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作戦会議(改稿済)

「ところでさ、ノアは町の防衛戦には参加しないの?」

「するだろうけど、俺は戦場の端っこのほういるだけだろうな」

「そうなの?」

「防衛部隊の主力は町の守備隊と、大手ギルドに所属する採掘者(ディガー)だよ」


 ファタリアの町にも守備隊という名の領主が指揮する軍隊がいる。

 ただ、モンスターを相手取るなら専門家である採掘者(ディガー)が、主力を担うようになる。ギルドに所属している、探索時間(スコア)千時間を超えた採掘者(ディガー)たちが最前線に立つことになるだろう。そしてこうした防衛戦の場合、小規模ギルド、未所属の採掘者(ディガー)は、たとえ探索時間(スコア)千時間を超える熟練者であっても、主力から外される。戦争のような大規模な戦闘では指揮系統の統一が何より重要視されるからで、勝手気ままにソロの採掘者(ディガー)に戦場で暴れられては、作戦遂行に支障をきたすからだ。


「まあ、探索時間(スコア)一万時間超えの猛者だとかなら、自由に戦う許可を貰えるらしいよ」

「それでノアの探索時間(スコア)は?」

「……二百八十五時間と十二分」

「…………はふぅ、全然ダメダメだね」

「ダメダメ言うな」


 戦場の端っこに配置されるだろうと聞いて、アルテナはどこかがっかりした表情を浮かべている。


「何だ、アルテナは最前線で戦いたかったのか?」

「アルテナは剣だもの。それも英雄が振るうべき聖剣なんだよ? 軍勢と戦うなら、最前線で真っ向から戦いたかったんだよ」

「悪かったな、戦場の端っこに配置されるような存在で」


 ただ、確かに戦場の中心で剣を振るう英雄には憧れるけれども、俺自身の腕前は到底そんな場所に立つには不釣り合いであると自覚している。俺程度の実力で激戦地の真っ只中に立ちでもしたら、数刻としないうちに殺されてしまうだろう。


「今週、シーナ来るのかな?」

「さあ、一応来るって言ってはいたけど……」


 ファタリアへ来たところで、ファタリアの採掘者(ディガー)組合に所属している採掘者(ディガー)は、亜人の襲来に備えて待機の状態だ。探索に行くことができない。


「シーナも防衛戦に参加することになるのかな?」

「あいつがいる時に亜人たちが来ればな。来ないなら、俺たちだけで参戦することになるんじゃないか?」


 亜人たちの行軍速度は依然として遅いらしく、このままで行くと町へ押し寄せる刻限は月曜日頃では無いかと予測されている。


「そっか、ぎりぎり間に合わないんだね」

「攻め込むわけじゃ無いからな。こっちは待ち受ける立場だ」


 攻め込むには準備が色々と間に合わないという事だろう。


「俺はどうするかなぁ……、やっぱり後ろの方から弓で援護でもするかなぁ」


 戦場の片隅にいる程度の俺では、できることはそのくらいか。


「アルテナはどうすればいいの?」

「『火炎弾(ファイア・ボルト)』はせいぜい射程距離数メートルだからな。後方の俺たちのほうにまで流れてきた奴相手に、ぶっ放せばいいんじゃないか?」


 連発して『火炎弾(ファイア・ボルト)』の指輪がさっさと壊れる心配をしなくてすむし。


「アルテナが聖剣になろうか? 仮りそめのマスターだけど、ノアに振り回させてあげるよ?」

「シーナが言っていただろ? そんな目立つような事をしたら、お前を力ずくでモノにしようって奴が出て来るかもしれないって」

「女の子を力ずくモノにするって、なんだかえっちぃね」


 お前は聖剣で『物』だけどな。


探索時間(スコア)が何千時間とか一万時間を超えてる人たちが集まるんだよね? だったらアルテナが聖剣になって目立てば、もしかしたらアルテナのマスターになってくれる人を見つけられるかもしれないかなって」

「確かにファタリアにも一万時間超えの人が何人かいるけどさ。俺は英雄と呼べるような人がどのくらいの実力があるのかよく知らないけど、うちの町の採掘者(ディガー)にそんな人はいないと思う」


