアとシャルルは、スッと、ライラの方へ振り向いた。ビクッと両肩が跳ねるライラ。
「あっ、あの‼ あれ‼‼」
ライラが声を張り指さす方向には、先ほどのドラゴンがまだ立っていた。吹っ飛んだ首元あたりから、ボコボコと、土色の泥みたいなのが湧き出ていた。
おいおい⁉
俺は嫌な予感がした。だってこれってなんか―、
再生っぽくないか⁉
その予想通りに、さっきシャルルが吹っ飛ばした頭部が完全に元通りになってしまった。
「ちょっ、ちょっと⁉ あのドラゴンさ⁉ 頭が⁉ 再生してるんですけど⁉」
「「見れば分かる‼‼」」
「はうっ⁉ す、すいません……」
俺はミディアとシャルルに謝りつつ、ドラゴンを見やる。
3人の少女達と俺は辛辣な目で、泥で出来た巨大なドラゴン、名付けるなら、ゴーレムドラゴンをただ見据えていた。
【その敵はドラゴンじゃないわ‼‼】
俺の頭の中を見透かしたかのように、ユリネさんの声が辺りに響いた。
「ユリネさん‼‼ こいつ‼ 一体なんなの‼‼」
ミディアの問いかける声に、ユリネさんが少し戸惑いながらも応える。
【そ、その敵は、おそらく―】
突如ゴーレムドラゴンが大きな口をモゴモゴと不気味に膨れさせる。
い、一体、何をしようとしてるんだ、あいつ。
ゴバアアアアアアアッツ‼‼
「なッ⁉⁉」
俺らは一斉に声を上げた。
ゴーレムドラゴンが口から、大きな泥の塊を吐き出したのだ。ウエット感が半端ない。すげえ見た目が気持ち悪い……。
だが、そんなのは序の口だった。
大きな泥の塊の中から、紅の丸い光が無数に姿を現した。まるで赤い目玉のように。
不気味さが半端ない‼‼ 妖怪『百目』かなんかなのあれ⁉
【やっぱり‼‼】
突如ユリネさんが声を上げる。
やっぱり⁉ それは一体どういうこと⁉
俺の大混乱をよそにユリネさんは言葉を続ける。
【そいつは、スライムよッ‼‼】
「スッ⁉ スライムッー⁉⁉」
俺らは一斉に驚きの声を上げる。
異世界に来て間もない俺でも驚く。だって、あんなドラゴンみたいに大きなスライムなんて普通はいないだろ⁉
ゴボッ、ゴポゴポゴボ‼‼
吐き出された大きな泥の塊が慌ただしい動きを見せた。かと思うと、そこから、次々に泥状のドラゴンをかたどった敵が、たくさん生まれてくる。
大きさ的には、ライオンとか、トラとか肉食動物ぐらい。
体内には薄っすらと赤く光る玉。それぞれの敵の体内に1個づつ備わっている。
【皆‼ そいつらは本体の『核』から分裂して生み出された敵よ‼‼ 体に光る赤いのがそう‼‼ 生み出された敵はそれを基にして動いているわ‼】
ユリネさんのその声に、張り詰めた真剣な表情で聞き入る俺ら。
つまりそれは。
この敵の弱点は、体内に赤く光る、『核』ってことだよな。
「オオオオオオオオオオオオッッ‼‼」
巨大なドラゴン型の、泥状スライムの雄叫びと共に、生み出された敵の集団が俺達に襲いかかった。




