今日は厄日?
ちょっと疲れた
辺境都市 デュランダル
この街は周囲を木々に囲まれた中にそびえ立っている。正門から続く道にはしっかりと交通の便が立つような設計にされており、周りの木々は天然の要塞のようにも見える。もちろん外壁も3メートルの高さでそびえ立っている。街の後方はは大きな山があり、天然の鉱石が発掘されてから多くの人が集まって来た。かつて此処には魔王を倒した勇者の1人である騎士デュランダルがここの自然に心を奪われ、この街に住みはじめたからこの名がつけられたとされている。
僕は裏ギルドを出てからまずは専門の鍛冶屋に向かう。この前の依頼の護衛がなかなかの手練れであったため、愛用の双剣の刀身が曲がってしまった。他にも投げナイフなんかの補充もしなければ。
そんなことを考えながら目当ての店に着くとそのままノックを入る。
「らっしゃい…お、やっとお戻りかね」
迎えてくれたのは鍛冶師のドワーフであった。身長が僕と同じくらいなのに筋肉のつき方がまるで違う。昔は海賊の船長をやっていたらしい。
部屋の中はなかなかに広く、所狭しと武器や防具などが陳列されている。そのままそのドワーフの下へと足を運ぶ。
「久しぶり、ヘッパ。さっそくで悪いんだけど修理お願いできる?」
「あたぼうよ。シロの武器の修理なら喜んで」
「じゃあまずは…」
そのままダメになった装備をカウンターの横にあるテーブルに置く。ガチャガチャと音を立てて武器と防具を置いていくとヘッパは慣れた手つきで色々と点検し、顔をしかめる。
「この双剣はもうダメだな」
「あ、やっぱり?」
「かなり無茶な使い方しただろう?刀身がバカになってる。折れ曲がっては戻してを繰り返してるんだ。こりゃあもう無理かな。戻すのはできないかともないが、1回でも剣に当たったら砕けるぞ。」
「これけっこう長く使ってたからお気に入りなんだけどな」
これはマイティから贈られた双剣で、ギルドに入団してから使っているものだ。かなり愛着があるのだが、とうとう寿命が来たらしい。
「こんな感じの双剣ってここにあったっけ?」
「なかなかの業物だからな、替えはそう簡単には見つからんだろ。」
「そっか…いっそ呪われた武器にでも頼ろうかな。」
そう言った瞬間にヘッパの顔付きが変わる。
「シロ…それ本気か?」
「冗談だって。流石にそんなバカはしないよ」
「ふん、俺は冗談が嫌いなんだ。次言ったらこの店には入れねえからな」
「…ごめんなさい」
本気で怒られた。怖かった。やはり裏の人だけあって雰囲気が段違いだ。
「わかりゃあいいんだよ」
そのまま他の防具も流れで見ていく。
「シロよ、とりあえず一通り見た結果だが」
「うん」
「全部買い換えだな」
「…本当?」
「ああ。理由はお前もわかるだろうが、ナイフは使い捨てだから買い換え。防具はサイズが合ってないだろ?少し体が成長してるな。ところどころ変になってる。武器は論外だ。あんなの持たせるなら家庭包丁もたせた方がまだいい。」
「じゃあ今日は投げナイフの補充だけかな。」
「他の獲物が見つかるまでこの片手剣持っていきな」
「え、いいの?」
「流石に路地裏で投げナイフだけはキツイだろ。いくら人が来ないとはいえ。なに、お前でも振れるやつだから」
「じゃあありがたくいただきます」
そう言って受け取るとなんとも言えない片手剣が出て来た。確かにサイズは小さいから僕でも振れるけど形が歪。なんで刀身が2個付いてるのかが不思議でしょうがない。
「…なにこれ?」
「試作してる剣だ。東国の武器らしい。感想を聞かせてくれ」
「まあいいけどさ」
流石に貰い物にケチはつけられない。でもこの変な形は慣れるの難しいだろうな
「じゃあ最後に体の測定して終わるか」
「は!?」
「防具作るのに正確な数字知らないと困るだろ?」
「いやいやだけどさ!」
「諦めてあたしに計られな!」
そう言ってヘッパは俺に襲いかかって来た。それも上気した頬にだらしない顔で。ヘッパは測定という大義名分の元、俺の体を弄り尽くす。それと同時に過剰なスキンシップが繰り出される。よほど我慢していたのだろうか。
ヘッパの仕事は確かなんだが、たまにこうやって絡んでくる。自分が楽しんでいるに違いない
「シロー!やっぱお前は可愛いな!もうこれはあたいのもんだ。誰にもやらんぞ!」
これが裏の鍛冶屋ヘッパの実態である。今の風景を他人が見たらドン引きだろう。やる方はいいのかも知れないが、やられる方はたまったもんじゃない。
はぁー…と深いため息をついてこれも防具の為と自分に言い聞かせる。
今日は厄日かも知れない。
意図的に主人公の一人称を変えています。お気づきでしたか?