創世祭——クヨクヨするなんてらしくない
朝を告げる鐘が鳴る。
今日は祭りの初日。
窓の外からは、人々の笑い声と、明るい音楽が漏れ聞こえ、隠しきれない興奮が空気に乗って伝播してくる。
しかし、そんな外の雰囲気とは対照的に、寝起きのマリーの様子は気怠げだった。
鈍い頭に顔をしかめながら、顔を拭い、無理矢理体を起こす。
「アイアス……」
そして、その名前を呟き、彼がいないことを思い出す。
窓の外を見やると、家の裏手にスーツを着た人間が身をひそめながらこちらをチラチラと見ているのが確認できた。
バレバレ、ではあるけれど、こうしてこちらにその存在を知らせることで逆に行動を抑止しようということだろう。
「……監視、か」
はぁ、と一つ深呼吸ともため息ともつかない息を吐く。
「こんな祭りでにぎわう中で、わざわざ仕事とは、ご苦労様です」
精一杯の嫌味を呟きながら、朝ご飯を食べに向かう。
「どーしよっか……」
もそもそと買ってあったパンを食べる。
これまでは、ただがむしゃらに頑張るだけでよかった。
でも、こうして魔術学校を卒業して、いざ父のことを知りたいとなったときに、自分はどうすればいいのか。
まだマリーにはそれがわからなかった。
けれど、こういう風に考えることもある。……簡単にわかることなら、逆に知りたいとも思わなかったかもしれない、と。
コンコン
思考の海に落ちていたマリーの意識を引き戻したのは、窓ガラスが鳴らされる音だった。
ハッとなってそちらを振り向くと、そこにはなんとシータがいた。
何かをしゃべっているが、口の動きから察するに「入れて」や「開けて」と言った類の言葉だろうか。
そう思い、窓を開ける。
「ふぅ〜。入れた。……ありがと、ね。マリー」
額をグッと拭い、息をつくシータ。
しかし、疑問は残る。
なぜ、窓から来たのか?
そもそも、この家は一階がサンキューさんの菓子店になっているので、このダイニングがあるのは二階だ。
玄関から入れないほどシータは礼節を忘れてしまったのか……?
「……って、ちょっと可哀想な人を見るような目で見るのやめて、よ!」
「いや、でも、実際可哀想な人だし……」
「違う違う違う! これには、事情があって、ね」
慌てて手をブンブン振りながらシータが弁解する。
あまり見ることのできないシータの取り乱した姿に、マリーは、悪いことがあったあとはちゃんと帳尻とってくれるなんて、神様もなかなかやるじゃん、なんて考えていた。
まぁこれで帳尻が取れているかは諸説あるだろうけれど、少なくともマリーの機嫌は少し良くなっていた。
さて、説明を簡単にまとめると、こういうことらしかった。
つまり、シータは今日マリーと一緒に創世祭を見て回ろうと思ったが、マリーに監視がついていたのでその目を欺くため窓から来た、と。
「……ところで、シータは何か偉い人から聞かれたりしなかったの?」
ある程度話を聞いたところで、マリーが問いかける。
純粋な疑問だった。
あの飛行機にはシータも乗っていた。
マリーがこうならシータにも何かあってもおかしくはない。
「……いえ、私は何もなかった、わ……」
少し考えるそぶりを見せながら、シータが答える。
「そっか……それならよかった」
そこでその話は終わりになったが、創世祭に行くということについての話になったところで、マリーは渋い顔をした。
「これじゃ流石に無理だよ……。今年は、大人しくしてる」
窓の外をチラッと見ながらいうマリーに、シータが
「……ねぇ、どうしたの? マリー。……らしくない、よ」
いつもの元気なマリーはどこに行ったのか。
そう言いたげなシータがの言葉に、マリーは「……確かにね」と、漏らす。
けれど、元気を出せというのが少し無理のある話だった。
アイアスは捕縛され、自らもまた監視される状況下。
この先に進む道は見えず、すべきことも漠然として判然としない。
こんな状況なのだから……。
「そういう時だから、よ!」
珍しいシータの大きな声に、驚く。
そして、ハッとする。
「今だから、お祭り、行こう、よ」
まるで、今度は私が励ます番だ。
そう言いたいかのような言葉だった。
「……そうだよね。いつまでも、考えてても仕方ない」
気持ちを入れ替えるために、グッと大きく腕を伸ばして体を伸ばす。
「それに! 私みたいなタイプがグダグダ考えてもいいことないしね!」
食べかけだったパンにかぶり付き、飲み込むとバッと席を立つ。
「行こっか、創世祭」
無理して笑っている。それはわかったけれど、そんなマリーを見たからこそ、シータは笑顔を浮かべながら返した。
「……うん。行こ、マリー」




