見えない男 <Don't see>
11.8.8
活動報告に無粋な付け足しをしました
誤読感をすっきりとさせたい方は、
後書きを読まないことをお勧めします
では、どうぞ
それはとある道の路傍の、草むらの中で、でした。
太くもなく細くもない、ごく普通の舗装道路がありました。両側を住宅街に挟まれた2車線の閑静な道で、片方には白いガードレールのついた歩道もありました。
その道のほとんどの部分は、太陽が照っている時でも車が時たま通る音がする以外、何の音もしませんし、日が暮れるとその辺りは完全と言っていいほどの静寂に包まれるのでした。
そんな道の、ある所です。一人のまだまだ幼い少年が、ついさっき転んで擦りむいた右足をびっこを引く様に引きずって、杖をついて歩道を歩いていました。
少年以外に人は誰もいません。辺りはいつも通りの、水を打ったような静けさです。辺りはすっかり傾いた夕日に照らされ、特に家々の塀は真っ赤な夕日に照らされて、静かに燃えている様にも見えました。
少年は公園からの帰り道でした。さっきまで砂山と格闘していたので、手は洗ってあって綺麗でも、爪の間には砂がたっぷり入り、半そでシャツの袖口は水に濡れていました。
いつも通りの静かな歩道を歩きながら、少年はお気に入りの童謡を口ずさんでいました。
そうやってしばらく歩いていると、歩道の脇の草むらで、草をかき分ける音がします。草むらはそんな大きくありません。面積でいえば畳1畳程で、草の高さも、せいぜい大人の膝位でした。
「だぁれ?」
少年は幼い声で訊きましたが、草むらからは何の声も返ってきません。
少年は少し怖くなり、今度は何も言わずに足をしのばせて少しだけ草むらに近寄ると、用心深く耳をかたむけました。
すると草むらからは、草をガサガサする音に紛れて、本当に小さくですが「ないない」と人の声がします。
少年は人の声に少し安心して、
「どうしたんですか?」
と訊きました。しかし声の主は少年に気が付かないのか、やっぱり「ない、ない」と小さな茂みを探っています。
「探し物ですか?」
少年はもう一度、今度は少し声を大きくして訊きました。すると草むらの声は少年に気が付いたようで、荒い息とぐもって聞きにくい、響く様な声で答えました。
「あ、あ、たま……うぉ、み、見な…………かったぁ?」
そう言って人影がぬっと起き上がりました。
人影は男性で、かなり長身で、少年の頭は腰ぐらいまでしかありません。が、彼の頭は首の半分ぐらいの所からすっかり無くなっているのでした。服のあちこちは破れて、しかも右足のすねからは何か白い物を覗かせています。乾いた血が至る所にこびり付いていて、男性はどこをどう見てもボロボロで、到底生きている様には見えませんでした。
「あ……たま?…………ああ、タマ!」
しかし少年はそんな男性の姿には全く動じず、何度か頷いて言いました。
「あの、僕も探すの手伝いましょうか?」
「いないな~、出ておいで~」
「な……い―――い」
少年は男性と一緒に、杖を脇に置き、怪我をしている部分をかばいながらも膝を突いて草むらを探っていました。時々男性は、思い出したように苦しそうな呻き声を出したり、右すねや不自然に窪んでいるお腹を抱えて蹲ったりします。
「だいじょうぶ?」
男性がそうやっていると、必ず少年が声をかけました。時には少年のお母さんが風邪の時なんかにやってくれる様に、背中を擦ってあげたり(偶然背中には傷がほとんどありませんでした)、とんとんと叩いてあげたりして、男性が探し物を再開するまでそうしていました。男性は、少年に何も言いませんでしたが、少年も、男性の態度に対して、別に何も思ったりはしませんでした。
「ねぇ、タマってどんな色?」
「……おそらく、まだ……赤い」
「赤?かわってるね」
少年は一生懸命探します。
男性も、時々呻いたりしながらも、少年の何倍も真剣に一生懸命探しました。
時計の長い針が幾つかの数字を通り過ぎたころ、辺りからは夕日の炎が消え、代わりに燃え尽きて炭化してしまった様に真っ暗になりました。星は一つもありませんが、等間隔にたった電灯が、頼りなくとも道のあちこちを照らしています。
少年と男性はまだ探していました。
二人が探している間、車も人も猫一匹でさえ通り過ぎませんでした。
二人はかなり前から口をきいていなかったので、二人が草むらを漁る音以外は何もしません、まるで真空になったみたいに静かです。
ふと、男性の手に何か硬い物が当たりました。
それは、男性が生きていた時、いえ、死んだ時に被っていた、血で赤く染まったフルフェイスのヘルメットでした。
男性は急いで、まるでそれが逃げ出すかのように本当に急いで捕まえ、両手で持って立ち上がり、わなわなと手と声を震わせて言いました。
「み、見つけた、見つけた!見つけたぞ!!」
少年は男性の声を聞き、急いで立ち上がって、男性に言いました。
「良かったですね、猫見つかって」
「ああ、ああ」
男性はそこまで言って改めて、今は全然体が痛くない事に気がつきました。そしてそれは少年が擦ってくれたおかげなんだと、唐突ですが直感的にそう思いました。
「ありがとう、本当にありがとう」
そう言って、拾ったヘルメットを左手で抱え、右手を少年に、握手をしようと差し出しました。
が、少年が手を出さなかったので、男性は途中でなくなった首を何度か横にねじり、仕方なく少年の頭を撫でました。少年は特に嫌そうでもなく、どちらかと言えば嬉しそうに、照れくさそうに、はにかむ様に笑いました。そしてのそのまま男性に別れを言うと、少年は杖をもって、両親の待つ家へと帰っていきました、
白い杖を持って、少年は帰っていきました。
どうでしたでしょうか?
読み進めると浮かぶ幾つもの『あれ?』を、
『そう来たか!』と驚かせるような、
スパイス風味にしてみました




