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第二十九話

 前方に断崖絶壁が現れた。

 その岸壁を一本の水量豊富な滝が流れ落ちている。崖上から下の川の滝壺まで、落差が百メートルくらいあるんじゃないか?

 

「凄い迫力だな……」


 滝が近づくに連れてそのスケールの大きさがわかってきて、シーナが感嘆のため息を吐いた。


「うん、立派な滝だね。ボクも色んな滝を見てきたけどさ、その中でも十本の指に入るくらい立派だね。もっと道が良かったら観光資源にもなりそうだよ」

「地図によると、この辺りに遺跡があるはずだぞ?」

「あ、ほら、ノア見て見て。あそこにまだ新しい感じの崖崩れした跡があるんだよ」


 地図に目を落としているとグイグイとアルテナが袖を引っ張った。

 滝壺からそう離れていない場所に、崖の地肌が他の場所よりも幾分明るい色になっている場所があった。まだ崖崩れを起こしたばかりで風雨に晒された時間が短い事を物語っている。コケ類などの植物も、まだ生え揃っていないようだ。


「遺跡らしい建物は見えるか?」

「ここからだとちょっとわからないな。岩に隠れているのかもしれん」


 アルテナと並んで目を凝らしていたシーナが言う。


「こっちにロープがあるね。ここから下の川辺りに降りられそうだよ」


 俺たちと離れてもう少し先まで行っていたルナさんが、太い木に結わえられていたロープを発見した。

 崖崩れを調査しに来た『天上の剣』のメンバーが残したものだろう。

 

「ちょっと濡れてるけど、強度は問題なさそう」

「降りている途中で手が滑ったらと思うと怖いな。ロープは私たちも持ってきているので、そっちを命綱にして降りようか」


 というわけで、崖下へと降りていく。

 まず、ルナさんが先に降りてから、シーナ、アルテナの順番に降りていく。

 体重が一番ある俺が最後に降りた。

 命綱を腰に結わえて、元から張られていたロープを使って降りたのだけど、岸壁には十分な足掛かりがあって、降りるのは難しくなかった。

 ロープを残していった『天上の剣』の連中も、ロープは身体に巻いて命綱として使ったのかもしれない。

 上から見るだけだった谷底の川は、近くに降りてみると結構水深があって水量も多い。

 まあ、岸壁から落ちてくる滝の水量を見れば、これくらいの水深があっても不思議じゃないか。

 ただ、百メートル近い落差があるせいか、叩きつけられた水は霧状になって辺りに漂っている。

 ただ立っているだけで、俺たちの身体はびっしょりと濡れてしまっていた。


 さて、そこで問題になってくるのは俺たちの格好である。

 俺たち採掘者(ディガー)は重武装を好まない。

 人間相手には有効な鉄製の鎧兜も、野生の獣、昆虫をベースとしたモンスターを相手にした場合、その重量が仇となるからだ。

 とにかく動きが速いモンスターを相手にした場合、重い鎧では動きが制限されてしまう。その上、中型から大型のモンスターの一撃は重く、金属鎧を着込んでいても攻撃を受ければ一撃で致命傷となりかねない。

 たとえばさっき俺たちが遭遇した獣の王者、巨腕熊ビッグ・ハンズ・ベアー。獣型のモンスターでは頂点に位置するが、あれでもモンスターとしては中型になる。その巨腕熊ビッグ・ハンズ・ベアーでさえ、腕のひと振りで大木の幹をへし折ることができる。

 想像してみて欲しい。

 全身を騎士のように板金鎧(フルプレートアーマー)で固めたとして、大木を一撃でへし折るような攻撃をもらった場合どうなるか。

 おそらくは鎧はへしゃげて、中身も衝撃で内臓破裂を起こすだろう。 

 ついでに野生動物にはあり得ない炎を吐いたり、電撃を放つ能力を得たモンスターの事を特別に魔獣と呼んでいるが、魔獣に出くわせば更に鎧は何の役にも立たなくなる。

 採掘者(ディガー)の戦い方は、基本的に身軽さを大事にして極力相手の攻撃を避けることが大切なのだ。


 というわけで、大分話が逸れてしまった気がするけど、ここで俺たちの格好の話に戻ろう。

 採掘者(ディガー)である俺たちは、身軽さを大切にしているため、鎧を着込んだりしない。基本シャツ、まあせいぜい防寒用にローブやコートなどの外套を羽織るだけだ。

 そして、五月の陽気は薄っすら汗ばむほど暖かく、その上俺たちは長距離を歩いている。

 つまり、防寒用の外套など脱いでいた。

 そこに衣服が濡れてしまったりしたならば――。

 透けてしまって見えてしまうのである。男の子には嬉しいものが下着とかそのあたりが色々と。


「…………なんだかノアの目がいつも以上に輝いているようにみえるんだよ」

「な、いや、これはだな……その、目の前に未踏破の遺跡があると思ったら、俺も一人の採掘者(ディガー)として、こう、心の底からそこはかとなく、やる気がほとばしってきてだな」

