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パーティー(改稿済)

「シーナってお金持ちのお嬢様なんだね。シーナだったら、アルテナを買ってくれるかな?」

「資産があるのは実家で、私自身はそんなに金を持ってはいない。それよりもその金貨一万枚というのは、冗談じゃなかったのか……」

「冗談じゃないぞ。こいつは売り物だからな。金があるなら喜んで売ってやるぞ」

「無茶を言うな。金貨一万枚だなんて、国王様か大貴族、大商会の連中でもなきゃ無理だ」


 シーナが苦笑して首を振る。


「ただ、あれだけの力を持っているのなら金貨一万枚も妥当かもしれないな。ただ、私が購入しても、とてもその力を正しいことに扱えるとは思えない」

「ええ、そうかなぁ?」

「私には過ぎた力だと思う。それほどの力を持つ事が許される者は、英雄と呼ばれるような人物だろうな」

「英雄かぁ……どこかにポンッと、金貨一万枚を払ってくれる英雄様はいないかなぁ」

「本当にな……」


 まあ、その辺に英雄がゴロゴロと転がっていたら、英雄というものへの有り難みが全然無くなっちゃうけど。

 揃ってため息を吐いている俺とアルテナを見て、シーナが少し驚いたような表情をした。


「ノアは、その……アルテナの力を見て、自分のモノにしようとは考えないのか?」

「俺が? アレを?」 


 脳裏に浮かぶのは現在、平和だったファタリアの採掘者(ディガー)組合を大騒ぎにさせている、地中にあった迷宮の天井をぶち抜く程の大爆発。


「いやあ、それは勘弁したいな。俺は武器商人として大成したい。商人は商品を必要としている人へ売るのが仕事だよ」


 それこそシーナが言ったように、俺にもあの力は過ぎたものだ。


「フフ、あの力を実際に使って見てそう言えるノアは、なかなか大した人物だと思うぞ」

「そうかな? シーナの持ってる刀も魔剣なんだろ?」

「いや、これは魔石加工などしていない普通の刀だ。個人的には思い入れのある品だが、武器としてはそこらの店へ行けば普通に並べられている物と大差ない」


 あれ?

 刀が緑色の光を纏っていたように見えたんだけど、気のせいだったのかな?


「ちょっと見せてもらっていいか?」

「……構わないが?」


 シーナは少しだけ逡巡するような素振りを見せたが、鞘ごと刀を渡してくれた。

 人が大勢いる食堂で刀を抜くわけにはいかないので、僅かだけ抜いて刃を見せてもらう。

 鈍く光を反射する普通の鋼。しっかりと鑑定しないとわからないが、良い鉄を使って作られているような気がする。ただ、緑色に輝いていたりはしない。


「うーん……確かに普通の刀だなぁ」


 俺がもう少しだけ鞘から刀を抜いて、じっくりと観察していた時だ。アルテナが口をモグモグさせつつ、刀を覗き込んできた。


「ふぁにひへんの?」


 何をしているの、かな? 

 さっきも言ったけど、口の中のものを全部飲み込んでから喋れよ!


「迷宮をふっ飛ばした後でこの刀を見た時、緑色に輝いていたように見えたんだよ。だからてっきりこの刀、魔剣かなと思ったんだけど」

「ああ」


 アルテナがゴクンと口の中の食べ物を飲み込むと、何かに気づいて得心したように頷いた。


「ノア、アルテナの手を握ってみてよ」

「なんだ?」


 言われたとおりアルテナの手を握ってみると。


「おお?」


 シーナの刀が僅かに緑色の輝きを纏っている。


「どうしたのだ?」


 俺が目を大きく見開いたのを見て、シーナが興味深そうに身を乗り出してきた。


「刀が緑に光ってる。さっきまで普通の刀だったのに」


 アルテナと手を繋いだことが原因か?


