勇者達の住むお城へ(13)シャルルの動揺とムラカミの宣言
俺は空中で殴られた勢いに乗り、真下に急降下し、
「ぐっ⁉」
城の廊下に叩きつけられた音が、辺り一帯に、鼓膜が痛く震えるほど響き渡る。
俺の周りは小さなクレーターのように凹みひび割れが無数に走っていた。
まあでも、なんとか城には帰ってこれたな。
「なっ⁉ ちょっと‼‼」
突然聞いたことのある声がした。声の方に慌てて振り向くと、少し先の方に紅蓮髪のミディアがいた。ちゃんと服を着ている状態で。バスタオル姿じゃなくてほっとする。ミディアの後ろには、白銀の髪を覗かせ、隠れるようにして俺を見つめるライラがいた。
2人ともびっくりした表情で心配げに俺を凝視している。
そういや廊下を駆けだす時、ミディアが俺を追いかけてきてたっけ。そんでライラも一緒になって今この場所に来たってわけか。
するとミディアが、俺のところへ近づこうとする。
ぶわっ
と肌に感じる強風。
俺は急いで上を見上げる。迫りくる暴風をまとった美少女。
ミディアに振り返り声の限り叫んだ。
「来るなああああっ‼‼」
ビクッと立ち止まるミディア、と、鮮やかなグリーン髪が視界に映る。横目で咄嗟に捉えたのは、殺意ある表情。
「シャルル⁉⁉」「シャルちゃん⁉⁉」
ミディアとライラの同時に叫ぶ声と、瓦礫が盛大に崩れる音が響き渡る。俺は廊下を突き抜け、さらに下へ叩きつけられていた。
瓦礫の土煙があたり一帯に舞う。
だが、下から突き上げるかのような強風で土煙が一気に晴れる。
俺の目の前に一人立ちふさがる美少女。
シャルル。
シャルルが俺に向け手をかざす。
「なっ⁉」
一瞬にして俺は暴風に吹き飛ばされ、背後の壁に激突しそのまま貫く。
勢いよく吹っ飛ばされ出た場所は外。平坦な地面に、斜面から滑り落ちたかのように転げまわる。
やっと勢いが止まり、俺はバクバクと大きな鼓動を体に感じつつ、大の字で仰向けになる。
たっ、たく⁉ 無茶苦茶しやがって⁉ んっ? あっ、あれは?
荒い呼吸で上を見上げていると、そこには大きな白い魔法陣が浮かんでいた。何かドーム球場の屋根みたいな感じだ。
さっき上空でみた魔法陣と瓜二つ、……まさかここって⁉
俺はバッと体を起こし立ち上がる。大きなグラウンドみたいなところの中央。急いで周りを見渡と、4つの塔がひし形を描くような形で配置されていた。間違いない、上空で見た場所に俺はいるんだ。てか魔法陣って浮いてたのね。
ビュオオオ。
突如、全身に感じる風。ばっと正面を見ると、シャルルがゆっくりとこちらに歩んでくる。
近づくにつれ感じる風の強さ、全身の肌寒さが増していく。
ん? 全身?
俺は、改めて自分の体を見る。
大きく露出した俺の肌に、
パンツ1枚姿の俺。
「なっ⁉ なんじゃこりゃあああああ⁉⁉」
『落ち着いて下さい』
「マ、マリーさん⁉」
冷静なマリーさんの声音に慌てる。
「そ、その‼ スーツが‼‼」
『さっきまで勇者である彼女の攻撃を受け続けていたわけですから。仕方ありません』
その言葉に、俺は口を紡ぐ。
ふと、ダメージ判定が視界の端に出ていることに気付いた。
ダメージ階級:A×4
負担ダメージ:2624
マナポイント(MP)付与:788
蓄積ダメージ:A×4
ヒットポイント(HP):14万1429/14万5000
蓄積マナポイント(MP)1072
ダメージ量は少ないものの、かなり上位のダメージランクを連発されてたんだな。そりゃあスーツも無事ですまないか。
俺が落ち込んでいると、『ふっ』とマリーさんが小さく笑う。そして、俺を励ますかのように、穏やかに話しかける。
『私の判断ミスです。ムラカミ様が、勇者である彼女達に服をはぎとられたい、という歪んだ性癖をお持ちということを忘れておりましたので。申し訳ござ―』
「おおおいいい⁉ 俺はそんな性癖持ってねえからああああ⁉」
励ましと思った自分がバカだった。
『それはさて置いてですね』
「まさかの放置⁉ ちょっと待っ―」
『彼女には、勇者指導が必要かと思います』
「へっ?」
マリーさんの言葉に、思わず間抜けな声を漏らす。
勇者指導……って一体なに?
少しの間の後、マリーさんが、『こほん』と、なぜか小さく咳払いし、早口で俺に告げる。
『勇者指導とは私なりに解釈した言い方です。教師という者は、生徒が問題を起こした場合、正しく導くため生徒指導を行うものです。ムラカミ様は、勇者である彼女達の教師ですから、彼女達を立派な勇者に導くのが役目です。ですので、そういうことです』
強引に言葉を切ったマリーさんに俺は、思わず口元を緩める。
生徒指導ならぬ、勇者指導、か。
なんだか嬉しかった。マリーさんは俺を、勇者の教師として、
認めてくれていると感じたから。
ビュオオオオオオオオオオオオオ‼
「くっ⁉」
全身に感じる強風。
正面に意識を向けると、そこに立ちはだかる美少女。
シャルル。
ライムグリーンの髪が逆立ったかのように強風で煽られ、獲物を狩るような鋭い眼光で俺を見捉えている。
お前を教師として認めない。
そんな強い意思が宿った瞳。
俺が弱くて力が無いから。
シャルルは確かにそう言った。でも……
「なあ……」
「……なに?」
身構えるシャルル。
俺はシャルルの瞳をしっかり見つめる。もう一度確かめるかのように、俺は、あの言葉を口にする。
「認めないのか」
その言葉にまた一瞬、彼女の瞳が微かに揺れた気がした。だが、
「そう。あなたを、認めない」
鋭い眼つきで俺に訴えかける。
彼女自身が口にした時もまた一瞬、瞳が動揺したように見えた。
俺は、シャルルの瞳が見せた、微かな動揺に思いをはせる。強くて力のあるシャルルに必要のない、脅えるかのような動揺。
そのなかに、教師を辞めさせる本当の理由が隠されている気がした。
それが何なのかは……、今の俺には解らない。
でもそれは―、
これから探していけばいい。
俺はシャルルに向けて微笑む。
シャルルの鋭い眼つきがたじろぐ。どこか不思議がっている? いや、これは困惑しているってとこだな。
その様子に俺はどこかしたり顔で、そしてシャルルに、なんの根拠もない、でも、確かな自信を持って、堂々と宣言する。
「俺は絶対に教師を辞めない‼」
俺は、いつのまにか120%の超笑顔だった。
シャルルは俺のその言葉に、笑顔に、目を丸くしていた。頬は緩み、口をぽかーんと大きく開けたかと思うと、わたわたと、せわしなく口を動かす。驚きと戸惑いの交じった表情をこれでもかと見せてくれる。10代前半のなんとも可愛らしい女の子がそこにはいた。今までのやんちゃな行いを帳消しにしたくなるくらい。って……、それじゃあ勇者指導できないじゃん。俺は教師として甘いのかなぁ……。
するとシャルルが我に返ったかのように、怒りをあらわにした。
「ふっ‼ ふざけんな‼ っく‼ 辞めるって、力づくでも言わせてやる‼‼」
シャルルは強くそう言うと、身構え臨戦態勢に入った。




