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!本日2話目の投稿です!

 

「さて、大変お待たせいたしました。それでは参りましょうか」


 中佐と呼ばれた男はほんわかとした笑顔でこちらを振り返った。


「あの、参りましょうと言われても...それにあなたは」


「さあ、お話は道中お伺いいたします。準備に手間取ってしまいましてねえ。なんせ、頭の固い阿呆な管理官がこちらに報告を寄越さないとは夢にも思わなかったものですから。尾行して正解でした。彼は明日にはいなくなっていることでしょう」


 とても穏やかで人の良さげな笑顔を浮かべているが言葉がかなり刺々しく吐き出されている。そうとうあの管理官が頭に来ているらしかった。...じゃ、なく。


「昨日の人...ですよね」


アレクサンダーが様子見する山猫になっている。


「おや、覚えていてくれたんですか?嬉しいですねえ」


 宿で最後に見せたような朗らかな笑顔で心底嬉しそうにそう宣った。むしろ、どうして忘れられようか。


「この状況は一体どういうことなんだ...あー、違うどういうことなんですか!」


「どうと言われましてもねえ。偶然の再会ですよ」


「いや、できすぎでしょう...」


 アレクサンダーが思わず突っ込んだが中佐はどこ吹く風だ。


「いやあ、ワタシも驚いているんですがね。これが本当に偶然なんですよ。ワタシは殿下のご指示で転変の巫術師を探していたのですが、役所や宮城内では曖昧な情報しかなくて、最終手段として顔馴染みであるあのレストランを訪れていたのですよ。あそこなら、下手な情報屋よりも価値ある情報を拾えますからねえ。君たちに声を掛けたときは面白そうな3人組がいるなと思っただけです。まあ、近づいてみて初めて世界王者がいることに気づいたんですけどね」


 この中で世界王者なんて呼ばれるのは1人しかいない。


「え、オレ?何でご存じなんですか」


「武人ですから」


「あ、そうですか...」


 にっこり微笑まれてそれ以上訊けない。


「昨日は外へ出てから、宿のご主人にワタシが探している転変の巫術師と神選の剣士一行は君たちだと教えられましてねえ。先程の保護調査課の官吏の中にもあのレストランの常連がいまして、前回巫術師殿に宿をお教えした者が主人に伝えていたそうです。大変な重荷を背負っている女の子がいるから、一時的にでも心から休まるようにくれぐれもよろしく、と」


「それは知りませんでした」


「昨日もお話しした通り、あのご主人は元宮廷料理人で王族の信頼も非常に厚かった。野に下りられた今でも役所や宮廷にはパイプがあります。従業員には定年、あるいは役所に嫌気がさしてやめた文武問わぬ元官吏が多数いますし、あの方は状況によっては王の権力にも立ち向かう気概のある方ですから、あらゆる意味で王都内で最も安全な宿ですよ」


 想像以上にすごい宿だった。あの宿とレストランがどうしてあんなにお手頃価格なのかますます分からない。


「さて、着きましたよ」


「着きましたよ、って」


 中佐に案内されるがままに着いてきたが、気付けば目の前には壮麗な装飾の、厚そうな扉が聳え立っているし、辺りにはほとんど人気がなく、ちらほらと見えるのは衛兵くらいだ。


「こちらは殿下の応接間です」


「......はい?」


 俺達は3人揃ってポカンと間抜け面を晒しているに違いない。


「え、あの、殿下の応接間って...え?」


「何がどうしてこんなところに通されてんだよ!じゃ、なかった、通されたんですか俺達は!?」


「ふ、2人とも、ちょっと落ち着こう。な?深呼吸だ深呼吸」


「落ち着いてどうなる!」


「皆さんお若いですねえ」


 まるで親のような顔で笑ってるがあんたのせいだ。それに若い云々の前に、いろいろとまずくないのか。俺達はなんの手続きもしていないしもちろん王族にお目通りだなんて考えてもいなかったから心の準備はもちろん、身なりだって平服だし、俺なんて剣も佩いたままだ。


