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自己焼却の魔法使い《セルフファイア・ウィザードリー》  作者: 煉樹
第三章 魔術総本山 ヴェネト
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最高評議場――胎動する悪意

「まぁまぁ、いいじゃありませんか」


 そんな二人に割って入ったのは、なんと、先ほどまで会議を取り仕切っていた人物である、第一席レデンだった。


「個々人、色々とあるのが奥の十二席(ステンドグラス)、です。……私は、平和が好きだ」


 細められた瞳の奥は、うかがい知れない。


「……それでも、敵対したいと言うのなら、もちろん、止めさせては、もらいますよ」


 ニコリと笑うその顔に、シュヴェスタは一滴の笑みも、返せなかった。


「はは……ご冗談を。あなたと敵対する気なんて、ありませんよ……」


 その返事を聞いて、第一席レデンはようやく剣呑な雰囲気を解く。


「けれど、第二席ウーノルもよくない。……何か知っているのなら、先ほど発言していただかないと」

「ふむ……確かに、確たる情報ではないから黙っておったが、魔術界の一大事に、非協力的とあっては……」


 そこで第二席ウーノルはチラと第一席レデンに視線をやる。


「お主に咎められてしまうからのう……。……まぁ、妾としては、お主と戦ってみると言うのもやぶさかではないが」

「ははは、私は嫌です。第二席ウーノル

「まぁ、お主はそう言う奴じゃ。……しかし、そうじゃのう、では、ヌシに一つだけ、わしの知っていることを教えてやろう」


 そう言って、第二席ウーノルは、シュヴェスタに告げた。


「Fの魔力で世界が終わる、と言う言説があるが……、あれは、噂なんかじゃない」


 それまでの会話と、全く関係なさそうな話題。


「……世迷い言を」

「そんなものではありんせんわ。……なにせ、世界は魔力で危ういバランスの上になりたっているのじゃ。

 それぐらいのこと、ヌシだって、知っておるはずじゃろう?」

「……それぐらいは」

「であれば、先ほどの言葉の意味は、自分で考えるんじゃな」


 シュヴェスタは、奥の十二席(ステンドグラス)の中でも、まだまだ新参者。

 故に、まだまだ魔術について知らないことなど、両手の指では数え切れない。

 空席に人員を補充していくスタイルである奥の十二席(ステンドグラス)にとって、席番はあまり多くの意味を成さないのだ。


「クックック……。少し、気分が良くなってきたわ。

 一つ、と言ったが、もう少し話してやろう」


 そう言って、第二席ウーノルは話を続ける。


「自己焼却。……知っておるな?」

「――っ!」

「第七席の坊やがした、魔法。まぁ、ヌシに対しては、神に説法、と言ったところかのう……」

「それが、一体どうした……っ」


 静かな怒りを込めて、聞く。

 かつてのシュヴェスタの親友・第七席。

 マリーの父親でもある、その人物。

 《《その魔法は、彼の死に関わることだ》》。


「おお、怖い怖い……。じゃが、ヌシは、少し過敏になりすぎじゃ。……もう少し、それについて、ちゃんと調べてみることじゃのう」

「それはどう言う……」


 しかし、その言及を止めたのは、第一席だった。


「……魔法は、魔術師の求むる先にあるもの。探求を、止めることは私にはできません。……しかし、それは、世界と個人を、破滅へ追いやる。……私の前で、これ以上話すのでしたら、止めさせてもらいましょう」


 相変わらず表情のうかがい知れないその顔を再びチラと見て、第二席ウーノルは大きな声で笑う。


「はっはっは! ちと喋りすぎたかのう!

 やはり、Vの血は争えないわ! そう、妾たちは、ただただ世界の喜劇を求めるのみ。……たとえ、それで世界がなくなっても、よ」


 そして、三度、シュヴェスタを見やる。


「……じゃから、ヌシたちだけが何も知らぬと言うのも、少しばかり面白みに欠ける。最後にもう一つ、教えてやろう」

「……まだ、何か?」


「……もうすぐ祭りで、大きな花火が打ち上がる。

 それが、崩壊の始まり。

 世界は大きく色を変え、カウントダウンが始まるわ。

 ……さて、ヌシは、どんな色に咲くのかのう。

 楽しみにしておるわ

 クックック……」


「……待て、それはどういう――!」


 呼び止めに第二席ウーノルは振り返ることすらなく、クツクツと笑いながら、奥の暗がりに消えて行った。

 これ以上は大丈夫だろうと思ったのか、第一席もカツカツと靴音だけを残し、その場を立ち去る。


「……ッックショ!」


 それを見送ったシュヴェスタは、ドン! と憚ることなく拳を壁に打ち付ける。

 顔面には、ドッと汗が吹き出し、荒い呼吸を吐く。


「……俺は、弱ぇ……ッッ!」


 あの場にもし第一席がいなくて、実力行使にでても、確実に、何も得られない……。

 そんな確信を抱かせる第二席ウーノルの圧に、気圧された、無念。


 弱者は、何も、得ることなどできない。

 情報、すら――。


「……あいつには、もっと強くなれ、なんて言ってたくせにこのザマだから笑える」


 そして、キッと前を向く。


「だからせめて、もう少しぐらいは、探らさせてもらうぜ」



 胎動する悪意は、こうしている間にも、蠢いている――。


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