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採掘者の一つの最期(改稿済)

 気がつくと、俺はアルテナを握りしめたまま大の字に寝転がっていた。

 ああ、空が青い。

 地下にいたはずなのに空が見えるということは、どうやら天井もぶち抜く威力だったらしい。


『あ、ノア起きた? フフン! 見た見た!? これがアルテナのじ・つ・りょ・く! 聖剣アルテナの本当の実力なんだよ!』


 多分さっきの轟音で耳が馬鹿になってると思うんだけど、こいつの声は頭の中でちゃんと聞こえるらしい。

 くそ、引っ叩きたい。


『何でよー!?』

「見りゃわかるだろ! 見ろ! この惨状! 地形まで変わってんじゃねえか! というかええっと、あの子は!?」


 あんなに凄まじい威力で爆発するとは思わなかった。

 通路を走り抜けた爆風と熱波、そして抜け落ちた天井の岩盤が、瓦礫となって頭上に降り注いで生きていられるはずもない。

 サーッと顔面から血の気が引いていくのを感じた。

 胃の辺りがキリキリと痛い。

 まさか……殺してしまった?

 その時。


「っくあ……はっ……はあはあ……生きて、た?」


 近くの瓦礫の陰から、よろよろとシーナが這い出てきた。

 はああ……、生きてて良かった……。

 思わずヘナヘナとその場に崩れ落ちそうになってしまった。

 土埃を被って黒い髪が少し灰色っぽくなっている。

 あれほどの爆風の中でも、刀だけは握り締めていたようで、彼女はその刀を杖にしてすがるように立っている。

 あれ? あの刀……一瞬、薄っすらと緑に輝いて見えたような……?

 気のせいか?

 いやそれにしても、生きていてくれて本当に良かった


「多分、アルテナの加護に守られたノアの真後ろにいたからじゃないかな。熱波を避けることができたんだねぇ」


 ぱあっと剣が光を放ち、次の瞬間には元通り少女の姿に戻ったアルテナが言う。


「できたんだねぇ……じゃねえ! 殺す気か! このバカ!」

「何でよ! 何でアルテナは怒られてるの!?」

「それよりも二人とも。さっきの爆発で亀裂(ゲート)の方で人が集まっているぞ」

「何?」


 迷宮の天井はおろか、地盤と生えていた木々も根こそぎ吹き飛ばしたおかげで、ファタリアの町のゲートまで見渡せるようになっていた。

 そして確かにシーナの言う通り、ゲート周囲に人が集まっている様子だった。


「ヤバイ、これやったの俺たちだって知られたら怒られるんじゃないか?」

「えー、他にも怒られるの? 怒られるのは嫌だよー」

「それに捕まれば多分、アルテナの事も事情聴取されるのではないのか? 下手をすれば採掘者(ディガー)組合、もしくは国や領主に取り上げられるかもしれない」

「よし、逃げよう」


 シーナの言葉で即決する。

 金貨一万枚でお買い上げしてもらえるならともかく、タダで取り上げられてたまるか。


「おい、シーナ動けるか?」

「ああ、まだ身体の節々が痛むけどゲートの前にいる連中がここへ来るまでには隠れられるくらいには、動くことができる」

「場所を移動するぞ。くっそー、えらい災難だ」

「ううっ……災難だなんて、良かれと思ってやったのにぃ……」


 俺に叱られてメソメソと泣くアルテナの手を引っ張り、俺はシーナと共にゲートとは逆の方向へ逃げだしたのだった。



 ◇◆◇◆◇



「緊急クエストです! 緊急クエストです! 募集条件は探索時間(スコア)千時間以上の方! 応じてくださる採掘者(ディガー)の方は、組合受け付けまで至急お願いします!」


