勇者達の住むお城へ(14)勇者の脅威
「辞めるって、力づくでも言わせてやる‼‼」
辺り一帯に強い風が舞う。
「くっ⁉」
強い風に思わず目をしかめるも必死に正面を見る。
ライムグリーンの長い髪を乱れさせ、殺気立ったシャルル。
10代前半に見える女の子には不釣り合いな迫力に息を飲む。
ふと脳裏に浮かぶ、先ほどシャルルに滅茶苦茶攻撃された場面。上空に吹き飛ばされるは、地面に叩きつけられるは、果てはぶっ飛ばされるは……。やべえ、またあの恐怖を味わうのかよ⁉
唯一救いなのは全然痛みを感じないこと。ほんと異世界保険の力があってよかった……。
身体ダメージの3割を数値化し、付与された大量のヒットポイント(HP)から差し引かれ、ダメージを肩代わりしてくれるもの。
頭の中でHPの数値を呼びかけると、視界の端に数字が表示された。
HP:14万1429/14万5000
とりあえずこのHPが無くならない間になんとか策を考えないと―、ん? ちょっと待てよ。
俺はふとあることに気付く。そう、今の俺にはRPGでいう反則的過ぎるほどの、膨大なHPがあるじゃないか‼
確か……、今まで食らったダメージの最高階級が、Aランク。
えっとダメージ数値は、
身体ダメージのランクと数値変換の内訳。
※アルファベットはランク、()内の数字は、通常ダメージ・3割負担ダメージ・MP変換で得る各数値。小数点以下四捨五入。
G (3)(1)(0)
F (9)(3)(1)
E (27)(8)(2)
D (81)(24)(7)
C (243)(73)(22)
B (729)(219)(66)
A (2187)(656)(197)
AA (6561)(1968)(590)
AAA(1万9683)(5905)(1772)
S (5万9049)(1万7715)(5315)
SS (17万7147)(5万3144)(1万5943)
SSS(53万1441)(15万9432)(2万4030)
ダメージ表が視界に展開される。
負担ダメージは、3割の、656。
俺のHPはまだ14万以上。
俺は一つの名案を思いついた。
ずばり‼‼
攻撃をひたすら耐えて耐えて、シャルルが戦闘に疲れて放棄するのを待つ‼ だっ‼‼
『それは名案と言わないと思いますが』
マリーさんの冷静な声を俺は全力でスルーする。
だってこれしか思いつかないんだもの……。
ヒュイイイイイイ!!!
突如、鼓膜を震わす甲高い風きり音が耳に届く。
音の発生源はシャルルの、右手。
彼女の右手が風きり音と共にライムグリーンに光出した。彼女の掌が手刀の型を取る。
ライムグリーンの光が鋭く尖った槍のような形になっていく。
シャルルが腰を低く落とし、右腕を後ろに引いた。
突進の構え。
これは、やばい⁉⁉⁉、
もうやるしかない‼ 精神的な負担は大きいがそこは我慢‼ Aクラスのダメージをひたすら耐え―。
シャルルが足を踏み込んだ。
疾きこと風の如く。
シャルルが風と共に急接近、俺の目と鼻の先にいた。
「いっ⁉」
っと思わず声をあげたと同時に、後ろに吹っ飛ぶ俺の体。痛みはないものの、腹に感じる、突き刺されたかのような感覚。
「ぐっ⁉」
今度は俺の左わき腹に同じ感覚。体の進行方向が真後ろから急に右へと変わる。真横にぶっ飛ぶ俺にピタッとついてくるシャルル。
フッ。
っとシャルルの右手が動いたかと思うと、突き刺すように放たれるボディーブロー。
俺は上空に突き上げられる。
シャルルは俺の真下に―、
ヒュン‼‼
ライムグリーンの髪をなびかせ俺を追い越し、
ヒュイイイイイイ!!!
