第一話
嫌になるほどの青空を、あの暑い日に経験してしまったのは単純に彼のミスなのだろう。普段の彼ならば絶対にしないようなミスをあの時してしまったのは度重なる偶然によって引き起こされたもの……その場に居た物は決して彼を責めないし、糾弾することも出来ない。彼の実力はみんながみんな理解していたのだから。
「まあラストはこういうバッドエンドにしようと思ってるんだけど、赤城としてはどう思う?」
梅雨の季節に入って久しぶりの晴れ間が見えたと思ったら、まるで夏を先取りしすぎたかのように鬱陶しいほどの熱気が教室に充満していた。教室川の窓を全開にして扉も開放、更に廊下側の窓もあけて空気を通すようにしているにも関わらず未だに赤城の額から浮かんでくる汗は留まる勢いを知らない。
答えを求めてくる佐々木に対して赤城は、半ば放心状態になっている。しかし今までの赤城の状況を考えればそれは当然のことだ——入学した当時から赤城は周囲と関わりを持たないようにして高校生活を過ごして来た、理由は単純で自分がどんな人間か一ミリたりとも理解できていないから……と本人は言っている。
しかし学校生活の最初からその調子では友達が出来る訳が無く、普段から表情を全く動かしていないことと運動面でも勉強面でもトップクラスの成績を維持していることから『無敵の鉄仮面』というおよそ高校生につけるべきではないあだ名も噂として流れている。もちろんそんなあだ名がついている少年にちょっかいやイジメをしようと考える人間は居ない。
赤城の目の前に座っている少女、佐々木紫音もそうだったはずなのだが数日前から彼女はこうして、夏休み直前に行われる風夏祭への準備を着々と進めている。元々この佐々木紫音という少女は誰に対しても物怖じしない性格で同性にも異性にも好かれるタイプで自分から積極的に話しかけるということも多いだろう。にも関わらず今まで赤城に関わって来なかったのは、赤城が意図的に接触する機会をずらしていたという事実に尽きる、赤城が他人と接触したがらない理由は今のところ不明である。
「そういったことは演劇部の誰かに聞けば良いんじゃねえの? 俺全く分からないし」
「なーに言ってんの! 素人の意見を聞いた方が良いに決まってるじゃん!!」
室温が2度ほど上昇したのではないかと思うくらい熱く食らいついてくる佐々木とあくまでも淡々と受け答えをこなす赤城の姿は面白いくらいに対照的だ、だからこそクラスメイトは二人の関係を怪しんだりしない。
「まあでも夏休み直前ってのはやだよね、中間テスト終わった直後でそんな体力残ってないってのに」
あんたが体力切れの状況ってあり得るのか? そう問いかける衝動に駆られた赤城だが手に持っていたシャーペンを軽く握りしめることによって衝動を抑える。