迷宮(改稿済)
奴に遭遇したのは、森に入ってすぐの事だった。
俺が地揺れで出来た地面の亀裂から地底湖へ落ち、アルテナを見つけて引き取る事へとなった一連の騒ぎの元凶――ジャイアント・ラット。
茂みに身を隠す俺たちから五メートル程度離れた場所で、地面に鼻面をひっつけてヒクヒクと匂いを嗅いでいる。
餌となる地中にいる虫でも探しているのだろうか?
神の城壁外にある森の地中には、ミミズや虫の幼虫などが生息している。神の城壁内にも森があるのだから、当然その地中にも同じような虫たちが生息しているはずだった。だとすれば、その虫たちの中にも瘴気に冒されてモンスターと化したものがいるのだろうか?
ちなみに神の城壁内に生息する生命全てが瘴気に冒されてモンスターになるわけじゃない。瘴気に冒されてモンスター化するのはそのごく一部だけで、ほとんどは城壁外の生態系と変わらない。
ただ、人だけが神の城壁内に長く滞在すると、なぜだか確実に瘴気に冒される。
それとは逆に、虫類と植物の二つは、どういうわけか神の城壁内に漂う瘴気への耐性が強いらしく、モンスターとなってしまう事が少ない。
これは人にとって非常に幸いな事実だった。
虫に植物類。どちらも人や獣などより遥かに数が勝っている。
もしもこれらがモンスターと化していたなら、あっという間に神の城壁内からモンスターが溢れ出していたに違いない。
そんな事を考えつつ、俺は背中に背負っていた矢筒からそっと矢を一本取り出す。
(可愛い……ノア、あんな可愛い子を殺しちゃうの?)
アルテナが咎めるような目で俺を見てくる。
ただ、初めてジャイアント・ラットを目にしたのなら、この反応もわからないでもない。
アルテナが可愛いと言ったように、鼻をヒクヒクさせつつ餌を探し、時折周囲を警戒するように頭を上げて見回す仕草は愛嬌があって、確かに可愛らしい。ただ大きいというだけで、普通のネズミと何も変わらない。
(見た目に騙されるなよ。あんな見てくれだけど、最もたちの悪いモンスターのひとつなんだからな)
奴らは食べられる物であれば、なんでも食べる。繁殖力も強く、あっという間に数が増えてしまう。
過去には人の管理している亀裂を集団で襲って警備の兵士を喰い殺した後に村へと溢れ出し、人も家畜も穀物も全て喰らい尽くす悲惨な事件も幾度か発生している。
一匹単位で行動していれば常に警戒を怠らない臆病なモンスターなのだが、集団になると凶暴性を増す危険なモンスターなのだ。
俺は弓に矢を番えると、短い前足を使って地面をほじくり返しているジャイアント・ラットの柔らかい腹部に狙いを定めて引き絞り――矢を放つ。
「……キキィィッ!」
短い断末魔を上げてジャイアント・ラットがひっくり返る。
この至近距離ならまず外さないけど、一矢で仕留められて良かった。ジャイアント・ラットは非常に敏捷で、一矢で仕留められなかったら逃げられてしまう。
俺は身を隠していた茂みから立ち上がると、ジャイアント・ラットが完全に絶命している事を確認して解体する。
その間、このモンスターの本性を知らないアルテナが、なおも咎めるような視線を送ってくるので、奴らの凶暴性について説明してやる事になったのだった。
「おかしいなぁ……、確かにこの辺りに地底湖へ続く道があったはずなんだけど……」
ジャイアント・ラットの解体を終えた後、俺たちは別のモンスターに遭遇する事もなく、目的の場所へと到着した。
「本当にここだったの?」
「暗かったけどこの近くなのは間違いない」
地底湖のあった石室へと続く亀裂を探し始めて小一時間。
俺は確かに、この辺りからファタリアの亀裂までアルテナを抱えて歩いたはず。それなのに、どうして地面にできた亀裂が見つからないんだ!?
