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自己焼却の魔法使い《セルフファイア・ウィザードリー》  作者: 煉樹
第五章 自己焼却の魔法使い
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第58話 豹変時局ーー世界に奉じる決意の言葉


 バッとシータに似た彼女が右手を突き出す。

 ——魔術が、来る。

 それが、すぐにわかった。


「初めに陰を、続けて陽を、そして最後に始原の光を」


 どうしたらいいかはわからない。

 それでも、長年触れて来た魔術に、まず先に体が反応した。


遠雷アラウダ!」


 雷撃を発生させる魔術――遠雷アラウダ

 それをすんでのところで転がって避ける。


 魔術が使えるようになっているというのは、どうやら本当のことらしい。


「はぁ……。はぁ……」


 心臓の鼓動が早い。

 けれど、思考は一向に加速せず、頭には靄がかかったようだ。


「ふーん……まだ、本気、出す気がないんだ」


 魔術を行使したにも関わらず、反撃する様子を見せないこちらに対する向こうの対応は、幸いなことに追撃ではなかった。


「……ホントはもっとスマートにやりたかったけど、そういうことなら、仕方ないかな」


 けれど、もしかしたら、ただ攻撃を避け続けるだけであった方が、まだよかったかもしれない。

 そんなことを考えるなんて、この時はまだ微塵も思っていなかった。


「ねぇ……これを見ても、まだ、そうしていられるかしら?」


 その瞬間、まるで、人が変わったように、眼前の彼女の表情が歪んだ。


「マリー、だめ! 魔術を——」


 その悲痛な姿は、また一瞬のうちに、元の澄ました顔に戻ってしまった。


 けれど、その姿を見たマリーには、電撃が走った。

 もちろん、それは比喩だけれど、それぐらいの衝撃だった。


 それは、間違いなくシータ本人だと、マリーに確信を抱かせる声音だった。


「はい、おしまーい。……ねぇ、わかる?」


 マリーが、そう感じたことを、彼女もまた、わかっているのだろう。


「私は、シータ。あなたは私がシータじゃないって思ってるのかもしれないけど、この手も、足も、髪も、この言葉も……全部、シータそのもの」


 どういうからくりかはわからない。

 けれど、目の前の存在が、シータの体を弄んでいるのだということは、確たる事実であるように思えた。

 そして、彼女は、その確信に追い討ちをかける。


「だから……こんなことも、できちゃう」


 彼女はそう言うが早いか、バタフライナイフを取り出し、自らの手首をシュッと切り裂いた。


「ま…………っ!!」


 止める暇など、なかった。


 赤く、紅い、鮮血が、ゼロセラの乾いた大地に溶け落ち、染み渡る。


「痛っ!」


 その声は、もしかしたら、シータ本人だったのかもしれない。


 突然のことに、マリーの気も、動転していた。


 そんなマリーの姿を見て、向こうはいよいよ調子付く。


「ふふふ……あははは! ねえ! 止めたいでしょう? 私という存在を!」


 両手を広げ、ゼロセラに差し込む光が後光となって照らす彼女は、シータではない。


「あなたが、魔術を使わないと戻ってこない。シータは、もう、二度とね」


 そして、この言葉も、間違いなく事実なのだろう。


「さぁ、踊りましょう? マリー。……魔術という、ワルツで。

 二人で、創世祭のフィナーレを演じようじゃない」


 創世祭のフィナーレを飾る、神聖な演舞闘劇。

 これから、それをやろうとでも言いたいのだろうか。


「…………」


 挑発に、乗ったわけではない。

 必死に、そう自分を言い聞かせる。

 向こうは、どういうわけか、自分に魔術を使わせたがっている。

 そう感じたのは確かだ。


 けれど、こうも思うのだ。


 自らの親友を、弄ぶこの存在を、決して許してはおけないと!


 だから、滾る激情を静かに燃やして、彼女は奉じた。


 自らの、魔術へと至る言葉を。


 結局悔しいけれど、その通りなのだ。

 魔術師である私には、これしかない。


 魔術で、語るしかない。


「——マギ・マリ・ディール・マジックキャスト」


 それは、彼女の決意の言葉。


「その言葉を、待ってたのよ」


 目の前の存在を、倒さんという、決意のこもった、言葉だ。


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