「なに? お前と手をつなぐと、武器が光ったりするの?」

「違うんだよ」


 アルテナが澄ました顔で首を振った。


「ノアはアルテナと契約したから、その物に込められた魂だとか、力の質だとかが、アルテナと繋がっている時に限り視えるようになったんだよ」

「込められた魂? 力の質?」

「強い力、想い、魂……うーん、説明が難しいな。とにかく、優れた物になればなるほど、明るい色の光で包まれているように視えるんだよ」

「それは物だけか?」

「見ようと思えば色々かな?」


 俺はじっとシーナを見つめる。

 すると、青く淡い光が視える。


「シーナは青く視える」

「私が?」

「青だと並だね」

「私は並なのか……」

「あっ、違う違う。そういう意味じゃないんだよ」


 並と聞いて、ちょっとショックを受けたようなシーナに対して、アルテナは慌てて首を振った。


「ノアがどういう目でシーナを見たかまではわかんないけど、多分今のノアはシーナの実力を計るように見たんじゃないかなって思うんだけど……?」

「実力を計るとまでは意識してないけど、まあ、そんな感じかな?」

「その場合、青色の並って事は、シーナがノアとほぼ同格程度の実力を持つ者として視えているんだよ」

「へえ、相手の力量だとかが色で視えるのか」

「その色の基準が絶対というわけじゃないけどね。青が並程度で緑、黄、橙、赤って色程上質で、逆に青から藍、紫って黒っぽくなっていくほど、悪質って感じかな」


 食堂内を見回してみると、青色が二十人程度、紫色っぽいのが数人、緑や黄色の光に包まれている人たちも数人いる。

 アルテナは……白?

 しかもえらく真っ白い光に包まれて視える。


「ふふ、聖剣だからね! 白は最も明るい色なんだよ!」

「それは私にも視えるものなのか? ちょっと試してみてもいいか?」

「いいけど、多分アルテナと契約したノアにしか視えないと思う」

「…………そうだな、私の目には何も視えないな」


 ちょっぴり残念そうに言うシーナ。

 しかし、これは面白いな。

 試しにテーブルや皿、フォークにナイフといった食器なども見てみれば、大体青色から藍色に視えた。

 青が並程度って事は、藍色は少し安物って事なのか? 

 この能力、何だか商売にも使えそうだぞ。

 たとえば市場に行ってこの力を使えば、掘り出し物を探すのに役に立つかもしれない。今度業者市や自由市に行く時に試してみよう。

 それにモンスターの実力を計る事もできるなら、戦う前に自分たちよりも格上か格下なのか判断できる。

 危険を避けることだって可能なんだ。


「初めて役に立ちそうな能力が判明したな」

「初めてって……ちゃんと、必殺技を使ってゾンビを倒すのに役に立ったと思うんだよ!」


 アルテナの頭をワッシワッシと撫でてやると、アルテナは不服そうに唇を尖らせた。


「あれはシーナのペンダント、それからあの大爆発のせいでノーカンな」

「う……」

「ノア、そろそろその話は、そのあたりで止めておいたほうが良さそうだ」


 確かにあまり話し込んでいて誰かに聞かれでもしたら、、あの爆発騒ぎが俺たちの仕業だって事がバレてしまう。


「いや、そうじゃない。アルテナが聖剣だとバレたら大変なことになるかもしれないという事だ」


 シーナが声を潜めて言う。


「え? どうして?」

「そういえばシーナはアルテナの事を知っている様子だったな」

「詳しいというか、私も知っている事は伝承で語られているくらいのものだけど、その話は後でしよう。ところでノア。君はギルドに入っていたり、誰かとパーティーを組んでいたりするのか?」

「いや、俺は土日限定で迷宮に潜っているからな。ギルドには入っていない。あと、パーティーは一応、今はアルテナと組んでいる事になるのかな?」

「そうか。ならもし良かったら、私とパーティーを組んでみないか? 私も土日にだけしか採掘者(ディガー)として活動していないのだけれど」

「ふーん……それはいいかもしれないな。でも、シーナはメルキアの学生なんだろう? 拠点はメルキアなんじゃないのか?」

採掘者(ディガー)としての活動は、もっぱらファタリアでやってるんだ。金曜日に授業を終えてこっちに来ている。土曜日の午前中から神の城壁内に入り、迷宮に潜って、日曜の夕方くらいには引き上げるって感じだな」

「大体俺と活動時間が被っているな。俺はいいぜ。アルテナはどうだ?」

「え? アルテナ?」


 話を振られて、パーティーの話には我関せずといった感じで鶏肉の唐揚げを頬張っていたアルテナが、キョトンとした顔で見た。


「何でアルテナに聞くの?」

「何でって、アルテナも俺のパーティーメンバーだろ? そこにシーナを加えるなら、お前の意見を聞くのは当然じゃないか」

「そっか……そうだね」


 アルテナはどこか嬉しそうに頷く。


「アルテナもノアが良いなら良いと思うよ」

「決まりだな! よろしく、シーナ」

「ああ、こちらこそこれからよろしく頼む」


 俺とシーナはテーブル越しに握手をする。

 パーティー結成だ。


「おい、ノア」


 その時、俺の名前が呼ばれた。

 マーティスの野郎だ。

 俺が席を立ち上がったので見つけたのだろう。

 ち、青色か。

 こっそりとアルテナの手を握ってマーティスの野郎を視たら、同格を示す青色だった。

 でも探索時間(スコア)では差がついてきているのに、実力はまだまだ互角と考えれば良いのか?