ならばと、俺がジャイアント・ラットに遭遇した迷宮の入り口へと移動して、俺が落っこちたはずの亀裂も探したのだけど。
「無いなぁ……何でだ!?」
人一人が落ちるほどの大きな亀裂ができていたはずなのに、どこにもそんな形跡は見当たらない。
「ねえ、本当にアルテナはその地底湖で倒れてたの?」
「間違いない。倒れてたっていうか、眠っていたっていうか……」
「どこか別の場所でアルテナを見つけたんじゃないの? 第一、アルテナは異邦の神を封印した聖剣だよ? こんな人の町に近い、迷宮の外縁部に眠っていたんじゃなくて、本当ならもっと中心部深くにあるべきなんじゃないのかな?」
「そうかもしれないけど、アルテナがそんな迷宮の奥深くで眠っていたのなら、それこそ俺が拾ってこれるはずもないだろう?」
奥に行けば行くほど、モンスターは強力な種類が増えるのだ。
駆け出し採掘者の俺なんかじゃ、迷宮の奥深くへ行くまでに、奴らにとって貴重なタンパク源になってしまうこと間違いないね。
「そっか……ノアは弱っちいから、そんな所にアルテナが寝てたら、確かに連れて帰れないものね」
「弱っちいは大きなお世話だっ!」
「だったら誰か別の強い人が、迷宮の中心部でアルテナを見つけ出して、この近くまで持ち運んできたとか?」
「そうだなぁ……」
確かにアルテナの言う通り、そうしたケースはあり得る。
迷宮の中心部まで行けたかどうかはともかく、深い所で眠っているアルテナを見つけ出したものの、迷宮滞在限界時間が来てしまい、瘴気に倒れてしまった。あるいは強力なモンスターと戦って深手を負い、この辺りで力尽きてしまったなど。
遺体はアンデッドのモンスターになるか、ジャイアント・ラットなどの小モンスターが片付けてしまうので、あり得ない話ではない。
でも、それだと俺が落ちたはずの亀裂が消え失せている説明が付かないんだよね。それにあの地底湖の冷たさ、落ちたときの息苦しさは、とても夢なんかじゃなかった。
「間違いなく地底湖はあって、そこにアルテナは横たわっていたんだ」
「でも、無いんだよ」
そう……不思議な話だ。
諦めきれずに通った記憶にない茂みの奥も確かめてみたが、やはり見つからない。
「そろそろ諦めようよ」
「いやまあ、そうなんだけど。俺は別に亀裂があろうとなかろうと、ついでに言えば地底湖のあった石室が無くても別にかまわないんだけどさ。いいのか? お前の失われた記憶の手がかりになったかもしれないのに」
「だって、見つからないものは仕方ないんだよ」
自分の事だというのに、軽いやつだなぁ。
「しかし、おっかしいなぁ。どうして見つからないんだ」
「ねえ、これからどうするのかな?」
そうだな。今日は石室の中を調べるつもりで迷宮へやって来たのだけど、見つからなかったので目的が無くなってしまった。
採掘者の心得の一つに、『予定に狂いが生じた場合には速やかに撤退すべし』というものがあるんだけど……。
俺はアルテナを見下ろす。
初めての探索だ。
このままジャイアント・ラット一匹だけを土産に帰るっていうのも何だしな。
「ここまで来たんだし、せっかくだから俺が前回探索を中止したそこの入り口から、迷宮へ入ってみるか?」
「入ってみたい!」
迷宮の中に入ってみれば、もしかしたらアルテナの記憶も戻るかもしれないしな。
迷宮へ入る前に、まずはそこら辺に転がっていた手頃な太さの木の棒を拾い上げる。
うん、乾燥しているな。
それから棒の先に油を染み込ませたボロ布を巻きつけてやる。後は『着火』の指輪で火を点ければ、簡易な松明の完成だ。
採掘者組合や魔法道具を扱う店に行けば、光を灯す明かりの魔法道具も売っているけど、俺は松明を愛用していた。
迷宮内では極稀に空気が汚れている場所もあって、倒れてしまう事もある。
パーティーで迷宮へ訪れていたなら、倒れた時に助け合うこともできるが、俺のようにぼっちで迷宮に潜っていると、汚れた空気の存在に気付かず倒れてしまえば、そのまま命を落としかねない。
そこで、松明の出番ですよ!
