七色の儚い光
待ち時間は嫌いだ。
大学の入学式なんて特に大事な話などないから。
教授だか先生だかの話なんて、暇な時間でしかない。早く終わって、由奈と大学の講義棟を回りたくてソワソワしている。
そんなことを考えてるうちに、式は終わった。
「由奈どこだろ」
「ここ」
「うわぁっ!」
背後から由奈の声がして、びっくりした。
「可愛いな。 ビックリしすぎじゃない?」
「後ろから来るからだよ。 回ろうか」
「ごめんごめん。 どこから行く?」
「食堂かな」
「ここの大学食堂美味しいらしーよ」
他愛もない話をしながら、歩き回る。
色んな景色を頭に入れながらふと、とある女の子に目がいった。
「ねえ、あの子見たことない?」
「どの子?」
「あの子」
由奈が私の指のさす方を見た。
「ほんとだ、どっかで見たことあるかも」
「高校同じだったのかな?」
「うーん、どうなんだろう」
由奈は気にしいなところがある。
気にしだすと止まらないのだ。
ふとその子が振り返った。
やはり思い過ごしではない。
必ず会ったことがある。
謎めいた確信をもっていた。
プライベートで2人とも会ったことのある人なんて本当に限られている。
記憶を辿るけど分からずじまいだった。
その日は由奈のお家で、ご飯をいただく予定だ。
「だいたいマップは頭に入ったかな?」
尋ねてみた。
「そだね。 もう帰ってもいんだよね?」
「うん。 楽しみだな。 由奈のお母さんのお料理」
「そんな期待しないでよ。 普通だから」
「それはそうとあの子誰だったんだろ」
やはり気になり口に出してしまう。
「気にしてんねー。 珍しい。」
「会ったことある気がするんだよね」
この謎めいた確信はどうやら確固たるものらしい。
人違いとは思えなかった。
少し疑問符を残しながら由奈の家に到着する。
「お邪魔します」
「ただいま」
「いらっしゃい、美緒ちゃん。 おかえり、由奈」
由奈のお母さんが笑顔で迎えてくれた。
柔らかい雰囲気だが、それでいてかなりしっかりしたお母さんだ。
由奈が、しっかり者に育ったのは間違いなくお母さんの影響だろう。
「ごめんね、美緒ちゃん。 大したもの作れなくて。 それに夫もいないし」
「いや、結構大したものばっかりですよ。 お父さんはお仕事ですか?」
「最近忙しいらしいよ?」
少し会ったことのあるお父さんはかなりの仕事師だった。
あまり由奈には仕事の話をしないらしい。
「頑張ってくれてるからね、責められないわ」
由奈のお母さんの曇りのない笑顔に、お父さんへの愛を感じた。
中村家はかなり仲良し夫婦、仲良し親子といったイメージだ。
物腰柔らかなお母さん、おっちょこちょいだが、仕事師のお父さん、2人を足して2で割ったとしか思えない由奈。単純に羨ましかった。
「美緒? どした? 遠い世界に旅に出てるの?」
由奈に声をかけられ我に返る。
「ごめんごめん、ボケっとしてた」
由奈のお母さん特製の唐揚げを頬張った。
「美味しー。 美味しすぎる」
「ありがとうね。 たくさん食べてね」
「ありがとうございます!」
「そう言えば大学はどうだった? かっこいい男の子いた?」
母として気になるところなのだろう。
「だだっ広い感じかな?」
かっこいい男の子の下りはスルーだ。
「そうなの? あんまり大きくないって聞いたけど」
スルーすらスルーするお母さん。
下手なダジャレの完成だ。
「結構広い感じしましたね」
「何はともあれ楽しいキャンパスライフの始まりね。 若いっていいわねー」
「やめてよお母さん。 恥ずかしい」
三人で笑い合い、ご飯をいただいた。
ご飯をいただき、家へ帰る電車の中でふと思った。
美神くんは、元気だろうか。
噂では隣の県の大学にいったようだ。
寂しさは隠せないが、由奈がいてくれることに感謝していた。
酸味強め、辛味入り、苦味たっぷり、甘さ控えめの恋愛はまだ終わりそうにない。
虹色のキャンパスライフ。
美しいはずの大学生活。
そこに彼はいない。
そっと夜空を見上げる。
彼もこの空を見ている気がした。