表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

第伍話 迷いの影

 ──次の日の夕刻。


 夜の森は濃密な湿気に包まれ、落ち葉を踏むたび、音が吸い込まれるように消える。


「——ここですね」

 篝は立ち止まり、周囲を見渡す。

 千隼は横で、胸の奥のざわつきを感じながらも、目を凝らす。


 ——森の奥、黒い影が蠢く。


「……あれ?」

 千隼の目だけが、微かに揺れる輪郭を捉えた。


 人の形をしているようで、形の定まらないそれは、森の闇に溶け込みつつ篝に向かって迫ってくる。


「千隼、見えますか」

「あそこ……先生、来ます」

「……なるほど、あなたの目を、信じましょう」

 篝は静かに声をかける。柔らかだが力強い。


 千隼の視線の先——

 影が微かに揺れる度、篝の符文の光の向きを示すかのように、動きが連動する。

 ——千隼だけが見える影が、篝の掌を導いている。


 篝は掌を掲げ、低く唱える。

黒絵符こくえふ虚縛きょばく


 掌から、白く淡い光の符文が浮かび上がる。

 千隼の視線が微かに指示する通り、符文は揺れる影の動きに絡みつき、黒い霧状の影をねじるように捕える。


「——千隼、後ろに」

 篝の声に従い、少年は一歩下がる。

 掌を振るう篝の符文は、影をさらに縛り上げ、霧のように裂いた。


 だが影は消えず、形を残しつつ森の奥へ逃れる。

 篝は静かに次の呪文を唱える。


虚縛連鎖きょばくれんさ。現世の縁、断ち切れ」


 符文の光が連鎖し、黒い塊はぎしりと震え、やがて霧のように消えた。

 森の闇が、少しだけ柔らかくなる。


「——これで、終わりです」

 篝は掌の力を緩め、静かに息をつく。


 千隼は胸の奥の微かな違和感を覚えつつ、影が消えた森を見つめた。

 ——自分だけが見えたものが、篝を少し導いたことを理解する。


 二人は森を抜け、夜の路地へ戻る。

 篝は帳面を開き、静かに筆を走らせる。


 ——第七二件 処理完了

 ——対象:未特定

 ——備考:千隼の微かな反応あり


「千隼、助かりました」

 篝の声は柔らかいが、その目には深い沈思が光る。


 千隼は微かに笑みを浮かべる。

 自分の力はまだわからない。でも、確かに役に立った。


 夜の路地には静かな気配が漂う。

 ——帳面の空白は、まだ埋まらない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