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離陸――ひとつ、聞いていいですか

「帰るわよ」


 陽はちょうど中天に差し掛かる少し前だろうか。

 昨日処理しきれなかった、という作業をシータが終えるのを待ち(手伝いを申し入れたが本人に断られてしまった)、一行は協会の建物を後にするべく通りに立っていた。


「わざわざお見送りなんてありがとうございます。支部長」


 入り口の前に立つ支部長・ルアに礼を述べるシータ。


「いえいえ。世界に百人といない一級魔術師マギステルのお二人が来てくれたのです。これぐらいは当然ですよ」

「まぁ、マリーはまだ成り立てですけど、ね」

「余計なこと言わなくてもいいじゃん……」

「ははは、それでもですよ」


 支部長は柔和な表情で応じてくれる。


「それでは、我々はこれで……」


 と、シータが呼びつけたタクシーに乗り込もうと扉を開ける。


「……支部長さん」


 そこで、声を上げたのは、マリーだった。


「ん?」

「……ひとつ、聞いていいですか」

「なんなりと」

「アルべ・フレッツェについて……なにか、知っていることはありませんか」


 空気が凍った。

 この太陽がカンカンと照りつけ地面すら燃えようかという酷暑の中にあって、その空気は氷点下としか言いようがなかった。

 荒れた大地を吹き抜けていく風の音だけが鳴る中、二人が口を開いたのは同時だった。


「……す」

「……そ」


 再びの、沈黙。

 マリーが言外にそちらからどうぞという仕草をして、やっと空気が溶け始める。


「ンオホン。……その名前は、我々にとってはただの災厄だ。あまり、聞いていて気持ちのいいものではないな」


 それまでの敬語は影を潜め、不快感を露わに吐き捨てるルア。


「それは……百も承知です。だけど……私は……それでも、知りたい。知らなければならないんです……っ」


 その、絞り出すような声に、ルアは目を細めると、


「まぁ、そこまで言うのでしたら……」


 と、いかにも渋々といった雰囲気で語る。


「と、言っても、私が知っていることなどほとんどニュースになってヴェネトにも流れていると思いますがね」


 と、言うと彼はアルべ・フレッツェが禁忌の魔術を行使したシェヘロ戦争と、その終結について語りだした。

 曰く、その場に居合わせた者はほとんど生き残っておらず、詳細は分かっていないものの、結果として戦争の敵味方関わらず大虐殺が起きたこと。いくつもの証拠からそれを行った者がアルべ・フレッツェに他ならないこと。そして――


「結果としちゃ戦争は終わったが人が死に過ぎた……。おかげで今でもこの辺はむちゃくちゃですよ。あの、10thデーと呼ばれる日以来ね」


 そう、締めくくった。


「聞きたいことは聞けたましたかね、お嬢様」


 苦虫をかみつぶしたような顔をしながら、慇懃無礼とすら取れる態度で応じるルアに、マリーは


「ありがとうございます。参考になりました。……気分を害されたなら、申しわけありませんでした。」


 と、毅然とした態度で告げ、会釈を返す。そんなマリーの姿に、ルアも少し大人気なかったかと気にするようにンン……と小さく咳払いした。


「では、失礼します」

「……ええ。お気をつけて」


 そして、先にタクシーに乗っていたシータたちに「ごめん、待ってくれてありがと」と言いながら乗り込む。マリーが扉を閉めると、タクシーは派手に土煙を上げながら、乾いた大地を空港に向かって走り出した。


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