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異世界勇者と円卓の魔王  作者: 橘樹 一貴
エルダー会議
1/4

円卓の魔王

とりあえず、一週間に1~2回の更新を目指します。

「おう、そいじゃあ第14552回エルダー会議を開催するか」

「いえーい」

「わぁー」


 石造りの円卓に座る4人の男女が、やる気なさそうにぱちぱちと手を叩いたり、どこから持ってきたのか懐から取り出したパフパフラッパを、その名のとおりぱふぱふと鳴らす。

 数人は指笛を吹いて場を盛り上げようと指を口元にもっていったが、尖った長い耳を持つ女、エルフ族のエリシルシアの白けた目とため息にさえぎられた。


「ダング様。第14552回ではなく、第21222回です」


 エリシルシアは金色に輝く髪を、自分を落ち着かせるように撫でて言う。この世のものとは思えないほど端整に整った、彫刻のようなある種の芸術染みた顔には、目に見えて疲れが浮かんでいた。身にまとう金糸で飾られた深緑のローブも、心なしかくたびれて見える。

 対して彼女にダングと呼ばれた男は、目が痛くなるほど輝く黄金色のフルプレートを装着した小さな体で机の上に乗り出す。

 彼は金属と石が擦れて甲高い音を立てるのにも気がつかない様子で、子どものように興奮しながら目を輝かせた。


「おお、あと千回でゾロ目か!」


 その体はエリシルシアの腰より少し上に届く程度だが、盛り上がった鋼のような筋肉と豪快に生える髭を見れば、彼が子どもではないことがわかる。

 ダングは自分の隣に座る女が、その特徴的な獣耳を手で覆って悶絶するのを見て、やっと自分の立てた不快音に気付いたようだった。ごほんと一つ咳払いをして席に座りなおし、ジャングルのように立派に生える髭を撫で付ける彼は、ドワーフ族である。


「どうでもいいだろ、第何回目かなんてよ。数えてんのはお前ぐらいだぜ」


 それを真っ向から叩き切るかのごとく口を挟んだのは、先ほどダングの立てる音に悶絶していた女だった。

 髪の色と同じ金色の狼の尾と耳を生やした獣人族の女は、耳を覆っていた手を離して鋭く舌打ちする。

 名をアルラという彼女は、苛立ちを抑えきれない様子で耳を小刻みにと動かしながらダングを睨む。銀のピアスがそれにあわせてチャリチャリと音を立てた。

 ダングがすまぬと一言彼女に謝ると、納得したらしく尊大に頷いてどっかりと椅子に座り込み、両足を机の上に乗せて組む。ヘソや鎖骨などの際どい所がことごとく露出した、獣人族特有の挑発的な民族衣装もあいまって、お世辞にも上品とは言い難い動作だ。しかし、円卓に座った面々は見慣れた様子で何も突っ込まない。

 流石に自分の訂正をどうでもいいなどと言われたエリシルシアだけは、眉間に皺を寄せてアルラを睨む。睨まれたアルラはというと、その視線すらどうでもいいとばかりにフン、と鼻を鳴らした。


「おう、どうでもいいから黙れよお前ら。俺らがなんやかんやと口を出してちゃあ、ヴァルガンドがいつまでたっても始められねぇ」


 とんとん、と褐色の指で机を叩きながら、ディードラは苦笑を浮かべて自分に注意を集めた。

 側頭部から捩れながら生えた赤黒い二本の角に飾られた、黄金の装飾具がしゃらりと澄んだ音を響かせる。どこかの軍人かと見紛うほど軍服に似た正装は、黒字の布に控えめながらも金糸を使用しており、彼に厳格な印象を付加していた。纏う男の口調と態度が悪いせいで、無用の長物と化していることだけが残念である。

 黒い頭髪と赤い目、そして二本の角を持つ魔人族の彼は、この場で最も発言権の大きい者へと視線を注いだ。


「そうだな……まあ、エリシルシア。そう怒ってやるな、アルラは頭を使うのが苦手だからな」


 円卓の向こう側、一つだけぽつんと置かれた黄金の玉座に、笑みを浮かべた男が座っていた。

 着ているものは、ダングの身に着けているフルプレートとはまた違う鎧だ。いたるところに甲殻に似た鉄板が溶接され、関節部は細かい鱗でつなぎとめられていた。闇より深い漆黒の鎧は、室内で揺らめく松明の炎を反射して揺れる。左半身のみを覆うマントは赤色で、絡み合う二頭の竜が刺繍されていた。

 その顔はエリシルシアと張り合えるほど美しく整っているが、見る者全てを無条件に平伏させるような存在感は、彼女にはなかった。黒髪の間から覗く切れ長の瞳は金色に輝き、彼を見慣れている筈のディードラの心すらも震わせる。


 これぞ、支配者。これぞ、王。


 彼がこのまま悠然と玉座に座ったままならば、この場に居る誰もが即座に身を投げ出して、御身にお仕えすることを願い足の甲に口付けていたであろう。自分の大切なもの、守るものなどどうでもいいと、叫んでいたであろう。それぐらいの強烈な魅力が、この男にはあった。

