勇者達の住むお城へ(15)魔物転送
【シャルル‼‼ 攻撃をやめなさい‼‼】
その声に、シャルルの顔がひるんだ。
おっ!
わずかな希望だが、このままシャルルが言うことを聞いてくれれば。
そのままユリネさんの強気な声がまた聞こえる。
【シャルル‼‼ その人は敵じゃないの‼‼ その人は‼‼ そこにいるムラカミさんっていう人はッ‼‼】
急にピタッとユリネさんの声が止んだ。
ん? あっ、あれ?
辺りに変な沈黙が流れ出す。
シャルルが少し怪訝な顔をしていた。
俺もなんだか落ち着かない。一体何が?
俺とシャルルが顔を見合わせていると、ユリネさんがさっきまでの強気な声とは裏腹に、急にためらいがちな声を出した。
【そ、その……。ど、ど変態でもないの‼】
変態、という言葉に、シャルルの目が見開いた。瞳に映る警戒の色。
俺は急に焦る。いや、ちょっとまっ―、ん?急にシャルルの視線がチラッと少し下がった。俺が身に着けているのは、トランクス一枚だけという事実を確認するかのように。
スッと、シャルルの視線が戻って来たときには苦手な男子を見た時のような嫌悪感に満ちていた。
ははは……、そうだよね、10代前半の女子の目の前にパンイチでいる男なんて最低―、
「いやいやいや⁉⁉ ちょっと待たんかい‼‼ 俺がパンイチ姿なのはシャルルのせいだろぅ⁉」
ビシッ! と無駄にカッコよく、俺は右手の人差し指をピンッ! と立て異議を申し立てる‼‼
するとシャルルが引くような目つきで、
「なに急に? ちょっと……、キモいんだけど」
「なっ⁉ う、うそ……だろ……?」
シャルルさん? それあんまりじゃない? 最初会った時、私、スーツ着てたよね? しかもスーツボロボロにして剥ぎ取ったの、シャルルさんなのに……。ひどい……、こんなのあんまりだよ……。
あまりの理不尽さんに俺が打ちひしがれていたら、ユリネさんの声が届く。
「シャルル、その人は―」
「教師、なんでしょ」
シャルルがぽつり言った言葉に、ユリネさんが驚きと戸惑いをあらわにする。
【シャルル! 分かっているならなんで―】
「私達に必要ない。こいつを辞めさす」
【シャルル‼ そんな勝手な事―】
「勝手なのは教師のほうでしょ‼」
【つっ⁉】
ユリネさんの戒める口調を、シャルルが無理やり強い語気で押さえつけた。
それを機に2人の会話が止まる。
俺をキッと睨みつけ、再び構え出したシャルルに突如―、
火炎の球がいくつも飛来する。
「くっ⁉」
シャルルが華麗なバックステップでそれらを交わす。
右手のバリスタの形を保ったまま。
いきなりのことに俺がびっくりしていると、ふわっと、温かい空気を肌に感じた。
俺の目の前に、サラッとなびく鮮やかな紅蓮色の髪。
「ミ、ミディア?」
俺のその声に、背を向けていた彼女はチラッと視線をよこしたが、すぐに前を向いた。俺もミディアの小柄な背中越しに正面を見る。その先にはシャルルの苛立った顔があった。
ミディアが声を発する。
「やめなさい。シャルル」
ミディアの静止する声に、シャルルが睨みを利かしながらも、軽く息を整え口を開く。
「ねえ、後ろのそいつさ、教師なんだって」
「…………そう」
ミディアは小さく呟くだけだった。
身動きしないミディアにシャルルが苛立ちをあらわにする。
「なんで、そいつを守るの?」
「私たちの敵じゃない」
「じゃあ……、味方なの?」
「…………」
シャルルの試すような口調に、ミディアは静まる。シャルルが怒気の含んだ声を出す。
「ねえ、そこどいて」
「ダメよ」
「どいて」
「ダメ」
「……そう。じゃあ、2人とも吹っ飛ばす‼‼」
シャルルが右手の、大きなバリスタの形をしたライムグリーンの光を構えた。
と同時に、ミディアも構えだす。
ミディアの右手には大きな豪炎の火球。
まじかよ⁉
事の成り行きを見守っていた俺は、どうしたらいいか解らなかった。
「シャルちゃん‼‼」
突如また聞いたことのある声。
声の方に振り向くと、白銀の髪のライラが慌てた様子でこちらに走ってきた。
「「なッ⁉」」
ミディアと俺は、同時に驚きの声を上げる。
ライラが、シャルルとミディアの間に立ちはだかったからだ。
ライラがシャルルへ向き、ありったけの声を張り上げる。
「シャルちゃん‼ お願い‼ 止めて‼‼」
その声に、シャルルは躊躇する素振りを見せた。右手のバリスタの構えが甘くなる。だがシャルルは頭を左右に振り、鋭い目つきでライラを見る。