「アハハ、男の子だからね。仕方ないよ。でも、お姉さんのスケスケ悩殺姿に目を取られすぎて、周囲への警戒がおろそかにならないようにね」

「違いますよ! 俺は、本当に採掘者(ディガー)として未踏破の遺跡にいよいよ挑める時が来て、気合を入れなおしていただけです! さあ、まずは遺跡の入り口を探そうぜ! その前にとりあえず、荷物から外套を着とけ! 見てないけど、全然見ていないけど、とりあえず着ておいてくれると、その、俺が助かります……」

 

 でもすみません。正直ルナさんの子ども体型ではちょっと。

 せめてアルテナぐらい。

 いや、ジト目で見つつ身体を隠そうとしているアルテナには正直色気を感じている。

 ただ、ただね、それ以上に今、ルナさんの隣で恥じらうように己の胸を両腕で隠している方の破壊力がたまりません。


「うーん……シャツが透けてしまっているのも問題だが、身体に貼り付いて動きにくいのも困る」


 服がピッタリと貼り付いてしまっているため、シーナの両腕で隠しきれない豊かな胸、しっかりとくびれた腰など、身体のラインがよくわかってしまうのだ。その上容姿端麗なシーナが、恥じらいの表情を浮かべているものだから、とてつもなく色っぽい。

 

「ええっと…………ノア、その、あまりじっと見つめられると、恥ずかしいし、困る………………」

「悪ぃ」

 

 でも、見るつもりはないんだけど、入り口を探しているとどうしても目に入ってしまうのは仕方ないことだと思うんだ! それに、耳まで赤くなってうつむき、恥じらっているシーナは戦闘時のカッコ良さとのギャップがあって破壊力があるんだよね。


「やれやれ。ノア君の集中力が削がれちゃうから、シーナさんもアルテナさんも、これ着とこうか」

「ノアの集中力が削がれる前に、私が恥ずかしさで身動き取れなくなりそうだ」

「これ以上、ノアが野獣のようになっちゃったら、仮りそめの契約を結んでいる私も困るからね」

「誰が野獣だよ、ったく……」


 ルナさんから差し出したコートをそそくさと身体に羽織ると、前をしっかりと合わせて身体を隠すシーナ。

 ち、残念。

 

「アハハ、気にしない気にしない。男の子ならそういうもんだよ、アルテナさん。それに男女混合パーティーなら、この程度のハプニングなんてよくあることだもの」


 自身もコートを羽織りつつ、あっけらかんと言うルナさん。


「そ、そういうものなんですか?」

「そりゃそうだよ、シーナさん。野宿なんてしたら交替で火の番するし。その時には寝顔だって見られちゃうんだよ? 暑い夏なら薄着だし、服だってはだけちゃうかもしれないからね」


 言われてみるとその通り。人間、寝ている時が一番無防備となるのである。

 そしてルナさんの言うとおり、まだ春先であれば夜は冷えるので、しっかりと毛布に包まって眠る。

 見られたとしても寝顔まで。


「そういえば、前に野営した時は全然気にしていなかったけど……言われてみるとその通りだった。ノア、まさか見てはいないだろうな?」

「大丈夫だって。そりゃまあ、寝顔は多少見てしまったけどさ、毛布にちゃんと包まって寝てたよ」

「そ、そうか。でも寝顔はやっぱり見られていたのか……その、私は変な顔をしてなかっただろうか?」

「いや、そんなジロジロ見るような無礼な事はしていないから。大丈夫だって」

「そうか。信じるぞ?」


 シーナはそう言ってほっとしたように安堵のため息を吐くシーナ。ところで確かに以前の野営では、しっかりと毛布に包まって眠っていて、ルナさんの言う嬉し恥ずかしの場面は見ることは無かったのだけど、これが暑さで寝苦しくなる夏となればどうか?

