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再始動に付き、以前書き溜めしていた部分を投稿します。

勘を取り戻すまでしばらくかかると思いますが気長にお付き合いいただけたらと思います。

 

「食堂跡って、ここ?」


「うん!」


 変な動物に案内されて辿り着いたのは、入り口にほど近い広めの部屋だった。確かに、長いテーブルとたくさんの椅子が並んでいて食堂っぽく見えなくもない。動物は椅子の一つに飛び乗りちょこんと座った。


「さっきは助かったよ。ありがとー」


 にっこり、という表現がしっくりくる顔をして動物は髭をそよがせた。

 大きさは大型のリスくらいで、体躯は猫にも犬にも似ている。(つや)やかで、ふんわりした豊かなグレーの毛並みは光の角度によって色が違って見える。耳はかなり長めで顔との対比で言えばウサギより長いくらい。四肢はすらりとしている。歩くとき楽しげに揺れる尻尾は胴体の三分の二ほどもある。真ん丸の愛らしさを感じさせる瞳は黒いがキラキラとして見える。


「あいつ、ちょーっと挨拶したらいきなり追いかけてくるんだもんなー。絶対ボケてるよ」


 ムスッと言う動物は本当に不満そうだが、高い声(?)のせいでどことなくコミカルな感じがする。


「……失礼な」


「ん?どうした?」


「んーん、何にもー」


 ボソッと何か言った気がしたが……まあ良いか。子どものような話し方だが妙に年寄り臭くも感じる。

 動物をジロジロ観察する俺とは違って、ヴィクトリアはそっと膝をついて目線を合わせ、優しく声を掛けた。


「こんにちは。私はヴィクトリアというの。助けることができて良かったわ」


「君たちがあいつを撃退させられるとは思わなかったからビックリしたよ。結構やるね!」


「ふふ。ありがとう。あなたは、あの石像のことを何か知っているのかしら?」


 動物は嬉しそうに、耳と尻尾をピンと立てた。得意気でもある。


「知ってるよ!こー見えても、君たちの何十倍、いやいや、何百倍、もしかしたら何千倍も生きてるからね。色んな事知ってるよ」


「まあ。すごいのね。それじゃあ、この遺跡のことも知っているのかしら。ここのこと、何か知っていたら教えてくれる?必要なものがあって探しに来たのだけど、私たちは詳しくないから、教えてもらえると、とても助かるわ」


「いーよ!」


 さらっと流れたが、わりと気になることを言った。


「そんなに生きてるお前は何なんだよ」


 俺達の何千倍も、ってなんだ。亀か。貝か。海月か。

 しかし、動物は俺を無視することに決めたらしくヴィクトリアに向き直った。


「あの石像は門番だよ。ここから人がいなくなる時に守護の役割を与えられたんだ」


「門番……それじゃあ、あなたが追いかけられていたのは」


「え?あ……あ、それは置いといて。この遺跡は色んな仕掛けがあるんだ。媒介魔方陣とか」


「ええ、たくさん見たわ。やっぱり、あの門番も?」


「それはー……後で見てみると良いんじゃない?それよりも、知ってる?ここの壁は壁画かレリーフでいっぱいなんだよ!」


 それはもう知ってる。


「そうね。あの壁画やレリーフはとても手が込んでいるけれど何を...」


「そう!すっごく手が込んでる!昔の人間たちの努力の結晶だよね!それよりも、君たちはなんでこんな変なとこに入り込んできたの?迷子?」


 どんな迷子だ。というか、この遺跡のことを教えてやると元気よく宣言していたわりに、いざ訊こうとすれば大したことを言わないとはどういうことだ。


「私たちは、病気を治すヒントがあると聞いてここへ来たのよ。だから、ヒントがどこにあるのか、あちらこちら調べなければならないの。だけど、そうすると、あの門番に追い払われてしまうかしら?」