松明に灯った炎で、目に見えない空気の汚れにも気付けるというわけ。
それに何より、松明は安いしね(本音)。
「でも、可燃性の空気だって存在するんだよ。松明の火でボンッて爆発するかも?」
………………。
…………。
……。
「ま、まあこんな町の近くにある迷宮の入口で、危険な場所があれば噂になっていたりするしな。大丈夫、大丈夫!」
「あれだけの間があったってことは、その可能性は考えていなかったんだね? いなかったんだね?」
はい、考えていませんでした。
「え、え、偉いぞ、アルテナ! よくそこに気がついたな! 今のは、その……まあ、仲間というものがどれだけ大切なものなのか、アルテナに教えようと思ってね。ちょっと俺の案のどこに穴があるか、アルテナを試してみただけなんだ。わかったか? これがソロとパーティーの違いなんだ。一人が間違った考え持っていても、他の仲間が指摘して修正することができる。仲間というものがどれだけ大切なものなのかわかっただろう」
ぼっちでの迷宮探索は、当然のことながらパーティー、ギルドでの攻略に比べて難度が高い。
一人であらゆる事態を想定し、あらゆる対策を立てなくてはならないからだ。
今も俺が全く思いもしなかった可燃性の空気の事について、アルテナが指摘をしてくれた。
これもパーティーのメリットである!
「勢いで誤魔化そうとしてない?」
ジト目で見てくるアルテナから目をそらす。
だけどいいな、誰かと一緒に探索をするのって。
一人で迷宮の中へ潜って、無言で探索するよりも、こうして誰かと会話しながら行くと楽しい。
今までずっとぼっちだったので、内心嬉しくて仕方がない。
仲間が人じゃなくて、聖剣だと主張しているけど。
首から『大特価! 金貨一万枚!』の値札をぶら下げてる変な奴だけど。
一応、こんなのでも女の子なんだよな。
女の子だ。
仲間ができただけでも嬉しいのに、野郎じゃなくて女の子と一緒というのは心が弾む。
そんな浮ついた事を考えていたのがいけなかったのか。
「ねえ、何だか足音がしない?」
アルテナが小首を傾げてそう言うまで、俺はまったくそれに気づかなかった。
場所はまだ入り口から入ってすぐの所で、振り向けばまだ入り口から漏れている外の光が薄っすらと見える場所だ。
こんな所でもうモンスターとの遭遇か? それとも、俺と同じような駆け出しの採掘者がこっちへやって来ているのかも。
ここはファタリアからわずか二百メートルも離れていない場所なので、とっくの昔に採掘者たちに荒らされ尽くしている。だから、俺のような探索時間と経験値を積みに来た駆け出し採掘者しか訪れないはずなんだけどな。
一応、右手にショートソードを構えて近づいてくる足音に備える。
数は複数。
かなり足音は激しく、走ってこちらに近づいている様子。
あれ、これって……アルテナを拾ったときの俺の状況にそっくりじゃね?
もしかして、またジャイアント・ラットに追われている誰かじゃないだろうな?
でも、足音は複数あるからパーティーだと思う。
パーティーで来ているのならジャイアント・ラットが群れでいたとしても、そうそう遅れを取ることは無いはず。
いくら駆け出し採掘者であっても、パーティーを組んでいてジャイアント・ラットに負けるようなら、さすがに転職することをおすすめする。
足を止めて様子を窺っていると、迷宮の奥に光が見えた。
「っ!?」
まず真っ先に姿を現したのは――女の子?
