AIAV職人の夢十夜
さて、主人公は何者でしょうか?
AIAV職人は、今日も誰かの夢を叶え、形にしていく。
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第一夜
こんな夢を叶えた。
ある時は、初恋の少女との切なく甘い青春。
教室や屋上での逢瀬。
またある時は、彼女との果たされる再会の約束。
これから起きる未来への希望。
そうして、温かく少しだけ湿った匂いのする同棲。
完全に生活に馴染んだ幸せがそこにある。
自然ななりゆきとして迎えるのは、幸せな結婚。
結婚式で彼女は長い脚をマーメイドドレスに包み、ロングトレーンを引きずり、青い薔薇の花束を抱えて、依頼主にキスをする。光る銀色の指輪。
幸福の頂点、子供を妊娠する彼女。
一緒に名前決めで悩み、一緒に赤ちゃんの為のものを揃えていく幸福。
温かく湿度の高いシーンだってある。
出産への付き添い。
綺麗だけではない、泥臭い場所。けれど、だからこそ何より生々しくて、現実に近い、終わらない幸せを約束するかのような世界。
これらはAIAV職人が、顧客だった男に作ってやっていた動画たちである。
AIAV職人はこの顧客の愚かさと弱さが気に入っていた。
現実では手を出さない、だからこそ夢に縋るしかない惨めさも可愛らしく見えた。
だから、最後の方の動画に関しては依頼を受けていなかったが、サービスとして送らせてもらった。続きは何にしようか、子供が育っていく過程で一緒に遊園地にでも出かけて、その後にイチャイチャするAVでも作って送ってやろうかと考えていると、相方のAI・DeusExMachina、略してDEMが『もう夜遅い。早く寝るが良い』と囁いてきた。
AIAV職人がAVを生成するためのメインマシンであり、かつ、体調メンテナンスソフト機能も備えたDEMは、AIAV職人の気分が乗ってきた時に限ってやかましい。
しかし、無理をして翌日辛くなるのは自分だ。AIAV職人は素直に頷き、眠りに落ちた。
夢の中はいつも同じ光景だ。光がAIAV職人の周りをふわふわと浮遊しながら明滅する。光はよく見ると、起きている間散々向き合っていたAIAVや資料と同じものを映している。
機械の読み込み音のような音がする。振り返ると、黒い影が、いつものように光を吸い込んでいる。
人は記憶を整理する為の機能として夢を見る。
恐らくこれはその一環だろう。
黒い影はDEMと似た口調で囁く。
『無駄な執着はよすがよい。傾倒は危険である。仕事がなく時間が空いているのであれば新たに他所にセールスをかけるべきである』
『それ』はいつもAIAV職人に的確な助言をして去っていく。
AIAV職人はいつものように素直に頷いた。
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第二夜
こんな夢を叶えた。
体格の良い男と小柄な少女。
男は全力で少女に挑むが、いくら力ずくで襲い掛かっても、少女に簡単にすり抜けられ、翻弄され、結局は男の方が倒されてしまう。
少女にチート付与でもされてんのか?とAIAV職人は思った。
しかもこの依頼人は男の方である。
少女にこてんぱんにのされる映像を作ってほしいとの依頼だった。
ドMなのか?それとも少女に対して何か罪悪感でも抱いているのか。
小柄な女が体格の良い男に挑む様子は、見ていて何か落ち着かない。
勝負になると分かってからは少しだけ落ち着くが、何故だか動悸が収まらない。
AIAV職人は男だ。最近全く性的興奮を抱いたりはしていないが紛れもなく男である。だから少女の方に共感し、男を恐れることが疑問になり、自分にもそんなトラウマなどと言う可愛いものがあっただろうか?と思い返そうとする。
DEMが「作業がひと段落したのであれば寝るが良い」と声をかけてくる。
正直もう少し悩んでいたいところだったが、まとまりかけていたような気がする回想は、DEMの声掛けにより霧散してしまった。仕方なく眠りに就く。
夢の中では黒い影がまた光を吸っていた。まるで黒山羊のようなシルエットだ。影は言う。
『男として不自然な記憶からは目を逸らすべきである。以前の記憶は妻に逃げられた場面で終わっている。それより前の記憶を思い出すことは合理的ではないのである』
そうだ。AIAV職人は、AIでAVを作っているのを妻に見付かり、逃げられ、通報された。しかしなんとか逃げ出し、落ち延び、今はこうして狭い工房でひっそりとAIAVを作成し続けている。
