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予選Aブロック
部屋にはクーラーがガンガン効いている。
メンバーは。
小野 桐峰
新庄 竜軌
橋本 ちかげ
座り順も同様である。きりちゃんがりゅうちゃんのカードを引いてスタート。
彼らの手にはトランプ。
そう。戦いはもう、始まっているのだ。手持ちの札はりゅうちゃんが多いようだ。
ちなみにきりちゃんはババ抜きをするのは人生初めてで、しょっぱなから手持ちの札を豪快に広げて見せようとして九藤のアナウンスに止められた。
りゅうちゃんはそれらの札を迷わずガン見して、ちかげさんは目を逸らした。
現在の表情は皆、涼しい。
りゅう「おい、クーラー効き過ぎじゃないか?」
九藤のアナウンス「ども☆司会進行の九藤どえす☆だってこれくらいじゃないと、ちかげさんは白い合羽を着てるし、きりちゃんは白い着物、袴姿だし、暑いでしょ?という運営側の配慮です」
源「にゃあにゃあ」(三人の後ろを二足歩行でうろうろ。きりちゃんの白い着物が珍しいらしくしげしげと見ている)
りゅう「おもっくるしい白に挟まれる俺の身にもなれ。橋本ちかげ、魏玲(ちかげさん作品登場、絶世の中華美女)は元気か?」
ちかげさん「無論ですぞ、りゅうちゃん!」
りゅう「ジョーカーは元気か?」
ちかげさん「無論ですぞ、りゅうちゃん!」
りゅう「ふん」(一枚取り、ワンペア成立)
※実はこの時点でババを持つのはりゅうちゃん。彼はさりげなくきりちゃんとちかげさんに一芝居打ったのだ。
ちかげさんはりゅうちゃんの芝居、兼、見せかけの追及を巧みにかわした。
源「ねえ、おれぇ、お腹空いたよ?」(ちかげさんの合羽の袖をくいくいと引く)
ちかげさん「あ、源ちゃん、今はちょっと。ごめんねー」
きり「………」
二人ともババのありかに気付いていない。
きりちゃんはまだルールすらよく呑み込めていない。
ちかげさん(むむ。桐峰殿、涼しい顔に乱れなし。これ?いや、これ?持ってる?持ってない?)
ちかげさんはきりちゃんのカードにあれこれ手を滑らせるが、きりちゃんは眉ひとつ動かさない。
繰り返し言うが、ルールがよくわからないのだ。
ただ彼は、「鬼」を最後まで持っていた者が負ける。そう聞かされている。
鬼。それは悪しく忌むべき存在。
この勝負、絶対に負けてはならないのだ。
きりちゃんは「鬼」の絵札をよお~っく脳みそに叩き込んだ。
ちかげさん「とうっ。……む」(ペア不成立)
きりちゃん、無表情のままりゅうちゃんの持ち札の背中を眺める。
交錯する二人の視線。
バア――――――――ンッ!!
唐突に開いた扉の向こうから華やかな美貌!
まるで結婚式場から花嫁をさらいに来たような蘭の姿が!
りゅう「蘭?」
蘭「お控えめされい、桐峰殿!こちらにおわす御方をどなたと心得る、」
りゅう「おい、」
(乱入)なつのさん「きゃああ、ステキよ、蘭くんっ!」(カシャ、パシャシャシャ!)
怜「ダメですよなつのさん、俺たちが入っては、」
なつの「きゃ❤怜くんに叱られちゃったあ❤❤❤」
ハートをまき散らすなつのさんを抱えて怜くん、退室。なんでかまだいる蘭。そんでセリフの続き。
蘭「畏れ多くもずうっとずっと昔の右大臣、織田信長公であらせられるぞ!!」
ちょっと噴き出しかけたのはちかげさん。
りゅう「何の茶番だ」
きり「織田信長?右府殿?聴いたことはある。…いやしかし、かようにお若い筈は」
源「ねえ、お腹空いた」
蘭「九藤の指示です。こうしたほうが盛り上がるから、と」
りゅう「どう考えても俺が間抜けだ、さがれ」
蘭「はっ」(素直)
あとには何とも言えない、びみょ~な空気。
りゅう「……………」
きり「……………」
ちかげ「……………」
りゅう「おい、早く一枚取れ、小野」
きり「…右府殿?」
りゅう「真に受けるな、早く取れ!」(と、言いながらババを取りやすい位置へ移動☆)
きり「あ、ああ、すまん。……っ!!」(――――鬼が来たあ!)
きり(どうする。いみじくも杵築大社の御師ともあろう者が邪な札を引いてしまったぞ。これを持ち続ける訳にはゆかぬ。だが鬼を橋本殿に押し付けて、それで果たして良いものか?)
彼のすごいところは、この葛藤が全く表情に出ていない点である。
りゅう(やりおる)
ちかげさん(まだ動きはないらしい)
ババ抜き。
それは運と駆け引きの支配する絶対領域。
真剣な顔と心が、ともすれば滑稽に、めちゃマヌケに見えてしまう恐ろしいゲームである。
翻弄される人々。
にやにや笑う読者さまと九藤!
流星のように輝く意地の悪い一体感がそこに芽生えそうな気がする…?
ちかげさん「ところでお昼は蕎麦の出前ですよね?」
源「うあーい☆ごはん、ごはん!」
続く!