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向き合う――Vに連なる男

 そこまで言ってしまうと、男は本当に言いたいことを言い終えたのか、手を上げてウェイターを呼び止め、「ポテト追加で」などとのんきに頼みだす。


しかし、マリーは動くことが出来ずにいた。彼女の胸中に渦巻くそれは、何だったのだろう。床に向けられたその表情を読み取ることはできない。わかるのは、気付かぬうちに握りしめていた手に刻まれた爪の跡だけ。


「どうしたんだい? 急いでいるんだろう? 私が言いたいことはそれだけだ」

「………………あなたは、何か知っているんですか」


 なんとか、それだけ吐き出す。


「んーー? 何か、とはまた曖昧模糊としているねえ。でも私の体は優しさでできていてね! そんなお嬢さんにも、懇切丁寧に教えてあげよう」


 男は、届けられたポテトをつまみ、それを立ち尽くすマリーに向けながら、言う。


「今君に教えるようなことは、何一つ持ち合わせていない、とね」

「っっっ!」

「はっはっは! そんなに怒らないでくれたまえよ! むしろ親切に忠告してあげたんだ。感謝してほしいぐらいだよまったくねえ」


 そう笑いながら、厚切りでほくほくと揚げられたポテトで大量の真っ赤なケチャップを掬い、ネチャリとかみつく。


「そうだね、でも、尋ねられて何も教えないって言うのは、私の矜持に反する! と言うことで、一つだけ教えるとしよう。私の名だ。

 ……私は、オルト。Vに連なる者。……もし何か縁があったらよろしく頼むよ、マリー・L・フレッツェ君。……いやあ? 今はこう名乗っているんだったかな? マリー・L・フライツェルク、と」


 ピエロのように歪むその顔を、それ以上見ていたくなかった。


「……何も言うことがないのでしたら、これで失礼します」


 最後に、一秒でも早く消え去りたい気持ちをプライドで押しつぶし、なんとかその言葉を口にする。そして、言い終わるが早いか、足早に店を去る。


とにかく気持ち悪かった。体の奥、心臓の周りをなめまわされた気分だった。


 そして、気付いたときには、ベッドの上にいた。

 そこからどう帰ったかも覚えていなかった。もしかしたら協会の建物に入った時に何か声を掛けられたかもしれない。でも、そんなことはどうでもよかった。

 一緒に食事をしていたアイアスのことすら、頭から飛んでいた。

 体を包む、普段よりはるかに硬い寝床だけが、感じられた。


「…………寝よう」


 その日は、泥のように眠った。


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