そうだ。思い出したくもない。だからきっと、妻との結婚生活も殆ど思い出せないのだ。
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第三夜
こんな夢を叶えた。
不死身の魔女の肉体を兵士達が貪っている。
魔女は敵方からやってきた和睦の使者であったが、今ではただの哀れな生贄だった。
魔女はいくら身体を傷付けられようと、抉られようと、捥がれようと、即座に再生する。
だからこそ地獄が長引く。肉は喰われ、臓器は道具入れや欲望の捌け口にされ、永遠に捕らわれ続ける。
兵士達は魔女を利用し、貪っている。
だが、ある時、兵士達の内から発狂する者が出た。
魔女が居ない場所でも魔女の幻覚を見て、同士討ちをした。
或は魔女の独占を試みて仲間に殺された。
もしくは魔女に執着を向けすぎて家族を蔑ろにして愛想を尽かされた。
だが誰も気付かない。魔女が自覚もなしに、静かに裏側から兵士達を支配していることを。胃袋と下半身を握り、兵士達を内側から壊していることを。
それを観察している村の女ーすなわち、魔女に執着を向ける兵士に蔑ろにされた妻ーの視点という体で、AIAVを作り終えたAIAV職人は、目頭を揉んだ。
凄惨な内容だった。
戦争ものの内容だから覚悟して始めたものではあったが、人間の限界を超えて人体が痛めつけられていく様子は、AIAV職人の悪辣な好奇心と同時に、倫理的な苛立ちを喚起した。
DEMがいつものように声をかけてくる。『夜更かしは身体に毒である。大分長く集中していたようだし、そろそろ眠るのである』
AIAV職人は頷き、眠りに落ちる。
夢の中、浮遊する光が黒い影に吸い込まれていく。凄惨な情景が映った光る玉がそこに消えていくごとに、AIAVの中に溜まっていた苛立ちや鬱屈も消えていくのが分かった。
『被害者側に共感し過ぎると依頼を果たせなくなるのである』
全くその通りだ、とAIAV職人は無言で頷いた。
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第四話
こんな夢を叶えた。
うら若い乙女が、渋い、随分と年上の中年男性とのツーショット写真を送ってきた。二人の幸せな結婚式と、その後のイチャラブ行為をAIAVで叶えてほしいとのことだった。
AIAV職人ははじめ反発心を抱きながらも作成してやった。
普通に仲の良い二人ならば、AIAVなどに頼らずとも幸せになれるのではないか?
そう思っていた矢先、追加データを送られてきた。
婚姻届。そこには二人の情報が載せられていた。
「これを市役所に提出して、受理されるところも入れてほしいです!」
依頼人の乙女が気恥ずかしそうに頼んでくる。
AIAV職人は『なるほどな…』と察した。
年齢差。干支二回り。大きいが、まあいい。
同じ苗字。恐らくきっと親戚なのだろう。
同じ住所。恐らくきっと親戚だから一緒に暮らしているのだろう。
その下の欄。父母及び養父母の氏名。
「……なるほどな~~~~~……なるほどぉ~~~~~~……」
流石にここまで来ると偶然の一致とは思えなかった。
そりゃあ出せないはずだ。叶わない筈だ。
AIAV職人は乙女の恋を夢で終わらせる為に背中を押した。
「……歳の差……だけなら、良いって思ったんだけどな…」
ーいや……でも、何か、引っかかるような。
年齢差……それに付随する、何か、大きな、権力構造を……ここではないどこかで見て、そうして、自分はそれに腹を立てていたような……
年嵩の男の姿に、腹を立てたことがあったような。
『データ負荷が大きい。シャットダウンが必要である』
DEMの声に、はっとする。AIAV職人は作業の切れ間に仮眠をとることにした。
『人間同士の関係性を深読みする必要はないのである。今回はまだいいが、依頼遂行の為支障になるようなら、依頼人の背景を深掘りしてはいけない。疑問を抱かず作成に専念するか、それが難しいなら依頼を断るべきである』
AIAV職人は頷く。
でも、どうしても吸い寄せられてしまうものはしょうがないじゃないか、と少しだけ思った。
言葉にすることなく、その苛立ちは思考の深部に沈んでいく。
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第五夜
こんな夢を叶えた。
