君の元へ――意志は揺るがない
けれど、本当に気持ちだけの、無謀とも言える言葉を、認めてしまってもいいのか。
フェリィは、すぐには答えを出せなかった。
数十秒ほどたっただろうか。
折れたのは、フェリィだった。
「…………っはぁ。あなた、そう見えて滅茶苦茶頑固なんだね……。でも、策なんてないんでしょう?」
コクリとうなずきながら「最後に捕まっても、いい」だなんて言ってのけるアイアスにフェリィは天を仰ぐ。
「……わかった。ちょっと待って」
そうしてそのまましばしぶつぶつ言いながら考える。
「……明日」
「……?」
無言で首をかしげるアイアスに、視線を再び合わせると、フェリィはそのまままくしたてる。
「いい? 明日まで待って。明日は創世祭大宵。私なら、多分その日の間だけなら、なんとか監視の目を誤魔化せる。でも、一日だけ。その日の間だけよ。……だから、それまでに私が誰かに話をつけといてあげるから、あなたはその人の転送魔術でマリーの追跡が途絶えたところまで行って。そして、なんとかしてその日の間にあいつを探し出してきなさい。間に合わなかったら……」
コクコクと相槌を打ちながら話を聞いていたアイアスも、彼女の溜めに思わずゴクリと唾を飲む。
「……なんてそんなこと、考えたくもないわね」
フッ、空気が弛緩する。
「話は終わったか? お譲ちゃん」
それを察したかのような、後ろからの監視役の催促に、
「もう終わります!」
と返すと、彼女は立ち上がる。
「……最後に、明後日の合図を決めておきましょうか」
その言葉に、アイアスは一瞬だけ悩んで、すぐにこう言った。
「……パメラライス」
「……え?」
それは、アイアスがマリーと初めて食べた、料理。
彼が初めて、味を知った食べ物。
思い出の、品。
けれど、フェリィはそんなことは知る由もない。
合言葉には少し似つかわしくないその単語に、言外にフェリィがそれでいいの? と聞き返す。
「パメラライスが、いい」
「……おいしいの?」
一聴、見当違いに思えるその疑問に、彼は真剣な顔でうなずいた。
「すっごく」
「……わかった。じゃあ、それで」
その時の彼の顔は、パーツ自体は動いていないように思えた。
けれど、フェリィは、彼のこの顔を無表情とは呼びたくない、そう感じた。
そう感じる、顔だった。
「おーい!」
「はいはいはい!」
外からの催促に、我に返ったように退室しようとするフェリィ。
「……明後日まで、お願いだから、耐えてね」
最後にそれだけ言って、彼女は出て言った。
そして、アイアスは再び元の部屋に戻される。
部屋の扉は閉められ、辺りは再び信じられないほどの静寂に包まれた。
「……静かだ」
……前はこんな静寂、なんてことはなかった。無限にも等しいと思えるような時間を何も考えずに過ごすことなんて、本当に全く、これっぽっちも苦痛ではなかった。
なのにどうしてだろう。今は、こんなにも、胸が苦しい。
――早く、明日になってほしい。
そう、心から願った。




