勇者達の住むお城へ(4) 誤解ですって! ミディアさん!
「いやああああああああ‼‼」
ドドドン‼‼ ドンガラガッシャーン‼‼ ズザザザザザザー‼‼
雷が近場で落ちたかのような激しい物音を響かせ、俺は光の球体に包まれた状態で城に激突した。
俺の視界には灰色の煙が盛大に舞っていた。大型ビルを爆弾で破壊したかのような、視界を遮るもうもうとした煙。心臓はバクバクと大きな鼓動を打ち、その振動に体が共鳴する。浅く荒い呼吸を何度も繰り返す。
「ごほっ! ごほっ! お、お、おれ生きてる⁉ 生きてるの俺は⁉」
『生きていますよ。無事に到着しました』
淡々と返すマリーさん。
俺は四つん這いになった状態で、頭を左に右にとせわしなく動かし、灰色の煙しかない周辺を見渡す。
「こ、これのどこがっ‼ 無・事‼ と、言えるのか教えてほしいですけどね⁉」
マリーさんに対し声を荒げていると、辺りを覆っていた灰色の煙が、掃除機に吸われるかのように一定方向に流れていく。
背中越しに涼しい風を感じる。
視線を後ろにやると、大きな丸い穴が飛び込んできた。俺が包まれていた光の球体がぶち抜いた大穴。
その大穴の先には広大な平原が見える。大きな壁穴から俺がいる所までの床が、まるで丸い彫刻刀でえぐったかのようになっていた。灰色の煙はその壁穴からどんどん流れていき、周りの状況があらわになってくる。
大小の城壁の破片が床を始め、至る所に散らばっている。横倒しになったアンティーク調の白いベッドに、城壁の大きめな破片で真っ二つに荒々しく割られた木目調のテーブル、カップや小皿と思われる陶器の破片等々。
もしやここって、城に住んでいる誰かの部屋?
家に泥棒が入って、家中をひっちゃかめっちゃか荒らされた、というレベルではない惨状に思わず乾いた笑いが出る。
「ははは……、や、やばいよな、これって」
そう呟きながら上半身を起こそうと、床に手を付いたとき何かに触れた。
ん?
何か布のような感覚。
自然と手に取り、目に見える位置に持っていく。
ピンク色をした、ハンカチ?
ハラッと無意識にその布を広げた。小振りの三角形をした、いいっ!?!?!?!?!?!
大慌てでそのピンクの布を手離した。パァサと床に落ちる三角形のピンクの布。眼が離せない。
額からスッと冷や汗が流れる。
三角形のピンクの布地から凄まじいドドドドド感を感じずにはいられない‼‼
こ、これは、パ、パン―。
キーコ、キーコ。
俺の耳が、ドアの揺れ動くような小さな音を捉える。慌てて上半身を起こし、両膝を床につけると同時に音のした方へ振り向いた。
紅蓮色の艶やかで鮮やかな髪をした、下着姿の美少女がそこに立ちすくんでいた。
息を飲む。
キングオーガという巨大な鬼を一瞬にして葬り去った、あの小柄な少女と同じ髪色。
俺は彼女の顔をまじまじと見つめる。
凛とした顔立ち。大人っぽさを感じるが、子犬のような大きく丸い瞳が彼女に幼い印象を与える。
彼女と目が合う。
赤く透きとおった、ルビーのような瞳に見つめられ、視線が釘付けになる。
すると急に彼女の目が鋭い眼つきに変わっていき俺を睨みつける。
えっ⁉ いやちょっと⁉ 一体何が―あっ。
今さらながら意識した。
そう、彼女が……、下着姿ということに⁉
俺の視線が、意識と無関係に、なおかつ勝手にローアングル気味になる。
淡いピンク色の上下を身に着け、膨らみがある部分には白のフリルがあしらわれている。中央には赤く小さなリボンがついており、つつましやかな胸元を愛らしく飾り付けている。上下のみの少ないピンク色の布地からは、張りのあるキレイで透きとおった白い素肌があらわになっていて、お風呂上がりのようにほんのりと色づいてる。
俺は思う。
わが生涯に一片の悔いなし。
(ラオウ名言集より抜粋)
……ってアホか俺は⁉ ラオウ様の名言を汚している場合じゃやないでしょ⁉ そんな事考えている場合じゃないでしょ⁉
俺は彼女への視線をどこか違う場所に向けようとする、が、俺の視線が中々言う事を聞いてくれない‼
うおおおおっー‼ がんばれ俺の理性‼ 負けないで本能なんかに‼
脳内で男としての大事な何かを賭けた熱いバトルを繰り広げていたら突如、ふわっと白いタオルが、カーテンのように彼女の体を隠した。
心の平穏を取り戻す俺。そして何とも言えぬ敗北感。リングに白いタオルを投げ入れられて負けを知るボクサーってこんな気分なのかなあ……、と物思いにふけそうになり、ハッと我にかえる。
額から大いに流れる嫌な汗。俺は逃げたかった、でも……、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ……‼
恐る恐る視線を上にやると……。
彼女はとてつもない鋭い眼つきで俺を睨んでいた。口元はピクピクと引きつり、頬を真っ赤に染めている。
やばい……。完全に、やばいってこれ⁉ ち、違うんだ⁉ ど、どうする⁉ どう説明すれば⁉
俺はヘビに睨まれたカエルのごとく身動きが出来なかった。すると彼女が、タオルをもっていない方の手で、そばでキーコ、キーコと小さい音を立てて揺れているドアの、ノブを掴んだ。
俺に鋭い眼つきを送り続けながら、大きいタオルで体を隠しつつ、ドアを引き寄せながら白い足を後ろに後退させていく。
「あっ、あの―」
カチャリ。
俺の情けなく弱々しい声は、重々しく閉まるドアの音にかき消された。
目の前にある閉ざされたドア。
俺はそのドアに向かって両膝を付き、両手を組み、ドア越しにいる紅蓮髪の美少女に懺悔する。
違う、違うんです‼ 誤解なんです⁉ 俺はただこの城に誤って衝突しただけで、君のその、下着姿を見ようなんてこれっぽっちも思って―。
ボクワアアアアアンンンン‼‼
突然のことだった。
目の前のドアが炎を吹いた。
いや、そんな風に見えた。
ドガ! ドンガラガッチャン!
「ぐはっ⁉」
俺は熱い炎に吹き飛ばされ、背にあった城壁に叩きつけられた。周辺に散らばっていた家具食器類の破片と共に。
「っつうう⁉ 痛ってえええ……」
背中をさすりながら前を向くと、さっきまであったドアは無くなっていた。俺の正面には、紅蓮髪の 美少女が鋭い眼つきでこちらを見据え、片手をパーにして俺に突き出していた。彼女の上半身には白のタオルが巻きつけられている。彼女の足元付近には、ドアの素材とみられる木片が火を灯した状態で散らばっており、辺りは小さな赤い火がちろちろと所々燃えていて、赤い粉塵が宙を漂っていた。
彼女は小柄な体を震わせながら、怒気の含んだ声で俺に告げる。
「か、覚悟は出来てるんでしょうね……、こ、こ―」
彼女は急にピタッと言葉を止める。すうーと大きく息を吸い込んだ後、真っ赤な顔で俺に怒鳴り声をあげた。
「この変態ーーーーーーーー‼‼」
「ですよねーーーーーーーー‼‼」
俺は彼女の鬼のような形相を見つめ、真っ白になった頭で大きくそう叫んだのであった。