甲高い風切り音が後ろで聞こえた。
風に弄ばれるように、俺の体がくるっと音の方へ反転する。
シャルルの突き手が、俺の腹にまた直撃すした。
真下に急降下。地面に仰向けで思いっきり叩きつけられた。耳をつんざく衝撃音。
真上から猛スピードで迫り来るシャルル。
「うおおおおおいっ⁉⁉」
咄嗟に体をひねり転がる。
さっきまで俺がいた場所にシャルルが着弾。猛烈な強風が発生し、
「うおっ⁉ わっぷ⁉」
俺は地面を転げ回る。
体が止まってなんとか身を起こすも、両足に力が入らず立てない。がくがくと震えていた。視界の端にはダメージ判定。
ダメージ階級:AAA×4
負担ダメージ:2万3620
MP付与:7088
HP:11万7809/14万5000
蓄積マナポイント(MP)9930
「なっ⁉ 嘘だろ⁉ さっきHP14万以上あったのに⁉」
ダメージ量が2万超え⁉ た、高すぎだろ⁉ 今まで1万すら超えてなかったのに⁉ ぼっ、ぼったくりだ‼‼
俺は錯乱して飲み屋での料金に抗議するサラリーマンみたいなことを頭で訴えていた。懐かしいな……、あれは確か友人と、とあるガールズバーに行ったとき―、ってそんな回想に浸ってる場合じゃねえええ‼‼
ダメージ階級AAA。
単発のダメージは―。
ダメージ表を確認する。
5905。
Aランクの656から、一気にAAAランクの5905。
俺の顔が強ばる。
10発食らえば、軽く5万以上のダメージに達する。
攻撃をひたすら耐えて耐えて‼‼ シャルルが戦闘に疲れて放棄するのを待つ‼‼
という名案はもはや役に立たない。こんなこと思いついた自分にがっかりだよ‼
「くっ‼‼ 無傷……。守りだけは固いのね」
苛立った声に、一気に体がざわつく。正面を向くと、シャルルが少し離れた所に立っていた。
俺の脅えている顔をみて、シャルルが少しにやける。
「あなたの、その顔。追い詰められてはいるのね」
「くっ⁉」
しまった⁉ はったりでもいいから、ポーカーフェイスでいるべきだった‼ だが、こんな常人離れした攻撃されたら、余裕なんて生まれるはずがない。
するとシャルルが急に、とても穏やかな優しい声で、俺に語りかけてきた。
「ねえ? 教師を辞めるなら、もう攻撃はしない。どう?」
「…………」
そんなの、飲めるわけねえだろ。
俺は震える両足で立ち上がり、目元に力をこめシャルルを見つめる。
「そう……」
シャルルが小さく低い声で呟いた後、彼女の右腕全体がライムグリーンの光に強く包まれていく。
彼女が右腕を俺に真っ直ぐ向け、拳を握りしめた。
右拳両側からライムグリーンの大きなアーチが出現する。右腕の上には鋭く尖った大きな矢。
風が唸り声を上げる。
シャルルの右手は、中世で見るような武器、バリスタの形に変わっていた。
風の力を凝縮した、ライムグリーンに輝くバリスタ。
俺の額から汗が止まらない。頬を伝い、地面に落ちていく。
ダメージ階級は、AAAより上だろこれは。
頭によぎるダメージS級。
ダメージ表は、
S (5万9049)(1万7715)(5315)
SS (17万7147)(5万3144)(1万5943)
SSS(53万1441)(15万9432)(2万4030)
単発でも1万超え。連続でくらう余裕なんてさらにない。
シャルルが腰を落とし身構え、狙いを俺に定める。
「ねえ、死んじゃってもいいの」
「くっ⁉」
その重苦しいシャルルの声に、ひるむ。
どうすればいい⁉ 一体どうすれば―、
【シャルル‼‼ 攻撃をやめなさい‼‼】
「うおおいっ⁉」
いきなりの怒声に思わずビックリした。
この声は‼‼
上空に大きな魔法陣が浮かんだ城の中央、中庭にあたるような広い場所で、ユリネさんの怒った声が響き渡っていた。