「そこをどいて‼」
シャルルの覇気のある声に、ライラがひるむも、一歩もそこから動こうとはしなかった。必死に頭を左右に振っている。
シャルルは悔しそうに歯を食いしばった後、口を開いた。
「じゃあ3人とも、吹っと飛ばす‼‼」
シャルルが迷いを振り切るかのように、右手のバリスタを、俺らの方に勢いよく身構えた。
「シャルルッ‼‼」
ミディアも身構える。シャルルの攻撃を相殺するかのような構え。
【シャルル‼ ミディア‼ ライラ‼‼】
ユリネさんの3人を呼ぶ止める大きな声。だが今の彼女達には届いていない。
なんだよ、なんだよこの状況は⁉ 何で俺のせいで、彼女達が争そわなきゃいけねえんだよ‼‼
なんとかこの状況を打開したい。必死に考えるも、恐怖に身を縛られ頭に何も浮かばない。両足はがくがくと震え、今にもその場でへたり込んでしまいそう。俺は何も出来ないのか。
ミディアの背中越しに見える、ライラとシャルルの姿。
ふとシャルルとミディアの中央にいるライラの体が小刻みに震えていることに気付いた。俺と同じように、何も出来ず、ただ脅えているかのようだった。
くっ⁉ せめてライラだけでも‼
俺はライラに『逃げろ‼‼』と叫びたかった。だが声がでない。ただ大きく口を開け、音の無い空気がもれるだけ。
くそッ⁉ 出ろよ声‼‼
ライラの小さな背中を必死に見続けていた俺は、ふと不思議な感覚に囚われた。
ライラの小さい背中が、なぜだかとても、
大きく感じるのだ。…………あっ。
俺はハッ気付く。
ライラの背筋が、
真っ直ぐ伸びていることに。
中学生くらいに見える彼女の、
小さな背中が、
か細い両足が、
恐くて震えているのに、それでも真っ直ぐに背筋を伸ばし、
どこに逃げることもなく、
ライラは、シャルルと必死に向き合っていた。
なにしてんだよ……、俺は!
ただ脅えてるだけの自分に無性に腹が立った。
ライラの小さくも大きな背中に、俺はほんとー、
情けな過ぎるだろうがッ‼‼
足の震えが止まった。
「うおらああああああああああッ‼‼」
「「「えっ⁉」」」
ミディアにライラ、シャルルの驚く声を背にしながら、俺は全力で駆けだしていた。大声をだしたら頭が急に冴えた。俺は、彼女ら3人から勢いよく離れる。
今の俺に出来る最善策。
それは、標的の俺が3人から離れること。
後ろを振り返る。
シャルルがこちらに右手のバリスタを構えていた。
ミディアもこちらに豪炎の火球を構える。バリスタから放たれる矢を打ち落とすかのような構え。
よし! それでいい‼ これで彼女達が互いに傷付け合うことは無い。
俺はくるっと身をひるがえし走りを止める。
シャルル、ミディア、ライラとの距離は十分にとれた。でっ、あとは……、俺が耐えるだけ。
あっ、あれ? 俺の両足がまたがくがくと震えて……、べっ、別に怖くなんかないんだからねッ‼‼
自分で自分を勇気づけ、シャルルの右手からバリスタの矢が今にも放たると覚悟したその時だった。
ウウウウウウウウウウウウウウウウッッッ‼‼‼‼
突如、異常なまでの警報音が響き渡ると共に、辺り一面が赤い光に照らされる。
予想外のことに俺は身動き一つとれなかった。
【つっ⁉ まさかこんな時に⁉】
ユリネさんの慌てる声。一体何が起こって―。
【シャルル‼、ミディア‼ ライラ‼】
声を張り上げるユリネさん。その声に3人は身構え、上空を見上げる。
俺もつられて上を見上げるとそこには、さっきまで白一色だった上空の魔法陣が、赤色に変わっていた。辺り一帯が赤くなったのはこれが原因か。
するとユリネさんが耳を疑うような事を叫んだ。
【魔物転送開始‼ 3人とも備えて‼‼】
なっ⁉ なにいいいいい⁉
俺の動揺をよそに、赤くて巨大な魔法陣の中央が赤みを増していく。と同時に、魔法陣の端側が元の白色に戻っていく。魔法陣全体の赤みが中央に寄せられているみたいだった。なんだか地球侵略にきた宇宙船が、ビームを放つようにも見えるような。
そんなイメージは、現実のものとなる。上空の魔法陣中央から、地面に向かって降り注ぐ真っ赤な円柱の光。
その光が地面に着くと、パンッと、赤いバラの花びらが盛大に散るように、赤い光の破片が辺り一帯に舞い、一瞬にして消え去った。
そして俺の正面には、
「オオオオオオオオオオオオオオオオッ‼‼」
盛大な雄叫びをあげ、
全身は泥状の液体をまとい、
恐竜のように巨大で、
2対の巨大な翼を携えた、
ドラゴンが突如出現したのだ。




