緊急依頼と対面
体調悪め
「君に指名で緊急依頼を受けてもらいたい」
ほらやっぱり面倒ごとだ。
「君には指名で緊急依頼を受けてもらいたい」
副長は受け取れと言って一枚の紙を差し出してくる。
そもそも緊急依頼は何か他に重要な用事がない限り断れない。しかも指名でって事は相当急ぎらしいな。
「この街の領主の邸宅に保管されてあった呪いの武器が奪われた。犯人は冒険者のCランクの男だ。詳細はそっちの紙に書いてある。依頼の達成条件は呪いの武器の奪還及び、犯人の捕縛または殺害だ。
本来あそこには厳重な封魔の印が施されていた筈だが、何者かがそれを解いた。恐らくそっち方面に詳しい奴が協力して解いた可能性が高い。野郎は現在キャクロ山を逃走中だ」
キャクロ山とはこの街の外側をグルリと囲む3つの連なる山の1つだ。
(ん?所々おかしいな)
副長の話に疑問が浮かぶ。こう言うところで質問には遠慮はしない。俺の生死に関わるからな。
「質問よろしいでしょうか?」
「なんだ」
「なぜ犯人がわかっているのですか?それとなぜこの様な依頼を裏の方へ頼むのでしょうか?普通そっちの依頼なら表のギルドへの依頼ではないのですか?あと呪いの武器の詳細を願います」
「犯行を他人に見られた。犯行を犯した犯人が貴族のお偉方の親戚で公にしたくないからこっちに頼んだ。簡単な話だ。
それと呪いの武器はA等級の怨輪の呪槍と言う厄介な武器だ。危険すぎて扱えず、かと言って保管も難しいため厳重な封魔の印が施されている詰所に保管されていた。形状は群青色の指輪なのだが、持ち主の意思を惑わし、凶化状態にして形状を槍に変化させる。後は暴れるだけだな。前の持ち主はDランクの冒険者が誤って装備し、Bランクの冒険者達が寄ってたかってなんとか潰したらしい。」
なんだか不安になってきた。冒険者のBランクと言えば、俺と同じくらいの強さだ。俺が複数人いてやっと潰せる計算になる。まあ元々表の連中とは戦い方が真っ向から違うからやりようもない訳じゃないが、と言ってまた疑問が残る。
「この任務は私1人でやるのですか?私では少々役不足ではないのでしょうか?そもそも本来この様な任務は上のランクの方の役割だと思うのですが…」
「本来はそうなんだが、今はチョイとばかり間が悪いね。受付のマイティが行った視察の件は知ってるかな?あそこでスタンビートの予兆が出ていてね。これまた本来ならば表ギルドの連中や衛兵達がやるのだが、今は聖騎士祭の準備で忙しい。そしてスタンビートがあるとして彼等が大々的に動くと危険を疑われて各国の王やその側近が来れなくなる可能性がある。そうなるとこの街の経済が停滞してしまってね。今回は裏に任せてしまおうという魂胆さ。今はギルド長含めて多くのギルド員が出かけてるよ。俺はお留守番だけど」
流石にギルドの2トップがいなくなるのはまずいから副長はここにいるのか。にしてもすごいな、ここまで間が悪いのは初めてだ。いろんな要因がこんがらがって今回の依頼が出ている。
「忘れてた。今回の依頼を受けてもらうメンバーは君だけじゃないよ。運良く?街にいたヴァルカンにも頼んだから。今彼は依頼で新人を教えてたからその子も見学がてら来るかもね」
あぁ、ヴァルカンの野郎も来るのか。なら安心して任せられるな。だがあいつ新人に教えを請われてたのか。強面のあいつが新人にビビられてるのが目に浮かぶな。
「じゃあ確認なんだけど、この任務受けてくれるかい?」
副長はそう言って俺の返答を待っている。
もうとっくに答えなんか決まっている
「わかりました。お受けします」
話がトントン拍子で進むとヴァルカン顔合わせだけしてから行けという事らしいので、そのままフロントに降りた。ヴァルカンはレストラン街で夕食を取っているらしいので身なりの格好だけ整えてから外に出る。だいたい何処にいるかは見当がついているので歩みに乱れはない。【小鳥の休息】という看板の掛かっている宿を見つけて遠慮なくはいる。カランカランと扉を開けると元気な声が聞こえて来る。
「いらっしゃ!ちょっと待ってねー」
独特な掛け声で忙しくホールを駆けずり回っている少女がいる。言葉通り少し待つと用事が終わったのかこちらへ近づいて来る。
「あ、珍しいお客さんですね。席はカウンターでよろしいですか?」
「いや、ヴァルカンの野郎に用事があってな。奴はいるか?」
「ちょっと待ってね!」
店内を素早く見渡し、座席の確認をする
「ん。オッケーだね。じゃあ案内するよ」
そう言って彼女の案内について行く。ガヤガヤとごった返す店内には大柄な男が多い。それもそのはず、ここは裏の人間が使える数少ないレストランだからだ。通常裏の人間は犯罪者や奴隷崩れが多く、普通の店で食事してもし衛兵にバレたら牢屋にぶち込まれることが多い。だから裏に精通してる店に行くしかなくなる。
そうこうしてるうちにようやくヴァルカンの姿を目にする。あいつの大剣は馬鹿でかくて見つけやすい。
「お、ようやく来たか。今日は来ないんじゃないかと思ったぞ」
「悪い、待たせたか?」
「いんや、飯食ってたからそんなに待ってないぞ」
見た所そうみたいだ。隣に少女がちょこんと座っている。こういう場所は慣れていないのか、少したどたどしい。ん?こいつどっかで見た気が…
「ああ、シロは初対面か。こいつはEの46番だ。」
「は、初めまして。よろしくお願いします!」
思い出した、前に俺のこと見て来た奴だ。そうかこいつがヴァルカンの下で働く新人か。にしても懐かしいな。新人はDランクにならないと名前が貰えないからな。
「よろしくな。俺はシロだ」
「お会いできて光栄です!よろしくお願いします!」
なんかキラキラしてした目で見て来るんだが…それにこいつ貴族か?妙に小綺麗な姿勢と動作なんだが。
「じゃあ依頼について話し合おうか」
夜はまだまだこれからだ。