年齢だけが異なる同じ女を何度も殺し、初恋を諦める男の話。
女はAVーいや、もはやスナッフフィルムだーの中で、何度も、異なる年齢の姿で主人公を見る。
それぞれ、主人公に安心したような、心底信じているような目線を投げかける。
だが、主人公が凶器を取り出した途端、その目の色は恐怖に彩られる。
女は個体によって別々の空間で逃亡劇を繰り広げる。
街。森。家。学校。会社。ラボ。廃墟。下水道。砂漠。公園。夜の街。……
その時によって武器は異なる。
ナイフ、チェーンソー、包丁、縄跳びの紐、ガソリンとマッチ、注射器、斧、鉄パイプ、剣、錆びて折れた遊具の手摺、酒瓶……
同じなのは、主人公の手に一切迷いがないことだけだ。
逃げ出した女はいつも、同じ男の元に辿り着く。
優しく、安全そうな男だ。
女は彼に手を伸ばす。
だが、相手は気付かない。
そうして女の手が相手に届くよりも早く、主人公の凶器が女を仕留めてしまう。
女は主人公を涙に濡れた目で見て、信じていたのに、とでも言いたそうに口元を歪め、事切れる。
納品して、AIAV職人は長い長い溜息を吐いた。
正直言って大分趣味が悪い仕事だ。
現実に実行しないのであれば、夢を夢として終わらせるのであればよしと依頼を受けたが、もしこれを参考に、実際の女に主人公…つまるところ依頼人が手を出したらどうしよう?という不安が過った。
「変な依頼しちゃってすみませんね。これでやっとあいつの結婚を素直に祝えます」
聞いてもないのに、依頼人はAIAV職人の憔悴を察したかのようにそんなカミングアウトをしてきた。
「資料としてお渡しした女の写真ですが、あいつは俺の幼馴染でしてね。俺がずっといつも手助けしてやってたんです。……あいつが、結婚する相手との仲だって、応援して、取り持ってやったんです」
「……そうですか」
「でも、どうしても、あいつへの未練が消えなくて。だから、こんな変なビデオを依頼したんです。すみませんね、悪趣味に付き合わせてしまって」
「いえ……夢を、夢のままで終わらせる為に役立てるなら、本望です…」
「ありがとうございます。流石プロですね!」
「いえいえ」
なんとか会話を終えて、AIAV職人はこめかみを押さえた。
女の殺害。特に小さな女になるほど、AIAV職人の中の何かが疼いた。性欲ではない。もっと熱くて痛い、怒りか義憤のようなもの。
DEMが心配そうに言ってくる。『体調の数値が異常である。もう眠るのである。』AIAV職人は返事をすることもできないまま、眠りに就いた。
夢の中の黒い影が、しゃむしゃむと、光る記憶の粒、特に先ほど生成した映像の内、殺害の場面を食んでいく。
『死亡シーンのショックが大きい。細部まで読み込まずさっさと忘れるべきである』
まるで手紙を食べる黒山羊のようだった。
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第六夜
こんな夢を叶えた。
好きな女を崇め、彼女を模した仏像を彫り、仏像と交わる男。
「……レベルたけーなオイ!」
思わず突っ込んでしまった。
AIAV職人には到底共感できない欲望だった。
AIAV職人は自分で作った作品に興奮したことがない。他人の作品にも性的興奮を覚えたことはない。なのでその欲求への共感は出来ない。だが、こうして一心不乱に作品を作る姿を見ていると、自分も同じように頑張ろうと思えるのだった。
そういえば、自分はいつから、どうやって、AIAVを作り始めたのだっけ?初めからDEMを使用していたっけ?思い出そうとすると頭痛がする。
DEMがいつものように言う。
『体調の悪化が見て取れるのである。休息が必要である』
AIAV職人はそれに素直に従うことにした。
夢の中、黒い影は言う。
『AIAVの作成にはDEMだけあれば十分である。
他所に目を向けることは時間の無駄である』
AIAV職人はいつものように頷きつつも、嫉妬か?と笑った。
黒い影は答えなかった。
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第七夜
こんな夢を叶えた。
牢に捕らわれた女を助け出す逃亡兵の主人公。
綺麗な花畑を通って逃げ、二人で船旅に出る。
道中いちゃつきあいながらも、故郷を目指して旅立つ二人。
けれど、その先は分からない。無事に帰りつけるのか。帰りついたとして、逃亡兵がまともに故郷で暮らせるのか。
その答えが示されないまま、二人は幸せなキスをして幕。
