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交渉の日は延びる

「交渉ができない!?」


 オレが眉をひそめると、伝達にきた者が、汗を拭きながら、は、はい……と返事をする。


「どういうことだ?昨日、交渉のテーブルを用意すると言っていたはずだ」


「そ、それが……陛下の具合が悪くなりまして……」


 具合が悪い?オレとセオドアは顔を見合わせた。昨日、会った時はピンピンしていて、コンラッドは殴り飛ばされていた。


「どうかゆっくりお過ごしください」


 ゆっくり……と言われてもなぁとオレが呟くと、トントンとノックし、顔を出した女性がいた。


「お久しぶりでこざいます。シンシアです。ウィルバート様。ごゆっくりおくつろぎください」


 まさか……これは?なんだか嫌な予感がする。


 シンシアはハープを持ち、オレの部屋のテーブルには所狭しと高級食材の肉、珍味、酒、果物などが並べられていく。


「ハープの名手とシンシア様は評判なのです。どうかお聞きください」


 シンシア付きのメイドだろうか?ニコニコとオレにそう言うと、シンシアも頷く。


「わたくし、一生懸命ウィルバート様のために練習をしましたの」

 

「ええ!もう、それはそれは毎日!シンシア様はされてましたよね」


 オレの母もハープの名手で、弦を弾いて弾き、歌う姿は美しかった。


 ポロンポロロンとせつないような音色を奏でて弾くシンシアも美しかった。


「毒は大丈夫でしょうか?」


 じっと見ていたオレに、そう耳打ちするセオドア。大丈夫だと小さく答える。今朝からは何も入っていない。昨夜、オレたちは試されたというわけだ。


 オレは音楽を聴きながら食事をとる。シンシアが弾き終わったと思ったら、次は踊り子達が入ってきた。


 だんだん趣旨がわかってきた。相手の思惑も。


「お酒をお注ぎします」


 空になったグラスにシンシアはお酒を注いでゆく。


「またお会いできるなんて夢のようですわ」


「いや、交渉にこなければならなかったからな。それで、王の具合はいかがだろう?」


 シンシアが無粋ですわとほほ笑む。


「今はわたくしがお傍にいますのに、そんな質問おやめになってください」


 オレは額に手を当てる。


「じゃあ、話を変える。コンラッドは元気か?一度会いたいと伝えてほしい。推測だが、君は陛下に会っていないが、コンラッドには会っているだろう?」


 シンシアは表情に出るくらいに動揺した。


「君は陛下にはかろうじて認めてもらっているが、本来はコンラッドのことを慕っているだろうし?」


 ガタッと席を立つと、顔を赤くしてシンシアは走り去った。何も言葉を発することができなかったようだ。


「今のは?どういう意味ですか?」


 セオドアがオレに尋ねる。


「彼女はもともとオレの王妃にするために見つけてきたのだろう。ユクドールの王にとっては単なる道具にすぎない。コンラッドは……甘いというか優しいところがあるから、きっとシンシアにも優しく接しているだろうと考えたんだ。こんな王家の中でコンラッドの優しさに触れたら彼女はどうだろう?」


「なるほど……」


 セオドアが納得する。


「だからっ!オレはコンラッドをリアンに近づけないっ!ぜったいに!優しい男にリアンは弱い気がする!!」


「ウィルバート様、力いっぱい言っていますが、それはちょっと自分にも重ねてますよね?」


「リアンは甘くて弱くて優しい男が好みの気がしないか?」


「いや、どうでしょうか?あっ!だからリアン様の前で怖いところを見せないように!?」


「そ、そういうわけじゃない!」


 セオドアが半眼になる。


「恐れられている獅子王の本音がコレだとしたら士気低下するので、気を付けてください」


 オレは思わず無言になったのだった。


 こんなことを言っている間はよかったのだ。それから3日たっても交渉は始められず、王に面会も許されず、あの手この手と贅沢を尽くしたもてなしだけが続いていったのだった。

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