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勇者ご一行のご指導ご鞭撻よろしくお願いします!  作者: おみくじ


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勇者達の住むお城へ(12)教師を、認めない者・辞めない者

「教師を辞めて」

 俺の目の前にいる、中学生くらいに見える清楚な美少女は、冷淡な声音でゆっくりと宣告した。

 俺は自分の耳を疑う。

 聞き間違いではないのかと。

 それを確かめるかの如く、俺は彼女の冷ややかな顔を凝視する。

 彼女と目が合った。その瞬間、背筋にゾッと走る悪寒。


 お前を認めない。


 深緑の暗い瞳が俺を呑み込むかのように見据えていた。髪色と同じだったライムグリーンの明るい瞳の面影はどこにも無い。

 彼女にもう一度問われる。

「ねえ、教師を辞めて」

「…………」

 俺は彼女に何を答えたら良いのか解らなかった。

 いや、答えは解っている。

 でもそれは、俺が異世界に来た理由を無くすことになる。

 そんなの、口にするなんて出来るわけがなかった。もちろん首を縦に振ることも。

 俺は言葉に詰まりながらも、答える代わりに、彼女に問い返す。

「なっ、なんで……、辞めなきゃ……いけないんだっ……!」

 俺が必死に紡いだ言葉は、彼女の重くて暗い声音に押しつぶされた。

「あなたが弱いから」

「えっ?」

 俺は思わず声を漏らす。彼女はそのまま話し続ける。

「あなたが私より、ううん、私達よりも弱くて力が無いから。教師にはなれないし、させない」

 冷たく答える彼女。


 弱くて力が無いから。


 そのあまりにも単純で、身勝手にすら思える理由に、俺は驚きと戸惑いを隠せなかった。


「だ、だから……、教師を、辞めさせるっていうのか?」

「そう」

 当たり前のように答える彼女に、俺は、心の奥底からふつふつと熱い何かが湧きだしてくる。


 弱くて力が無いから。


 俺の高鳴る鼓動が、強く主張する。


 なんだよその、下らねえ理由は。

  

「ふざけんなよ」

 俺は苛立った声を彼女に向けていた。ピクリと彼女の目元が動く。

 俺はただ真っ直ぐ彼女を見つめ強い口調で言い放つ。

「弱くて力がないから、教師を辞めさすだ⁉ 勝手に決めつけてんじゃねえぞ‼」

 彼女が荒ぶった声で俺に言い返す。

「はっ、なに⁉ 今身動き一つ出来ない弱いあなたが、力の無いあなたが! 偉そうに言うなっ‼」


 プチン。


 俺の中で何かが切れた。


 暴風で宙に浮き身動きが取れないまま、俺は大声を張り上げる。

「ふざけんなっ‼‼ 力があるからって‼‼ 何でもやって言い訳じゃねえぞっ‼‼ 俺はそんなの絶対にっ、認めない‼‼」

 

 彼女の瞳が、

 微かに揺れた。

 寂しそうに。


 えっ……?