 これほど殺気立った採掘者(ディガー)組合を、俺は初めて見た。

 まあ無理もない。

 ファタリアの町から目と鼻の先と言っていい距離で、地形が変化するほどの謎の大爆発が起こったのだから。

 ファタリアの採掘者(ディガー)組合は原因調査のために、探索時間(スコア)千時間を超える採掘者(ディガー)を集めている。


「おいおい、お前はあの爆発を見たか?」

「ああ、凄かったな。炎と土砂が巻き上がって、俺は見たこと無いけど火山の噴火ってあんなのかと思ったぜ」

「迷宮の奥に棲むっていうドラゴンが迷い出て、ブレスを吐いたんじゃないかって噂だぜ」

「マジか!?」

「ああ、何でも目撃者がいたらしい。巨大なモンスターの影がのそりと山奥へ入って行ったって言うぜ? それで今、討伐隊を編成するために人を集めているんだとさ」

探索時間(スコア)千時間程度の採掘者(ディガー)じゃ、ドラゴンの討伐だとか絶対無理だろ! 一万時間超えた超一流でも無いと、ドラゴンなんて太刀打ちできないって!」

「知るかよ! 俺も噂を聞いただけなんだから」


 みんな、無責任な噂ばかりしてんな。


「お待たせいたしました。こちらがゾンビ四体分の魔石を換金したものです」


 カウンターの上に載せられた銀貨の枚数は二十枚。


「そしてこちらが、採掘者(ディガー)ツィルビー氏の砂時計を持ち帰っていただいた報酬が銀貨十五枚。そしてツィルビー氏のパーティーメンバー三名の消息情報なのですが、報酬規定金額一人銀貨七枚で合計二十一枚となります」


 全ての報酬を合わせると銀貨五十六枚。

 九時間少しの探索時間(スコア)としては結構な稼ぎだが、稼ぎの内容が内容だけに俺は神妙な顔つきで銀貨の入った袋を受け取った。


 あの爆発した場所から逃げる前に、俺たちは魔石の回収とゾンビが持っていたと思われる砂時計を一つ回収できた。

 砂時計というか、砂時計自体はガラスも割れて原型を留めていなかったけど、底に貼り付けられている金属板は無事だった。

 その金属板には採掘者(ディガー)の登録番号が刻まれていて、採掘者(ディガー)組合に問い合わせれば砂時計の持ち主が分かるのだ。

 そして、迷宮へ入って七十二時間が経過しても戻らず行方不明者のリストに載っていたツィルビー氏の登録番号と一致したらしい。

 残りの三体の砂時計は見つけられなかったが、恐らくはツィルビー氏の仲間三人のものだろうということで、俺たちは報酬を貰ったのだ。


 報酬が増えたからと喜べるはずないだろう? 

 彼らのなれの果ては、俺にだって訪れるかもしれない未来なのだから。

 原因不明の爆発調査の緊急依頼で大騒ぎになっている受け付けを離れた俺は、採掘者(ディガー)組合の中にある食堂へ行く。

 そして中を見回すと、アルテナとシーナの二人が席を取ってこちらに手を振っているのを見つけた。


「報酬、貰ってきた」

「私の分まですまない。礼を言う」

「大した手間じゃない。報酬金額は全部で銀貨五十六枚だ。三等分したら一人あたり銀貨十八枚と二枚余るな」


 俺がささっと計算し、テーブルの上で銀貨を数えて積み上げていく。


「待ってくれ、私の報酬は銀貨十枚でいい。元はと言えば、私がゾンビを引き連れて来てしまい、二人を巻き込んでしまったのだからな。それにゾンビを倒したのもアルテナの力だし」

「俺たちだってシーナに物凄い迷惑を掛けたと思うぜ。爆発に巻き込んでしまったしな」


 シーナを死にそうな目に合わせておいて、俺たちの取り分を多くするとかできるわけ無いだろう。 

 それに町に戻ってくるのにも、結構苦労する羽目になった。

 あの後、ゾンビたちの魔石と砂時計を回収してから、俺たちはあの爆発現場を大きく迂回して亀裂(ゲート)前の広場に戻った。

 そして野次馬の中に紛れ込み、「あの爆発はなんだろうな?」といった体を装って、こっそりと町へと戻ってきたのである。


「じゃあ、こうしよう。俺もアルテナもシーナも銀貨十五枚! 残った十一枚で迷宮からの生還祝いに三人で飯を食うってのはどうだ?」

「なるほど。それはいいかも」

「ごはん!? ちょうどアルテナもお腹が空いていたんだよ」


 銀貨十一枚分の食事を三人前で頼めば、かなり豪華な食事が食べられるぞ。

 分厚い牛の肉のステーキに、塩と香草をたっぷりまぶした焼き魚。鶏肉に玉子、そして玉ねぎが浮かんだスープ、籠いっぱいのパン。そして飲み物は俺がビール、アルテナが果実を絞ったジュース、シーナは葡萄酒を注文する。