「えっ、それは、置いといてー……」


 ……誤魔化しかたは下手だな。


「ヴィクトリア、どっちにしたってやることは変わんないだろ。とりあえずそいつは無事だったんだし、言いたくないなら無理に言わせなくて良い」


 こいつを問い詰めてる時間が惜しい。情報が得られるならまだしも、この調子じゃ肝心なところは誤魔化されそうだ。誤魔化せてないけど。


「けれど……それもそうね。ごめんなさい、無理に聞こうとして」


「全然。気にしてなかったよ?」


 何故か得意気だ。

 そもそもこいつは教える気もないのに、教えてくれと言われてどうして良いなんて言ったんだか。


「ねーねー、なんで君たちはそんなによそよそしいの?仲良くないの?」


 突然そんなことを宣った。


「よそよそしい?かしら……?」


「オレが言うのもなんだけど、君は馴れ馴れしいよな」


「まあね!」


「無理に話せとは言わないけど、そんなにお喋りならもう少しまともに話してほしいもんだな。で?お前は何が言いたい?」


 自由奔放な、そして相変わらず無駄に得意気な不思議生物には無意味かもしれないが一応苦情は言っておく。


「だって、お互いに変な遠慮してるよ?ヴィクトリアは本当はレイモンドとアレクサンダーにもっと頼って欲しいんじゃない?気遣ってくれるのは嬉しいけど、役に立ちたいよね?それに一人だけ女の子だし余所者で、ちょっと疎外感があるよね。

 今まで故郷でも仲の良い友達がいたことがないから二人のこと羨ましいんだね。二人みたいな仲の良い友達が欲しい、そんな友達になりたいって思ってるよね。でもどうしたら友達になれるのかも分かんないから困ってる。たぶん、ヴィクトリアがちょっとくらい変な行動しても二人は気にないだろうなってところまで考えついてるのに。思いきって行動も出来ないし、口に出すのはもっと出来ないんだね。

 君自身の優しさが、周りには優しさとして認識されてるけど、君自身には邪魔になっちゃってる。あんまり続けてたら身が持たないよ。


 アレクサンダーはアレクサンダーで本当の性格は人懐こくて年不相応なほど無邪気で無神経なのに年下の可愛い女の子にはどう接して良いのか分かんなくなってるよね。

 普通にしてれば良さそうなのに無駄に気にしすぎ。巫術師は人の怯えとか不安とかなんかそんな感じの感情には敏感なんだよ?君みたいに気にしてたら巫術師とは仲良くなんてなれないね。十年単位かそれ以上に時間を掛けるつもりなら別かも知れないけど。

 その上、この中では一番旅慣れてるんだからしっかり二人を守らないと、ってなんか気張りすぎ。まだ成年前とは言え二人だって一応、自分で考える力くらいはあるでしょ?それも薄々分かってるよね?早く弟離れしないと笑われちゃうかも。


 だけどまあ、レイモンドなんて論外だよね。神託に気を取られすぎてて人付き合いとか考えてなくてアレクサンダーに丸投げだし。無頓着気取りで無気力を装ってて、なのに本当は全然割りきれてない。本当は神託に対しての畏れも持ってる。従わなきゃ大変なことになるって、それを口実にして関心はないけど仕方ないから行ってやる、って体裁を整えようと無意識に考えてる。神託を信じてるから村が気になりすぎて他のことなんてどうでもいい。ヴィクトリアのことも気遣わない。そのくせ、たまに思い出したように友達っぽい扱いとか気遣いなんてするからヴィクトリアもどうして良いかよく分かんなくなっちゃうんだよ。ヴィクトリアにもアレクサンダーにも、無関心ではないし嫌われるのは嬉しくないんだよね。だったらもう少しましな振るまいがあるんじゃない?

 あと自分を装うとしても無気力かカッコつけか、せめて片方に絞ったら?本当の自分が望む事と違うことばっかりやってると完全に自分をなくしちゃうよ。てゆーか、もう無くしてる?」


 スラスラと言ってのけたそいつはピョンとヴィクトリアの肩に飛び乗る。重みを感じさせない動きだ。

 ……話が長い。その辺の年寄りより長い。そして面倒くさい。


「え、なんなの、君」


 食堂跡に来てからほとんど存在感の無かったアレクサンダーが若干警戒したように呟いた。ちなみに、動物に言われたことは図星だったらしく顔が赤い。

 こいつにもそんな繊細そうな部分があったのか、とか、ヴィクトリアはそんなに悩んでたのかとか、ちょっと扱いが酷かったかなとか、ちょこちょこ悪口を挟むなとか、思うことはある。が、今はいったん置いておこう。


「お前、なんで俺やザンの名前が分かった?」


 アレクサンダーと二人して動物を睨み付けようとしたがさっきの動物の言葉のせいで出来なかった。全部が本当かは分からないが、少なくとも俺に関してはだいたい合っていた。

 動物はヴィクトリアの肩に乗っていてそいつを睨み付けるとヴィクトリアも睨んでいるように見えてしまうかもしれない。嘘か本当かは分からないがさっきの話を聞いた後では気まずかった。……これが思い出したような気遣いと言われるのか。