 ビュオオオオオオオオオオオオ‼‼‼‼‼

「くっ⁉」


 俺を取り囲む暴風が勢いを増す。まるで竜巻の中に閉じ込められたかのよう。彼女のライムグリーンの髪は勢いよく煽られ、怒りに燃えるかの如く暴れまわる。

 彼女が感情のままに声を張り上げる。

「はっ‼ なに⁉ 教師のつもりで説教⁉ ふざけるなっ‼‼ 今身動き一つできない‼、弱いあなたを‼ 力の無いあなたをっ‼ 私はっ―」

 彼女の荒々しい声が、ピタッと立ち止まった。まるで何かに脅えたかのように。

 思わず彼女の顔を凝視する。怒りに満ちた顔にサッと映る、つらい顔色。その理由を探るかのように、俺の視線が暗い深緑の瞳に吸い寄せられていく。

 と同時に彼女が大きく言い放つ。

「認めないっ‼‼」

「つっ!」

 金縛りがとけるかのように、意識が彼女の暗い瞳から解放される。

 肉食動物のような恐い眼つきで睨みつけられる。俺は全身が強ばるも、彼女の暗い瞳を必死に見つめる。

 静寂をたたえた深い緑の瞳。

 さっき見えた微かな揺れは見間違いだったのかよう。

 それでも、俺は……。

 深い森の奥のように暗い、深緑の瞳に、ある感情の色を重ねてしまう。

「なんで……」

 俺は彼女に呟く。

 威圧感のある目つきで見られ、俺は全身が強ばるも……、自分が感じた思いを彼女に伝える。


「そんな、」


 彼女の目が、


「寂しそうなんだよ」


 血走る。


 ほんの一瞬の出来事。

 彼女が片手を大きく上へ突き出した時には、俺は一気に風の力で上へ。逆バンジーのような速さで突き上げられた。天井が盛大に崩れる音を耳にしたのもつかの間、

「っつ⁉ な、ななっ⁉ まじかよ⁉」

 今俺は空にいた。雲一つない青空、太陽の光が眩しい。というか、太陽をすごく近くに感じるほどだった。まだまだ高度が上がっていく。

 や、やべえ⁉ 俺、このまま宇宙に飛びたったりするの⁉ それは嫌だあああああ⁉⁉

 思わず地面が恋しくなり下を見た。そこには、

「すっ、すげええ‼ なんだよこれ‼‼」

 眼下には、さっきまで中にいた、巨大な西洋風のお城が広がっていた。

   〇

 城の全体像が高度を増す度にどんどん明らかになっていく。その城の構造は一般的な西洋風のものと違っていたが、なんとなくあるものを俺に連想させた。それは、


 野球場だ。

 

 4つの巨大な塔がベースみたいに配置され、大きなひし形を形成していた。

 中央の投手が立つ場所には大きな魔法陣が白い線で描かれていた。まるでナスカの地上絵見たいだ。その白い魔法陣は、4つの塔が形成したひし形の大きさいっぱいに描かれている。

 外野にあたる所は、よく見る西洋風の城の、尖がった屋根がついた建物が3つならんでいた。見た目的には漢字の「山」みたいだ。

 その「山」がひし形の上半分、1・2・3塁ベースをなぞるみたいにひっついている。

 鳥になった気分で、城を眺め堪能していたら、急に空中で止まった感覚。

 ハッと我に返り、今の状況に冷や汗がこみ上げる。鳥だった気分が一気にスカイダイビングへ。

 巨大な城が拡大されていく、というか猛スピードで落ちてる。

「い、いやああああ⁉」

 叫び声をあげた瞬間だった。

 下から突き上げるような強風。

 空中に留まる。

「へっ⁉ うわっ⁉」

 くるっと体が上空の太陽に向く。眩しい陽の光が、人影に隠れていた。

 俺の視界に映るのは、逆光に照らされた美少女。

 お互いに強風に包まれ空で停止状態。ライムグリーンの髪が陽の光を浴び、新緑の煌きを放つなか、彼女は薄暗い表情で俺をギロリと睨みつける。

「教師を辞めろ」

 語気の強い口調で俺に言い放つ。俺は緊張で息を飲む。彼女に言うべき答えは解っている。

 でも―。


 寂しそうに揺れた暗い瞳。


 逆光に照らされ陰のある彼女の顔を見つめながら俺は、あの時の言葉を思い出す。



『俺は、彼女達の力になれますか』

その問いに、女神ことアリーチェさんが真っ直ぐ力強く応えてくれた言葉。


『もちろんです』



 俺はまだ何も―、彼女達の力になってやれて無いじゃないか!


 俺は下っ腹に力を入れ、目の前の彼女に強く言い放つ。

「俺は教師を辞めない‼」

「っつ‼‼」

 彼女の怒りを剥き出しにした表情と共に、拳が俺の腹に振り下ろされた。小さな拳から想像できない程の圧迫感が、腹だけでなく上半身に伝わる。透明で大きなグローブに殴られたみたいだ。

 俺はその殴られた勢いに乗り、真下に急降下していった。


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