 身に着けている服は当然薄着。毛布に包まって眠るなんてとんでもない! せいぜいが薄いシーツ程度を被って寝るくらいだろう。

 そして起きていればしっかりと警戒をしていても、寝入ってしまえば無防備となる。暑くてシーツや服をはだけてしまったって不思議じゃない。

 夏か……。

 二ヶ月後には日差しも強くなってきて、気温が高くなってくる。

 日が高くて早朝も明るく夕暮れだって遅い。探索するにはうってつけの季節だよな。

 いつまでも近場の枯れてしまった迷宮探索をしているんじゃなくて、今回の未踏破遺跡の探索のように、遠くまで出かけて自分たちの力を試すのも重要だ。

 何泊かの予定で遠征にでるのもいいかもしれない。

 帰ったら早速採掘者(ディガー)組合に行って、ちょうど良さそうな探索場所を幾つか見ておくとしよう。


「…………何だろう。ノアから邪な感情が感じられるんだよ?」

 

 ルナさんの話を聞きつつ、今後のパーティーの素晴らしい予定表を立てていた俺をアルテナが半眼で見ていた。

 こいつめ、どうしてこういう時に限って鋭いのか。アレか? 仮りそめとはいえ契約を結んじまっているから、俺の思考とか感情なんかがアルテナに伝わってしまっているのか?


「単にノアの顔に出やすいだけだよ。鼻の下が伸びてるもの」


 やめろよ、そういうこと言うのは。

 ルナさんはケラケラ笑っているし、シーナですらちょっと身を引いちゃってるじゃないか。


「な、何を言ってるんだ、このへっぽこが! バカ言ってないで、お前も遺跡の入り口探せ! この辺りにあるのは間違いないんだから」

「勢い良く言って誤魔化そうとしたってダメなんだからね」


 俺ってそんなに考えている事が表情に出やすいのだろうか。そんな事を考えながら、俺たちは遺跡を探した。

 というか、くまなく探す必要もなかった。

 崖崩れしている場所へ少し近づいただけで、崖の窪みに遺跡らしい建物が埋まっているのを見つけたのだ。


「本当に埋まっているんだな……」

「どうして地面の中に建物なんて作ったんだろうね?」


 遺跡は一部分だけが崖から露出している様子。ただ、見える部分から推測すると建物は太い柱のような塔の形状をしている。

 その遺跡を見上げてシーナとアルテナがもっともな感想を言い合っていた。


「アハハ、アルテナさん。崖の中に建物を作ったんじゃないよ。神様が異邦の神を封じた時の力の余波で土砂が大量に舞い上がって、もともとは何もなかった平地に大きな山を築いたの。その山が作られた時にこの建物も埋まっちゃったんだろうね」


 ルナさんの説明のとおりだ。

 神々は邪神との戦いで大陸の中央地下深くへ、邪神を封じ込め迷宮を築き上げた。

 その際、神様は大陸中央にとてつもなく巨大な穴を空けたとされる。そしてその時に生まれた大量の土砂は、穴の周辺に降り注ぎ幾つもの山となった。

 山ができた人の都市や集落はその下に埋もれてしまった。

 そして数千年の時が過ぎ、山には植物が生え、モンスターが住むようになったのである。


「この川は長い時の間にどんどん大地を削っていって、こんなに深い谷を形成するようになったんだろうね」

「そして崖崩れがとどめを刺して、何千年も前に埋もれたはずの遺跡が地上へ顔を出したんだな」


 もしかすると、この崖沿いを本格的に調査すれば、この塔のような遺跡だけでなく、もっと他にも未発見の遺跡を発見することができるかもしれない。


「ノア、こっちから入れそうなんだよ!」


 俺とルナさんが数千年の時の重みを感じ取っていると、さっさと先に進んでいたアルテナが手を振って俺を呼んでいた。

 うーん、このへっぽこは情緒というものを感じたりしないのか?


