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地味な婚約者の罪作りな魅力

作者: 伊簑木サイ
掲載日:2026/09/02

 婚約が決まった。しがない伯爵家の嫡男に、派閥の長の侯爵閣下のお声掛かりで紹介された縁だった。つまり、断れない。


 侯爵邸の夜会で引き合わされ、「おや、ちょうど音楽が流れはじめた。お嬢さんを誘ってみてはどうかね」などと父に言われてしまい、強制的に二人きりにされた。


 穏やかな地味な感じの女性だった。それにホッとした。ダンスの後にアルコーブに誘って、ワインで喉を潤しながら話したが、終始地に足の付いた話し方で、本当に助かった。

 どうも、きゃあきゃあ話す女性が苦手なのだ。それで質問攻めにされたりすると、うんざりしてしまう。


 順当に、装いが似合っていることを褒めて、ドレスの色が好きな色なのかを聞き、そこからどんなものが好きなのか、趣味は、領地はどんなところか等々、話を広げた。


 思った以上に話すのが楽しく、また、なにより沈黙が苦にならない。

 彼女がとても好ましくて、――気付けばその手を取っていた。

 目が合い、驚きからはにかみに変わる表情に見とれ、手の甲にくちづけを落とした。


「よろしければ、今度、植物園にお誘いしても? 南洋の珍しい花が咲いたそうなのです」

「まあ。私も見てみたいと思っていたのです。喜んでご一緒いたします」


 彼女は嬉しそうに頬を染めて頷いてくれた。


「アナベル」


 急に、彼女の父君が声をかけてきて、私たちはハッとして身を離した。


「オーガスト君、今日は娘のエスコートをありがとう。すまないがそろそろ帰らなくてはいけなくてね」

「こちらこそ、お嬢様をエスコートできて光栄でした。

 アナベル嬢、とても楽しいひとときでした」

「私もです、オーガスト様。ありがとうございました」


 立ち去っていく二人を見送る。その時、初めて彼女の後ろ姿を目にし、息が止まった。


 なんて美しいのだろう。背中から腰のなよやかな曲線が艶めかしい。だがそれ以上に、うなじに目を奪われる。(こと)に、えりあしからこぼれた髪が揺れるさまが、罪作りだ。


 そら、気付いた男が、彼女のうなじを舐めるように見ている。今すぐ駆け寄って、自分の無骨なハンカチで彼女の首を覆ってしまいたい。


 しかし、そんなことができるわけもなく。

 強く拳を握りながら、今度会うときには、彼女によく似合う大きなハンカチ――いや、あれはショールと言うのだったか――を贈ろうと、心に決めた。

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― 新着の感想 ―
後ろ姿が美しいということは、姿勢が良くスタイルも良いので立ち姿も綺麗なのでしょうね。 襟足からのうなじの美しさは身だしなみの良さでもあると思いますし、あとたぶん所作も見事なのではないでしょうか? 連れ…
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