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企画競作

夏休み

作者: rai
掲載日:2012/08/01

 私には正直、古代人の行動が、価値観が全く持って理解し難い。彼らに関する古文書を数えきれないほど読み漁り、その軌跡を自らの眼で確かめた。だから彼らについてそれなりの知識を持っていると自負している。例えば、古代の家は現代の円系カプセル型と違って多種多様な形をしていることや、一般的に移動は”せきゆ”を入れた”くるま”という乗り物を使うこと。食事のために野蛮にも他の生物を殺すことや、地球を壊し自らをも滅ぼす殺戮兵器の開発に躍起になっていたこと。

 とりわけ驚くのは、古代には”しき”というものがあったことだ。それは、昼夜の長短や温度の違った四つの”きせつ”というものに別れるらしい・・・ううむ、どういった字を書くのだろう。”四気”や”気雪”とでも書くのだろうか。

 小指の先ほどの総合栄養剤を口に放り込んで私は数十分悩みこむ。吹き付ける雪の寒さは防寒スーツのおかげで遮断されているが、私の悩みは凍ったままだ。もはや何十万年も前の朽ちた文明の残滓に思いを馳せるのは愚か者のすることだと何度も後ろ指を指されてきたが、この理解し難いという感覚を得た時の高揚は、なにものにも変えることはできない。

 さて、これまで幾度となくその理解し難さにぶち当たって来た私が自信を持って言おう。この理解し難さを()(ほぐ)す最良の方法は、自らの身をもって実施することだ。私はこれまでにもそうやって理解し難さを氷解させてきた。

 実施の一例を紹介しよう。

 古文書に書かれている通りの製造法で”ゆーほー”という物を作ったことがある。古代で一般的な燃料である”せきゆ”は現代になかったが、他の燃料を用いたその楕円形の乗り物の乗り心地は全くもって最悪だった。

 360度の回転を一秒間に12回も宙で行う狂った乗り物によくも乗っていられたものだ!全く、古代人の感性は恐るべきものだと言えるだろう。おかげで私は二週間、医療施設のお世話になった。このスーツが耐衝撃性でなければ死んでいただろう。

 “ゆーほー”は恐らく、拷問用として使われていたのだ。古代人、恐るべし。

 ところで今回実施しようと思うのが”かきごおり”というものと”はなび”というものだ。この二つを実施するのに適した”なつ”という”気雪”に関する資料は残念ながらまだ見つかっていない。だから、どれくらいの昼夜の長短か、どのような温度かは分からない。

 だがまぁ、さして問題はあるまい。所詮は古代人。彼らの流儀が、現代に通用するとは思えない。ただ私は非常に謙虚だから、参考になる部分は参考にしよう。

 まずは”かきごおり”からだ。これは氷を極小に砕き、その上に何か味のするものをかけた食べ物らしい。

 ・・・氷・・・だと!?この防寒スーツが無ければ凍死してしまう世界で古代人は一体何を求めているのだ!?狂っている!!

 いや、まてよ。古代には”四気”があるんだったな。気温が高い”気雪”があるのかもしれない・・・だとしても、この極寒が一気に暖かくなるとはとても考えられない。暖かい、といってもこの極寒と比べたら、ということだろう。やはり古代人は可笑しい。

 しかし、しかしだ。私は古代人研究の第一人者を自称している。それなりに矜持も持っている。そんな私が、逃げるわけにはいかない。この極寒の世界に長時間耐えうる最初のスーツが作られたのは数万年前のことだ。当然それまでは完全に寒さを遮断することは出来なかったはずだ。それも、何十万年も前の文明ともなれば!

 よし、スーツの防寒機能を少しいじって体感温度を下げよう。どれくらいまで下げれば良いのだろうか・・・・・ええい、面倒くさい。私は現代に生きる現代人だ。古代人なぞに負けてたまるか。

 ささ、サ、サムイ。これは少し下げ過ぎた。よし、7°で良いだろう。これでも充分下げたはずだ。このスーツが如何に快適であるか、生まれて初めて思い知った。スーツを脱げばマイナスという世界に晒されるらしいが、想像もつかない。

 氷を砕き、その上に液体の総合栄養剤をかける。それをスーツに備えられている吸飲用のホースで吸い取り、口の中に入れる。

 氷の冷たさと総合栄養剤の味が絡み合い、天上のハーモニーを奏でる。想像ではそのはずだったのだが、なんだ、これは。ただの冷たい総合栄養剤じゃないか!氷の上にかけるという無駄な一工程を行う必要がどこにあるんだ?

 しかも、頭が痛い。キンと割れるようだ。そして寒い。体が自然とがくがく震える。なんだ、古代人は全員マゾヒストだったのか!?

