勇者達の住むお城へ(5)美少女と変態と、異世界保険
「この変態ーーーーーーーー‼‼」
「ですよねーーーーーーーー‼‼」
俺が彼女の怒り声にそう叫んだ時だった。彼女の手から、そう、俺に向け突き出している手のひらから、バレーボール程の燃える火の球が飛び出してきた。そして俺に向かって勢いよく飛んでくる。
「うおいっ⁉」
慌てて体をそらす。
火球は俺を通り過ぎ、後ろにある城壁にぶち当たった。
ボシュウウウウ‼
俺の耳に焼け焦げる音が聞こえる。おいおいまじかよ⁉
「変態‼ 変態‼ 変態ー‼」
変態と罵られるたびに繰り出される火球。
「ちょっ⁉ まって⁉ いひゃあー⁉」
俺はなんとか必死に避ける。最後の火球とかは俺の頬をかすめた。慌てて頬を片手でさする。火傷してない⁉ してないよね⁉
手に伝わる張りのあるお肌の感覚にホッとする。よかった……、ほんとよかった。
涙目になりながら両手でそっと自分の頬を労わっていたら、紅蓮髪の美少女が苛立った声をあげる。
「なにきもいことしてんのよこの変態! あと避けるな変態‼」
「きもいとか言うなよ⁉ 火傷の1つや2つ心配するでしょ⁉ 頬をかすったんだから! あと避けるわそんなもん‼ 当たったら火傷じゃすまんだろうが‼」
俺の訴えに、紅蓮髪の美少女は苛立った顔立ちから少し考える様子を見せた。そして、ムッとした顔で俺をねめつけ、ゆっくり口を動かす。
「そうね……、ちょっとやりすぎたかも」
「えっ?」
彼女が少しだけ穏やかな一面をみせる。こ、これは……和解のチャンス‼
俺は最新の注意を払いながら言葉を紡ぐ。
「こ、ここはお互い、少し冷静になって、ね。話し合いを―」
「火傷程度ですむように調整してあげるわこの変態。あと狙うのは足だけにしてあげる。動けないようにしたその後に……、たっぷりと話し合いをしてあげようじゃないの、この変態‼」
「それは話し合いじゃなくて確実に尋問だろ⁉ いいっ⁉」
さっきより小ぶりの火球が次々と俺の足元めがけて飛んでくる。
「ちょっ⁉ うおいっ⁉」
必死に両足をジタバタ動かし火球を避ける。
だが慣れない動きはそう続かなかった。
「わわっ⁉」
俺は自分の足にもつれ、倒れこむ。
慌てて彼女に言う。
「ちょっと待っ―、ぎゃああああ⁉」
俺の足に火球が見事に命中した。スーツのパンツが焚火のように燃えていく。
俺は慌ててスーツの上着を脱いだ。燃えている足に上着をバッサバッサと叩きつける。火が消えたのか、上着の隙間から黒い煙がふすふすと出ている。
「やっと大人しくなったわね」
紅蓮髪の美少女がにひるな笑いをこぼす。悪魔かこいつ⁉ 俺は大声を張り上げる。
「こんなやり方あるか⁉ めちゃくちゃだろ‼」
「ちゃんと加減してるわよ」
「そんなわけあるかい⁉ とくとみやがれってんだ‼ お天道様に顔向けできない、俺の焦げた両足を‼」
行き場のない荒ぶった気持ちを江戸っ子口調に乗せ、俺は両足に被せていた上着をバサッと勢いよくとりさった。
「「えっ?」」
俺と彼女の声がシンクロする。
そこには、キレイな肌色をした俺の両足があった。
俺は目をパチクリさせる。スーツのパンツだけが燃えて、俺の素足があらわになったこの状態。俺は手を伸ばし、自分の足に触れる。手に伝わる張りのあるお肌の感覚に、とりあえず安堵のため息をつく。そのとき俺はある違和感に気付いた。
スッと滑らかな肌触り。
まっ、まさか⁉
俺は自分の足を凝視し、驚愕する。
す、すね毛がない⁉
脱毛したかのごとく、すべすべキレイな自分のおみ足に目をみはるばかりだった。
これっぽちもない。割と毛深かった俺のすね毛が‼ まさかこれって、すね毛だけが燃えたのか? しかし何で、すね毛だけが燃えて、俺の素肌は無事なん―。
ボクワアアン。
「いやああああああああ⁉」
突然俺の足に火球が命中する。両足をジタバタしていると、紅蓮髪の美少女が軽蔑するような声をあげる。
「自分の足をなに優しく撫で続けてんのよ⁉ きもい‼ この変態‼」
「その仕打ちがひどすぎるだろ⁉」
今度はさすがにやばい⁉ って、あ、あれ?
両足の火が消えると、そこにはキレイな肌色の俺の素足。
「なっ⁉」
彼女は驚きの声をあげる。俺はこの不思議な現象に呆気に取られるばかり。そういや熱さもさほど感じていない。これって一体どういう事?
『異世界保険の力です』
「いいっ⁉ マリーさん⁉」
突如頭の中にマリーさんの抑揚のない声が響く。俺の動揺をまったく気にせず、マリーさんは淡々と話す。
『ムラカミ様が異世界に転生する際、アリーチェ様から女神の祝福を受けました。その時に、ムラカミ様が前世に持っていたあるものが祝福を受け、今それの効果が発揮されたのです』
「えっ? め、女神の祝福? 俺が持っていたもの? そんなの……、今着てるスーツぐらいしかないんじゃ……」
燃えて膝丈になったスーツのパンツを見やる。スーツが女神の祝福を受けて火球を防いでくれた? いやでもそれだと2回目の火球は防げてないはずだし。はっ⁉ まさかすね毛⁉ 俺のすね毛が女神の祝福を‼ ……いやいや、落ち着け、何だよ、すね毛に女神の祝福って。悲しすぎるでしょ……、あっ。
ふとマリーさんの、ある言葉を思い出す。
そう。
「異世界保険って何?」
そう呟いた時だった。
俺の目の前に突如、ゲームのRPGのようなウインドウが開いたのだ。