 全部の料理が揃った所で俺たちは乾杯した。


「そういえばシーナのペンダント。あれはいったいどうなったんだ?」

「あの時私のペンダントが、何か強く輝いていたような?」

「えっとね、もう無いよ」

「は? 無い?」

「うん。ペンダントの宝石、アルテナが力に変換しちゃったもの」


 俺は無言でアルテナの頭を鷲掴みすると、頭をテーブルの上にグイグイと押し付けた。


「すいません! このバカが本当にすいません!」

「イタイイタイ!」


 俺も一緒に頭を下げる。


「もしかして……大切なものだったんじゃ?」

「いや、いいんだ。命を助けてもらった事に比べたら、ペンダントの一つぐらい……大したものじゃない。だから頭を上げてくれないか?」

「お金で解決するものじゃないかもしれないけど、良かったら弁償させて欲しい」

「いや、あれは母から頂いた物なので幾らかまでは……」

「ほんと、申し訳ございませんでした!」

「ごめんなさい!」


 今度は俺が押さえつけるまでもなく、アルテナも一緒に頭を下げた。

 ようやく自分がしでかしたことに気づいたか。


「気にしなくていいから、本当に。もう頭を上げてくれ。それよりも改めて自己紹介しないか? 私の名前はシーナだ。王都メルキアの王立学院に通う学生で、探索時間(スコア)は百六十二時間程度の駆け出し採掘者(ディガー)だ」

「俺はノア・レチカ。探索時間(スコア)は二百七十六時間だから、少しだけ先輩か? 本職は武器屋なんだけど、店が休みの日に採掘者(ディガー)をしている。で、こっちが……」

「ふぁるふぁな……ふぇいふぇんだお?」

「おい、口の中に詰め込んでいる物を飲み込んでから喋れ!」

「ングング……私はアルテナ。聖剣なんだよ」


 食べ物を飲み込んだアルテナが自己紹介をすると、シーナは少し憧憬の篭った眼差しで頷いた。


「ああ、確かに見せてもらった。伝承に残されている通り、凄まじい威力だった」

「でしょう?」


 フフンと胸を張るアルテナの後ろ頭を、俺はペシッと叩いた。


「調子に乗んな!」


 人のペンダントを塵にしたこと、もう忘れてるんじゃないだろうな。


「イタタ……、ペシペシ頭を叩くと、頭がバカになっちゃうんだよ!」

「大丈夫。お前はもう十分バカだ」

「ひっどーい!」

「まあまあ、二人ともその辺にしよう。せっかくの豪華な食事が冷めてしまう」


 グギギと睨み合う俺たちを見て苦笑し、シーナが口を開いた。

 それにしてもシーナとはすっかり打ち解けてしまった。

 今日会ったばかりとは思えない。しかも話を聞いているとシーナは俺と同い年で十六歳。

 こうして落ち着いてしっかりと見てみると、シーナも綺麗な女の子だった。

 艶やかな黒く長い髪を後ろで纏め、鼻梁も整っている。食事をしている時の姿勢も背筋がピンと伸びていて、どこか凛とした空気を感じ取れた。

 俺にはよくわからないけど、食事もきっと作法を守って食べているんだろうな。

 俺やアルテナの食べ方と違って綺麗にナイフとフォークを使って、口に運んでいる。

 間違いなく良い所の家の出身に違いない。

 王立学院と言えば、貴族や金持ちの子女が行く学校として有名だしな。

 そんな良い家のお嬢様が、どうして採掘者(ディガー)をやってるんだろう?

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