「そんな事を言っても、アルテナは最近目覚めたばかりなんだよ。この塔みたいなのが埋もれたのは、アルテナが聖剣として大活躍してた時のことなんでしょ? 記憶はないけど、だったらアルテナの感覚的には塔が埋もれたのも、つい最近の出来事のようなもんなんだよ」

「そういうものなのか……」

「そういうもんだよ」


 アルテナ的には数千年の時を眠って過ごしていただけなので、長い時の流れも一瞬で過ぎたように感じているのか。

 俺には理解しづらい感覚だ。


「入り口は結構広い。遺跡の構造も頑丈そうだ。これなら今日、明日に崩れるようなことはなさそうだ」


 一足先にアルテナのもとへたどり着いていたシーナが、岸壁から露出した遺跡の壁を叩いてみたり、入り口から見える壁の厚さを確かめみたりしていた。

 遺跡の入り口はほぼ正方形の形をしていた。本来は入り口ではなく、窓か何かだったのかもしれない。

 窓だった場所の周辺の壁が崩れ落ちて大きく広がったように見えた。

 中を覗き込んでみると通路は階段の途中のようだ。上にも下にも階段が続いているようだ。どうやら塔の外周に沿って螺旋に階段が作られているらしく、階段は上も下も緩やかに曲がっている。そしてその先は光の差し込まない真の闇が広がっていた。


「ボクは明かり(ライティング)のスティックを使うよ」

「私も明かり(ライティング)の指輪がある」

「じゃあ俺が松明を使うか」


 三つも明かりがあれば、足下は十分に明るくなる。

 魔法道具(マジックアイテム)の明かりだけでなく、松明もあれば魔法封じの罠があっても明かりは保たれるし、汚れた空気のある場所なら松明でわかる。それに空気の流れも炎の揺れでわかるしな。


「それで上と下、どっちに行く?」


 入り口で三人を振り返る。


「この塔が何を目的にして建てられたかによるね。まずはボクたちの依頼人ドンペリーニが欲しがっている書物などがありそうな場所を探したいんだけど」

「書庫のような部屋があるなら、陽の光を避けるために地下に造られそうだ。でも、地位の高い人物の部屋は高い場所にあるというのも相場だ。貴重な書物や資料などは上の階にあるかも?」


 どっちにする? というようにルナさんとシーナが俺を見た。

 聞いたのは俺なのに、俺が決めるのか?

 

「俺は上かなと思う。というか、ここって谷底だろ? 下の階に書庫があっても増水した時に浸水するとかして、書物はダメになってる気がするんだ」

「へえ……そう言われてみればそうだね」

「おお、ノアがなんか賢そうな事を言ってるんだよ」


 ルナさんが俺を見て感心したように言い、アルテナが本気で驚いたというように言う。

 

「言われてみると、確かにノアの言うとおり階段に水が流れ込んだような跡がある。もしかしたら下の階は今も浸水しているかもな」


 アルテナの額にデコピンをかましている間に、明かり(ライティング)の指輪で下の階段を照らしたシーナがそう言った。


「ノアの言うとおり上の階段を昇ってみようか」




 階段の幅はかなり余裕のあるものだった。

 俺が両手を広げたよりも、さらに広さがある。階段の螺旋もかなり緩やかに大きく曲がっている。塔の外周は崖に埋もれていてわからなかったが、けこうな大きさがあるようだった。

 入口部分以外はいまだ崖に埋もれていて、壁に空いた窓らしき四角い穴も、土に埋もれてしまっていて外の光が差し込まない。

 気温も地下迷宮や洞窟に入った時のように少し低く肌寒い。湿った土とカビの臭いが混じり合って、一種名状しがたい悪臭が満ちていた。

 足下の階段は砂や乾いた泥でザラザラとしていて、少し滑りやすかった。

 戦鎚(ウォーハンマー)を握り締めて慎重に進んでいくと、階段が終わって平坦な廊下へと出る。


「部屋が幾つもあるぞ」


 シーナの呟きが暗闇に反響する。

 廊下の内側の壁沿いに幾つもの部屋への入口がある。扉もあったようだが、長い年月で木材は朽ちてしまったらしい。

 扉の補強用に使われていたらしき金具がボロボロに朽ちて転がっていた。


「何だ、この部屋は。まるで私たち学院の学生寮の部屋のようだ」


 部屋の一つに入ったシーナがそんな感想を述べた。

 中は簡素な机に椅子、それに寝台。倒れてしまった棚らしいものが二つ。床には食器だったのか陶器の破片やガラス片が散乱している。

 机と椅子の木材もボロボロになっていて、小柄なルナさんやアルテナの体重も支えることができなさそう。

 寝台に残されていたシーツも糸が朽ちていて、ちょっと引っ張っただけで引き裂けそうだ。


「書物、あるね」


 倒れた棚の下を明かり(ライティング)のスティックで照らしていたルナさんが俺を呼ぶ。


「ちょっとこの棚、起こしみてよ」

「了解です」


 ルナさんと二人で棚を起こしてみる。

 この棚も木材が朽ちてしまってスカスカなのか、見た目以上に軽かった。これならルナさんの助けを借りなくても一人で持ち上げられていたな

 棚の下には幾冊もの書物が床に散らばっていた。

 

