地味な婚約者の罪作りな魅力
婚約が決まった。しがない伯爵家の嫡男に、派閥の長の侯爵閣下のお声掛かりで紹介された縁だった。つまり、断れない。
侯爵邸の夜会で引き合わされ、「おや、ちょうど音楽が流れはじめた。お嬢さんを誘ってみてはどうかね」などと父に言われてしまい、強制的に二人きりにされた。
穏やかな地味な感じの女性だった。それにホッとした。ダンスの後にアルコーブに誘って、ワインで喉を潤しながら話したが、終始地に足の付いた話し方で、本当に助かった。
どうも、きゃあきゃあ話す女性が苦手なのだ。それで質問攻めにされたりすると、うんざりしてしまう。
順当に、装いが似合っていることを褒めて、ドレスの色が好きな色なのかを聞き、そこからどんなものが好きなのか、趣味は、領地はどんなところか等々、話を広げた。
思った以上に話すのが楽しく、また、なにより沈黙が苦にならない。
彼女がとても好ましくて、――気付けばその手を取っていた。
目が合い、驚きからはにかみに変わる表情に見とれ、手の甲にくちづけを落とした。
「よろしければ、今度、植物園にお誘いしても? 南洋の珍しい花が咲いたそうなのです」
「まあ。私も見てみたいと思っていたのです。喜んでご一緒いたします」
彼女は嬉しそうに頬を染めて頷いてくれた。
「アナベル」
急に、彼女の父君が声をかけてきて、私たちはハッとして身を離した。
「オーガスト君、今日は娘のエスコートをありがとう。すまないがそろそろ帰らなくてはいけなくてね」
「こちらこそ、お嬢様をエスコートできて光栄でした。
アナベル嬢、とても楽しいひとときでした」
「私もです、オーガスト様。ありがとうございました」
立ち去っていく二人を見送る。その時、初めて彼女の後ろ姿を目にし、息が止まった。
なんて美しいのだろう。背中から腰のなよやかな曲線が艶めかしい。だがそれ以上に、うなじに目を奪われる。殊に、えりあしからこぼれた髪が揺れるさまが、罪作りだ。
そら、気付いた男が、彼女のうなじを舐めるように見ている。今すぐ駆け寄って、自分の無骨なハンカチで彼女の首を覆ってしまいたい。
しかし、そんなことができるわけもなく。
強く拳を握りながら、今度会うときには、彼女によく似合う大きなハンカチ――いや、あれはショールと言うのだったか――を贈ろうと、心に決めた。