「それじゃ、入りますよ」


 友達の家を訪ねるような気楽さで中佐が扉を開いた。そういえば殿下ってどの殿下だ。王子王女もその他の王族もほとんどは敬称が殿下だ。


「殿下、お連れしましたよ」


「遅かったな。阿呆な官吏でもいたか?」


「ええ、まあ」


「それにしてもお前は、入るときはノックくらいしろと何度言えばわかる」


「おや、殿下はノックしないとまずいようなことでもなされていらしたのですか」


「はあ...もう良い」


 苦笑ぎみにそう告げたのは少し癖のある金髪を若者らしく遊ばせた、榛色の瞳と健康的な褐色の肌の青年。聞いた話ではその特徴を持つのは一人。

 ーーこの国の王太子だった。


「初めまして、だな。王太子、なんてものにおさまっている、アルフ...」


「殿下。いくらなんでもそれは良くありません。ただでさえ唐突に招いているのですから、もう少し気遣いができないものですか」


 突然中佐に止められた王太子殿下はキョトンと瞬きした。


「人と会ったらまず自分から名乗るのが礼儀だと言ったのはお前だろう」


「それは町中でお忍び中の話ですよ。城の中で応接間とは言え突然王族に目通りされて、あげく先に名乗られたとあっては、平民にとってはとんでもない精神的攻撃ですよ」


「そんなものか...?」


 あんたが今さら礼儀とか平民の精神がとか言うな、と言ってやりたいが相手は中佐、しかも王太子の目の前でそれはできない。


「そんなものです。この者達の発言をお許しください」


「許そう。お前達名は?」


 想像よりも緩い主従に何とも言えない気分になりながら口を開く。


「ハウトより参りました、ヴィクトリア・ポラリスと申します」


「アコーダより参りました、レイモンド・アークトゥルスと申します」


「同じく、アレクサンダー・シールズと申します」


「ヴィクトリアにレイモンド、アレクサンダーだな。これからよろしく頼む。では、あらためて。オレはアルフレッド。今のところ、第1王子で王太子だ」


 ちなみに、と王太子は中佐に目を向ける。


「そいつはセオドア・ウェークフィールド中佐。王太子直属の親衛隊に所属している」


 俺達は目を瞠った。中佐というだけでも(俺達平民から見れば)なかなか高位の武官なのに、そのうえ親衛隊とは。


「そんなに見つめられると照れますねえ」


「照れるな気色悪い」


 王太子の冷めた視線も笑顔で流す中佐。なんだかあまり主従という感じがしない。


「雰囲気が緩くて驚いただろう。公式な場であればまた違うが、日常会話などこんなものだ」


 王太子は笑っているが、こっちにとっては笑い事じゃない。というか居心地悪いことこの上ない。


「殿下。あまり遊んでいないで本題に入ったらどうです」


「ああ。...レイモンド」


「はい」


 王太子は先程までのおどけた雰囲気を消して真剣な面持ちで俺の名を呼んだ。ちらりと腰の剣を見る。


「単刀直入に訊こう。転変の巫術師と共にいるということは神選の剣士として、巡礼の旅に出てくれる、ということで良いのだな?」


「はい」


「よし。ならばこの旅券を持って行け。身分証と一体になっていてオレと陛下の裏書きがしてある。国としては神選の剣士の要請とあらば可能な限り応えるし、他国でも支援が受けられるよう用意したものだ」


 王太子の言葉に俺達は声をなくした。中佐が俺に旅券を受け取らせる。

 なんでそんなもの簡単に渡すんだ。旅に出るのかと訊かれたからはいと答えた。たったそれだけで国の支援が受けられるような旅券を渡すのは危険じゃないのか。


「不満そうな顔だな」


「い、いえ。まさか」


「なら、不審か。だがな、オレは仮にも王太子だ。それにどれだけの力があるかはお前達などよりずっと知っている。簡単に渡すわけなかろうが」


 どう答えて良いのか考えあぐねた俺に王太子は笑う。


「セオドアに門番からお前達の情報は提供させた。あまり知られていないが、小さな町や村の長が発行する旅券にはその長から見た旅券の持ち主の素行についての見解も記録されているんでな」


 俺達は驚きすぎてもう何も反応出来なかった。旅券にそんな機能があったのか。


「レイモンド。お前は神託や運命が嫌いならしいな。あのアコーダの出身でそれとは面白い。よく神選の剣士をやる気になったものだと思ったが、保護調査課の記録を見て納得した。お前が神選の剣士にならなければ村が死ぬ、そう脅されているみたいだな」


 長老、そんなことまで記録してんのかよ。王太子は面白いと言ったがそれで俺を見下すようなことはせず、むしろ心配するような表情を見せた。


「そんな中で旅に出ることを決めてくれたこと、心より感謝する。記録の日時とヴィクトリアの入出門記録から考えて、かなり迅速な判断をしてくれたようだな。こちらで調べた限りでは世界に関わる神託については、過去の記録と見比べると恐らくまだ猶予があるはずだ。まずはお前の故郷について解決してくると良い。遺跡に関しては陛下に勅命をいただけるよう交渉中だが、明日には許可を出せるはずだ。もう少しだけ待っていてくれ」


 彼は目線をヴィクトリアに動かした。


「ヴィクトリア。神託があってからここまででもさぞ大変な思いをしたことだろう。町の神官達とも結構なやり取りがあったはずだ。そのうえ、初めの対応があんな管理官ですまなかった。レイモンドを見つけ出してくれて、本当にありがとう。どうか、今後もよろしく頼む」