「どう?」


 真っ先に棚の下に潜り込んだアルテナが、慎重な手つきで一冊の本を持つとページを開いた。

 

「ちょっと乱暴にしただけでバラバラになっちゃいそうなんだよ」


 木材が朽ちる程の時の流れだからなぁ。

 書物に使用した紙だってただじゃすまないよな。


「こっちにも何か書き付けのようなものがあるぞ」


 机を調べていたシーナが、苦労して開いた机の引き出しから束ねられた紙を見つけ出していた。

 どうやら書物と呼べるようなものはこれだけのようだ。

 

「ねえねえ、こっちは服があったみたい。それと、はいこれ」


 アルテナが黒ずんでしまった布袋のようなものを俺に寄越す。


「随分と古い硬貨だな、これ」


 真っ黒になっているが銀貨だろうか?

 古い通貨なので今は使えないのだが、昔の銀貨でも鋳潰してしまえば使えるようになるので引き取ってもらえる。

 ただ、俺たちの目的である書物の量が嵩張るようなら、ここに置いていかなければならない。

 そしていまのところ、書物関係はかなりの量が見込まれそうだった。


「とりあえずひとまとめにして廊下に積んでおかないか?」

「そうだね。他の部屋も似たような感じなら、書物はまだまだたくさんありそうだしね」


 とりあえず部屋の外へ積んで置いておくことにした。それにこうして外に積んでおけば、調べ終わった部屋だとわかる。

 アルテナが言った通り本も両手で丁寧に持ち上げないと、ページがバラバラになってしまいそう。それにシーナが見つけた書き付けの束も、紙が朽ちていて、ちょっとしたことでボロボロと崩れてしまいそうだった。


「ノア。松明の火の粉がちょっと危ないかもしれない。乾燥しているから燃えてしまうんじゃないか?」

「そうか。明かり二つになるけど、仕方ないか」


 シーナの指摘通り、火の粉が散っただけで燃えてしまうかもしれないしな。

 松明の火を消してから隣の部屋へ行く。

 結局、このフロアにある部屋は全部で六つ。内装もほぼ同じような部屋だった。

 多少部屋の主によってレイアウトが違っていたりするだけ。

 

「これとこれ、同じ本なんだよ。あっちの部屋にも同じのがあったよ」

「読めるのか?」


 部屋の外に置かれた本を幾つか手にとって見ていたアルテナが言う。


「うん。古代神聖文字? ってやつだよ、これ」

「ふーん……ますます学生寮のような気がしてきたぞ。同じ内容の本って教科書か何かじゃないか? この遺跡はもともと教育機関だったのかも」


 アルテナの話を聞いてシーナが小首を傾げる。


「もしくは研究機関とかね。ここは研究員の個人部屋だったのかも」


 シーナの言うとおり教育機関だったとしても、ルナさんの言うとおり研究機関だったとしても、どうやら上を目指したのは間違いじゃなさそう。


「私が気になっているのは天井が高いこと。階段、廊下の幅も随分と広いことだ。ただの教育機関、研究施設でこれほどに金を掛けた造りにするだろうか?」

「見てみて、この壁とかにも文字が彫られてるんだよ」


 アルテナが石壁を撫でた所の埃が払われて、その下から掠れてしまった文字のような紋様が出てきた。

 

「何が書かれているんだろうな、これ」

「うーん……『月が欠け』…………『陽が』『沈む』……この字は『扉』かな? これ、掠れすぎてて、よく読めないんだよ。えっと、『訪れる』、『姿変え』『力』」

「ああ、いいよアルテナ。時間かかりそうだ」

「うん、そうだね」


 壁一面に結構びっしりと描き込まれているからな。

 これ、当時に伝わっていた神話か伝承を書き記したものなんだろうか?

 歴史的価値はありそうだけど、これを今すぐ写し取るのは厳しそう。

 ただ、これだけのものを壁に刻み込んでいることからして、この遺跡がただの塔では無さそうという事だけは理解できた。

 ということは、こういう施設ってだいたい、高い階程地位の高い者の部屋があるって相場が決まっているので上の階に期待が持てそうだ。

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