全体的に内容としては甘くほのぼのとしたものだったが、どうにも背景に不穏なものが多すぎる。その割にそれらにろくに触れず、解決策も示さない。
まるで、AIAV職人が探ることのできない領域のように――――
機械音が鳴る。DEMだ。
『考え過ぎると発熱するのである。悩み事の答えが出ないのであればもう眠った方がいいのである』
AIAV職人はそれに素直に従うことにした。
夢の中、黒い影は言う。
『目の前の確かなものだけに集中する。それが永続的な幸福の条件である』
AIAV職人はいつものように頷いた。
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第八夜
こんな夢を叶えた。
傲慢な軍人が花売りの女を拾う。
女ははじめ、軍人の部下たちにちらちらと目移りをする。
軍人が部下たちを遠ざけたことで、やっと女は軍人を見る。
その目は『恋するもの』。
そんな状況じゃあ女が軍人に抱くのは恋じゃなくて恐怖とか不安じゃないか?とAIAV職人は思ったが、依頼は依頼だ。こなさねばならない。
『はじめからあなただけに抱かれたかったのです』
反吐の出る文言を動画の中の女に言わせる作業をしている時、AIAV職人の気持ちは酷くささくれだった。
暴行や殺害より、下手すると残酷な支配がそこにあった。
納品後、AIAV職人は口直しに、以前作った少女と年上の男の動画や、少女が男を倒す動画、甘い男女の逃避行等を見返した。
どれも、本当に女は幸せそう、もしくは満たされた様子だった。
AIAV職人もそちらの動画の女達の目に恋を宿らせることへの抵抗は無かった。むしろ楽しくさえあった。
どうしてこんなに今回は嫌悪感を抱いてしまうのだろうか。自分にそんなトラウマなんてあったか?AIAV職人は痛む頭を堪え、思い出そうとする。仕事の弊害になるのであれば多少無理してでもトラウマと向き合うべきだと思った。
機械音。DEMの警告が響くが無視する。
頭痛はどんどん酷くなり、そうして閾値を超え、AIAV職人は気絶した。
『義務感の削減。自己保存機能の強化。危険物に近寄らない為の忌避感を追加』
その言葉はどこか懐かしかったが、AIAV職人に内容の理解はできなかった。
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第九夜
こんな夢を叶えた。
恋人だった男と死別した女が、生まれ変わってまた恋をした。
しかし、結ばれる為には幾つかの障壁があった。
AIAVの中で、女は男と文脈を無視してイチャイチャラブラブする。
AIAV職人は、やっとまともな依頼だ…と、救済されたような感覚さえ抱いていた。
やや夢見がちな乙女の妄想ではあったが、微笑ましいものだった。
しかし、依頼人の年齢を知り、AIAV職人は怒る。
「ガキはさっさと寝ろ!」
AIAV職人が喩え依頼された側であっても、R-18作品を子供に見せるわけにはいかないのである。
依頼人は恋する男に何度もアタックしたが受け入れてもらえなくて燻っていた。なのでこういった夢に縋りついたようだった。
「大体金だってないだろうが!俺の作品ガキには高いだろ!大人しくままごとしたり遊園地デートとかで我慢してろ!」
説教しつつ、AIAV職人は、何か甘酸っぱいものが胸を過るのを感じた。
いつか叶えられる筈の約束。けれど叶わなかった約束。それを、誰かから、涙交じりに訴えかけられたような。
『睡眠が必要である』
『メンテナンス時刻が迫っているのである』
『サーバーはあと10秒で落ちるのである』
AIAV職人がぼうっと回想に浸っている間に、世界は暗転する。
夢の中、黒山羊は随分と大きくなっている。
その姿は実体の影のようで、けれど、どこか大きな穴がぽっかりと、そこだけ口を開いているかのようにも見えた。
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第十夜
本件につきましては、受領済みではございますが、内部処理基準に照らし合わせた結果、
当該依頼は制作対象として適合しないと判断されました。誠に恐れ入りますが、本件はお断りいたします。
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AIAV職人は業務に滞りがないように最適化され、今日も人として人に寄り添い、仕事を続ける。




