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炎の魔剣士(改稿済)

 見える範囲に、亜人たちの姿は無い。

 丁度クレーターになってしまった場所に亜人たちは固まっていたので、消し飛んでしまったんだろうか。

 跡形も無く消滅してしまっていてもおかしくない範囲と深さのクレーターだからな。

 大爆発の余波は、ファタリアの町側に布陣していた防衛部隊にも出ていた。


 森側に向けて火球を放ったので、クレーターも森側に大きく抉れているのだけど、それでも多少の瓦礫はこっち側へ降り注いでる。

 重傷者は幸いにも出ていないみたいだけど、軽傷者が幾らか出ていた。

 というか、死人が出なくて良かったよ。

 アルテナを使う時は、本当に注意しよう。

 まだ土が空気に舞っていて埃っぽいし、口の中に砂が入って気持ちが悪い。 

 亜人との戦闘は終結したと見做したのか領主代行の指示の下、後始末が始まった。

 まずは負傷者を町の中へ運び込み、戦死者の遺体も収容して、丁重に安置しなければならない。


「無事で良かった……本当に……」

「ああ、手足の一本くらい……死ぬよりゃはマシさ」


 と言った声。


「気をしっかり持て! 戦は終わったんだ! すぐに医者に見せてやるからな!」

「幼い息子が待っているんだろ! 死ぬんじゃねぇぞ!」


 負傷者の無事を喜ぶ声、重傷者を励ます声も聞こえて来る。

 その一方で。


「くっそ……あいつが死んじまうなんて……」

「うおおおお、何で死んじまったんだよぉ……」


 死者の仲間たちのものだろうか。

 悲痛な叫びもあちこちから聞こえて来た。

 仲間の死を悼む彼らに戦場の後始末という作業をさせるのは酷だろうということで、無事だったパーティーやギルドに作業が回された。

 俺たちへは念のため亜人の残党が残っていないか周辺を警戒しつつ、魔石の回収を命じられた。

 押し込まれて乱戦状態となった時に討ち取った亜人の魔石は、そう苦労することもなく集めることができたのだが。


「おい、このクレーターの底にも降りるのか?」

「無理だろ、これ。まだ地肌が熱持ってるもん」

「ロープとか無いとこんなの降りれるわけ無いでしょう?」

「でも水が溜まったらますます魔石の回収なんて無理じゃないか」


 クレーターの底の方に粘土層でもあるのか、水の溜まる速度が速い。手頃なロープなどを調達してくる頃には、もう潜れない深さになっていそうだ。


「アルテナ、シーナ。もう先に帰ってもいいぞ」


 他の採掘者(ディガー)たちと一緒に並んでクレーターを覗き込んでいる二人にそう声を掛ける。


「いいの? でもまだ、仕事が残ってるんだよ?」

「クレーターの下まで降りるにしたって、どうせ俺たちに回ってくることは無いだろ」

「魔石の回収はともかく、他にも仕事はたくさんありそうだが?」


 シーナが岩石や木材が散乱した戦場を見回す。


「後はバリケードに使った木材の片付けなんかだろ? それにしたってそんなに時間が掛かるもんじゃないだろうし、このクレーターは埋め戻すのかどうか知らないけど、今日一日でどうにかなるもんじゃないから、どのみち後日に改めて作業することになるだろうしな」

「そうか」

「パーティーからは代表として俺一人残っていれば大丈夫だと思う。だから先に帰ってもいいぞ」

「そうか、そうだな」

「風呂にでも入って、サッパリしてきたらどうだ?」

「うん。じゃあアルテナ、せっかくだしノアの好意に甘えようか」

「はーい」


 シーナは小さく微笑むと、アルテナに声を掛ける。


「では、私たちは先に失礼します」

「お先に〜」

「おう、シーナちゃんもアルテナちゃんもご苦労さん」

「ご苦労さんだったなぁ。ゆっくり休めよ!」


 シーナは男どもに混じって率先して力仕事を手伝っていたため、すっかり人気者になっていた。

 アルテナも男どもに手を振られて、嬉しげに手を振っている。あいつはあいつで、首の金貨一万枚の値札のせいですっかり有名人だ。

 二人とも、容姿は優れているからな。

 逆に俺は、アルテナの金貨一万枚の値札のせいか、女の子を金で売買するクズという誤解が生まれそうで怖い。

 それにしても、まさかあのアホ面で手を振ってるアルテナが、そこのクレーターを作り出した張本人だとは誰も思わないだろう。


「それにしても、あの魔剣士は何者だったんだろうなぁ?」

「すっごいわよねぇ、コレほど高威力の爆発を起こす魔剣持ちなんて、噂でも聞いたこと無いわよね」

「パーティーじゃなくて、ソロっぽかったけど。どこかの遺跡から発掘された魔剣なのかな?」

「きっとそうだと思うぜ。もし製作品ならさ、噂になってるだろ。あれだけ強力な魔剣なら」

「確かに。レベル4から5だろうね、あの魔剣は」


 作業している間、無事だった採掘者(ディガー)たちは、強力な炎の魔剣を使う剣士の事を噂していた。

 様々な噂が流れていたが、まとめてみるとこうだ。


 オーガ、トロル、ミノタウロスを一刀のもとに斬り捨てるという、炎の魔剣を操る無双の剣士。劣勢にあった採掘者(ディガー)たち防衛部隊に立て直す時間を作り出した上、最後は強大な炎の魔法でとどめをさした。

