勇者達の住むお城へ(8)ミディアと、ど変態の言い訳
彼女の手からは、今にも巨大な火球が俺に放たれようとしていた、その時だった。
ピシピシ、ガガゴンンン‼‼
「「なっ⁉」」
ミディアと俺は同時に声を発した。
突如、地割れの様な音と共に、彼女の足元が崩れた。
足場を失った彼女が、一瞬だけ、ふわっと浮いたように見えた。
だがすぐに、彼女は足元に出来た大穴に、吸い込まれるかのように落ちていく。
その様子を捉えた瞬間、俺は全力でミディアのもとへ駆け出していた。
バランスを崩した彼女が、豪炎の火球を誤って天井に向けて放つ。頭上から聞こえてくる、瓦礫が崩れるような盛大な音を耳にしながら、自分の右手をめいいっぱい、下に落ちていくミディアに伸ばす、が―。
届かない。
そう思った時には、体が勝手に動いていた。
タックルするかのごとく、ミディアに向かって全力で飛び込んだ。
俺のめいいっぱい伸ばした右手が彼女の左腕を捉える。
一気に引き寄せ、抱え込む。
ルビーのようにキレイな瞳が、俺の目と鼻の先にあった。
さっきまで怒っていた鋭い瞳とは違う、大きく見開いた瞳。俺を不思議そうに見つめるその瞳に、何故だろう、どこか可笑しさを感じてしまって、ふわっと自分の口元が緩んだ。彼女の赤く透き通った瞳がより大きく見開く。
小柄で、紅蓮色の髪がとても似合う彼女に相応しい、コロコロと丸くて愛らしい瞳。
うん、そっちの方がとっても似合ってる。最初にその瞳を見たかったなあ、なんで初っ端から恐くて鋭い瞳を見る羽目に、……いや原因は俺か。
心の中で反省しながら、俺はミディアを抱えながら落ちていった。
そしてすぐに俺の背中に何かにぶつかった衝撃のようなものを感じた。だがそんなに痛くはなかった。これも異世界保険の力のおかげかな。
俺はスッと上を見上げる。ミディアが立っていた床は崩れ去り、頭上には雲一つない青空がお目見えしていた。天井はキレイに丸形にくりぬかれたみたいになっていた。きっとミディアが放った火球が突き破ったのだろう。そして崩れた床は、彼女が手のひらに掲げていた巨大な火球の負担に耐えきれず崩れたってとこか。まあでも、俺が派手に突入したときに、床にある程度ダメージを与えていたんだろう、それも合わさって彼女の足元が崩壊して―。
ふわっと、微かに甘い柑橘系の香りがした。そして、体全体に感じる程よい重圧。
俺の頭が一気にざわつく。そっと、視線を上から、下に移す。
仰向けになった俺の体の上には、ミディアがいた。ミディアは寝そべっているような態勢のため、互いに体が引っ付いている。それに、俺は両手で彼女を抱えている態勢だったため、より密着した状態だった。今さらながら、彼女の、女性らしい体の柔らかさをひしひしと感じる。
彼女と目が合う。
お互い少しの間、無言で見つめ合ってしまった。
すると、ミディアの顔が見る見る赤みを増していく。そして、目つきが鋭さを増していく。
俺は慌てて両手をバッと彼女から離すと、彼女はサッと俺から離れ少しだけ距離をとる。でも互いの距離は手を伸ばせば届く距離ぐらいだった。俺は上半身を起こし、ミディアに慌てて声をかける。
「そ、その大丈夫か? け、怪我はしてないか?」
俺のたどたどしい声に、顔を赤くしているミディアが、少しの沈黙の後口を開いた。
「わ、私は、平気だから」
急に静かで大人びた声音に、どことなくよそよそしさを感じてしまう。まあ俺は初対面だからおかしくはないんだけど。
……………ヒューーーー。
ん? なんか小さな音が近づいて―。
頭上を見上げると、少し大きめの瓦礫が、ミディアに向かって落ちてきていた。
「あぶない‼‼」
「えっ⁉ ちょ、ちょっと⁉」
ガン‼‼
「いっ⁉」
突如、頭に走る衝撃。そしてガラコンと俺のそばに転げ落ちた少し大きめの瓦礫。
これ、頭に当たったらめっちゃ痛いよね……、ほんと異世界保険の力があって良かった。
むにぃ。
「ひゃっ⁉」
「へっ?」
突如、可愛らしい声が耳に届いた。と同時に、なんだか、やわらかい? 感触が右手に伝わる。
ハッとする。一気に血の気が引いていく。自分が今どういう状況か改めて思い出した。
そう、俺は、ミディアに咄嗟に覆いかぶさったんだった。落ちてきた瓦礫から彼女を守るために。
そろっと、視線を下に移す。
右手が、白いタオルに触れていた。ふわっとした触り心地、そして微かに感じる、むにぃ、っとした感覚。おかしい、タオルにそんな感触ってあるわけ―。
バチン‼‼
「おぶっ⁉」
床に転げる俺。頬がじんじんと痛い。一体何が⁉ というか痛い⁉ あれ⁉ 異世界保険の力が効いてない⁉ って、いやいや今はそんな場合ではない⁉
恐る恐る、ミディアの方を見る。
彼女は真っ赤な顔で、片手でつつましい胸元を押えている。俺は冷や汗がでる。ま、まさか、あ、あの感触は。
俺の目線が彼女のつつましい胸元に吸い寄せられ―。
「この、ど変態ーーーーーーー‼‼」
彼女が素早く俺にかざした手のひらから、豪炎が放たれた。
「ご、誤解だ‼‼ ぎゃああああ‼‼」
俺は豪炎に包まれながら吹き飛ばされた。城壁をぶち破り、場外ホームランのごとく外に飛び出したのであった。
視界の端に表示された、本日のダメージをみながら。
ダメージ階級:D×2(地面落下による体の強打、瓦礫による頭強打)
負担ダメージ:48
マナポイント(MP)付与:14
ダメージ階級:A(豪炎)
負担ダメージ:656
マナポイント(MP)付与:197
蓄積ダメージ:C×3、D×2、A×1
ヒットポイント(HP):14万4077/14万5000
蓄積マナポイント(MP)277
※ビンタのダメージは身体損傷の危険外のため、ご自身負担。
追記:変態から、ど変態への昇格おめでとうございます。そして、しっかり反省した方がいいかと思いますよ。ど変態さん、……ふっ。
チュートリアル担当天使・マリーより。
ぐうの音もでない追記だった。
ほんと、そうだと思います……。あと追い打ちをかけるマリーさんは、天使の皮を被った悪魔じゃないですかね……。
空に吹き飛ばされながら、打ちひしがれていたら……、俺の進行方向に塔がそびえたっていた。
ハッと我に返るも、
「いっ、いやあああああああーーー⁉」
ガガゴンンン‼‼
俺はまた、盛大な破壊音を響かせ、城にある別の塔に激突したのだった。