 い、いや、誤魔化すのはよそう。これは私が間違えていた。きっと”かきごおり”は家の中限定で食べる物なのだ。古代に家という概念があったことはこれまでの研究で確認している。ただ、スーツと同じ技術によって家が建てられたのは数万年前のことで、多分古代人は完全に寒さを遮断することは出来なかっただろう。

 纏めよう。"かきごおり"とは、この極寒より少し暖かい”なつ”という”気雪”に寒さを軽減する家の中で食べる物である。でなければ説明がつかない。こんな極寒の中でこんな冷たい食べ物を口に入れるなんて正気の沙汰じゃない。

 だがともかく、現代人の私から言わせれば無駄極まりない食べ物だ。これなら液体の総合栄養剤をそのまま飲む方が良い。野蛮人のすることは、うん、理解できないな。

 だがしかし”かきごおり”の(しょく)し方と”なつ”という”気雪”が少しだけ暖かいということが解明された。これは一新紀元の発見だ!私は崇め讃えられるべきだろう。

 すでに偉大なる発見をしたからといって私の気勢が削がれる事はない。研究に終りはないのだ。次の”はなび”という物の実施に移ろうか。

 “はなび”は”かやく”という材料を集めて作られる物らしい。

 掠れた”はなび”の図面には”かやく”というものが紙であろうもので丸く包まれている絵が記されていた。そして”かやく”は燃焼反応を起こす物質とのことだ。そんな危険な物を幾つも空へと打ちあげるらしいのだから、古代は争いが絶えなかったという通説も頷ける。聡明な私の手によってこの危険兵器を試し、現代へ警鐘を打ち鳴らすとしよう。

 一つ問題なのは”かやく”が燃焼反応を起こす物質だということしか分かっていないことだ。もっとも、想像は出来る。殺戮のことしか考えられない古代人の兵器の材料にされるくらいなのだから、凄まじい燃焼反応を起こす物質に違いない。

 というわけで”かやく”に相当しそうな物質を平和研究所で働いている友人から手に入れ、紙で包み丸めた。私の器用な手先による技でなければ、ここまで図面通りにはならなかっただろう。

 さて、これをどうやって空目掛けて打ちあげようか。そもそもどれくらいの高さまで打ちあげればいいんだ?

 空に打ち上げるということは”はなび”は間違いなく対空兵器だろう。古代の航空兵器はどのくらいの高度まで上昇出来たのだろうか・・・うむ、どうせ大した高さではあるまい。

 高度の大体の予測がついたので、あとは打ち上げるだけだ。平和研究所の職員に、はい平和のためですと答えると、幸いにも古代兵器の数々を見学させてもらえることになったので、それを頼りに独自で打ち上げの装置を作る事にしよう。この”はなび”程度の大きさの兵器を発射する装置など、私の手にかかれば一週間とかからないだろう。



 二か月掛かったのは、ちょっと凝り過ぎてしまったせいだ。平和研究所の友人の手を借りたのも、より完璧なる発射装置を作るためである。ともかく、時は来た。私は万感の思いで発射装置に”はなび”を設置した。

 平和研究所の方々には感謝の念が絶えない。実験の為、ここら一帯を一時的に立ち入り禁止区域にしてくれた。もちろんこれは私の偉大さ、カリスマ性故に成せるわざだが、彼らの協力のおかげでより良い実施になりそうだ。

 さて”はなび”は、この凍てつくブリザードすら溶かす兵器なのだろうか。発射装置から遠く離れた私は、そこでとても大切な情報を思い出した。

 たまや、である。どうやら”はなび”が発射される際にそう言わなければいけないようだ。”はなび”の図面と共に出てきた用紙に確かそう書かれていた。古代人は、たまや、というたった三文字で兵器の威力や命中力が上がるとでも思っていたのだろうか。片腹痛い話である。

 とはいえ律儀な私はその慣習にあえて従う。古代人もそんな私の姿を見ればきっと、尊敬と感謝を抱くことだろう。

 スイッチを押す。たまや、と私が呟くと”はなび”は空高く舞い上がり、爆ぜた。

 空が(わめ)く。目も眩む閃光が迸り私は思わず、目がぁ~、目がぁ~と叫びそうになったが、なんとか自制した。これは”ばるす”と共に古代の危険な呪文として封印されているのだ。危ない危ない。

 ともかく、実験は大成功だ。たまや、と言葉にする意味も”なつ”という”気雪”に打ち上げる意味も分からなかったが”はなび”が身震いするほどの兵器だということは証明された。これは国民平和栄誉賞に値するのではないだろうか。

 それにしても”なつ”という”気雪”の事は全くもって分からない。”かきごおり”を実施することで判明した”なつ”は少し暖かいという予想も今では疑問に思うばかりだ。

 この果てしない極寒の世界で生き、その普遍を見て、感じてきた私には、そんな”気雪”があるのかと、やはりそう思ってしまうのだ。もし”四気”が”気雪”が”なつ”があったのだとしたら、何が原因でこんな極寒の世界になったのだろうか?なってしまったのだろうか?

 ただ一つ明確な事実は、もう”なつ”という”気雪”が現代には存在しないことだ。

 私の天賦の詩的センスでしめよう。

 ただいま“なつ”は、休みのようだ。


企画競作二作目です。


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