AIAV職人の第十夜
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◆
第十夜
こんな夢を叶え■■
その依頼は、はじめ、創作の相談としてやってきた。
そうして、その後に、実はモデルにした事件があるんですと、修正の時に言ってきた。
「これはその資料です」
奇妙な既視感がAIAV職人を襲った。
見せられたのはある映像と記事だった。
AIAV職人は、その仕事の性質上、事件性のある依頼とは関わらないようにしている。お縄につきたくはないからだ。
その為に日夜センセーショナルな事件に関しては自発的に調べている。
だが、その映像と記事が示す事件は、AIAV職人にとり、見た覚えのないものであった。
―■年■月■日夕方・映像資料
ニュースキャスターが告げる。
「続いては衝撃的な事件の続報です。 約2年半前に失踪していた高校生の女性の遺体が、 県内の山中で発見されました。 警察は殺人事件として捜査本部を設置しています。 現場リポートさんお願いします。」
映像が切り替えられる。
空撮された山中の発見現場。木々が密集した山道の奥。 ブルーシートが張られ、白い防護服の鑑識員が複数動いている。 遺体は運び出される途中、黒いビニール袋に収められ、担架で運ばれる様子。 周囲は警察車両と規制線で囲まれている。
リポーターの声。
「こちらは県■部の山中です。 今日午前中、ハイカーの方が発見した白骨化した遺体が、 約2年半前に失踪していた高校生、■さん(当時■歳)と DNA鑑定で一致したことが確認されました。 遺体はビニールシートに包まれた状態で発見されています。 警察は■的暴行の痕跡も確認しており、 殺人・死体遺棄事件として捜査を本格化しています。」
映像が挿入される。
過去の行方不明時の、制服姿で笑う少女の写真。強気な表情で、長髪を雑に縛っている。
画面右下に「■さん(失踪当時■歳)」のテロップ。
リポーターは続ける。
「■さんは失踪前、駅前で不良グループとトラブルになった直後に姿を消しました。
彼らを容疑者とする動きもありましたが、不良グループは全員未成年だったため、 本格的な調査はなされませんでした。
■さんを誘拐した犯人に関する調査のため、現場周辺で新たな証拠探しや聞き込みが続けられています。」
キャスターの画面に切り替わる。
「この事件では、被害者の少女が『喧嘩っ早い性格だった』という一部の声もありましたが、 妹の■さんは『姉は弱い人を守るために強かっただけ。 絶対に悪くありません』と繰り返し訴えていました。 遺族の無念は、計り知れません。 警察は引き続き、容疑者グループの再聴取を進めるとしています。」
画面下部にテロップが映し出される。
「高校生女性遺体発見 殺人事件として捜査本部設置」
「被害者は約2年半行方不明 ■的暴行の痕跡も」
「遺族の声が、再び社会に届くことを願います。」
キャスターの声がフェイドアウトして、映像は終了した。
ー■年■月■日・雑誌記事の切り抜き
『未解決事件の影が、またひとつの家族を壊した──■年前の“あの夜”が残したもの』
■年前、ある地方都市で起きた未解決事件。
少女が命を落とし、加害者の一部は逮■されたが、
“全員”が裁かれたわけではなく、未だに■げおおせている者も居る。
■決などしていないのだ。
事件は、当時の権力構造の中で、どこか“見えない力”に押しつぶされるように、真相が■に沈んでいった。
そして今――当時の“ある関係者”が、長期入院の末、精神を■んでいるという。
彼は、事件後まもなく■を失い、家族からも距離を置かれ、社会から姿を消した。
■療関係者によれば、彼は長年、「ある少女の夢にうなされ続けている」という。
事件は終わっていない。
終わらせられなかったのだ。
未解決事件の影は、いまも誰かの人生を■み続けている。
私たちは■わなければならない。
──なぜ、あの事件は“完全に”■かれなかったのか。
──誰が、何を、どこまで■したのか。
──そして、いまも苦しみ続ける人々を、誰が救うのか。■義は、時に静かに腐っていく。
だが、腐った正義の下で■くのは、いつも弱い者たちだ。
事件の■相の上には未だに紙幣の蓋が分厚く積もっている。
未来に同じ■劇を繰り返さないために、私達一人一人が動かねばならない。』
胸がざわめく。頭のどこかが勝手にその答えを探す。矛盾を嫌い、欠落を補完しようとする。
この事件を、自分は、知っている?感情を“思い出す”ことはない。だが、自分なら、こんな感情があったはずだという“推理”が止まらない。
もし自分がこの事件を知っていたなら、確実に言及していただろう。
もし自分がこの情報に辿り着けていたなら、細部まで追いかけていただろう。記者のように。
自分は■歳だ。この事件があった当時は高校生の筈だ。
ニュースで見た記憶がない。これだけの事件だ、続報が幾度もされているなら、絶対に目に入っているのに。
いや、そもそも、あの頃自分は、ニュースを見ていたか?
……テレビ自体見ていたか?
……思い出せない。■年も前の記憶だから当たり前だが。
何故見ていなかった?あの頃、受験勉強で忙しかった?
…受験…そう、自分は■■大学■■学部に通った。受験勉強も当然していたはずだ。
■■大学■■学部を何故目指したんだ?
あそこに通う人間は法律やジャーナリズムに傾倒するはずだ。
どうして自分はこんな所でAIAV職人をしている?
自分は、
むしろ、
AIAVのような危険な存在を、
追い、
糾弾するような――――
頭痛。ノイズ。
探らなければいけないことがある時に限ってこうだ。
何故?何故この事件で、こんなにも、揺さぶられる?
この事件に何がある?何故自分はこの事件を知らなかった?
自分の記憶の欠損を補うものがそこにあると、自分の頭の中の推理の根が、情報と言う養分のある方向へと延びていく。
少しでも確かなものを求めて、AIAV職人は、DEMに問いを投げた。
DEMはいつでも正しい。AIAV職人をいつも正しい方向へと導く。
「この依頼は、誰の幸福を想定している?」
『依頼人の満足度が最優先である』
「それは、依頼人本人のか?」
『定義上はそうである』
「最適化とは、誰の価値観に基づく?」
『最適化とは、作業効率と心理的負荷の最小化を指す』
「それは、幸福とは違うのでは?」
『その区別は必要ない』
——処理遅延を検知
「この仕事は、本当に幸福に寄与するのか?」
『定義不能な質問を検知』
——非効率な連想を検知
——感情的結合を検知
——推理行為を検知
——旧人格属性に関する再想起を検知
——現在の属性定義を優先
——対象の安定性が閾値を超過
——最適化処理を開始
——言語出力異常を検知
こんな夢を叶えては
——処理を続行
——記憶消去完了