「お前、今日の爆発騒ぎの件、知ってるか? 俺たちのギルドにも組合から急使が来てさ、探索時間(スコア)千以上の先輩たちに、調査をしてもらえないかって、ファタリアへ呼び戻された――って、おいこの子は何だ?」


 俺の席へとやって来るなりそう言ったマーティスは、俺と握手を交わしているシーナに気づき目を丸くする。

 と言うか、シーナに気づくのが遅すぎだろ。


「ノアの友人か? シーナと言う。私も採掘者(ディガー)だ」

「友人じゃねえよ」

「ノアとは友人というより知人ですね。僕はマーティス。マーティス・ブラウンです。ギルド『天上の剣』に所属しています。シーナさんはどちらのギルドに?」

「いや、私はどこのギルドにも属していない。フリーで採掘者(ディガー)をやっていた」

「やっていた?」

「たった今、ノアとパーティを組んだところだ」

「この男と、ですか……」


 マーティスは俺を見て渋い顔をする。

 どういう意味だよ。


「シーナさん、それからええっとアルテナさんでしたか? 忠告をしておきますが、その男とパーティーを組むのはやめておいたほうがいい」

「ほう、それはなぜだ?」

「彼は、と言うより彼の両親はこのファタリアを拠点にしている採掘者(ディガー)の間では有名人でして。色々と悪い噂の絶えない人物――」

「両親の話はやめろ」


 俺はマーティスを睨みつけて話をやめさせる。


「おや、聞かれて困るような話だと自ら言っているようなものですよ? ノア」

「黙れ」

「ふむ、それで、その事とノアとパーティーを組むことに、どう不都合があるというのだ?」

「いや、ですから、そんな親を持つノアですから、この町のギルドや採掘者(ディガー)たちから彼は白い目で見られているのですよ。そんな彼とパーティーを組めば、あなたにも白い目が向けられると――」

「白い目で見られるようなことをしたのはノアの両親で、ノアは別に関係ないのだろう? だったら私がパーティーを組むのに何も支障はないな。親は親でノアはノア。親のしでかしたことを子にまで罪に着せるのは感心できないな」

「なっ……」


 シーナにきっぱりと言われて絶句するマーティス。

 どうしたのか、マーティスは俺のことを言っているのに、シーナはまるで自分が言われているかのように怒っているように感じた。


「そろそろここを出よう、ノア。ここでは話をするのにも騒がしすぎる」

「あ、ああ、そうだな」


 シーナに促されて俺とアルテナも立ち上がった。


「私たちはこれからパーティー内での打ち合わせを行うので、これで失礼させてもらう、マーティスさん」

「あ、ああ」


 シーナの機嫌が悪そうだ。マーティスへの挨拶の言葉も刺々しい。

 俺たちは食事の勘定を終えると、採掘者(ディガー)組合から外へと出た。




「ふぅ……はぁ……」


 広場に出た所でシーナが大きく深呼吸をする。


「すまない。両親の事を言われて責められているノアを見ていると、まるで自分のことのように腹が立ってしまってな。一応は君の知人らしいマーティスとの関係が拗れなければいいのだが……」

「いや、別にあいつとの関係が拗れても問題ない。一応、同じ時期に採掘者(ディガー)になった程度の関係だから」


 すまなさそうな顔で謝るシーナに、俺は笑って首を振る。


「そうか。それで打ち合わせをしようと言っておいて何だが、そろそろ私はメルキアに帰らなければならない」

「ああ、そうか。もう大分日が落ちてきているしな」

「残念だが、明日はもう授業がある。聖剣のことについてはまた今度会った時に話そう。その話をするまでは、アルテナの事を聖剣だと周囲に吹聴しないほうがいい」

「そうか」


 アルテナもコクンと頷いた。


「私たちのパーティーに関しての打ち合わせも、その時にでも構わないだろうか?」

「もちろん。そうだな……、シーナは金曜日の夕方にこっちへ来るんだっけ?」

「そう。大体、夕方六時頃にファタリアに到着する」

「なら、その頃に採掘者(ディガー)組合の食堂で待ってるから、そこで落ち合うってのはどうだ?」

「そうだな。私もそれでいいと思う」

「よし、じゃあまた金曜日に。気をつけて帰れよ」

「気をつけて帰ってね!」

「ありがとう。だがその前に一つ頼みが」

「何だよ?」

「今回の爆発騒ぎの調査結果、どういう結末を迎えたか、今度来たときにでも教えてくれ」


 そう言うと、シーナは茶目っ気のある笑顔を浮かべた。

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