 もちろん危険な迷宮内の探索に一万時間以上携わったというだけで、彼らは十分猛者と呼べる実力者だ。

 多くの採掘者(ディガー)たちは、探索時間(スコア)一万時間を超える前に怪我などの事情で再起不能となったり、最悪命を落としまうからだ。

 探索時間(スコア)一万時間を達成する採掘者(ディガー)はほんのひと握りだけ。だが、それだけでは英雄とは呼ばれない気がする。


「うちの町の採掘者(ディガー)で、他所の町や他国にまで名を語られるような採掘者(ディガー)はいないよ」


 それに今回の防衛戦が始まるまでの期間が短いので、高名な採掘者(ディガー)が駆けつけてくる前に戦いは終わってしまいそうだし。


「でも、未来の英雄の卵がこの町にいて、アルテナに目をつけてくれるかもしれないんだよ?」

「その可能性は無いわけじゃないが、その未来の英雄様は今、金貨一万枚というか銀貨三十万枚を俺に払ってくれそうか?」

「………………無理だと思います」

「じゃあ、ダメだな」


 俺はあくまで武器商人。

 例え未来ではどうであろうと、現在でも英雄であろうと、アルテナは俺が抱えた商品で、ちゃんと売買契約で取り引きを行うべきだ。


「そっか……、英雄を探すのって思ってたより大変なんだよ」

「英雄がそこらにポンポン転がっててたまるかよ」


 英雄はそんなに安っぽいものじゃないと思うし、そこらに一山幾らで転がってたら、誰もありがたみを感じなくなるんじゃないかな?


「じゃあさ、ノアが知る英雄ってどんな人よ?」

「そうだな……、俺でも知ってるような有名人なら三人かな」

「だれだれ?」

「シーナが知り合いだと言ってた採掘者(ディガー)の中の採掘者(ディガー)、ジルベルト・ジル。それから砂漠の英雄イワン・カーレリ。随分と遠方の国の人だけど、名前がこっちにまで伝わってるってだけでも、大きな偉業を為した採掘者(ディガー)なんだってわかるだろ? ジルベルトのライバルだって言われてるよ。後は五代目ベンゲルスかなぁ……」

「ベンゲルス……ベンゲルス……ベンゲルスって、どこかで聞いたような?」

「前に採掘者(ディガー)組合前にある武器商店の店前のガラス窓の中に、飾られていた剣があっただろう? あれが七代目ベンゲルスの作品だ」

「あ、あれかぁ。ノアがいつか取り扱ってみたいって言ってた人の品だねぇ」

「特に有名なのは五代目なんだけどな。刀剣鍛冶師としても稀代の名工と呼ばれた人だけど、剣の腕も超一流で剣聖って呼ばれているそうだ。有名な闘技大会で、名のある騎士を破って何度も優勝したとか、大国の王が財宝を積み上げて仕官しないか誘っただとか色んな逸話がある。ただ、あくまでも五代目ベンゲルスは職人だということで、仕官の話は断ったそうだけど。まあ、そんなわけで戦いを生業としている人じゃないから、英雄と呼んでいいものかどうかは知らないけどな」

「ふーん、その三人しかいないんだ」

「あくまでも俺が知っている範囲で、俺が英雄だと思っている人たちだという前提だぞ」


 そもそも、俺の知識はどうしても採掘者(ディガー)関係者や刀剣関係者に偏ってしまうからな。

 たとえば、どこかの国に仕える兵士だとか将軍にだって、英雄と呼ばれるような人物がいるかもしれない。


「あ〜あ、どこにいるのかな、アルテナのマスター……」


 さあな、それは俺も聞きたいよ。



 ◇◆◇◆◇



「ノア! どうだ? 亜人たちの軍勢は? まだ攻め寄せてきてはいないのか!?」

 