光は左手の指に嵌めた『明かり(ライティング)』の魔法道具の指輪らしい。
女の子は俺たちの姿を見て驚いたのか足を止めて息を呑み、その後ろから続いて姿を現したのは――。
「うげっ!」
「ひえぇぇ……」
身構えていた俺たちですら思わず声をあげてしまった。
迷宮から逃げてきた女の子はパーティーを組んでいたのではない。
複数聞こえていた足音は、彼女を追いかける腐った死体で有名なモンスター、ゾンビの足音だった。
◇◆◇◆◇
ゾンビは迷宮の中で倒れた採掘者の死体が、瘴気を浴びてモンスターと化したものが多いのだが、俺たちの前に現れたのはまだ随分と新鮮(?) なゾンビ。
その数四体。
四人パーティーの採掘者だったのだろうか。四体とも腐敗の進行度が同じくらいで、肉がまだ完全に腐りきっていない。
目玉だって、まぶたの肉が朽ち果てているのに、全然まだくっついている。
頭に大きな穴が空いていて、脳っぽいものがはみ出している者、四肢を欠損している者、首が不思議な角度で曲がっている者がいる事から、不慮の落盤か何かで命を落としたのだろう。
闇の中、松明の揺らぐ明かりにぽっかりと浮かび上がったゾンビ。
揺らぐゾンビの影が、より背筋が凍るような恐怖を覚えさせる。
「うええ……吐きそうだよ」
というか臭いがヤバイ。
アルテナが涙目で鼻と口元を押さえている。
俺も同感だ。
立ち止まっていた女の子が、はっと我に返ると、俺たちの前でクルリと向きを変えて、ゾンビたちの方へと向き直った。
「すまない! 太陽の光をアンデッドは嫌うと聞いたのでこちらへ逃げてきたのだが、まさかここへ他の者が来るとは思っていなかった」
アンデッドモンスターは太陽の光に弱い。だからゾンビに出くわした彼女が、数の不利に地上へ逃れようと判断したことは理に適っている。
「一人なのか? ゾンビの数は?」
「四体」
多いわけじゃない。
ゾンビというのは筋肉や筋、腱といったものが腐り落ちていて、大抵の場合動きが遅い。
そのドギツイ見た目と、強烈な悪臭に耐えられる精神があれば、数がいても苦戦するような相手ではないのだけど。
「見ての通り奴らはまだゾンビになって日が浅いらしく、肉が残っている。そのせいかやけに動きが機敏なんだ」
そういうこともありえるのか!
ゾンビはもう目と鼻の先の距離にまで迫っていた。
「うぉおおお……」
「うぁあああああ……」
怨念を感じさせる呻き声を出しつつ、ギョロリと濁った目で生者を見る。
確かに彼女が言う通り、その動きは早い。
足元もおぼつかないこの場所で、この距離まで近づかれてしまっては、奴らに背を向けて逃げるのはちょっと難しいか?
「巻き込んでしまったのは私だ。私がここに残って時間を稼ぐから、君たち二人は先に逃げてくれ」
『明かり』の指輪を指から抜いてその場に落とすと、女の子は腰から武器を抜く。
女の子の獲物は刀だった。
斬撃に特化した片刃の剣だが、彼女の剣は刺突にも使えるように先端部分が両刃になっていた。
「この状況で一人残して逃げられねぇよ」
ましてや女の子だぞ。
しかも、俺たちと出くわして足を止めたりしなければ、彼女は太陽の光の下へ逃げ切れていたはずなのだ。
ゾンビに追いつかれてしまった責任は、俺たちにだってある。
「ありがたい。力を貸してくれるのか?」
ショートソードを構えて隣に立つ俺に、女の子が小さく礼を言う。
「こうなったのも俺たちがここで待ち構えていたせいもあるからな」
「私はシーナという。採掘者だ」
「俺はノア、こっちはアルテナ。同じく採掘者だよ」
「グルアアアアアアアアアアアア」
まず、真っ先に追いついてきたゾンビが俺たちへ襲い掛かってきた。
生前は重量のある片手斧を得物とする戦士だったのか、筋骨隆々な大男のゾンビだ。
そんなでっかいゾンビが、口の端からボタボタとヨダレを垂らし、斧をおおきく振りかぶって迫ってくる。
こ、怖ぇよ!
