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自己焼却の魔法使い《セルフファイア・ウィザードリー》  作者: 煉樹
第五章 自己焼却の魔法使い
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第63話 終局決戦——迸るそれは走馬灯

「なぜ私が悠長に君たちの劇を見ていたかわかるかい?」


 それが、第三席ハーロムの第一声。


「……何があっても、負けないからだよ」


 魔術に捧げた、私の人生。

 ……君たちのおままごととは、わけが違う。


 そう、言うかのように。


「大人しく見ていなさい。世界が終わっていく様を。……この世界の終焉なんて、きっと一度だけしか見られないものだ」


 ……わかっていた。

 こちらの魔術を、向こうが全く意に介していないことなど。


 なぜなら、向こうはこちらに一切反撃してこなかったのだ。

 ……今、この瞬間までは。


「初めに陰を、続けて陽を、そして連なれ陰と陽」


 結局のところ、これはただの予定調和だったのだろう。

 だって、目の前の人間は、あのシュヴェスタをも倒したのだ。


 ……それでも、それは、理由にはならないじゃないか。

 私が戦いを挑まない理由には。


 マリーは、唇を噛む。


 でも、シータと二人で魔術を編んだあの瞬間だけは、もしかしたら勝てるかも。

 そう思ったことは確かだ。


 ……結局、それはただの祈りに過ぎなかった訳だけれど。


「そして最後に全てを照らせ」


 あぁ、止められない魔術が来る。


 私は、この場に倒れ伏すのだ。


 そう、マリーは覚悟した。

 ギュッと、目を閉じて、硬く手を握る。


 頭の中にはこれまでの記憶が蘇る。


 長くはない人生だった。

 けれど、濃い、16年間だった。

 同じ人生を送れと言われて、送ることなど、願い下げだけれど。

 ——この人生は恥じることなど、絶対にない。


 シータと庭で遊んだこと。

 学校でみんなで過ごした日々。

 魔術を教えてくれたシュヴェスタさん。

 ——アイアスと出会った、あの日。


 そんな、本当にたくさんの思考が頭の中を巡って。

 しかし、最後の瞬間に考えたことは、これまでの人生の思い出ではなく、眼前の後悔だった。


 ——このまま、終わりたく、ない。

 ——目の前の男を野放しにして、終わるなんて。


 けれど、もう、どうにもならない。


雷光シムシェキ


 閉じた瞼の裏に、光が満ちた。


「来世で会おう、マリーくん」


 男の言葉が、宇宙に満ちた。



——————————————————



 アイアスはオルトの案内でゼロセラへ向かって全力で駆けていた。

 大破したオフロードカーは捨てざるを得なかった。


「……アイアス君。君に一つ聞きたいことがあります」


 風に流されそうな質問が飛ぶ。


「……何、だ?」


 事ここに至って、何を聞くというのだろうか。


「おそらく、ゼロセラには、奥の十二席(ステンドグラス)の中でも随一の実力者が待っています。……あなたは、それと戦えますか?」

「当たり前だ」


 それは、即答。

 相手が相手なら、愚問と罵ってもおかしくないくらいの即答だった。


 その返事を聞いて、オルトもまた謝罪から入った。


「失礼。今更でしたね。……ただ、私としても、いざ敵対したとして、あなたを庇う余裕は、おそらくない。故に、きちんと聞いておきたかった」


 すでに、ゼロセラの大穴は視界にはっきりと映っている。


「君に、一つ、策を授けましょう。……おそらく、心積もりはあっても、どうするかはあまり考えていないでしょう?」


 この人物は、一体どこまで見透かしているのだろう。

 ただ、それが紛れもない事実だっただけに、アイアスは少し苦い顔をする。

 滅多に見せないその表情に、オルトも察した様子だった。


「フフッ……まさかとは思いましたが、ある程度は図星でしたか。それなら、ちょうどよかった」


 そこで、一呼吸置いて、オルトは”策”というものを告げた。


「ゼロセラで戦うことになったなら、とにかく、あなたの解放序詞を唱えなさい。……そうすれば、おのずと答えは見えてくるはずです」


 まるで禅問答のようなその言葉。

 ただ、何をするべきかということが明確であるのは、小難しい作戦を練るよりもよっぽどこの現状にはふさわしいように思えたのは確かだった。


「君は、ゼロセラの申し子なのです。全ては君の味方をする。……だから、第一席は君に全てを託した」

「ゼロ、セラの……?」


 その言葉に、ズキっと頭の片隅が痛む。


 俺は、一体——。


「これ以上は、もう喋る余裕はない。……さぁ、見えてきましたよ」


 視界の先に、はっきりと映る。

 大きな、大きな陥没した大地。


 ゼロセラ。

 シェヘロ戦争終結の地。

 魔術の及ばぬ、果ての穴。


 そこは、なぜだか懐かしさを感じる場所であった——。


 ——そういえば、自分はマリーに出会うまで、一体何をしていたのだろう。


 考えたことがなかったことに気づいた。


 冷静に考えれば、それはある意味当然の話であった。


 だって、アイアスにとって毎日とは淡々と指令をこなすだけの日々であったから。

 そして、マリーと出会ってからの日々は、あまりに鮮やかでめまぐるしく、考える余裕すらなかったから。


 けれど、この地の景色が、匂いが、アイアスの脳細胞を刺激する。


 ——自分は、ここを知っている。

 ——ここ、ゼロセラを。


 けれど、思い出せない。

 靄がかかった、だとか、そんな訳ではない。


 おそらく、ただ単純に、空白なのだ。

 何も、覚えている気がしない。

 ……けれど、なぜか、知っているという確信だけがある。


 そんな得も言われぬ感覚に、頭が一瞬くらりとする。


 ——自分は……。


 しかし、思わず思考に止まりそうになった足を見て、ブンと頭を振る。


 ——いや、今は、そんなことを考えている余裕はない。

 ——とにかく、マリーを、助ける。


 話は、それからだ。


 そう、再び意思を確かめ、アイアスは戦闘音らしき大きな音が響くゼロセラを、しっかと見据えた。


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