 金曜日。

 王都メルキアとファタリアを結ぶ乗合馬車の駅。

 シーナは出迎えに来た俺を見るなり、飛びつかんばかりの勢いでそう聞いてきた。


「まだだよ。組合の見立てでは、決戦は月曜日になりそうだって話だ」

「月曜、月曜日か。そうか……」

「だから今週末は残念だけど、神の城壁内を探索できないな」

「ああ、それは仕方ない。わかっている」


 俺はシーナの荷物を受け取ると、持って歩き出した。


「今回も泊まる所は俺の家でいいんだろ?」

「図々しいがそうしてもらえると私もありがたい。前回はあまり稼げなかったからな……」


 シーナの後半の言葉は力ない。


「ノアに至っては、三週連続稼ぎ無しだよ……」

「そうだな。お前が売れてくれれば、そのうちの一週は稼げたことになるんだけどな」

「ブー!」


 一週どころか、二週分のほぼ無に等しい稼ぎを補って、多大に余る。


「それで今週はどうする、シーナ? さっきも言ったように、神の城壁の中に行くことはできないぜ?」

「とりあえず荷物を置かせてもらったら、組合に行ってみたい。今がどういう状況になっているのか、私自身で知っておきたいからな」


 採掘者(ディガー)組合は爆発騒ぎの直後と同じように、大勢の採掘者(ディガー)たちで賑わっていた。 

 ただ、あの時と違うのは、雑然としている中にも少し秩序のようなものがある事を感じ取られる点だ。

 爆発騒ぎの時は、爆発の原因にめいめいが勝手な憶測を並べ立てていて、混沌とした噂が流れていたりしたのだが、今はテーブルに幾つかのグループが分かれて座っていて、それぞれが真剣な面持ちで話し合っている。

 彼らはおそらく、ファタリアの有力採掘者(ディガー)ギルドの中堅幹部たちだろう。

 採掘者(ディガー)組合の建物上層階で開催されている、各ギルドの上級幹部たちが集まった会議で決定した方針に従って、それぞれの持場や連携について話し合っているのだ。


「なんだろう……凄い雰囲気だな。熱気に包まれているというか……。こんな光景、私は初めて見た」

「俺も初めてだよ」


 俺たちのようなギルドに未所属の採掘者(ディガー)や、小規模なギルドの面々は、邪魔にならないよう採掘者(ディガー)組合の食堂の壁際で、そんな彼らの話し合いを眺めていた。

 時折、小規模ギルドのギルドマスターらしき人物が名前を呼ばれて、大手、中堅ギルドの作戦会議に参加している。

 役割を説明されているのだろう。

 採掘者(ディガー)組合から、組合に所属している全採掘者(ディガー)の名簿が渡されていて、作戦に組み込まれていっているのだ。


「ノアたちが呼ばれることは無いの?」

「個人に何かの役割を与えるなら、それこそソロで数千時間の探索時間(スコア)を持ってるような人だけだ。俺たちのような駆け出しは、後で十把一絡(じっぱひとから)げとして役割発表があると思うぜ」


 負傷者を後方に下げるといった、主力部隊の邪魔にならないような後方支援が主な役割になるはずだ。それに加えて。


「俺は弓矢を使えるから、開戦時に矢を射ち込むくらいはするかもしれない」

「その事なんだが、今回は間に合わないが私も弓を使えるようになった方がいいだろうか?」


 俺の言葉にシーナが悩む。


「必要ないんじゃないか? ここでの戦いだけを見るなら、そりゃあ弓矢は使えたほうがいいだろうけど。迷宮を探索するパーティーの戦力としてなら、シーナは刀を持って突っ込んで、俺が後方から支援するスタイルのほうが攻撃力はあると思う」

「そうか……そうだな。なら私は、より剣の腕を磨くことにするよ。今回はノアの言うとおり前線に立つような機会は無さそうだが、万が一私たちの所まで亜人たちが来るようなら、全力で頑張らせてもらう」

「あれ? シーナは、今回の戦いには参加できないんじゃなかったの? だって、ノアから組合の見立てでは、亜人たちが町に襲来するのは月曜日になるって聞いているよ?」

「実は、学院には休みの届けを出してきた」


 マジか!?

 学院の授業って、そんなに簡単に休みを取れるものなのか!? そしてわざわざ休みを取ったのか?