 そう言って王太子は立ち上がると田舎の平民二人に頭を下げた。

 俺達がポカンとしている間に彼は頭を上げるとアレクサンダーを見た。


「君は...先日の武闘大会の優勝者だな。あの試合はオレも間近で見ていて鳥肌がたった。とても楽しかった。まさか会えるとは、柄になくかなり嬉しい。嬉しいのだが、レイモンドと同郷だというのは良いとして、君は、その...」


 なぜここにいるのか分からない、と殿下の顔に書いてあった。

 そこで先程の管理官にした説明を繰り返すと大きく頷いた。


「なるほど。確かに旅慣れた者が同行するほうが安心できるな。では、君の分も旅券を用意しよう」


 これでいいのだろうか。王太子本人は悪い人には見えないし、どことなく嬉しそうなので良いということにするしかない。


「それで、もしよければ、王都にいる間は城に滞在しないか?」


 なんとか王太子の押し付けを受け入れた直後だったのに、またとんでもない押し付けがきた。いくらなんでも俺達の心はキャパオーバーしている。


「殿下。いい加減にしてください。あなたはまだ立場というものを理解できていないようですね」


「っ、セオドア?」


「ご覧なさい。3人とも放心状態ではありませんか。お三方はワタシが宿までお送りします。あなたは反省文でも書いていてください」


「おいこら、セオドア!」


「却下」


 まるで子供のように王太子をいなす中佐につれられて御前を退出したあと、気付けば城門まで戻って来ていた。


「殿下がどうもすみませんねえ。昔のわがまま傲慢坊っちゃんから比べればだいぶんましになってきてはいるのですが。身分を笠に着るなと教え込んだら今度は身分をまるっと無視するようになってしまいまして」


 困ったように笑っているが、一国の王子がそれでは困ったではすまないだろうに。


「公式の場では陛下の真似をして凌いでいますから、あともう少しなのでしょうけれど。殿下に悪気はありませんから、許して差し上げてください」


 許さないとは言えないだろう。

 気疲れでへとへとになってしまったので言い返す気力も涌かないが。


「あぁっ!」


 突然アレクサンダーが大声を出して中佐を指差した。


「んだよ、ザン。つーか指差すなよ」


「思い出した!決勝戦の日、王太子殿下の護衛してた人だ!」


 中佐は困ったように笑い聞き返した。


「殿下の護衛がなんですか?」


「この前の武闘大会で決勝戦を殿下が見学されていたとき、中佐が護衛していらっしゃいましたよね」


「...ワタシですか?」


「はい。気配が異常なまでに薄くて印象にもほとんど残らなかったからすぐには分かりませんでしたが、今日の殿下のお話の最中、基本的に空気のごとく気配を消されていましたね?あの消し方は決勝戦の日の護衛の方と全く同じです。うっすらと記憶している背格好とも合います」


 アレクサンダーがスッキリした!とでも言うようにそう述べると中佐は額に手を当てた。


「まさかあれに気付かれるとは思いませんでしたよ。正解です。確かにワタシは決勝戦をご観覧なさる殿下の護衛をしていました。本気で気配を消していたのに、試合中にも関わらずワタシに気づくとは、なかなかやりますねえ」


 悔しそうに言いながらもどこか嬉しそうなのは武人の性だろうか。


「では、また明日。昼過ぎにお迎えに上がります」


 宿の前で中佐はそういうと踵を返し、城へと戻っていった。


「疲れたな」


「本当に。でも、遺跡には入れそうね。良かった」


「全くだ。そんじゃ、飯食って寝るか」


「あ、お風呂。二人とも昨日はお部屋のを使ったみたいだけど、ここって地下に温泉が湧いてるのよ。知ってた?この温泉がまた最高なの」


 ヴィクトリアの楽しそうな声を聞きながら俺は村に思いを馳せた。もう少しで治療法が分かる。みんな、頑張ってくれ。




唐突に現れ、自分のペースで会話して去っていく、それがセオドア・ウェークフィールド。


今回は前回に引き続き2話に分けての投稿となりました。

更新遅くなってすみませんm(__)m


以下、次回予告です




『次回予告』


レイモンド→レイ

ヴィクトリア→ヴィ

アレクサンダー→ザン


レイ「遺跡に入る許可をもらった俺達はようやく、遺跡に向けて旅立った」

ザン「なんだか”旅”って感じになってきたね」

ヴィ「どういう意味?」

ザン「王都まではまあ、人食い狼とか野獣はいたけどそんなに危険でもないし変わったこともなかったろう?」

ヴィ「確かに、野獣はどこにでもいますしね」

ザン「装備を整えるってのもなんか雰囲気あるよね」

ヴィ「そうかもね」

レイ「...はぁ」



ザン「レイ、溜め息ついてると幸せが逃げるよ」

レイ「迷信だろ。つーか、お気楽すぎないか、この旅」

ヴィ「焦っても仕方ないわ。できることから進めましょう。次回、ようやく最初の目的地へ向けて出発ね」

レイ「なあ、作者が遺跡のマップ作り始めたんだが...」


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