勇者達の住むお城へ(7)ユリネとミディアと、変態の言い訳
【ミディア‼ 聞こえる⁉ 聞こえたら返事して⁉】
突如、女性の慌てた声が辺りに響く。
まるでデパートの館内放送のように、突然聞こえた声に、俺は辺りをきょろきょろする。
天使ことマリーさんの声ではない、紅蓮髪の美少女の声でもない、初めて聞く声。
そして。
初めて聞く名前。
ミディア。
俺は正面にいる紅蓮髪の美少女を見据える。
すると紅蓮髪の美少女こと、ミディアが俺を睨みつけながらもその声に返事をした。
「ユリネさん、聞こえてるよ」
ユ、ユリネさん?
俺はミディアが口にした、ユリネさんという名前を頭の中で繰り返す。
すると室内にまた、慌てながらも少し安心したような声音が響き渡る。
【ミディア‼ 良かった! 怪我はしてない⁉】
ユリネさんの心配する声に、ミディアが少しの沈黙の後、口を開いた。
「私は、平気だから」
急に静かで大人びた声音に、俺は少し違和感を覚えた。ユリネさんの心配するありのままの声に、彼女は、そうミディアの返事は、どことなく、よそよそしさを感じてしまったのだ。いや、でもあれか、さっきまで怒ってた彼女と話していたから、急に落ち着いた声音に変わって、変にそう強く感じてしまったのかも知れない。
【ミディア……。良かった、無事で】
そんな事を考えていると、ユリネさんの少し小さく落ち着いた声が聞こえた。その声にミディアは気に留めない素振りで話す。
「で……、どうしたの、ユリネさん」
【えっ、あっそう! 今そっちに見知らぬ男性がいると思うの‼】
おおうっ⁉
突然のことに、俺は両肩がビクッと跳ねた。俺の体に緊張が走る。
「今私の目の前にいるよ」
【そうなのね! ミディア! その人は敵じゃないの‼】
おおうっ⁉
ユリネさんの言葉に希望の光を見る。これってもしかしたら助かるかも!
俺はユリネさんの言葉に便乗しミディアに話かける。
「そ、そうなんだ‼ 俺は敵じゃない‼」
【あっ! 今の声ってムラカミさんですか⁉】
「えっ⁉ なんで―」
俺の名前を知ってるのか聞こうとしたところで、慌てて頭を左右に振る。今は、そこは置いておこう。何よりもまず助かる方が先決だ。俺は言葉を紡ぐ。
「そっ、そうです! ムラカミです!」
【よかった! 無事で!】
「えっ⁉ いやまあ……はい」
無事ではないんですけどね……。
【ミディア! そのムラカミさんって人はね、実は―】
「変態、だよね」
【えっ?】「えっ?」
ユリネさんと俺の声が合わさる。
シーーーーン。
そして急に訪れた沈黙。そのなかでミディアが手のひらに掲げる豪炎の球だけが、ゴゴゴゴゴッと荒々しく燃える音をこだましていた。
俺の額から急にダラダラと汗が流れ出る。ははっ……、豪炎の球が放つ熱のせいかな~、うん違うよね、分かってた。
【ミ、ミディア? そ、それってどいうこと?】
戸惑いを隠せないユリネさんの揺れる声音に、ミディアは両肩を震わせながら言い放った。
「私の、下着姿を見られたのよ‼‼」
【ええっ⁉⁉】
ユリネさんの驚く声が響き渡る。俺は慌てて声を出す。
「いや違うんですユリネさん‼‼ こ、これには深い訳がありまして‼‼」
「なっ⁉ じゃあなに? わ、私の下着姿を見るだけじゃなく、さ、触ったりもしたのには‼‼ ちゃんとした理由があるって言うの‼‼」
【さっ⁉ さわっ⁉ ミ、ミディアの体にさわわっ⁉⁉】
ユリネさんの混乱している様子に、俺は慌てる。ユリネさんは確実に誤解している‼‼
俺はミディアに強く言い放つ。
「待て待て待て‼‼ その言い方は間違ってるだろ⁉」
「何が間違ってるのよ‼‼」
「お、俺が触ったのは、パンツだけだろ‼‼」
【えええええええええーーーっ⁉】
ユリネさんの絶叫する声。はっ! しまった⁉ 大事なことを言ってなかった‼‼
「ユ、ユリネさん‼‼ 床に落ちてたパンツですから‼‼ 床に落ちてたパンツを触っただけですから‼‼ も、もちろん履いてないやつですよ‼‼」
【えええええええええええええっーーーー⁉】
ユリネさんの困惑を隠しきれない大声が辺りにこだまする。あっ、あれ⁉ なぜだ⁉ 誤解がとける気配が微塵も感じられない‼ むしろ―。
「最・低……‼‼」
「えっ?」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ‼‼
彼女の手のひらにある巨大な火球が燃え盛る。
事態は悪化しているだけのようだった。
「ユリネさん、また後で」
【えええええっー⁉ えっ⁉ ちょっとミディ―】
ユリネさんとの会話が、燃え盛る火球にかき消されたかのように、途切れた。
「まっ、待て待て‼‼ それはいくらなんでもやりすぎじゃ―」
彼女の手からは、今にも巨大な火球が俺に放たれようとしていた、その時だった。