 しかし、目の前に居るのは、そういった衝動を根こそぎ引っこ抜いて吹っ飛ばして尚、高笑いしながら抱いた幻想を拳でぶち壊すような男である。

 それを知るアルラが尻尾をふらりと揺らしながら、男……ヴァルガンドに流し目を向ける。


「苦手じゃないぞ、ヴァルガンド」

「ん?ああ、わかってるよ。ちゃんと」

「うむ、それなら……」


 いい、と満足げに頷きかけたアルラだったが、ヴァルガンドが言い放ったのは己の予想とは真逆の一言だった。


「お前、馬鹿だもんな。それも超ド級の。この前お前んとこの副王が泣いてたぞ。簡単な足し算すらできないって言うから教育係をつけたのに、毎回授業が始まる前に全力で脱走するって。前々から馬鹿だなぁとは思ってたけど、まさか足し算すらできないとは……」

「……は、はぁあ!?馬鹿じゃねーかんな!使わないだけで、馬鹿じゃねーかんな!足し算だってなぁ、その気になればちゃんとできるんだからな!?」


 玉座に座る男が放った一言に、たっぷり5秒はぽかんと呆けていたアルラは、目をカッと見開いて牙をむき出し、ぎゃあぎゃあと抗議の声を上げて食ってかかる。しかし、男を含めて円卓に座った面々は、何か可愛そうなものを見るような目で彼女を見つめた。

 違うぞ、馬鹿なんかじゃないぞ、使わないだけだ!と大声で訴えるが、数分主張を繰り返して尚、誰もが生暖かい目をするのをやめないことに気付いた彼女は、これ以上言っても墓穴を掘るだけだと気付いたらしい。しばらくして言葉に詰まりながらごもごと口ごもり、とうとう悔しそうに黙って目に涙を浮かべながら玉座を睨んだ。

 金銀細工で飾り立てられているにもかかわらず、それは成金趣味にありがちな悪趣味さを欠片ほども持ち合わせていなかった。ツタの葉の細工が金色の玉座の足を這い、見える場所には全て色とりどりの宝石が散りばめられ、肘掛は竜の腕が象られている。見るからに柔らかそうな真っ赤なクッションは、金糸で縁取られていた。

 その、並みの人間であれば座ることすら躊躇しそうな玉座に座るヴァルガンドは、自分が身を預ける物から漂う気品に飲まれることなく、ただ笑みを浮かべて円卓に座る者たちを睥睨した。


「今年もにぎやかで結構、結構」

 

 彼は満足そうにうんうんと一人頷いて立ち上がる。その頭には、ディードラと同じく二本の角が、頭頂部から後ろへと流れるように生えていた。同じとはいっても、形状は全く違う。彼の角は純白で、捩れることなく真っ直ぐ伸びている。

 髪の色は黒、しかし瞳は金色。肌の色は白く、頬や手の甲に髪と同じ色の、蛇の鱗のようなものが張り付いていた。髪の色を除き、それらは竜人族の特徴である。

 ヴァルガンドの縦に割れた瞳孔が、順繰りに席に座った者たちを射抜く。



 王席序列第五位、エルダーグラウンドの獣王アリル・エル・ルエル。

 王席序列第四位、エルダーケイヴの金色王ダング・グロヴフィスト。

 王席序列第三位、エルダーフォレストの精霊王エリシルシア・オークウッド。

 王席序列第二位、エルダーオーシャンの魔導王ディードラ・アレクサンド。


 そして自分。


 王席序列第一位、エルダークラウンの竜帝ヴァルガンド・ドル・ジルナス。



 メリクール大陸に住む5人の偉大なる王たちが、ここに集った。





「さて、皆揃ったし食事にするか。おい、全員分の飯を持ってきてくれ」


 さあ始まるぞ、と意気込んで姿勢を正したエリシルシアが、自然な動作で使用人を呼ぶヴァルガンドに出鼻を挫かれ、ぽかんと口を開けた。


「え?……食事、ですか……?」


 何を言ってるんだこいつ、といわんばかりの視線がヴァルガンドに突き刺さるが、悲しいことにそれに同調する者は一人もいない。


「ヴァルガンドよ、酒は出るのか?」

「出るぞ、竜酒だが。今年一番の出来らしいが、ドワーフの口に合うかどうか……」

「酒か!酒が出るなら私にも飲ませてくれ!」

「おい、俺の分も頼む」


 わいのわいのと賑やかに、酒をくれだのエルダークラウンの飯は美味いから楽しみだのと、好き勝手に喋りたくる彼らの前に、次々と豪勢な食事がやってきた。

 歓声を上げたのはエリシルシア以外の全員で、先ほどまで涙目だったアリルなど、もう口から涎を垂らして待てを命令された犬のごとく、立派な尻尾をブンブン左右に振っている。


「……会議は……?」


 エリシルシアの呆然とした呟きは、雑談に飲まれて消えていった。



次は登場人物を紹介します。

いらない人は飛ばしてね!

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