「あ、あの!二人ともちょっと待って」


 と、ヴィクトリアが慌てたように声を上げた。


「ヴィクトリアさん?」


 彼女は動物を肩から離して抱えた。


「ごめんなさい。二人は普通の人だってこと忘れていたわ」


「...え?」


 心底申し訳なさそうなヴィクトリア。間抜けな声を出したのはアレクサンダーだ。


「先に言っておくべきだったわ。この子は精霊なのよ」


「は?精霊?その小動物が?でも、俺達にも見えるぞ」


 ヴィクトリアは頷き動物を撫でた。嬉しそうに目を細める様は完全に犬か猫だ。とてもじゃないが、自然の力を司る高尚な存在には見えない。そしてそもそも、精霊というやつは巫術師でなければ認識できないはずだ。


「この子は精霊の中でもとても力の強い子よ。力の強い精霊は巫術を扱えない人にも姿を見せ声を聞かせることが出来るって聞いたことがあるわ。……もっとも、私もそんなに強い精霊と会ったのは初めてなの。私たちの何千倍も生きているというのも誇張ではないと思うわ。長生きの精霊ほど力が強い傾向があるから」


「て言うか、だいたいの強さで老衰する限界も決まるからね。妖魔とかなんかにやられたり、変な人間に壊されなきゃ強い精霊は長生きだよ」


 このへんてこ小動物、そんなにすごい精霊なのか?


「あのさあ、さっきから失礼すぎない?へんてこ小動物って何さ。長寿の亀や貝やクラゲに見える?」


「レイモンド、そんな風に思っていたのね」


 つーん、としている変な小動物改め精霊の言葉にヴィクトリアが苦笑した。


「強い精霊は人の心が分かるのよ。感情や考えていること、場合によっては記憶を読み取れる精霊もいるわ。きっと二人の名前は私の気持ちや記憶と一緒に読み取ったのね」


「読み取った、て言うか聞こえるんだ。うるさいくらい」


 うるさいなら耳塞げよ。


「興味のない相手の心なんか聞きませんよーだ」


「つまり、私たちには興味があるのね?」


「とっても!」


 変なやつ。


「変って何さ。一人の価値観で決めないでくれる?」


「あぁ、もう!ただの独り言に、心の声に、いちいち反応すんな!」


「フッフッフ、やぁーっとまともに反応した!やったね!」


 勝ち誇ったような、ものすごく嬉しそうな精霊。なんなんだこいつ。


「心の中で何を叫んでも、他の人間には何も分からないよ。今みたいにちゃんと言わなきゃ。あ、そうそう。フェルカドだよ!よろしくね!主にヴィクトリア!!」


「え、私?」


「巫術師でしょ?」


 よろしくってなんだ。こいつに、会話する気はあるのだろうか。


「ええと……フェルカド、というのは貴方の名前なのね?それから、よろしく、ということは私たちに力を貸してくれるということかしら?」


「うん!えへへ、ヴィクトリアは話が早くてよろしい」


 変な小動物改めフェルカドは嬉しそうだ。目を細めてヴィクトリアにすり寄った。その仕草は猫とよく似ている。

 しかし、こんな変なものを拾って良いんだろうか。アレクサンダーも同じ事に思い至ったようだ。


「ヴィクトリアさん、その精霊が一緒にいることでヴィクトリアさんに悪い影響は出ない?前にうちの長老の所の巫術師が仲は良いけど相性は良くない精霊と一緒にいて体調崩したことがあったけど」


 言うとフェルカドはムッとしたように髭をそよがせた。


「アレクサンダー、それすっごく失礼だからね!生まれたばっかりの精霊は別として、ちゃんとした精霊は自分とバランスがとれる巫術師じゃなきゃ声なんか掛けないよ。だから精霊のせいで巫術師に悪影響が出るのって精霊が巫術師の力量を測れなかった、て事になるんだよ」


 そんな程度の低い精霊じゃない!とフェルカドはそっぽを向いた。


「……精神年齢は低そうだけどな」


 ぼそりと言ってやれば今度は俺の肩に跳び移ってきた。


「いーの!精神年齢は人間の考え方。精霊には精神年齢なんてないし。て言うか、それ絶対話し方とか声色のせいでしょ。言ってること自体は間違ってないから精霊的には何も問題なし!」


