面倒ごとの気配
閑話です。だから短め
彼らが気付いた時にはもう日が暮れ始めていた。どうやら相当な時間打ち合っていたらしい。ダラダラと流れる汗を拭いて川の水を飲む。
(うん、美味しい。やっぱり運動の後の水はなんでか美味しい)
彼女は水分補給をしつつ汗を拭いていた。変異種の特徴として彼女の肌は全面的に黒い。まるで僕とは対象的だ。
「今日は久しぶりに身になる訓練だったよ、じゃあまた週末にね」
「モットシュギョウシトク。ツギコソハツブス」
「あはは、じゃあ次はもっと強くならないとね」
軽口を叩きながらお互いに笑い合う。
「ジャアナ」
「またね」
そう言って彼女は去って行った。おそらく住処である山の頂上付近に戻ったのだろう。
(これからもっとあいつも強くなる。今日の修行で防げた攻撃も少なくなかった。あいつだって成長してるんだ。だから俺も負けないくらい頑張らないとな)
そう心の中で意気込んでから腰につけた仮面を再度顔に着けた。そして岩の上に放り出したローブを羽織り、また街へと戻って行く。帰りは索敵の練習も兼ねて歩いて帰る。歩いてる時に出来なきゃ走ってやるのは無理だ。基礎は怠ると必ず自分に良くない結果になるからな。
走行している内に朝出て行った門の前まで来る。そのまま中に入ろうとすると中のいつもの門番が珍しく話しかけてくる。
「シロ様、今お時間宜しいでしょうか?」
「何かようですか?」
「帰ってきたらギルドの方に顔を出すようにとお声がかかっております。」
「内容は?」
「私からは特に…」
「そうですか、ではこれから伺います。」
「お願いしますね、確かにお伝えしましたから」
そう言って門番はまた仕事に戻る。
(にしてもギルドから出頭命令?何かやらかした覚えは無いんだが…もしかして対象を間違えてヤったとか?可能性は低いな。情報と相手は合致してたし。なら依頼か?それなら筋は通るな。なんにしろ行ってみないと)
戻ったらヘッパの武器屋に行って防具類を受け取ろうと思っていたのだが、予定を変更してギルドに向かう。幾らかの歩いてるギルドのロビーに入るといつもの様に喧騒が広がっている。だが少し変だ。何時もより人が少ないか?本来聞こえてくる喧騒がいつにもまして静かだった。
少し不思議には思ったものの、そのまま受付のカウンターの所まで進む。
「あの、ギルドの方に顔を出す様にと言われてきたのですが」
「シロ様でしたか。お待ちしておりました。どうぞ中へ」
マイティはまだ外出中なのか、またシャロさんが受付をしてくれる。そのままカウンターの中に入ってある部屋に案内される。だいたいギルド職員が受付の奥に人を通す時は面倒ごとと相場が決まっている。
珍しく二階に上がらせてもらった。普通の裏ギルド人間や裏ギルドの限られた人しか来れない場所だ。だいたいお上の人が使うへやしかない。そのある部屋の一室まで行き、コンコンとノックをしてシャロさんが失礼します。といって入室すると、中には副ギルド長が座って書類整理をしていた。俺も続けて
「失礼します。シロ、命令を受けて出頭しました。何か御用でしょうか?」
と言って姿勢を正す。副長と言えばこの街の裏ギルドのNo.2だ。ランクもギルド長と同じくAだから下手に怒らせるとそこいらの政治家や貴族なんかより恐ろしい。
「おぉ、お疲れのところ悪いね。君を呼んだのは他でも無いんだ」
そして続ける。嫌な予感がする。でも副長の命令は逆らえない。
「君に指名で緊急依頼を受けてもらいたい」
ほらやっぱり面倒ごとだ。