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自己焼却の魔法使い《セルフファイア・ウィザードリー》  作者: 煉樹
第四章 世界崩壊カウントダウン
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屍人行進——終焉の地へ

 シュヴェスタとシータの目の前には、すでに生死も定かではないただの老人と化したブラウが倒れ伏していた。


 それと呼応するかのように、あたりを蠢く無数の屍人たちが苦しそうな呻き声をあげたかと思うと、端から次々とその肉体を粒子に変えていった。その粒子が風に乗ってシュヴェスタの頬を掠める。

 それを見て、シュヴェスタが愕然としたような声をあげる。


「……おいおいこれは……いや、まさかそんな」


 シュヴェスタは、自らの考えを否定したくて仕方なかった。


 なぜなら。

 シュヴェスタの考えが正しければ、この屍人たちは、すでに死者となった者のさまよえる魂に魔術で肉付けしたものではなく、生者たちの肉体から魔力シカトゥールを奪い去ることで誕生したものということになる。


 ……けれど、そう考えると全ての辻褄があるのもまた、確かだった。


 つまり、彼らは魔法を行うためのキーと、そのために必要であると考えられる膨大な魔力シカトゥールを欲していたのだ。

 そのための、この屍人行進。

 町の人々を屍人に変えることで、膨大な魔力シカトゥールを得、そして、変えた屍人を使い、魔法の鍵であると思われるマリーを探し、連れ去る……。


 実に合理的で、練られた計画。


 この計画があるからこそ、先日の奥の十二席(ステンドグラス)の会議で、彼ら——まず間違いなく、魔術五大家オナー・カードが一つにしてシータの実家である、シメネス家——はマリーに監視をつけることに反対しなかったのだ。

 あそこで変に反対すれば目をつけられる上に、反対しなくても成功する策が、あったのだから。


 そこまで考えたところで、これまでの戦闘を挟まる隙間もなく眺めていたシータの、鬼気迫る声音が響いた。


「……っ! しゅ、シュヴェスタさん!? あれ!」


 その声に、シュヴェスタもシータの指差す方をハッと見やる。


 それは、拘束され、眠らされたマリーの足元。

 地面に横たわるブラウの体。

 ……その、地面に光る、魔術の煌めき。


「……まっさか!」


 慌てて、地をかけるシュヴェスタ。

 彼は、気づいたのだ。

 ブラウが、自らの体に術式を刻むことで、最後の魔術を行使しているということに。

 もう、意識は確実にない。

 だからこそ、シュヴェスタは心底怖かった。

 ブラウのその執念が。


 まさに自らのすべてを賭して行った魔術だ。


 一体彼らはどこまで……いや、どこから考えていた!?

 奥の十二席(ステンドグラス)の十二席が計画に気づき、自らの計画を邪魔するところからだとでもいうのか!?


 シュヴェスタは、恐れを通り越して戦慄を覚えた。


 ——そして、今際の際に、彼が発動させるなら、おそらくその魔術は……。


「間に合え……っっ!!」


 転送魔術に、違いない。


 シュッ


 と、空間が消え失せる軽い音だけが響き。


 目の前にいた、ブラウと、マリーの体が、なくなった。


「——俺は、なぜ守れない……っ!」


 自らの詰めの甘さ。


 いつも痛感する、それ。


 けれど、落ち込んでいる暇はない。

 かの執事の計画が達され、その上マリーがさらわれたというのなら。

 今すぐにでも、その先へと止めに向かわなくてはならない。

 それにはきっと一刻の猶予もない。


「クソッ……どこだ……」


 考えろ。

 やつらが、向かう場所を。

 魔法を行使するであろう場所を。


「「ゼロセラ……」」


 シュヴェスタが答えを出すのと、シータが先ほど聞いたその単語を呟くのは、同時だった。


「さっき、言ってました。……ゼロセラに、すべてがある、って!」


 シータが、のめり込まんような勢いでシュヴェスタに告げる。


「やっぱり、そこになるのか……」


 マリーにとっての因縁であるように。

 そこは、シュヴェスタにもまた、因縁の地。


「……迷うより行動か。……行ってくる。ゼロセラへ」

「ま、待ってくだ、さい!」


 それを止めたのは、シータだった。


「……連れて行って欲しいという頼みなら、ダメだ。君をゼロセラには連れていけない。……危険すぎる」


 何があるのかわからない場所。

 自らの命すら犠牲にすることを厭わない敵。

 それらを考えれば、年長者としては当然の判断だった。


「……確かに、さっき、私は何もできませんでした」


 その言葉に、シータは悔いるように下を向く。

 けれど、すぐに顔を上げて、告げる。

 今、言わなければ。

 いつ言うというのか。

 自らの、気持ちを……っ!


「でも! 私だって、マリーを、助けたい!」


 その言葉を聞いて、しばらく、シュヴェスタはシータを見つめていた。

 彼女のその瞳は、それをそらすことなく見つめていた。


「……わかった。……でも、向こうでは、俺も君を守れるかはわからない。それだけは、肝に命じておいてくれ」


 もちろん、可能な限り守るけれど。

 そう付け足しながらも、シュヴェスタは着々と転移するための魔術を編んでいる。


「覚悟は、できてます」

「ん……いい、返事だ」


 その脅しでもある言葉に、シータは怯えることなく返答する。


 行く先は、ゼロセラ。


 魔法により終わりを告げた戦争の激戦地。

 無限の荒野と化したそこに、魔術師たちが、集う。


 そこは、すべての始まりにして、終わり。


 今、間も無く紐解かれる。

 少年少女と、魔法に導かれし物語の、その終焉が——。


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