 尻尾で背中をペシペシと叩くが、フワフワなので全く痛くない。


「それじゃ、よろしくね!ヴィッキー!」


 フェルカドはヴィクトリアの肩に舞い戻るとご機嫌に呼び掛けた。


「え……フェルカド、今」


 ヴィクトリアはまじまじとフェルカドを見つめた。


「今、ヴィッキー、って」


「呼んだよ?愛称、ヴィッキーだよね?間違ってた?」


 ヴィクトリアは突然俯いて両手で顔を覆った。


「ヴィクトリアさん!?大丈夫?」


「おい、フェルカド。なんとかしろよ」


 フェルカドはボケッと首を傾げただけだった。

 使えない奴……。


「あのね、私、初めてなの」


 ヴィクトリアが呟くように行って顔を上げた。


「家族以外の誰かが、ヴィッキー、って、愛称で呼んでくれたのは初めてなの!」


 うっすらと頬が紅潮し、潤んだ目が輝いている。


「ありがとう!フェルカド。私はヴィクトリア・ポラリスよ。これからもヴィッキーって呼んで。これからよろしくね」


 ものすごく嬉しそうなヴィクトリアに、フェルカドはキュウと鳴いて得意気に尻尾を揺らす。……鳴くのか、こいつ。喋るだけじゃなく。いや、その前にヴィクトリアは愛称で呼ばれたことがないって、人当たりは良さそうなのに?フェルカドの言葉を思い出す。故郷でも仲の良い友達がいたことがない。俺みたいに自分からそっぽ向いてるわけじゃないだろうに。


「フェルカドには愛称はないの?」


「考えたこともないかなー。適当につけても良いよ?」


「そうね……ゆっくり考えてみるわ!」


 ヴィクトリアは、なんだか、ものすごくフェルカドを気に入ったようだった。


「ああ、びっくりした……フェルカドって、なんか怖いな」


 アレクサンダーはフェルカドに畏怖の目を向けている。まあ、気持ちは分かる。突飛なことをするよく分からない動物なんて怖いだけだ。


「レ~イ~モ~ン~ド~ぉ?聞こえてるよ?」


「何か悪口を考えていたの?」


 ヴィクトリアは仕方ない人を見るような笑顔を浮かべた。


「別に……害獣ってこいつみたいなやつのことなんだなと思っただけだ」


「酷くなってる!?」


「もう、レイモンドったら」


 フェルカドがショックを受けたように毛を逆立て、ヴィクトリアはくすぐったそうに笑う。


「まあ、からかって楽しもうとしてるだけなのは分かってるけどね!」


 だろうよ。


「で、君たちは自己紹介しないの?」


 いるのか。勝手に読み取るやつに……?

 たぶん二人して怪訝な面持ちだったんだろう。ヴィクトリアが苦笑する。


「分かっていても、紹介してほしいのよね。勝手に知っている、じゃなく、ちゃんと挨拶したいのだと思うわ」


「そーそー。そーゆーこと!」


「そーゆーこと、って……ったく。レイモンドだ」


「まあまあ、良いじゃん?オレはアレクサンダー。アレクサンダー・シールズだよ。あ、ちなみに、レイはレイモンド・アークトゥルス。よろしくね、フェルカド」


 フェルカドは嬉しそうにキュウ、と鳴いた。


「うん、よろしくね!それじゃあ、あらためて。ヴィッキー、みんな。何が知りたい?」


 フェルカドは真剣な顔(と思われるが実際どういうつもりかは知らない)をして向き直った。


「知りたいんだよね?この遺跡の事とか、あの石像のこととか」


「ええ。私たちは、ある村の奇病を治すために、神託に従ってこの遺跡へ来たの。ここに手掛かりがあるらしいわ。どこに、どんな手掛かりがあるかは分からないから中を見て回っているの。

 もし貴方が手掛かりがありそうな場所を知っていたら教えてほしい。それから、あの門番だという石像についても教えてもらえるかしら?」


 ヴィクトリアも真剣に問う。


「うん。良いよ。分かることは教えるね」


 フェルカドが少し精霊らしく思えてきた。あくまで、心象の問題だが。


「さっきは誤魔化そうとしてたよね?なんで今さら話す気になったんだ?」


「精霊だから、かしら。自分たちの事を何も言わないのに一方的に教えてもらえることは少ないわ。……もちろん精霊だから今言ったこともお見通しだと思うけれど。それでも、言葉にしたか、していないか、どんな思いを持っているのか。精霊はとても敏感で心を大切にしているから」


 そんなもんなのか。


「そんなもんだよ。あとは、協力する気もないのにペラペラ喋るのは精霊の中では若輩者だけだよ。ある程度の精霊なら、ちゃんと、とことん付き合ってやるかーって、覚悟がないなきゃ大事そうなことは話さないよ」