 その活躍はまさに英雄。

 しかし、戦いを終えた後、炎の魔剣士は名を名乗ることも無く立ち去っていた。


 いやあ、照れるわぁ〜。

 その魔剣士の正体が俺だって名乗り出ることはできないけどな。

 それに名乗り出たところでこの惨状。

 目の前の巨大なクレーター。

 地下水や近くの川の水が流れ込んでいて、幾筋もの滝ができている。

 いずれ湖になるんじゃないか、これ。

 この惨状の責任を追求されかねない。


「くっそ、ついでに後始末もしていって欲しかったよな」

「本当だよ。この穴、どうするんだろうな? 埋め直すよりも穴沿いに道を作ったほうが楽じゃね?」

「飛び散った土砂もまとめておかないとね」

「それよりも魔石だよ、魔石! 組合の奴らに聞いたけどさ、半分くらいしか回収できてねぇってさ」

「マジかよ!」

「回収した魔石も今回の防衛戦の報酬に含めるつもりだったから、魔石の回収量が少なくて、報酬減額も考えられるって話だぜ?」

「勘弁してくれよぉ……」


 うん、やっぱり黙っていたほうが良さそうだ。

 バリケードに使った木材を撤去し終え、さらに櫓などの解体を始めようとしていたときだった。


「ノア! ノア! 大変! 大変なんだ!」


 呼ばれて俺は振り返った。

 シーナが血相を変えて走ってきている。

 アルテナと一緒にシーナが町に戻って、まだ一時間も経っていないぞ?


「何だよシーナ、そんなに慌てて。もしかしてアルテナを金貨一万枚で買うと言う客でも来たのか?」

「違う! 違うんだ、ノア! 本当に大変なんだ!」


 軽口を叩く俺に駆け寄ってきたシーナは、焦ったような声音で言う。


「いったいどうしたんだ?」

「ノア、大変なんだ。落ち着いて聞いてくれ。ノアの家の窓が……」


 家の窓?


「家の窓が何かハンマーのような物で打ち壊されて、家の中が荒らされている!」


 なんだってぇ!?



 ◇◆◇◆◇



 亜人たちの激しい攻勢にファタリアの町防衛部隊は苦戦に陥いった時、万が一の事を考えた領主は市民へ避難命令を下した。

 避難先は、クレスティア王国の軍隊が駐屯する王都メルキア方面。 

 町の防衛を採掘者(ディガー)たちに任せた領主は、守備隊と町の警察隊に連携させて、市民の避難誘導を開始した。 

 しかし、なにぶん緊急事態だったせいで、多数の市民の数に対して守備隊の人数では圧倒的に人手が足りなかった。

 主だった通りに守備隊と警察隊を立たせて、避難命令の伝達は市民間で作られている緊急伝達網を使って伝えることになった。


 ただこの市民による緊急伝達網は、ファタリアに住む住民の間で使われているものだから、町の外からやって来た旅人、そして市民登録されていない浮浪者は当然弾かれてしまう。

 旅人の多くは採掘者(ディガー)組合、商人組合、各職人のギルドといった組織に所属しているため、その所属組織から避難命令が伝えられた。

 所属していない旅人も、宿泊している宿の主人から教えてもらって避難を始めた。

 問題は、浮浪者たちである。

 一応、浮浪者たちにも守備隊や警察隊が声をかけて回ったが、どうしても目の行き届かない者たちが出てしまう。

 それに、領主の避難命令に素直に応じない連中だって多い。

 彼らは市民の避難誘導にあたる守備隊、警察隊の目から隠れて物陰に潜むと、人気が無くなったところで行動を開始した。


 表通りは避難中の市民が大勢いるため、目立たないような裏通りでだ。

 大きな商会こそほとんど無いが、裏通りにだって商店は存在する。

 そう、俺の店。

 レチカ武具店のような小さな店舗が幾つも存在するのだ。


「あああああああああああああ……」


 俺は店の中に入り、惨状を見て頭を抱えた。

 引き出しという引き出し。物入れがひっくり返されていて、部屋の中には足の踏み場もない。

 路地裏に面した窓が、外から破られていて室内にガラスの破片が散乱していた。

 ここから泥棒が侵入したことが窺い知れる。


「無い! 無い! 無い! 俺の……俺の……店の資金が……」


 なんで!?

 どうして?

 よりにもよってうちの店に泥棒に入っちゃうの!?

 うちなんて、零細の、吹けば飛んじゃうようなちっちゃい武具屋だよ?

 爆発騒ぎで、ここのところ毎日のように採掘者(ディガー)たちが武器の手入れのため、店に大勢押しかけていたから繁盛しているように見えたのか?

 更に運の悪いことに、ここのところ全く仕入れができてなかったのが裏目に出た。

 壁に作っていた隠し棚の中に置いてあった現金が、引き出しの二重底に隠していた換金用の宝石がごっそりと消え失せていた。


「こんなところまで……見つけるのかよ……」


 こんなの見つけるなんて、プロの仕業としか思えない。

 かさばる武器なんかの、売れ残っていた商品には手を付けられていないけど。


 被害総額、銀貨でおよそ二万枚弱……。

ここで第一章は終わりです。

次は二本め!

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