「風邪を引いたということにしてな。大事を取って、来週半ばくらいまで休むと届けを出してきているんだ」

「で、でもシーナ。俺たちは、本当にほとんど戦う機会なんて無いんだぞ?」


 開幕に俺がちょろっと矢を射ち込む機会があるかどうかといった程度だ。


「いいんだ。ただこの目で、大規模な戦闘とはどういったものなのか、見てみたかっただけなんだ。別に私が剣を振る機会が無くても問題はない」


 ツンツンと俺の袖をアルテナが引っ張った。


「ねえねえ、もしかしてアルテナが前に言ってた英雄の卵って、シーナみたいな人の事を言うんじゃないかな?」


 確かに。

 シーナの持つ使命感みたいなものは、何となく俺の持つ英雄像と一致する。


「よしてくれ。私はそんな大層なものじゃないし、そんなものになりたいとも思わない」

「でも、英雄ってなるものじゃなくて、いつの間にかなってるもんだってアルテナは思うんだよ」


 おお、たまには鋭いことを言う。そのとおりだと思うぞ、アルテナ。


「シーナ……早く英雄になって、俺に金貨一万枚を」

「だったら私とパーティーを組んでいるノアには、金貨一万枚くらいポンッと払うことのできる、英雄の相棒に相応しい英傑になってもらわないとならないな」


 そんな事を言ってシーナは楽しそうに笑った。


「英雄がなんだって?」


 背後から声を掛けられた。この声は……。

「お前もいたのか、マーティス」


 さも今気づいたように、俺がそう言うとマーティスは顔をしかめた。


「そりゃいるさ。俺も『天上の剣』の一員だぞ」


 実はマーティスがさっきからずっといることには気づいていた。

 ギルドの仲間たちと打ち合わせをしている間にも、こちらを――正確にはシーナとアルテナの二人をチラチラ見ていたのだ。


「こんにちは、シーナさん。アルテナさん。お二人も防衛戦に参加されるのでしょうか?」

「当然だ。私も採掘者(ディガー)だからな。町を守る戦いに参加するのは、採掘者(ディガー)として義務だったと思うが?」


 腕を組んだシーナが挑戦的な目つきでマーティスを睨む。 

 美人が睨むと迫力があるっていうのは、本当だな。

 マーティスがちょっと怯んでいるぞ。

 それにしてもシーナ、お前が腕を組むと豊かな胸が一層強調されてるんだけど。

 ほら、周りの男どもがシーナの胸の辺りをチラ見してるぞ?


「そ、そうですか」

「アルテナもノアが参加するなら、当然参加するんだよ。だってパーティーだからね」

「な、なるほど……」


 シーナからは挑戦的な態度で、アルテナからは俺が行くからと言われて、何やらマーティスは狼狽えている。

 いったい、こいつは何がしたいんだ?


「ぼ、僕も当然防衛戦には参加します。もしも戦場で同じ持ち場になるような事がありましたら、協力して戦いましょう」

「お前は『天上の剣』所属だから、最前線じゃないのか?」


 マーティスが所属する採掘者(ディガー)ギルド『天上の剣』は、構成員三百人以上を誇る、ファタリアの町で最大手のギルド。

 当然、領主が率いる町の守備隊二百と共に、主戦場を任されていると思うんだが。


探索時間(スコア)千時間未満の者は、後方支援に当たれと言われている」


 俺の質問に憮然とした表情で答えるマーティス。


「お前、今探索時間(スコア)幾つなんだ?」

「六百時間を超えたところだな」


 くそー、差が開いてきてんな。

 俺の表情から考えていることを察したのだろう。マーティスが少し優越感を浮かべた表情を見せたのでイラッとする。


「焦るな、ノア。探索時間(スコア)だけが採掘者(ディガー)の実力を示す絶対の指標じゃないことはわかっているだろう?」


 シーナも察してくれたのか、俺に小声でそう囁いた。

 俺だってシーナの言うことはわかっているつもりだ。

 それでもやっぱり、同じ時期に採掘者(ディガー)になった者として焦りを感じてしまうんだ。


「おい、マーティス! ちょっと来てくれ」


 その時、別のテーブルから打ち合わせをしている採掘者(ディガー)、おそらくは『天上の剣』に所属しているメンバーから、マーティスが呼ばれた。


「どうやら呼ばれているようなので、僕はこれで。ではシーナさん、アルテナさん。また後日にお会いしましょう」


 会釈をしてマーティスが呼ばれた方へ歩いて行く。

 あの野郎、俺にだけ挨拶せずに、シーナとアルテナにだけして行きやがった!

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