いや、半端ねえ迫力なんですけど!
もしかしたら、生前よりも迫力が増しているんじゃないですか?
ただ、動き自体は単純で直線的。避けるのはそう難しくない。
ガヂィイイイン!
振り下ろした斧の刃が、床の石を叩く。
火花が激しく散り、砕けた床の破片が小石となってあたりに飛び散った。
見ただけで、その破壊力を思い知らされる。
そして。
これだけ激しく斧を固いものに叩きつければ、普通は手が痺れて武器を取り落とすものなんだけど……、奴はまるで意に介した風もなく、斧を横へ振り回す。
ガァアアアアン!
今度は壁に強くぶち当たって、壁の破片が飛び散った。
もしかして、筋力の限界も超えている!?
生前よりも強くなっているんじゃないか?
「ゾンビってのはアンデッドでも雑魚だって話だったのに……っ! よっと……、全然話が違うじゃないか!」
振り回される斧から、後ろへ飛び退きざまに叫んだ。
「私もそう、っと……聞いていた! でもこのゾンビは、亡くなられてから日が浅い。肉が腐っていない。新鮮な動く死体とでも言うべき、ゾンビなんじゃないのか?」
「そういう事もあるのか!」
「なるほど……、ゾンビは新鮮だと強さが増す、と」
ただ一人、最も安全な後方で、アルテナが冷静にウンウンと頷いていた。
お前も戦わんかい!
と、その時。
斧を勢い良く振り下ろしたゾンビが、足元にあった瓦礫につまずいて、身体のバランスを崩した。
しめた!
一瞬のチャンスを見逃さず、俺はゾンビの腹部を足で押すように蹴り飛ばす!
グチャア……。
嫌だ。
もう泣きたい……。
妙な感触が足に伝わって、俺は泣き出しそうな顔になった。
「最悪だよ、ゾンビって……」
「うっ、重ね重ねすまない……っ! 危ない!」
横合いから俺へ掴みかかってきたゾンビの両腕を、シーナの刀が肘の辺りから切り飛ばした。
ブヂュッ。
どす黒い液体が飛び散るのを見て、俺たち三人は慌てて後ろへ飛び退いた。
「あれ、服に付いたら絶対に臭うよね……」
アルテナの呟きに俺もシーナも顔が引きつる。
きっと洗ってもなかなか落ちない、強烈な悪臭を漂わせることになるだろう。
「アルテナ、あいつらお前の炎で燃やせないか? 火、出せるんだろ!?」
アンデッドのゾンビを倒す手段は四つあると聞く。
一つ、動けなくなるまで切り刻む。
二つ、日光の下に誘い出す。
三つ、死体のどこかで結晶化している魔石を取り除く。
四つ、炎で焼き尽くす。
「お、ノアもようやくアルテナが聖剣だって信じてくれた?」
「信じるか信じないかともかく、火が出せるならあいつら焼き払ってくれ」
「もしかして火炎系の魔法道具を持っているのか!?」
俺たちの会話を聞きつけ、助かったという表情を浮かべるシーナ。
「フフン。まあ、見てて」
期待を一身に負って俺たちの前に出たアルテナが、自信満々に胸を張ってゾンビの前へ立ちはだかった!
「ふぇ〜ん……、でもやっぱり、気持ち悪い。怖いよ……」
が、ゾンビを前に怖気づいたらしい。
涙目でおれたちを振り返るアルテナ。
「気持ちは分かる。分かるけど、今はお前が頼りなんだ! 頼む、早くしてくれ! 残りのゾンビがっ、ゾンビが来ちまう!」
「うう……グス……でも、うん、頑張るよ……っ!」
そしてアルテナはゾンビに向けて両手を突き出すと――。
「燃えちゃえ!」
と大声で叫んだ。