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僕の人生を妻に捧ぐ

作者: 川坊主

 僕の妻は、2年後に事故死するんです。

 何故、僕がこんな事を断言できると思いますか?

 それは、僕にタイムリープの力があり、何度も同じ時間を過ごしているからです。

 ああ、タイムリープというのは、僕の記憶だけを過去の僕に移動させる能力のことです。

 過去に戻った後の残された肉体がどうなるかはわかりませんし、興味がありません。

 まあ、信じられないでしょうね。

 方法ですか?

 簡単ですよ。

 僕が写っている写真か僕が撮影した写真を僕自身が破くだけです。

 そうするとその写真が撮影された時に戻れるんです。

 今ですか?

 いちいち数えてませんよ回数なんか。

 たぶん、100回は超えてると思いますけどね。

 何回も同じ時間を過ごすことに苦痛は感じません。

 だって、僕は妻を愛していて、妻といつまでも一緒にいたいんですから。


 当然の疑問ですね。

 未来の妻の事故死を知っているのに、それを阻止しない理由。

 簡単な事ですよ。

 阻止できないんです。

 僕が何をしても死ぬまでの行程が変わるだけで、妻は必ず同じ時間に事故で死んでしまう。


 ええ、僕も同じ事を考えました。

 目先のことではなく、もっと昔に戻って事故の原因となるものを徹底的に排除すれば、妻は助かるのではないか?

 どんどん過去に戻り、何回も何回も妻の人生を変えました。

 ても、ダメだったんです。


 いいえ、妻が死なない未来もあったんですよ。

 でも、その妻は僕の妻ではないんです。

 僕と出会わず、進藤と結婚した時だけ死なないんです。

 でもね、それに何の意味があるんですか?

 僕と妻が出会わない。

 妻がいない僕の人生。

 そんなのは、僕の中で妻が死んでしまった人生と何も違わない!

 妻の居ない人生なんか僕には考えられない。

 だから、僕は妻を救う事を諦めたんです。


 救う事を諦めたのにタイムリープをする理由ですか?

 さっきも言いましたよね?

 妻のいない人生は考えられない。

 僕は、妻との幸せな生活を何度も繰り返すことにしたんです。

 出会いから別れの直前まで。

 どんな影響が出るかわかりませんから、毎回同じ生活をします。

 何1つ変えることなく繰り返すんです。


 でも、今回は……今回だけは失敗してしまったんです。

 今回は、未来から来る時から何か変だった。

 今まで繰り返した時間では、起きなかったことが起きたんですよ。

 過去に戻る瞬間を進藤に見られたんです。

 そのことが戻って来た時の精神に影響があったのかもしれません。

 今まで繰り返した時間と違うところがあるとすれば、精神状態だけです。

 進藤の行動の変化?

 わかりません。

 進藤のことなんか気にしていなかったので、行動に違いがあっても気付きませんでしたし、戻って来る前の行動が過去に影響があるとも思えません。

 でも、何が原因かは詳しくわかりませんが、僕のタイムリープは今回で失敗してしまった。

 それだけは確かです。

 だって、僕の住んでたアパートが全焼してしまったんですから……。

 それの何が失敗かって?

 燃えちゃったんですよ。

 写真が全部。

 失敗ですよ。

 もう昔の写真はないんですよ!

 今から写真をとっても、今より前には戻れない。

 妻との時間が、妻との時間が……完璧ではなくなってしまった!

 だから、だから僕は……火事の原因を作った進藤を……殺したんです……。


 「どうですか?」

 「どうもこうもねえよ……。頭が痛くなってきた。一貫して意味不明な供述だよ。」

 ベテラン刑事の作った書類を読み、若手刑事も溜息を吐く。

 「本当に意味不明ですね。未婚なのに妻がどうとか。」

 「で、こいつの言う妻は本当に居たのか?」

 必要なことをさっさと報告しろと言わんばかりに若手を促す。

 「ええ、確かにこいつの生活圏に同姓同名の女性はいました。でも、学生時代に通学のために使用していた電車が同じだけで直接の接点はありません。相手からも面識がないと言われました。」

 ベテラン刑事は頭を掻き毟る。

 「本当に未来の妻か、ストーカーの妄言か……。」

 報告後に再び書類を読んでいた若手が言い忘れたことを思い出したのか勢いよく顔を上げた。

 「そういえば、事件の原因という火災も不思議なんですよ。進藤が購入した油が帰宅中に漏れ始めてしまい、それに気付かなかった進藤はそのまま油の道を自宅アパートまで作ってしまった。そして、そこに別の通行人がポイ捨てしたタバコが触れてしまい、炎が一気にアパートまで進行し、アパートが全焼。放火にしては着火方法が不確かすぎたために事故として処理されていました。」

 火事の真相も気にはなるが、進藤は殺されてしまった。

 そのため、火事の真相は永遠にわからない。

 「火災は事実。だが、他の部分は意味不明……。」

 どうやって落としたものかとベテラン刑事が思案にくれていると、若手が間の抜けた声をあげた。

 「何だよ?」

 「あっ、事件には関係ないんですけどね。こいつの言う妻、今回は助かるかもしれないですね。」

 「何でだよ?」

 「だって、今回は妻と知り合ってないし、結婚できそうにないじゃないですか!」

 若手はさも凄いことに気付いたとばかりに目を輝かせている。

 本当に関係ないし、どうでもいい。

 そうは思ったが、ベテラン刑事もふと気付いた。

 今回妻が助かるとしたら、助かった時の状況と同様に助かるキッカケとなったのは同じ進藤であることに。

 ベテラン刑事は馬鹿なことを考えたと言わんばかりに頭を振ると、喫煙所に向かった。

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