 得意げなフェルカド。ただ、どことなく声が先ほどまでより落ち着いていてこいつなりに真剣に話をしたんだろうことは分かった。


「それじゃあ、さっそく。まずは何から話す?」


「あの石像が何なのか、教えてほしいわ」


「石像は門番だよ。ここはむかーし昔、別の大陸と交流のある研究施設だったんだ。主に医療関係の。もちろん、人間としては貴重で重要な情報の宝庫だった」


 あっさり言ってくれるが、なんとなく拍子抜けだ。


「数十年は施設として成り立ってたみたいだけど、なんか色々あってここを放棄することになったみたい。そのときほとんどの研究成果は別の町に持っていったみたいだけど、いくつかここに残したまま出ていったんだ。なんで放棄したのか、あとなんで研究を置いていったのかなんて理由は知らないけど」


 真面目に話しているようだが、わりと曖昧な情報だ。


「仕方ないでしょ!何百年か前の話だよ?それも又聞きの又聞きの又聞きの噂をチラッと聞き齧っただけなんだから!」


「なんでいきなり怒ってんの?てか、精霊って、噂を聞き齧っただけで又聞きだって分かるのか?それはなんか怖くない?」


「精霊の噂は又聞きの又聞きの又聞きが普通だからね!」


「フェルカド、話がそれてるわ」


「そうだった!レイとザンのせいだからね」


 フェルカドはまるで大好きな主人に叱られた犬みたいな顔をした。


「あ、オレたちのことも愛称呼びなんだ」


「うん!別に嫌じゃないでしょ?話を戻すね。ここを出ていくときに、当時の人間達は置いていく研究を盗まれたり、悪用されないために番人として侵入者撃退用の石像の魔物を用意したんだ」


「あれ、魔物だったの?」


人間(君たち)の言葉で言うとそうだよ」


 ...魔物って、人の思い通りになるもんなのか。


「元はこことは別の大陸の技術なんだって。噂だから詳しくは知らないけど。あの石像の他にも、なんか色々と侵入者撃退用の仕掛けがあって、一番大切な、医薬品の研究資料っていうのに辿り着くのは普通じゃ無理なんだって。最後の仕掛けが動かないんだって」


「ちょっと待て。医薬品の研究資料には辿り着けない?」


「レイ、慌てすぎ。普通じゃ、ってとこが抜けてるよ。君たちは普通(・・)じゃないでしょ」


 ……ああ、そうだった。神選の剣士は普通じゃない。


「当時の研究者たちにとって大切な資料はほとんどが最後の仕掛けの向こう側に、石碑とか、壁画とかそんな感じで残してあるらしいよ。だけど、君たちにとって大切な資料は最後の仕掛けの先にあるのか、前にあるのかは分からないし、これ以上詳しい仕組みは分からないや。でも、普通じゃない君たちだから、きっと辿り着けるよ!大丈夫、大丈夫!さー、行ってみよう!」

 

「え、これで話終りなの...?」


「やっぱり基本は自分の足で歩かなきゃね!ザンはその方が好きでしょ。特にここはいくつか仕掛けがあるからね!あんまり詳しくは知らないから君たちが頑張らなきゃだけど」


 フェルカドの長話はかなり雑に締め括られた。

 仕方なしに俺たちは歩き始める。フェルカドはヴィクトリアにくっついていくらしい。まあ、はぐれなきゃ良い。


「ヴィクトリアの神託ではたしか、『碑文に記した後封印された』って話だったな」


「封印って言葉から考えると...ひとまずは、その最後の仕掛けの向こう側っていうのを目指してみようか」


「ええ。探す価値はあると思うわ」


「決まりだな」


 フェルカドがキュウ!と嬉しそうに鳴く。同意しているらしいが……まるっきり小動物じゃないか。

 アレクサンダーは食堂から出て辺りに魔獣やらなんやらがいないか確認している。俺も続いて、反対側を警戒してみる。手応えなし。


「ねえ、フェルカド。本当はどれくらい知っているの?ここの事」


「えー……と、まあ、結構?」


「そう……話してくれないのは秘密にしたいから、ではないわよね?」


「うん。そんな狭量な精霊じゃないよ。だけど、ごめんね。話しちゃうと余計なものを背負わせちゃうから。これ以上はヴィッキーにも言えない。あ、でも詳しい仕掛けは知らないって所は本当だよ」


「そう……。フェルカド、無理はしないでね」


「大丈夫。こう見えても君の何倍も長生きしてるからね」


 本人達はこっそり話してるつもりなんだろうが残念ながら聞こえてる。アレクサンダーは哨戒からいつの間にやら、さっそく遺跡探険に戻っているから聞こえてないだろうが。

 一応、知らないフリをしておこうか。自由奔放な精霊の気づかいらしいから。



 ……これも読み取られているんだろうか?


久しぶりの投稿になりました。

物語の構想はかなり先まで練ってありますので少しずつ投稿していきたいと思います。

勘を取り戻すまで次回予告はなしで投稿させていただきます。

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